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冥府建国記  作者: 桐谷瑞浪
死神編
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◇7骨! ルエップ城下町

 ――永遠0年、コナンチャム国ルエップ城下町


 相変わらず俺はアイミーたちが住む屋敷にいた。

 西洋風の二階建て。

 入り口の大広間にはデッカいシャンデリア。

 二階は吹き抜けになっていて一階から通路が見える。

 赤い絨毯、木の手すり、大理石の床、……などなど典型的なお屋敷だ。

 そしてそんな屋敷の自室――結局は借り受けた――で俺はこれまでの状況をざっと整理していた。

 細かい所で説明を補完したりしているが今のところ、ざっとこんな感じだ。


 まず奈落システムについて。

 ・死ぬ寸前にタイトルロゴが出現。「奈落」の二文字に三角に配置された三つの目のマークが特徴。

 ・死と引き替えに99%そのままの自分で冥界に転生。1%は【転生の呪い】で基本的にマイナススキル。

 ・親切なアナウンス機能。若干のクーデレ。

 ・自分自身の存在値やスキルを確認出来る。

 ・合意の下でなら他者の存在値やスキルを確認出来る。どちらかのみ提示も可。


 ここまでまとめてみて、今まで何度か気にしてきたことをそろそろだと思ってレイブに聞いてみた。


「なあ、レイブ」

『カズキ。おはようございます』

「あ、うん。おはよう。いきなりだけど奈落システムって誰が何のために作ったんだ?」


 奈落システムを作ったのは誰か。

 行き届いたシステムの割には冥界での運用ありきなのは何なのか。

 その辺がずっと気になっていたのだ。

 けど、答えにくいほど重要なことかもと勝手に思って今まで聞かないで過ごしていた。

 レイブは口を開いた。


『カズキ。説明が長くなりますがよろしいですか?』

「えっ。とりあえず最低限で簡潔に頼む」

『受理。マクロにより重要度が高い項目のみを抽出し取りまとめます』


 マクロ、便利すぎ。


『カズキ。あなた様を始めとした冥界在住ユーザーが必ず採用している本システムですが、その設計および開発は冥界にて行われております』

「ほう、じゃあ本社があるのか」

『そうです、カズキ。奈落システム製作に携わる大元、つまり、あなた様がいた世界でいう企業の本社にあたる総本山はここ冥界にあります』


 だとすると、いつかは奈落システムを作ったヤツにばったり出くわす可能性もあるのかも。


『次に本システムの目的について。本システムの唯一最大の目的は不慮の死を迎えゆく人々に救済を与えることです』


 やはり、といったところだ。

 まあ救済にしては魔神がはびこるデンジャラス・ワールド、それが冥界ではある。

 だけど魔法などアドバンテージもあると考えれば救済っちゃ救済だわな。


「レイブ。念のため聞くけど唯一最大っていうなら、死んだ人間を助けること以外は企んでないわけだな?」

『そうです、カズキ。しかし厳密には、もちろんそれは私の意思ではありません。それは本システム製作を指導したモトカル・ウェロイドの意図です』


 モトカル・ウェロイド。

 名前がある、実在する人間。

 現実に奈落システムを作った人間がいるってだけで、このシステムに対する摩訶不思議が少しは晴れた気がした。


「おはよ奴隷♪」

「おっすアイミー。ただ、おはよウサギみたいなノリで奴隷言うんじゃねえ」


