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悪の組織のNO2  作者: 大沢 雅紀
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新人類誕生

人里離れた山の奥の、とある生物研究室。そこに一台の高級車が止まり、中から一人の少年が降りて来た。

輝くような金髪で、まるで天使のように美しい姿をしている。

中から出て来た研究所長は、その少年を恭しく迎えた。

「ようこそお越しくださいました。弥勒翔太様」

少年は研究員たちに目もくれず、研究所に入る。そこには、おびたたしい数の奇怪な姿をした生き物が透明なカプセルに入れられていた。

「これらが『邪進化』を遂げた生物たちなのかい?」

翔太と呼ばれた少年は、興味深々の目を向ける。

「はっ。進化の正当な道を外れた哀れな生き物たちです。俗世間では悪魔だの妖怪だの言われております」

「ふーん」

翔太は鼻で笑い、生物たちを見渡す。

「しかし、中には有用な遺伝子を持つ者もいます。そういった者たちを研究して利用することが、当研究所の目的でございます。なにとぞ、弥勒財閥から更なる資金援助を」

「それは、成果次第だね」

翔太が冷たく言い捨てると、研究員たちは自信満々の表情で奥の部屋に招き入れる。そこには、カプセルに入った大きな脳が設置されていた。

「これは?」

「脳に特化した進化を遂げ、妖怪たちを支配する能力『電脳意識(テレパシー)』を持った者『ぬらりひょん』の脳でございます」

研究所長は喜々として説明を続ける。

「これを生体コンピューターとして使うと、現人類の精神を支配することができます。弥勒財閥の日本支配を有利に展開することができるかと」

「それなら、試してみよう」

翔太の合図で、脳に電流が流れる。

「さあ、手始めにこのあたり一帯の人間を支配しろ」

研究所長が命令する。しかし、コントロールパネルを操作していた職員が戸惑ったような声を上げています。

「これは……命令を拒否しています」

「なんだと!こいつの自我はすでに消滅しているはずだ!」

所長は焦った声をあげるが、パネルに表示された数値は拒絶反応を表していて、こちらからの命令を一切受け付けなかった。

「……時間の無駄だったね」

翔太は冷たく言い捨てて帰ろうとする。所長は慌てて取りすがった。

「も、もう一度チャンスを!」

「くどいよ。パパに言って、来月からの研究費は大幅カットさせてもらうよ」

そう言って去って行く。後には茫然とした所長たちが残された。

「くそ……もう一度だ。電流を最大まで上げろ!」

「ですが、いくら妖怪の強靭な生命力を持ってしても、脳組織が耐えられないかもしれません」

研究員が反対するが、所長は意地になって命令する。

「このままじゃどのみちおしまいだ。なんとしても結果を出すんだ!」

所長の命令で、脳に協力な電流が供給される。

「うまくいけ!」

次の瞬間、研究所内の電気が全て落ちた。

「なんだ?」

所長が首を傾げた瞬間、彼の脳に今まで感じたことがない激痛が走った。

「痛い痛い!」

「なんだこれは!なんなんだ!」

まるで、脳の内側に直接話し掛けてくるような思念が伝わってくる。

『愚かな現人類よ。私の僕になるがいい』

はっきりした声で、そう伝わってくる。

「これは……あの脳が話しているのか?」

「さよう。君たちには、私の『電脳意識(テレパシー)』を使って話し掛けている」

カプセルに入った脳は穏やかな声でそう伝えて来た。

「現人類よ。ご苦労。私を生み出したことで、君たちの果たすべき役割は終わった」

「な、なに?役割だと?どういうことだ?」

気丈にそう聞き返す研究者たちに、脳は静かに回答する。

「私は最初の新人類。そうだな。アダムとでも名乗ってこうか」

