ただの泡ですが、生き物の責任はちゃんととります
最近何故か俺が錦鯉が好きという噂が出回り、俺のところに錦鯉が献上され、更に貴族達が飼い始めた。この流行りが大きくなり、この間は公爵家が主催となって品評会を開いたぐらいだ。そしてさらに流行りは広がり、最近は金を持っている平民などでも飼ったりするようになったらしい。
……模様や色は派手で綺麗だとは思うが、そこまで流行るほどか?
そう思うが、何故か人気が爆発しているらしい。きっと錦鯉を売りさばく商人が商売上手なのだろう。
「うーん……」
『どうなされましたか?』
「いや、最近、錦鯉が川や池に捨てられているという報告が上がってきていてな」
今のところまだ、どうという問題は上がっていないが、今まで自然の中になかったものが突然増えるというのは大丈夫だろうか?
『それはあまりよくないですね』
「やはりそう思うか。錦鯉が何を食べるかは分からないが、在来で存在しているものを食べつくしたりして、生態系が狂う可能性があるのではないかと思ってな」
異国の魚なので情報が少ないが、あいつらは結構なんでも食べて、食欲旺盛だ。この食欲旺盛の部分が怖い気がする。
『そうですね。ここでの彼らの生活を見ていましたが、水草の芽を食べていますし、水底の泥を巻き上げたりしますから、水が濁って水草が枯れてしまう可能性があります。水草が枯れると、そこで卵を産んでいた魚は次代を残せず絶滅しますから』
やはり俺が危惧した考えと、ただの泡が推測する事は一致するようだ。
放流したものは、見目もいいし、問題ないだろうと思っているようだが、今だけでなく百年先まで考えていかなければいけない。
「とりあえず、現状放流してしまったものは仕方がないし、何らかの方法で駆除を考えるとしても、今後の事を考えると、飼うのは登録制にした方がいいな。ただこういうのは正規の販売ルートではない所からというものもあるからな……」
人気が出ると、本来は錦鯉など扱っていなかったところが、異国から仕入れて売る事も出てくる。そうすると登録制であるという事の周知から漏れる可能性が高い。
『業者からではなく、飼っている鯉が子供を産んで譲渡される事も考えられますよね』
「そうなると、捨てたことが分かれば罰金という方法も検討しないとだな」
実際に捨てているところを見つけるのは難しいので、一応あるだけの法律になってしまう可能性はある。しかしまずは捨てるなという事を認識してもらうには分かりやすいだろう。
ただ、これを案として出した時、俺は無類の鯉好きと、周りから思われるだろう……。近い将来鯉馬鹿王子とか言われる事になるかもしれない。少し嫌だが、俺が錦鯉を飼っている所からこの生態系の乱れという話が出ているのだから、この噂は甘んじるしかない。生態系が狂えば、作物や漁に影響が出る可能性もある。
そして収穫量が下がれば、値が上がり貧しい者達の命が脅かされ、治安が悪くなるのだから、放置するわけにはいかない。
『そうですね。生き物を飼う限り、ちゃんとその命の責任は取らないといけませんから』
流石は人魚時代も生き物を飼っていただけある。
ただの泡の言葉には重みがある。
『分かりました。私も鯉ドルが増えて安直に喜んでしまっていましたし、対策をしたいと思います』
「ああ。だが、シャボンの所為では全くないのだから、それほど気に病む必要はないからな」
本来責任があるのは俺でもシャボンでもなく、捨てた者だ。俺の庭にいる錦鯉をただの泡が愛でていたから、俺も錦鯉の献上を受け入れ、品評会にも顔を出した。しかしそれで流行になって今回の件が起きたとしても、シャボンが気にする必要はない。
『大丈夫です。安心して下さい』
「ああ。ならいいが……」
明るい声が返って来たので、特に落ち込んではなさそうだ。だから大丈夫だ、問題ないと思った時期が俺にもありました。
数日後、この間まで逃がした錦鯉が繁殖し始めていると言われていた池や川から、突然錦鯉が消えたという報告が来た。俺が出した案もちゃんと法として発令される事になったが、まだ駆除の方まで手が出せていなかったはずなのに。
まさか何か病気でも流行ったかとヒヤリとしたが、どうやら錦鯉の死体もないらしい。
そして錦鯉が自然で繁殖し始めているという話をした後から、ただの泡の量が、若干増えた気がする。時折、ゲプッとゲップの様な音も出すようになった。……まさか。
「なあ、捨てられた錦鯉が消えたと最近報告が入って来たんだが……」
『弱肉強食ですから』
……やっぱり食べたのか。鯉ドルとか言って愛でてたのに。
いや、愛でているのはこの城の庭にいる奴らだけか。
ただの泡の食事は、食べ物に覆いかぶさり、骨まで吸収してしまう方法だ。想像すると……色々恐怖映像だ。でも人間だって魚を食べるのだ。ただの泡が丸呑みにしても何ら問題ない……はず。
うん。
弱肉強食。自然の摂理。
「そうか」
深くは考えてはいけない。ただの泡の食欲のおかげで、平和がもたらされたのだと考えよう。
ただの泡の食事風景を想像してしまった俺は、両想いになっても、恋心は試され続けるのだなと遠い目をするのだった。




