増殖する絆人類
「これで、どんな人間が仲間になり易いかわかったな。俺や唯みたいに、現人類からいじめられ排除されている奴を誘えばいいんだ。これでこれからの方針が決まったな」
そう思いながら帰宅すると、不機嫌な顔をした父親が待っていた。
「どこに行っていたんだ。このな夜遅くまでうろついていて。このろくでなしが!」
「ふん。家庭をほっぽり出して、毎日飲み歩いているあんたに言われたくないな」
天馬は父親である天津天竜の説教を鼻で笑った。
「貴様!ちょっとこい!」
無理矢理引き摺られて応接室につれてこられる。そこには母洋子と妹天虎がいた。
天虎は天馬を見ると嫌そうに顔をゆがめて、天竜に訴える。
「パパ、こいつをなんとかしてよ。仕事で疲れて帰ってきても、部屋で騒がれたらくつろげないのよ」
「可哀相な天虎ちゃん」
洋子は天虎を抱き寄せて、頭をなでる。それから天馬を冷たい目で見つめた。
「あんたは何もできない出来損ないなんだから、おとなしくしていなさいよ。迷惑かけないで」
そう言われても、天馬は平然としていた。
「言いたいことはそれだけか?バカバカしい」
そういって立ち上がろうとすると、天竜が肩を掴んできた。
「いいから座れ!話がある」
「俺の方にはないんだよ。お前たちみたいなつまらない人間を相手している時間がおしい」
天馬は天竜の手を掴んでねじり上げる。握力300キロの力で握りつぶされそうになり、天竜は悲鳴をあげた。
「痛い!き、貴様……」
「もう俺は、お前たちのいう事をへこへこ聞いているだけの子どもじゃないんでね」
次に天馬は、天竜の顎を掴んで持ち上げる。大男の天竜を軽々と持ち上げる天馬の力に、洋子と天虎は唖然とした。
「く、苦しい……離せ」
天馬が手を離すと、天竜は喉を抑えながら睨みつけてきた。
「貴様、許せん。この家から出ていけ!」
「はっ。お断りだ!なんなら力づくで追い出してみるか?」
天馬が睨み返すと、今まで彼を見下していた洋子や天虎も恐怖の表情を浮かべた。
「こ、この親不孝者が!」
「子供なんてそんなものさ。親を食い物にして成長するのさ。俺を追い出したいなら、今まで虐待していた相応の慰謝料でも払うんだな」
天馬はそう言い捨てて、自分の部屋に向かう。後ろからは天竜の悔しそうなうなり声が聞こえて来た。
「そのうち追い出されるかもな。ま、そうなったらなった時のことだ」
天馬は部屋に戻ってテレビをつけてみる。すると、緊急ニュースをやっていた。
「本日、渋谷のライブ会場にカラス天狗のような怪人が現れて人々を襲いました。警察が出動したのですが、捉える事ができず……」
テレビ画面が切り替わる。ライプ会場では真っ黒いカラス天狗が人々を襲ってエナジーを吸い、多くの人間が床にに倒れている映像が映りだされた。
「アダムも派手にやっているな。まあ、エナジー集めはあいつに任せて、俺は仲間を増やすか」
天馬はそう思うと、太田組の屋敷に電話をかけた。
「あのさ。『闇の公爵」だけどさ。組長いる?」
「ひ、ひいっ。す、すぐに組長に代わる!」
電話の相手は怯えた声をあげる。しばらくして、中年男の声に代わった。
「一億円は振り込んだだろ。も、もう俺たちには関わらないでくれ」
「そうは行かない。お前たちは永遠に俺の奴隷なのだからな」
くくっと笑う天馬に、組長は心底恐怖した。
「お、俺たちに何の用だ」
「お前がケツモチしている半グレたちがいるだろう?そいつらの下っ端に、まだ学校通ってる奴らはいるか?」
「わ、わからん。息子に聞いてみないと」
そう言って電話が若い男に代わった。
「た、確かに俺たち『地獄の道』にはまだ中学とか高校に行っている奴もいますが」
「ならちょうどいい。集めて欲しい奴らがいるんだ」
天馬の要求に、組長の息子は怯えながら頷くのだった。
次の日
弥勒学園理事長の息子、弥勒翔太は、大賀たちを呼び出していた。
