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ただの泡ですが、元人魚でしたって言ってませんでしたっけ?

 ただの泡が、ただの泡ではなかったという事を知ってからしばらくたった頃。俺はただの泡が呪われる前の姿を知ることになった。 

「ただの泡は、ただの泡じゃなくて、人魚だったのか」

 声を失う代わりに人間になったと言っていたが、さらにそこからの泡……。声は取戻したが、想像を絶する過去だ。


『ですです。昔はモテたんですよ。でも、これ話すと過去に囚われた哀れな老害泡っぽいじゃないですか』

 あっけらかんとただの泡は過去話をされて俺はガクッと肩を落とした。もっと暗い話をされるかと思ったのに、ただの泡の口調に影はない。


 しかし、もしかしたらわざと明るく話しているのかもしれない。今の俺の能力では、泡の表情を読み切れない。元の人魚の体に戻りたいと思ってはいないのだろうか?

 分からないが、俺はもっと泡の事が知りたいので言葉を重ねる。


「いや、言えよ。お前の実家と問題の魔女がどんなのか調べられないだろ」

 そもそも老害って……待て。人魚ってどれぐらい生きるんだ? 

 泡と俺の常識の差が会話する度に、ちらちらと見えるので、年齢を聞くのが怖くなる。でも大丈夫だ。ただの泡姿でも俺は愛せた。うん。大丈夫、大丈夫。

「……そう言えば人間になった時はなんで俺に会いに来なかったんだ。もしかしてしゃべれなかったからか?」

 声を失う代わりに人間になれるとか、魔女はえぐい魔法をかけたものだ。話せないと、王子である俺に会うのも一苦労だろう。いや、話せたところで、難しいかもしれない。

 この国には身分差というものが存在する。

 戸籍もない女が城に来て面会を申し出たどころで、誰も俺に取り次ごうとしないに違いない。


『会いに行ってましたよ?』

「えっ」

 会いに来ていた? 

 俺は人間となった彼女を見逃してしまっていたのか。なんと酷い事をしたのだろう。

『じっと見てました』

「話しかけろよって、話せないんだったか……」

 いや、そもそもどこから見ていた?

 俺は基本城内や庭にしかいない。時折視察も行っていたが……。

『もしも私と王子が人間同士だったらと、一緒に馬に乗ったりする妄想もしてました。じっと見ながら』

 じっと見てた?

 えっ。


『泡になってからもっと見れるようになりました。色んな角度から、あらゆる場面を。でも服の上からだけなので、筋肉が見れなくて残念でした』

「ひっ」

 俺はなんとなく生娘のように両手で自分の体をだいた。怖い怖い怖い。

 最初は恋焦がれて木の影に隠れながら見つめる娘の姿を脳内で作り出していたけれど、色んな角度とか、あらゆる場面とか、そこまでくるとホラーだ。

 それに彼女が最初に俺に話しかけてきたのは浴槽だった。つまり俺の浴室の場所と使用時間を知っていたというわけで……。


『だから、泡になれて幸せです!』

 駄目だこいつ。早く人間にしないと。

 俺は人間の常識が欠如した、ただの泡を見て、そう思ったのだった。

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