「ふ、ふざけるな。お前はただの妖怪の脳を利用した生体コンピューターだ。人類ですらない」

そう返す研究者たちに、アダムは哀れみの籠った口調で伝えた。

『私を新人類だと認めたのは君たちではない。私はある使命のために、『巨大な意識』にこの世に送り出されたのだ』

「な……」

それを聞いて、研究員たちは絶句する。

「君たちは今後、我が手足になって働くがいい」

その言葉と共に、研究員たちの意思は完全に乗っ取られ、以後アダムに操られる人形になってしまうのだった。

「さて。崇高な使命を果たすとしよう」

その声とともに、壁一面に設置されているカプセルの中の一つが開く。中から羽が生えた人間のような生物がでてきた。

まるでカラス天狗のようなその生物は一声高く鳴くと、研究所から飛び立つのだった。


日本屈指の進学率を誇る私立弥勒学園の裏庭では、今日も一人の少年がいじめられていた。

「今日の上納分はまだかなー」

「金持ちのパパママから小遣いもらっているんだろ?俺たちにもまわしてくれよ」

ニヤニヤ笑いながらそうせまってくる不良たちに、その少年―天津天馬は気弱な笑みを浮かべた。

「む、無理だよ。小遣いじゃなくて生活費だし。これ以上巻き上げられるとご飯も食べられなくなる」

「ああん?知った事かよ。この『地獄のヘルロード』特攻隊長の大賀さまをなめとんのか!おらっ!このデブが!」

大賀となのった不良は、容赦なく天馬を集団で殴りつけ、無理矢理財布を巻き上げる。その中身を見て、顔をしかめた。

「小銭しかねえじゃねえか、ふざけんな!」

腹立ちまぎれに蹴り上げて、大賀たちは去って行く。残された天馬は服の汚れを払うと、踏みつけられたカバンを拾って帰路についた。

汚れた格好の天馬を見て、周囲の生徒がクスクス笑う。

「ねえ、あれが?」

「うん。天津家のできそこない。父親は芸能事務所の社長で母親は大女優なのに、生まれた子供がありじゃねえ」

そんな陰口が聞こえてきて、天馬の心を苛む。

「妹が凄い分、よけいにクズっぷりが引き立つよねー」

「しっ。聞こえるわよ」

天馬をこき下ろしていた女子生徒たちはヒソヒソと互いに陰口を言い合った。

その時、校舎から一人の美少女が出てきて、天馬に心配そうに駆け寄った。

「天馬君。大丈夫?」

そういいながら、傷口にハンカチをあてがう。

「日向か。恰好悪いところを見られちゃったな」

天馬は立ち上がって、照り臭そうに笑う。彼女の名前は陽光日向と言って、天馬の幼馴染だった。

子ども時代は子役で大人気だった美少女である。現在は芸能活動を休止しているが、今だに復帰の要望が上がるほど根強いファンがいる。。

「大賀くんちたち、酷いよ。先生に言えば……」

「やめてくれ。問題になったら、家族に迷惑がかかるかもしれない」

天馬は気弱そうな笑みを浮かべる。

「……でも……」

「そうだよ。君は一般人なんだから、大人しくしていてくれ」

その時、いきなりそんな声が投げ掛けられる。会話に入ってきたのは、金髪の美少年だった。

「弥勒くん……」

「日向さん。相変わらずお綺麗ですね」

爽やかな笑顔と共に、日向にウインクする。教室の女子からキャーという歓声があがった。

「王子よ」

「あーん。理事長の息子で日本最大の財閥の後継者。頭もいいしスポーツ万能でイケメン。あんな人が、この世に実在するなんて」

うっとりとなる女子たちに手を振ると、弥勒学園の理事長の息子、弥勒翔太は日向に向き直る。

「日向さん。そろそろ東京69に入会することを考えてくれたかな?」

「でも……」

日向は天馬のほうをちらちら見ながら、口ごもる。

「彼だって嬉しい筈さ。彼の父上は東京69が所属する芸能事務所のオーナーだしね。君が入ってくれると、すぐセンターだ。大人気になって、スポンサーをしている我が財閥もメリットがある」