「いったい、いつになったらあいつを追い出せるんだ」
我慢の限界といった風に、怒鳴り散らす。それを聞いた生徒たちがギョッとして視線を向けてくるが、もはや彼は外面を気にする余裕もないほど追い詰められていた。
翔太は中間試験で天馬にトップを取られた後、何かと言い訳をつけて彼に勝負を挑んでいた。
しかし、悉く返り討ちにあったのである。
「ゴール。天津のタイムは……え?100メートル九秒99?」
教師を巻き込んで100メートル走で挑んでみたが、圧倒的な差ををつけられてしまう。
「ホームラン!ゲームセット!」
野球で挑んだら、全打席三球三振に取られ、ホームランを打たれてしまう。
「一本!それまで!」
柔道で挑戦したら、あっさり抑え込まれてしまった。
「ずこい。天馬君!かっこいい!」
応援してくれる日向に、天馬は複雑な笑みを向ける。
「いや、ある意味反則みたいなものだから。完全な肉体コントロールができる今の俺に、現人類がかなうわけがない。生物としてのスペック自体が違うからな」
既に天馬は、翔太など眼中にないようだった。完膚なきまでに叩きのめされて、翔太は歯ぎしりする。
「く、くそ……」
悔しがる翔太の耳に、女子たちのささやき声が聞こえて来た。
「あーあ。王子負けちゃったね」
「実は、大したことないんじゃない?あんな陰キャに負けるくらいだもん」
「ちょっと幻滅しちゃったなぁ」
そんな声が、翔太のプライドをやすりで削るように傷付けていく。
「それより、ねえ、天津先輩かっこよくなってない?」
「あ、それ私も思った。最近痩せて変わったよね」
直接天馬をいじめていたクラスメイトたちと違って、今まで関わりがなかった後輩たちの中から天馬を慕う声があがるのを聞いて、翔太はいたたまれなくなった。
「き、今日の所はこれで勘弁してやる」
捨て台詞を吐いて去って行く翔太の背中に、後輩女子たちの笑い声が聞こえて来た。
プライドを傷つけられた翔太は、大賀たちに命令する。
「いいか!立ち直れないぐらい奴を痛めつけるんだ!」
そう言われた大賀たちは、自信たっぷりに言い放った。
「任せておけ。ちょうどパイセンたちから生贄をつれてこいって言われているんだ」
「そ、そうか。これで奴も……」
天馬がボコボコにされることを想像して、翔太は暗く笑うのだった。
天馬が学校に着くと、さっそく大賀が絡んできた。
「よく。ザコデブ!金出せよ」
「金なんてないよ」
いつもの会話を繰り返すと、大賀は天馬の鳩尾に一発パンチを繰り出した。
「ああん?てめえいい加減学習しろよ。家から金もってこいよ」
そう言いながら、ニヤニヤ笑う。
(いい加減鬱陶しくなってきたな。充分トレーニングにもなったし、そろそろこいつも用済みだな)
そう考えていると、大賀はメンチを切ってきた。
「今日、先輩たちに呼ばれててよぉ。生贄をつれてこいって言われてんだ。放課後俺たちのたまり場に連れて行くから、逃げんじゃねえぞ」
「逃げないよ」
「けっ」
全く恐れていない様子の天馬に、大賀は唾を吐いて去って行った。
(上手く伝わっているな、さて、何人仲間が増えるかな……)
天馬は放課後のことを想像して、一人ニヤニヤするのだった。
放課後
天馬は大賀率いる不良たちに連れられて、街はずれの倉庫にやってきていた。薄暗い灯しかついてない広い場所で、主にリンチする時に使われている。
すでに暴走族『地獄の道(ヘルロード』のボスや幹部たちがいて、大賀たちが来るのを待っている。
「おせぇぞ!」
「すいません先輩。その代わり、イキのいい生贄つれてきましたから。俺たちが毎日いじってやっても、ケロッとして学校に来る奴です」
大賀たちはドンっと天馬をボスたちの前に突き飛ばした。
「こんなザコデブ連れてこいって、いったい何する気なんですか?」
「そんなの、俺たちが知るか!」
不機嫌そうなボスに怒鳴られて、大賀たちは縮み上がる。