 アイミーは真の姿と真の存在値にさえ目を向けなければ、あと奴隷扱いを気にしなければ年相応の女子って雰囲気だ。


「ねえねえ、奴隷♪」

「今日は、なんなんだ」

「私の正体を探ったな?」


 ゾクリ、と背筋が凍った。

 つい今まで10メートルくらい遠くにいたのに、一瞬で目の前に来たからだ。


「な、何のことかな」

「蛇印術。煌魔ヴリトラを使役する禁術ね。魔神利用なんて冥界じゃありがちなヤツ……」

「ちっ、バレちゃ仕方ねえ。命のやり取り始めるか」

「『精霊の加護において……』」

「すいませんでしたァー」


 出会って何度目かのジャンピング土下座。

 いちいち数えてない。

 だが俺が何かやっちまったと見なすや否や、大精霊様の切り替えは半端ない。


「まあいいけど。とりあえず紅茶を入れてきなさい♪」

「本当の奴隷じゃねーか!」


 気まぐれやトリゴの合いの手からの制裁キャンセル。

 俺に向けられた数々の光魔法は今のところ、放たれる前に例外なく煙と化してアイミーに還元している。

 これも、最近ではいつものことだ。


「はあ。紅茶セット召喚!」


 しかもなんだかんだで紅茶入りポット、ティーカップ、ティーテーブルくらいは召喚してやる俺だ。

 優しさあるだろ?

 えっ、椅子?

 なんとなく出来心で……ね。

 そして屋敷の廊下で立ち飲みティータイムを始めたアイミーの傍ら、俺は冥界についても振り返ることにした。


 冥界について。

 ・永遠0年という年号のまま。時間の単位は最大で1日。しかし俺みたいに1ヶ月とか1年を数えるのは自由。

 ・朝も夜もない。空は緑で7つの恒星が世界中を照らす。

 ・年を取らない。基本的に死なない。ただし子どもを作ることも出来ない。

 ・存在値が対象の千倍以上あれば対象を完全に殺せる。この場合の死は復活不可能。

 ・行動可能な広さ、つまり行動圏。そして行動の手際のよさ、つまり行動効率。この2つが重要。


 ふむ、まあこんなモンだろう。

 我ながらよくまとめたと思う。


「奴隷。トリゴを探して来なさい♪」

「へいへい」

「へいは2回でよろしいっ♪」

「じゃあ正解だ。やったー!」


 トリゴはよく町中をふらついているので、俺は時々こうしてアイミーに使われてヤツを探す羽目になった。


(今日は一体、どこにいるんだ? ……)


 時に庭の草むしり。

 時にジョギング。

 時に屋敷内の目立たない場所。


 そんなトリゴの居場所をあれこれと思い出しながら俺は、同時に魔法についてもおさらいした。


 魔法について

 ・召喚魔法とそれ以外の魔法に分かれる。

 ・魔法は基本的に詠唱が必要。特に召喚の場合、「~~、召喚」などそれなりに定まった詠唱が必要。

 ・召喚魔法は生物も非生物も召喚出来る。

 ・召喚した生物は意思を持ち思考するが普通、成長はしない。

 ・召喚した物質を加工して別の物質には出来る。

 ・召喚の逆は還元。還元すると召喚で消費した存在値の大半が使用者に戻る。

 ・召喚魔法の内、食物召喚が最も簡単。

 ・魔法の難易度に明確なカテゴリーはないが世間では食物召喚や家具召喚を、扱いが簡単なため低レベル召喚と呼んでいる。

 ・食物召喚や家具召喚など低レベル召喚はスキルに含まれない。

 ・強力な魔法ほど存在値の上限が伸びやすい。

 ・食物召喚でも、極めさえすれば存在値の上限が伸びる。


「なんだか召喚が優位だな。案の定だけど」


 俺はここまでを振り返って朝っぱらから疲れを覚えた。

 慣れないことはするものじゃないのかもしれない。


(朝っぱら。――多分そうだと思う)


