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ただの泡ですが、最推しと一緒に推しに会いに行きます2

 俺の部屋から突然俺と一緒に女性が出てきたことで、メイドがギョッとした顔をしていた。

 ……まあ、そうだよな。

 俺はこれまで品行方正で浮ついた噂の一つもない男だった。正直に言えば女性経験はない。庶子などを作れば後々もめる案件になるので、使用人や貴族令嬢と夜の遊びは絶対しないし、そもそも興味もない。

 乱世の世ならばもしもを考え庶子を作るというのも間違ってはいないが、今は隣国との関係も安定しているし、国内も同じく安定している。少々問題あるとすれば、魔物関係だが王宮にいる限り、よっぽど死ぬことは少ないはずだ。だとしたらもめ事になるような事はするべきではないので、正妃との間だけに子を成せばいいと思っていた。

 

 そしてもしも正妃との間に子ができなくても、俺には叔父も弟もいる。さらに叔父はちゃんと結婚して子も産まれているため、従兄弟もいた。

 俺には自分の血を積極的に残したいという意識もなければ、王位に対しても執着はない。だから子がいなければ折を見て王位を譲るか、弟の子を養子にすればいいかと思っていた。まあ、この辺りは実際その状態になった時に弟に相談すればいい事だ。弟はまだ未成年なので、結婚もしていなければ子もいない。今そんな相談をしても困るだけである。


 この国で一番偉いのは【王】だ。でも俺は、【王】もこの国を動かす歯車の一つに過ぎないと思っている。上手く歯車が合わず動かせないなら代わりはいる。少なくとも次代は俺という選択肢以外に、三パターンはある。だから魔女達がどうしてそこまで俺にこだわるのか正直分からない。

 シャボンと一緒に居られるなら、別に王になってもならなくても、俺はどちらでも構わないし、この国も【王】さえいればその歯車が誰でも問題ないはずだ。


「わぁ。馬車の中ってこんな感じなんですね! 馬には会いに行っていましたが、馬車は外しか見たことがなかったんです」

「落ち着け。これから何度でも乗せてやるから」

「あ、でも。折角だから、馬の背にも乗ってみたいです。ただの泡の姿だと、馬が怯えるんですよね。動物って、人間より鋭いみたいで」

 キョロキョロと興味深げに馬車の中を見ていたシャボンはニコニコと話す。

 ……まあ、勝手に動くし喋るし、食事の食べ方も普通とは違うし、馬からしたらよく分からなさ過ぎて怖いかもしれない。だがただの泡は姿こそ異様だが、体格は小さい。

「逆に馬に潰されたりしなかったか?」

「それは大丈夫です。近寄ると馬の方が後ずさるので」

 ……一体、彼女は馬に何をしたのだろう。

 少々気になるが、シャボンも分からない様子なので、今度ただの泡の姿の時にも馬に会いに行ってみようと思う。

 俺の勘が正しければ、間違いなく、シャボンが何かをしている。


「人間って、色々不思議な道具を作っていて面白いですね」

「人魚は……まあ、馬車はないな」

「そうですね。水の中に馬はいませんから。でもイルカと一緒に泳いだりとかはします。あの子達は好奇心も旺盛で、頭も良いので遊ぶと楽しいんです」

 イルカと遊ぶ?

 人魚にとってイルカがペットみたいなものなのだろうか?

「それは人間でいう、犬や猫みたいな感じだろうか?」

「うーん。彼らも頭はそれなりにいいですが、イルカの方がいい気がします。集団生活をする上で、名前を呼び合うなど言葉を使ったコミュニケーションをとっていますし。なので私達は犬のように、イルカを飼うことはないですね。彼らは、良き隣人といったところです。飼うというなら、鯉のような観賞用の魚ですね。後は体の汚れを食べてくれる魚とか、色々とそう言った魚を住処の近くに飼います」

 聞いてみないと分からないものだ。

 ペットを飼うところが人間に近い気もするが、イルカが良き隣人というのがいまいちピンとこない。多分俺達にはイルカの声を聞き分けることができないからだろう。

 そんなイルカを一部の地域だが、人間が食べると言ったらドン引きされるだろうか……。しかし知らないままで過ごし、ある日だまし討ちのようにその衝撃的事実を知ってしまった時の方が、わだかまりも大きいのではないだろうか。

 うん。ここは正直に話しておいた方がいい。

「あー……実は、俺ではないんだが、一部地域の人間は、イルカを食べるんだ」

「へぇ。そうなんですね」

「そうなんだが……あっさりしているな。良き隣人なんじゃないのか?」

「弱ければ食べられるのは、仕方ありません」

 弱肉強食か。

 流石は、現役狩猟民族の考えだ。可愛らしい顔だが、実に男らしい。


「私達人魚も弱ければ他者に食べられる事だってありますから。そうですね……大抵の海の生き物より人魚は強いですが、鮫は天敵ですね。人間でいう、狼などにあたるのかなと思います。毎年子供の人魚が犠牲になってます」

「やはり鮫は人魚にとっても危険なんだな」

「そうですね。でも鮫は何度も噛みついて相手を弱らせて食べるんですよね。だから口が離れた瞬間に倒したりしてますよ」

「えっと……もしかして、シャボンも?」

「はい。鼻を殴り目を槍で突き刺しました」

 ……弱肉強食の世界を生き抜いてきた俺の嫁は強いな。

 まだした事はないが、彼女との喧嘩はほどほどにしておこうと思うのだった。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] じゃ、弱肉強食! 自然の掟ですね。 食べられたい派でよかった。
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