「す、すいません」
「……ちょっと待ってろ。他の奴も来る」
その言葉に従って暫く待っていると、次々と人が集まってきた。
「ちーす。北高の田中っす」
「南ヶ丘中の鈴木っす」
「パイセン、久しぶりっす。俺たちは二人つれてきました」
やってきたのは、『地獄の道』の構成員や準構成員、さらにその下っ端たちである。彼らは怯えた様子の男子を連れてきていた。
彼らはメガネ、デブ、ガリガリと色々なタイプだったが、共通しているのはその雰囲気である。
全員陰キャでいじめられているような暗い顔をしていた。
「お前ら、ご苦労だった。これは小遣いだ。受け取ったらさっさと失せろ」
ボスは陰キャたちを連れて来たヤンキーたちに、小遣いを与えて帰らせる。大賀たちも天馬を置いて帰ろうとしたが、ボスに押しとどめられた。
「お前たちはちょっと待ってろ」
「え?何でですか?」
大賀たちが不思議そうに聞き返した時、いきなり倉庫の明りが落ちる。
「なんだ?停電か?」
次の瞬間、バリバリという音と共に、闇の中に稲妻が走った。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
叫び声とともに、複数の人間が倒れる気配が伝わってくる。
「なんだか知らねえがやべえ!逃げないと!」
大賀たちがパニックを起こそうとしたとき、唐突に明かりがともる。
彼らが見た者は、自分たちが連れて来た生贄陰キャたちが床に倒れている光景だった。
「い、いったいこれは?」
逃げ腰になる大賀たちの前に、倉庫の奥から黒尽くめの怪人が現れる。
「ご苦労だったな」
その怪人は、大賀たちを無視してボスたちに話し掛けて来た。
「あ、あの、俺たちは何をすればいいんで?」
ボスは卑屈に怪人に話し掛ける。大賀たちは最強の存在だと思っていたボスの態度を見て困惑した。
「さしあたって、これでもう用はない。そいつらを置いて失せろ」
それを聞いて、ほっとした様子でボスと幹部たちは倉庫を出ていった。
「そ、それじゃ、俺たちも帰るか」
不穏な雰囲気を感じ取って、大賀たちもさりげなく帰ろうとするが、いきなり足に電流のような痛みが走ってその場に硬直した。
「お前たちにはまだ用事があるんでね……おっ?起きたか?」
今まで床に倒れていた四人の陰キャたちの目が覚める。彼らは長い夢でも見ていたような顔をしていた。
「ようこそ。『絆人類』の世界に」
怪人がおだやかに話し掛けると、陰キャたちは複雑な顔をした。
「事情は直接伝わってきました。しかし、俺たちは本当に新人類なのでしょうか?」
「それを証明するために、こいつらに残ってもらったんだ」
怪人はニヤリと笑って、大賀たちを見る。
「ちょうどいい。俺たちも五人。こいつらも五人だ。戦って実感してもらおうか」
それを聞いた大賀は、我慢できなくなって怒鳴り上げた。
「おいおい。さっきからてめえは何なんだよ。無視すんなよ」
「何、簡単な事さ。俺たち五人と団体戦でタイマンして、勝った方がこの倉庫から出ていけるということさ」
訳の分からない怪人から挑戦されて、大賀たちの闘志は燃え上がった。
「ふざけんじゃねえ。てめえらボコボコにしてやんよ!」
こうして、大賀たちとの最終決戦が始まるのだった。
「ほ、本当に大丈夫なんですか」
不安そうに訴えるのは、連れて来られた中で一番背が低くて痩せている少年である。
「はっ。こんなモヤシ、ワンパンで終わるぜ」
その対面では、大賀の取り巻きの不良の一人がシャドーボクシングをしていた。。
彼はそれなりに自分の腕に自信があるようで、しきりにパンチを繰り出して威嚇している。
「大丈夫だ。『電脳拳』
黒尽くめの怪人の恰好をした天馬は、光る掌を少年の手に当て、神経を接続させる。彼の身体の主導権は天馬に移った。
「おらっ!」
始まった瞬間、不良がストレートパンチを繰り出してくる。少年の身体を操っている天馬には、それが止まっているかのように見えていた。