 俺は冥界では適当に決めた午前のほうの5時から9時くらいを朝としている。

 未だに冥界では午前午後が区別出来ない。

 正直に言うと、俺が冥界に転生して1年っていうのも本当は怪しい。

 午前が分からなくなるたびに俺の中で決め直してきたからだ。

 ま、最近ではアイミーたちの生活習慣に合わせてるし、師匠がいた頃は規則正しい師匠のおかげでほとんどズレはないはずだけどな。


「今日は修行しないニョニョ?」

「うん。トリゴを探さないとだし、新しい術のために試したいことがある」


 ヴリトラを左腕に宿した俺の蛇印術。

 アイミーにはすっかりディスられたけど俺は存在値と同等、もしくはそれ以上にこの術には価値があると考えている。

 さて蛇印術はそんなに説明してないだろうから、ヴリトラについて分かることも含めてここで軽くまとめてみる。


 蛇印術とヴリトラについて。

 ・術を使う時は対象に俺の左手を向ける。魔法みたいに叫んだりは必要ないけど気分次第。

 ・術の使い方はヴリトラも知らないので、自分で閃いてヴリトラの力で可能かを試すしかない。

 ・ヴリトラが持つ力は存在値のはず。魔神の力も結局は存在値だからだ。

 ・ヴリトラの存在値は人間の存在値とは性質が違うのかもしれない。または単に俺より膨大な存在値だからか、蛇印術では出来ても魔法では出来ないことが明確にある。

 ・師匠の逆召喚で封印されたヴリトラは「ニョニョ」が口癖。元の魔神の状態では言わなかったはずだが封印の影響かもしれない。

 ・今の俺が使えるのは《熱牙》と《蔓調》のみ。


 さっき疲れたと言ったそばから、何やってんだ俺は。

 さて、そう言っている内に城の前になんとなく来てしまった。

 ルエップ城、今日もメルヘンチックだ。


「それにしてもいないなあ、アイツ」

『カズキ。ナビゲーション機能をご利用になりますか?』

「いやいや、俺の現在地は分かってるから」


 たまに的外れな提案をしてくるレイブ。

 魔法少女のアバターだから許してもらえると思っての戯れなのかもしれない。

 だけどコイツはAI。人工知能だ。

 俺はダマされない。

 まあ相手はコンピュータだからダマされたところで、どうってこともないけどな。


 他に気になることと言ったらセバスチンだ。

 あの顔デカ執事、何者なのか……。


(あの時は筋肉マニアと思ったけど)


 ヤツは俺の左腕にいきなり注目した。

 相当のやり手なのか、いい勘をしている。

 もしもやっぱりヴリトラに気付いてるとしたら、――おそらくアイツの存在値はせいぜい5万。

 死にはしないけど、今の俺に勝てる相手でもないかもしれない。


「蛇印術があるから何とも言えないけど」

「あららのら。ジャイン、それは何っでしょうか?」

「うげっ。なんでお前がここに」


 噂をすればセバスチン。

 今日も立派だ、お顔がデカい。


「ジャイン、そ、そんなこと言ってたか俺?」

「ええ。ワチャクシの耳は節っ穴ですが聴覚だけは凄いですからね」


 節穴なのか凄いのか。

 禅問答的な新手のギャグなのか判断が付かないから対応にちと困る。


「そ、そうだ。シーンとしてるなあって言ったんだけど、聞き間違いじゃないか?」

「シーン、シューン、ジャーン、ジャキーン、ジャンジャラ、ジャイン……なるっほど!」

「どう納得したんだよ!」


 聴覚が凄いかどうかも怪しい上に思考回路も謎だが、ともあれ上手くごまかせたようだ。


「しかし光の大精霊を世話するなんて、アンタも大変だよな」

「光の大精霊とは?」

「えっ」

「ひょっ?」

「いや、こっちの話だ。ていうか勘違いだった。忘れてくれ」


 セバスチンは冷ややかな目で俺を見ながら城門をくぐった。

 ひょっとして、あの屋敷の住人はそんな身分なのだろうか?


(まさかのガチに貴族。そして俺、ガチに奴隷か?)


 執事が城に入れるなら、アイミーたちは尚更なはず。

 光の大精霊を執事が知らないのは疑問だがこれからは、うかうかとアイミーやトリゴに軽口を叩く考えを改めていくかもしれない。

 だけど知らないことをウジウジ悩んでも仕方ない。

 俺は《中つ扉》や安息地のことを考えることにした。


 安息地について

 ・マシカク大陸(=冥界にある唯一の陸地。でっかい正方形)の中央部。地図上は地域名がない空き地。

 ・安らぎの地のはずが色々起きるっぽい。

 ・最近は平和が乱れる勢いっぽい。

 ・アイミーたちはキャラバンを作って安息地での冥府(中央政府国家)建国を目指している。

 ・最強 (に)決定(している死神との)ロワイヤルが無期限開催中。勝てば《中つ扉》の使用権を得る?

