ただの泡ですが、王子が好きすぎます
ただの泡と両想いになったが、だからと言って特別何かが変わったという事はない。
変身薬はシャボンの体に負担をかけるので、ここぞという場面で使うだけで、普段は使う気になれない。いくら魔女が大丈夫だと言ってもだ。
その為、普段の俺らは、ただの泡と人間。間違いが起こりようがない。……起こせないよな?
俺も実を言えば、そういった経験がない。
その為俺の常識の範囲では、ただの泡とは一線を超える事はできないと思っている。そもそもただの泡は、卵生だし。
こんな話、誰にも相談もできないし、ただの泡も卵が産めない現状では何もできないと思っている様なので、いったん保留だ。彼女が人間になった時に改めてそういう話はしようと思う。……うん。その時は覚悟を決めよう。
「ん? シャボン、どうした?」
悶々と考えながらも、部屋で本を読んでいると、ただの泡が胸の当たりにぴたりと寄りそうように引っ付いて来た。
俺の事をジッと見ていることはあったが、こうやって泡の状態で引っ付くのは、どこかに移動したい時ぐらいだ。どこかに連れて行って欲しいのだろうか?
人目が多い場所に行くときは、魔物と間違えられないようにできるだけ俺が同伴するようにしている。
『えっ。あっ。すみません!』
「いや、別に謝らなくてもいい。どこかに連れて行って欲しいのか?」
『ち、違います。そのですね、人魚はこう一緒に子育てしたい相手ができると、体を寄せ合うんです』
「体格とかを見る為か?」
以前抱きしめたら、そんな事を言われて微妙にへこんだ記憶がある。
ただ胸のあたりに寄り添うようにいるだけなので、ただの泡が好きな筋肉はこれでは分からないよなという感じだ。なのでその行動にどういう意味があるのかが分からない。
『えっと。そういうのとは違うんです。一時的に抱きしめたりするのは、相手を知りたいというポーズなのですが、ずっとくっ付いていたくなるのは、この人は私のものだと周りに対するアピールで……。いや、その。本能的なものでして、無意識に動いてしまってすみません。好きな相手にくっ付いていると、凄く落ち着くもので』
その言葉に俺は顔を覆った。
何だこれ。何だこれ。何だこれ。
可愛すぎてしんどい。
「……好きだ」
『ぴゃっ!!』
ただの泡が飛び跳ねた。そしてグルグルと机の上で回っている。……慌てる姿も可愛いな。そうか。俺が好きだというアピールなのか。そう思うと、引っ付いている姿が甘えているように見えて胸が温かくなる。
どうしよう。
想像以上に嬉しい。
『わ、私も……好きです』
「そうか。嬉しい」
とりあえずただの泡を食べてしまわないよう気を付けながら唇で触れてみる。
『うひゃっ』
奇妙な鳴き声を発して、再びただの泡が爆ぜる。幸い俺の顔にはかからなかったが、一歩間違えれば誤飲しかねないので、爆ぜるのは控えて欲しいが、わざとではなさそうなので難しいかもしれない。
極度にドキドキしたりすると、爆ぜるのだろうか? 胸が張り裂けそうとか心臓が飛び出そうとか比喩で表現するしな。
「人魚はキスをする文化はあるのか?」
『し、します。……その……好きな相手に』
「そうか。人間も同じだ」
そう言えば、ただの泡を飲んだら間接キスとか昔言っていたな。となると、キスは愛情表現という事でいいのだろう。いい事を聞いた。
「可愛いと思った時にキスをしてもいいだろうか?」
『ひょわっ!!』
ただの泡が机の上でグルグルうごめいている。
この変な動きが可愛いなと思う俺は色々末期なのだろう。
『だ、駄目です』
「駄目なのか……」
折角、沢山好きだと伝えられるいい方法だと思ったのに。
だが、人魚社会と人間社会は色々違うのだから、ただの泡が嫌がるようなことはやるべきではない。
『王子が好きすぎて、心臓が持ちません……心臓が、何処にあるか分からないですけど!!』
焦ったように言ってくる言葉のデレ成分が多すぎて、俺の心臓の方が持たなくなりそうだ。
駄目だ。可愛い。
「……可愛くて、死にそう」
『駄目です。死んじゃ駄目です!』
ぐりぐりと泡が俺の胸に体当たりをしてくるのを見ながら、ここは天国だろうかと思うのだった。




