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元人魚姫のただの泡ですが、……ただの泡では駄目ですか?

 ただの泡、可愛いなと愛でていたある日の事。

「できたわよ」

 魔女が城にやってきた。


「できた?」

『何か作っていたのですか?』

「急がせたのはそっちでしょうが!!」

 黒髪の魔女は、髪をふり出さんばかりの勢いで叫んだ。

 いや、分かってる。できたとわざわざ報告してくると言うのなら、ただの泡が人間になる薬だろう。最近諦めモードというか、このままでもいいのではと思い始めていたので、すっかり忘れていた。魔女に圧を賭けに行くより泡を愛でていた方が楽しいしな。


「あの、怖い交渉人が、王子が王位継承権放棄しかねないから、早急に死ぬ気で何とかしろと言ってきたのよ」

『えっ。放棄なされるのですか?』

「いや。ただの泡以外と結婚する気がないとなると、王位をつぐべきではないからな。爵位を貰って隠居しようかと。辺境なら、土地も貰えるだろうし。運がいい事に海に面したいい場所があるんだ」

 辺境に行けば自分も魔物と戦う事になるだろうが、その辺りはどうにでもなる。俺はそれなりに強いつもりなので、魔物退治もできる。それにもしもに備えて辺境を治めるにあたっての勉強もちゃんとしている。抜かりはない。


「やめて。なんで着々とそういう計画立てているのよ。だから私がジリジリと交渉人から圧力かけられているんじゃない」

「いや。計画的に行動することはいい事だぞ。備えあれば憂いなしというしな」

『確かにそうですね』

 ……いや、ただの泡。お前はそれに同意したらいけないぐらい、行き当たりばったり泡生を生きていないか? と言いたくなるけれど、実際計画的に生きる事は大切だと思う。

 そうでなければ、ただの泡を守ってやれないしな。

「勝手に諦めないでよ。本当に、勘弁して下さい。それやられると、私の今後の魔女生が酷いことになるから」

「そういえば、できたと言ったが、本当にただの泡が人間になれるのか?」

『私、別にこのままでも——』

「貴方は黙りなさい!! ……人間になれるというか、一時的に人間の姿になれる薬よ」

 そう言って、魔女は小瓶を鞄から取り出した。

 小瓶には、赤紫の液体が入っている。まるで絵の具のような色だ。


「まだ半永久的に人間の姿になれる薬はできてないけれど、これで一時的には人間の姿に変身できるはずよ。そうね。例えばパーティーで同伴者が必要な時とか、この子を人間にして連れて行けるわ」

「また話せなくなるとかはないのか?」

「ええ。ちゃんと話せるようにしたわ。でも薬が効いている間だけというものだから、時間制限があるの。長くて一日が限度よ。その代り、途中で突然人魚になったり、泡になったりとかはないわ。薬が効いている間はその姿以外にはなれないの」

 長くて一日……。

 でも一日は人間のただの泡と一緒に居られるのか?!


 そう思ったら、途端にドキドキしてきた。

 ただの泡の人間姿はどんなのだろう。前にただの泡が光り輝いて一瞬見えた気がした女性は美しかった気がする。いや、待て。一瞬の出来事だ。俺の脳が勝手に美しいと思い込んでいる可能性もある。

 あまり期待をし過ぎて、もしもがっかりしてしまったら?

 その所為でただの泡が傷つく事になるかもしれない。そんな事は駄目だ。

 ただの泡を愛せたんだ。たとえ、色々問題がある外見だとしても、乗り越えなければいけない。そして、絶対がっかりとか、そんな俺の醜い心をただの泡に見せるわけにはいかない——。


「本当に大変だったのよ。この子の事だから、人間を想像した瞬間王子を想像して、勝手に王子と瓜二つの外見になって、ドッペルゲンガーとかやりかねないし。影武者を作るには最適な薬かもしれないけれど、双子みたいな王子がイチャイチャし始めたら、交渉人に何を言われる事か。ああ恐ろしい。少なくとも女性型にはなってもらわなければいけないと思ったけれど、人魚の人間の認知力に色々問題がある事が分かってきてね——」

 俺がただの泡が人間になった時をシミュレーションしている隣で、魔女が魔法薬についてのウンチクを話すが誰も聞いていなかった。


『一時的に人間になれるなら、人間になった後、一時的にただの泡に戻れる薬ってできないかな?』

 更にその横でただの泡も人間になれた後の計画を立てていたが、やっぱり誰も聞いていないのだった。

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