活動開始
「さて……資金調達と仲間集めを任されたけど、どうすべきか」
天馬は現実世界の自分の部屋に戻って、じっくりと考え込む。
「うーん。難しいな」
腕組みをして考え込んでいると、いきなり部屋のドアが開いて、怒り狂った顔の天虎が怒鳴り込んできた。
「あんた!いい加減にしなさいよ。うるさいっていっているでしょ?」
「うるさい?」
天馬はきょとんとなり、首をかしげる。
「そうよ!毎日毎日部屋の中で騒いで!こっちはアイドル活動で疲れて帰ってきているのに!あんたがいるせいでくつろげないでしょ!」
「ああ、そう言えば、俺が電脳世界インフェルノで筋トレしている間も、肉体はこの部屋で活動をつづけていたんだったな。すまんかった」
天馬は頭を下げるが、その体からムワッと汗のにおいが漂ってきて、天虎をさらにいらただせた。
「もう限界!パパに頼んで、あんたなんか追い出してやるわ!」
そう言い捨てて、荒々しくドアを閉めて出て行ってしまった。
「追い出される……か。不思議だな。前はあんなに家族から相手にされないことが悲しかったのに、今ではなんとも思わない」
以前は両親に愛されなくても、妹から嫌われていても家族としての情があった。しかし、『絆人類』に進化した今の天馬にとっては、親にも妹にも特別な感情を持てず、ただの他人としか感じられなくなっていた。
「まあ、どうでもいいか。今の俺なら、たとえホームレスになっても生きていけるだろう」
天馬はそう思うと、これからの計画について考え込むのだった。
次の日
天馬は律義に学校にかよっていた。相変わらず大賀たちからの嫌がらせはやまず、クラスメイトたちからも馬鹿にされているが、そんな彼の評価を変えてしまう出来事が起こった。
「嘘だろ……どういうことだ」
壁に張り出された中間試験の結果を見て、茫然としている翔太がいる。いつも学園で一番だった彼が、今回は二番だった。
「天馬君。今回は頑張ったね。満点でトップをとるなんてすごいよ」
「はは。実力……じゃないんだがな」
日向に褒められて、天馬は照れる。実はトップを取れたのはアダムの知識をダウンロードしたからであり、少し後ろめたく思っていた。
「カ、カンニングだ!」
突然そんな声がかかる。振り向くと、怒り狂った翔太が迫ってきた。
「いつも底辺だって君が、いきなりトップだなんて、カンニングに違いない」
その声を聞いて、周りの生徒たちもウンウンと頷いた。
「カンニングっていうけど、どうやったんだ?」
「そ、それは、他の人の答案をこっそり覗いて」
そう決め付けて来るが、天馬はやれやれと首を振る。
「だとしたら、俺より成績が良い奴がいないとおかしいだろう。そいつの答案を写したことになっているんだから」
そう言われて、翔太は悔しそうな顔をするが、なおも言い募る。
「だいたい、満点って時点でおかしいだろう。事前に問題を知っていた僕でもとれなかったのに」
「事前に問題を知っていた?」
天馬が意地悪く聞き返すと、翔太はハッとした顔になる。
「な、なんでもない。とにかく、先生に言うからな」
そういって、走っていってしまった。
「なんなの?失礼にもほどがあるよ」
日向はプンスカと怒るが、天馬は苦笑を浮かべる。
「別になんでもいいさ。学校のテストなんて今の俺には意味ないし」
「え?」
「あいつがいくら騒ごうが、所詮弥勒学園の中での話だ。大学受験本番の試験でもないかぎり、俺の人生に大して影響ないさ」
そういう天馬は、大人びた表情を浮かべていた。そんな彼を、日向は好ましそうに見つめる。
「天津君、大人だなぁ。最近痩せてかっこよくなったね。なんだかいつも楽しそう。何かあったの?」
「まあね。目標と使命が見つかったからな」
「なんだか分からないけど、元気になってくれて嬉しいよ」
日向はニコニコとした笑みを浮かべてくる。
(俺に優しくしてくれるのは、この子だけなんだよな。もちろん彼女は誰に対しても優しいから、俺に対する特別な気持ちなんてないんだろうけど)
そう思いながら日向を見ていると、彼女を仲間にしたいという欲求が沸き上がってきた。
「日向。ちょっと俺の手を握ってくれないか?」
そう言いながら、手を差し伸べてみる。
「いいよ」
日向は無邪気に笑いながら、手を握りしめた。
(今だ。『電脳意識}』インストール)
日向の手を通じて、人間を『絆人類』に進化させるためのプログラムを送り込んでみる。
しかし、日向は何も感じないようで、ずっと首をかしげていた。
(失敗した……日向には俺の仲間になる資質がないのか……)
彼女に恋心を抱いていた天馬は、その結果に失望する。
「いつまで手を握ってるのよ。いやらしい!」
その時、日向の取り巻きたちが割り込んできて、強制的に引き離されてしまった。
「調子にのらないでよ。日向はあんたみたいなオタクと違うんだからね!」
「ゆり、そんな言い方……」
抗議しようとした日向の口の口を、親友である月影百合子がふさぐ。