 ・《中つ扉》は安息地と任意の一点とを行き来出来るアイテムらしい。

 ・最強決定ロワイヤルに出るには、なんだかんだで存在値が100万以上必要。


 分からないことだらけのようでいて思ったより情報はあることにだけは、なんとなく安心を覚えた。


(城の中だったら入れねえぞ、トリゴ)


 セバスチンは通行許可証らしきモノを見せてルエップ城に入れてもらえていた。

 だがあいにく俺にそんな素敵な許可証の持ち合わせなどない。

 城門は両脇に、絵に描いたような警備兵が控えていてそれなりに厳重警戒態勢だ。


(蛇印術をうまく使えば隙を突けるだろうか)


 そこまで考えて、俺はある事に気付いた。

 ――単なる人探しにそこまでする必要、全く無い。


「よし、帰るか」


 俺は屋敷に帰った。


「あれっ奴隷くん。どうしたのさ、外なんて出歩いて♪」


 屋敷にトリゴいた。


「お前を探してたんだっ」

「奴隷くん。気持ち悪いよ♪」

「そうよ、キモめ奴隷♪」


 うぜえ。

 この期に及んで奴隷より下のキモめ奴隷枠を創設してきやがった。


「そういやセバスチン、城に行ったけどお前らは行かなくていいのか?」


 俺の質問に、トリゴの表情が変わった。


「いいんだ。だってセバスチンは……♪」

「な、なんだよ。言いたくないなら、よせ」

「セバスチンは王様なんだ♪」


 セバスチンは王様。

 この意味がすぐに分かったならとても思慮深い人だと思う。


「奴隷。あなたも勘違い野郎なのね♪」

「うん、アイミー。そうだね♪」

「ニョニョ♪」

『カズキ。セバスチン様が執事とは誰も申し上げておりません』


 なんとセバスチンは、ルエップ城城主。

 つまり一城のあるじだったのだ。

作者による元ネタ解説

・シャンデリア

お金持ちの家にあるデカい照明家具☆

・赤い絨毯

ゲームとかでのお金持ちのイメージ☆

・大理石

ちなみに作者の実家の浴室の壁は大理石っぽくコーティングされた樹脂☆

・マイナススキル

なろうではテンプレ☆

・クーデレ

「ツンからのデレ」はツンデレ。

こちらは「クールからのデレ」☆

・合意の下で

日本国憲法第24条☆

・抽出し取りまとめます

フィルタリング機能☆

・モトカル・ウェロイド

「元からエロいぞ」をモジった☆

・おはよウサギ

公共広告機構☆

・制裁キャンセル

キャンセル波動○。これでピンと来たらゲーマー☆

・7つの恒星

3骨あとがきで書き忘れたけど7は北斗七星とか某ドラゴンボー○とかから☆

・へいは2回でよろしい

3年B組金○先生。

「はいは1回でよろしい~」☆

・魔法について

まあまあ独自要素だけど、その細かさはデスノー○の作中ルールを参考にした☆

・アイツの存在値はせいぜい

某ドラゴンボー○。たぶんスカウ○ーが出てきたあたりじゃないかな☆

・ひょっ?

作者の大学生時代、リアル知人が実際に何度かしていたリアクションそのもの☆

・気持ち悪いよ♪

古くはリアル母校で女子がまれに笑顔で浴びせてきた毒舌。

作者の中での最新はエヴァンゲリオ○☆

・セバスチン様が執事とは誰も申し上げておりません

「はっはっは。かかったな?」

「あ、何がだよ」

「ボクはただ(ありがちな名字)さんが死んだと言っただけだ。なのになんでアンタ、(ありがちな名字)さんが首を絞められて死んだって知ってるのか……詳しくお聞かせ願おうか」

火曜サスペンス☆

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