ただの泡なので、献泡Okです。
「そうだ。後は、魔女が泡を一部採取させてほしいと言っていたが、別に聞き流しておけばいいからな。やりたくないことはやらなくていいから」
魔女との約束だ。なかったことにはできない。なので、一応伝えるだけ伝えるが、しなくてもいい事を強調しておく。
「別にいいですよ? すぐ増えますし」
「……気になってはいたんだが、痛みとかないのか?」
ただの泡は泡なので、血も出なければ、自力で分裂もする。痛覚がどこまであるのか分からない。
「ないですね。踏まれたり、馬車に轢かれたりするとびっくりはしますが、特には」
踏まれたのか。……まあ、踏まれやすそうな外見だ。地面にあったら、気にせず踏むし轢く可能性が高い。痛みがなくて良かったが、逆に言えば痛みがないから簡単に自分の体を切り分けして雑に扱うのか。
「それはいいが……、痛くなくても、くれぐれも自分の体を大切にしてくれ」
前に池に身投げした時は、俺の全身の血が凍りついたかと思うような衝撃だった。
色々見ているこっちが心臓に悪い。絶対俺の寿命が縮んだ。
「……王子は過保護ですよね?」
「そんな事はないと思うが? 嫌か?」
いや。もう少し俺の常識の範囲内の行動をしてくれれば、俺だって心臓が止まるような思いをしなくても済むのだ。とはいえ、ただの泡は人魚の常識に合わせた行動が嫌だったのだ。下手に俺の常識に合わせろなんて言ったら嫌われて出て行かれてしまうかも……。今、出て行かれたら、俺は絶対泣くし、精神が壊れる。
「いえ。嫌ではないです。ただ……うーん。不思議な気持ちです。人魚は一人前になったら、こんな風に気づかわれたりしないので」
「嫌でないならいいんだ。えっと、その。俺と、シャボンは、種が違うから、常識も違うだろ。だから、もし嫌な事があったら言ってくれ」
できるなら嫌う前に。
そう思うが、その言葉は口には出せなかった。人に絶対嫌われないなんてことはない。だから言えば困らせる言葉だ。
「分かりました。あ、嫌な事、あります! はい!」
「な、なんだ?」
聞いておいてなんだが、その場でに嫌な事を伝えられると思わなくて、ビクッとする。まあ、ただの泡は素直だから、隠し事なんてできないと思うけれど。
俺も男だ。
嫌な事があったら聞くと言ったのだからちゃんと聞いて、俺に関する部分なら、直そう。
「王子。私、結構強いんで、王子も嫌な事とか悲しい事があったら言って下さいね! 力になりますから」
「えっ?」
「王子が元気ないと、私も元気がなくなります。だから、頼って下さい! 頼られないのが嫌です。私は頼れる泡なのですよ! なんなら、二階から落ちた王子をキャッチしてみせますよ」
「それは止めてくれ」
二階から落ちるのも嫌だが、尻の下でただの泡が潰れているのはもっと嫌だ。体を大切にしろと言った傍から……本当に、コイツは……。
「分かった。頼りにしてる」
「どんと、任せて下さい!」
ただの泡はふにょんと胸をそらすように動いた。