(アダムとの修行の結果だな。全ての感覚器官が鋭敏になり、反射神経も数倍に上がっている)
天馬は余裕をもって拳をかわし、カウンターでパンチを不良の顔面に叩き込んだ。
「ぶっ!」
顔面を打たれた不良は、鼻血を出してのけぞる。
『ほ、僕のパンチが当たった……?』
脳内で、少年の驚く声が聞こえて来た。
「これが俺たちの能力だ。俺というより高度な肉体の操縦方法を知っている魂が扱えば、鍛えてない君の身体でも潜在能力を引き出せる」
天馬は、かつてアダムから教えられたことを少年に伝える。
「どうだ。気持ちいいだろう」
『はい』
天馬と少年は、今までいじめられた鬱憤を晴らすかのように徹底的に不良に攻撃を加えるのだった。
「痛い……骨が折れている」
「歯が……助けてくれ」
「き、救急車……病院に……」
四人の不良たちが床に倒れて呻いている。いずれも喧嘩に自信がある者ばかりだったが、今は見下していた陰キャたちに徹底的にやられていた。
対照的に、陰キャたちは満足した顔で彼らを見下ろしている。
「俺たちにこんな力があったんだ……」
「この力があれば、もういじめられないで済む」
「俺は『オンライン』に参加するぞ!」
自分の中にあった新たな可能性を示唆されて、希望を抱く彼らだった。
そして、一人立ち尽くす大賀の前に、黒ずくめの怪人が立つ。
「さて、最後はお前だな。ガチでタイマンしようぜ」
「ひ、ひいっ!」
挑戦された大賀は、戦意を失って逃げようとするが、途端に足が動かなくなる。。
「な、なんでこんなことをするんだ?」
「こんなこと?」
思いもしない事を言われて、怪人は首をかしげた。
「そ、そうだ。俺たちはお前に何もしてねえだろうが!一方的に虐めやがって!」
追い詰められた大賀は、とうとう被害者ぶって怪人を非難し始めた。
「一方的に虐めたって?はっはっは」
それを聞いて怪人が笑う。
「何がおかしい」
「俺たちを虐め、生贄にしようとここに連れて来たのは、お前たちじゃないのか?」
それを聞いて、大賀はハッとなって周りを見渡す。陰キャたちの恨みの籠った目と合った。
「お、俺はお前たちに何もしてねえ!」
必至に弁解する大賀の前で、黒尽くめの怪人はゆっくりとマスクを取る。その下から現れた顔は、彼の良く知る人物だった。
「あ、天津?」
「そうだ。さあ、俺とお前の因縁の決着だ。心行くまで戦おうぜ」
天馬はニヤリと笑う。それを見て、大賀は生贄として連れてこられたのは自分たちだったと自覚してしまった。
「て、てめえみたいなザコが、俺にかなうわけねえんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
破れかぶれになって殴り掛かってくるが、天馬はひょいと交わす。
「ぐぼっ!」
次の瞬間、強力な蹴りをカウンターで喰らい、大賀は胃液を吐き出した。
「くそっ!」
必至になって攻撃するが、パンチや蹴りは全て避けられ、その都度強烈なカウンターを喰らってしまう。
「わ、わかった……俺の負けだ。許してくれ。勘弁してくれ」
ついに大賀は、地面に座り込んで泣き出してしまった。
「ふん。それで許されると思っているのか?」
「わ、悪かった。もう二度と絡んだりしないから。許してくれ」
「残念だけど、今日ですべて終わりだ」
天馬の手が輝き、周囲の陰キャたちを照らす。すると、彼らの身体が素早く動き、強い力で大賀を羽交い絞めにした。
「ひ、卑怯者!タイマンじゃなかったのかよ」
「タイマンは終わっただろ。次は制裁の時間だ」
天馬がそういうと、周りの陰キャたちも陰湿な笑みを浮かべた。
「さて、今までお前が俺にやってきた事をお返しするかな。好きにやっていいぞ。今までいじめられた鬱憤を、こいつで晴らせ」
「はい!」
陰キャたちは、喜々として抵抗できない大賀に集団で暴行を加えていった。