「日向はだまってて。いい、あんたみたいなモブ、日向にふさわしくないの。王子ぐらいのスペックじゃないとね」
「そうよ。最近ちょっと調子にのりすぎ。いい気にならないで!」
百合子たちは、口々に非難してくる。
「み、みんな。別に天津君はいやらしいことをしていたわけじゃなくて……」
「日向!こんなオタク相手しちゃだめ!いこう!」
日向は女子たちに引きずられて連れ去られてしまった。
「やれやれ……俺たちの仲間になれる奴って、どこにいるんだろうな」
去って行く日向たちをみながら、天馬は孤独を感じていた。
「とりあえず仲間探しは置いといて、我が組織の資金調達か。何から始めようか」
天馬は考えた末、ある結論に達する。
「やっぱり、悪の組織らしくまずは他の悪から搾取すべきだな」
そう思った天馬は、悪人をさがして夜の街をうろつくことにした。
「アダムから衝撃緩和スーツが送られてきたけど、悪の戦闘員にぴったりだな」
まるでゴムのように伸び縮みするスーツを着て、天馬はそう思う。見た目はよくある戦隊ものの雑魚敵にそっくりだが、外部からの衝撃を完璧に受け流して銃弾すら跳ね返せるとアダムのお墨付きだった。
「よし、いこう」
天馬は夜の闇に紛れて、繁華街を放浪する。
「ええと……なるべく金と情報を持っていそうな、悪そうなやつはいないかな」
人相の悪い男たちや集団でたむろしているヤンキーたちを物色していると、叫び声が聞こえて来た。
「離してよ!」
「威勢のいいねえちゃんたちだぜ。ちょっと俺らに付き合えよ」
声がする方を見ると、女子高生の集団に暴走族たちが絡んでいる。
「警察を呼ぶわよ」
「ああ、呼べばいいさ。俺たち『地獄の番犬』に怖いものはねぇ」
「なんたって、俺たちのリーダーはこの町を支配する太田組の組長の息子なんだからな」
ヤンキーたちはそういって、ギャハハと笑った。
「いや……だれか助けて!」
彼女たちは助けを求めるが、誰も視線を合わせようとしない。見ていた天馬は、彼女たちが自分をバカにしていたクラスメイトたちだと気づいた
「……別に助ける義理もないな。放っておくか」
そう思って立ち去ろうとするが、その時、暴走族の中からひときわ凶悪そうな男が現れて、携帯で電話を掛けはじめた。
「……ああ、上玉を捕まえた。薬を用意しておけ。こいつらにはその体を使って、せいぜい稼いでもらうぜ。」
それを聞いた女子高生たちは、声を上げて泣き始めた。
「稼いでもらう?ああ、奴ら半グレどもは女たちにパパ活でもさせて稼いでいるのか。まてよ……だとすると、手頃な獲物かもしれない」
そう思った天馬は、舌なめずりして彼らに近づいていった。
「あんたたち、稼いでいるんだって?」
いきなり声をかけられた暴走族たちは、全身黒尽くめの怪人が近付いてきたので驚く。
「な、なんだてめえは!」
「誰でもいいだろ。それより、お前たちって金持っているんだろ?ちょっとカンパしてくれない?」
実に気軽にカツアゲしてくる怪人に、暴走族はあっけにとられ、爆笑した。
「ははは、なんだよこのオタクは」
「正義のヒーローにでもなったつもりか。かっこいいでちゅねぇ」
バカにした調子で指さしてくる。天馬は相手にせず、その指を掴んで痛みの電気信号を流した。
「いってぇぇぇぇ!」
いきなり屈強な男が吹っ飛び、壁に激突して気絶する。
「てめえ!」
それをみた暴走族は、一斉にナイフや金属バットを振りかざして迫ってㇰた。
「痛い痛い!」
「苦しい……呼吸ができない……」
「助けてくれ……体が動かない……」
街の路地裏で、何人もの男が倒れて呻いている。
天馬はまったくの無傷で、暴走族たちを倒す事ができていた。
{ひ、ひいっ」
暴走族のリーダーは、恐怖のあまり地面に座り込んでいる。
「く、くるな。俺の親父は太田組の組長だぞ。俺に手をだしたら……」
「ああ、心配しなくていいぞ。いずれ組ごと俺のものにするから」
天馬はそういうと、座り込んでいる男にそっと手を触れ、その運動神経を支配する。腰が抜けていた男は、直立不動になった。
「とりあえず、お前たちのアジトに案内してくれ」
「だ、だれが……ふぐっ!」
激痛ともに、独りでに足が動きはじめる。
天馬がついていこうとしたとき、そっと袖を引かれた。
「あの……助けてくれてありがとうございました」
頬を染めて礼をいう女子高生は、よくみたたら日向だった。
「ありがとうございます!」
彼女の取り巻きの少女たちも、一斉に礼をいってくる。
「助けた……?いや、別にそんなつもりないんだけどな」
天馬が彼らを倒したのは、金づるになりそうだからで絡まれている少女たちを助けようなんて気はさらさらない。
しかし、それを謙遜と受け取ったのか、日向たちは尊敬の目で見つめて来た。
「あの……お名前を教えてくれませんか?」
そう言われて、天馬は少し考え込む。
「悪の組織のNO2だから、闇の公爵とでも名乗っておこうか」
颯爽とマントを翻して名乗り、リーダーと共にさっていく。
日向たちは、ヒーローを見るような目で見送るのだった。