「その……私は友達と一緒に、普通の高校生活をおくりたいかなと思っているの」

そう言い訳しながら、日向は再び天馬の方を見た。

「もしかして東京69は恋愛禁止ということを気にしているのかな?それなら心配いらないよ。一般人との恋愛は確かにスキャンダルになるけど」

翔太は天馬を見て、鼻で笑う。

「僕のような財閥御曹司との恋愛なら、むしろ大いに話題になって、みんなから祝福されるはずさ」

翔太は気障な台詞とともに、日向の手を取って口づけした。

「きゃーーー!すてき!」

「羨ましい……王子に求愛されるなんて」

再びクラスの女子から歓声があがる。

「あの……その、私はまだそういうことを考えられないというか……」

日向が困ったように手を振り払うと、彼はやれやれと肩を竦めた。

「仕方ない。今日の所は引き下がるとするか」

恰好良く引き下がり、今度は天馬に視線を向ける。

「君はまだ日向さんにまとわりついているのかな?いい加減に彼女を困らせるのはやめてくれたまえ。大賀君たちから何度注意されたらわかってくれるんだい?」

「……」

「身の程を弁えないと、いつか御父上にも迷惑をかけるかもしれないよ。それじゃ」

肩をポンと叩くと、そのまま去っていった。

残された日向は、プンスカと怒る。

「酷い。あんな言い方ないよ。私が誰と仲良くしようが弥勒君には関係ないのに」

「……仕方ないさ。弥勒財閥は親父の芸能事務所のスポンサーさ。俺が何言ったって勝てないよ」

天馬はほろ苦い笑みを浮かべる。

「でも……」

「これ以上、お前と仲良くしていたら、家族にも迷惑かかるかもしれない。もう俺にかまわないでくれ」

そういって静かに離れようとする。日向が何か言おうとしたとき、クラスの女子が使づいてきた。

「そうだよ。王子の言う通り、身分を弁えなさいよ。あんたは王子の家の部下の子供にすぎないんだからね」

むりやり天馬と日向を引き離し、冷たい目を向ける。

「日向。そんな奴放っておいて、帰りにカラオケよっていこうよ!」

「今度、王子に紹介してね」

たちまち、日向は友達によって囲まれてしまう。

その隙に天馬はその場を離れるのだった。


「ただいま……って、誰もいない」

天馬は部屋に戻ってつぶやく。父の天竜は芸能事務所を経営していて忙しく、母の洋子は大人気女優として芸能活動をしていた。

そのせいで天馬の面倒を見ることはなく完全に放置されていたが、いつものことなのて慣れっこである。

「腹が減ったな……何か買いに行くか」

家族の生活費を置いてある棚から財布を取り出し、夕食を買いに行こうとする。

その時、後ろから声が掛けられた。

「馬鹿天馬、そのお金をどうする気?」

振り向いたら、きつめの顔立ちをした美少女と、天馬をにらみつけていた。

「天虎か。ちょっと夕飯の買い出しに行こうとおもってな。お前も食べるか?」

「気安く呼ばないでよ」

天虎と呼ばれた少女は天馬の手から無理矢理財布を取りあげると、罵声を浴びせてきた。

「みっともないよね。私たちみんな働いているのに、一人だけ寄生虫がいるなんて」

天馬を見下した目で見つめると、プイッと顔を背ける。

「寄生虫って……まだ俺は高校生だぞ」

「関係ないわよ。それを言うなら私は中学生だけど、りっぱにアイドルやって稼いでいるし」

彼女がいうように、天虎は大人気アイドルグループ東京69のセンターとして活躍していた。

「いい?うちは有名人一家なの。それなのにあんたみたいな能無しがいるなんて、恥ずかしいじゃない。家から出ないで!」

天虎はそういうと、財布を持って出ていく。

「待てよ。どこに行くんだ」

「これから王子と食事会なの。パパとママも一緒だから、あんたは家で大人しくしてなさい」

そういって出ていこうとする。

「なんで俺をのけ者にするんだ」

「何言ってんの?私たちは王子と仕事の話をしに行くの。一般人のあんたなんかその席に呼べるわけないでしょ!」

そういうとそのまま去って行く。天馬は惨めな気分になりながら、部屋に戻るのだった。



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