6骨! 必須ライン
――永遠0年、コナンチャム国ヒューズ関所町
俺がモーレの町を出て6日ほど。
道中でアイミーたちが仲間(?)になり、ここヒューズ関所町で更に一泊した俺たち。
よってモーレを出発して今日で一週間となった。
関所町、あるいは関所都市。
読んで字のごとし。
それらは申し訳程度に各国国境に設けられた関所の役割を担う地方自治体だ。
ただし町や都市である性質上、それらはどこかの国土に属している。
いささか扱いな適当な気もする。
だけど、どうしてもこれらの関所地域を通らねば越境出来ないわけではない。
その気になればがっしり作り込まれた、高さのある国境塀を越えたって良い。
もしくは魔物や悪党がのさばる地下ダンジョンを攻略して越境したって良い。
ペナルティなどない。強いていうなら命がペナルティ。
国境塀は百メートル以上あるから、俺ならともかく並みの人間じゃ死ぬ。
地下ダンジョンにいる悪党は、聞いた話じゃ軒並み存在値が1000を超える。
「つまり関所を通るのが手っ取り早いんだな?」
「そうだよ♪ 手数料とか経費はないし、危ないヒトじゃないなら安全安心に通行可能な優しい関所なの」
「うん、アイミー。そうだね♪」
今さらだが、バカップルの身なりは共にそれなりだ。
「ど、奴隷くん。しっかり冥府作りを盛り上げてよね♪」
トリゴは口調こそフヤけているが重装備。
防御性能が高そうな、無駄にデカい鎧だから多分そう呼ぶんだと思う。
鎧は抹茶みたいな地味色。
重装備なのにムチって珍しいけど、別に何に禁止されてるわけでもない。
髪型は草食系なおとなしスタイル。
だがわずかに横ハネしている黒髪がアイミーの母性本能をくすぐっていそうだ。
「まずは土下座の練習から。そうよね、トリゴ♪」
アイミーは僧侶というか、司祭かな。
白を基調としたおしゃれローブ、そしてこれみよがしに神聖さをアピールする小悪魔的な白いマント。
うーん。ボキャブラリーが貧困な俺にはその矛盾を説明出来ないけど小悪魔的な神聖マント。
まんまだが、やっぱりそんな感じだ。
ブーツやネックレスのセンスは日本にもいそうな今どきおしゃれっ子。
髪は、この長さはなんていうんだ?
『カズキ、それはセミロングです。私の疑似人形もセミロングですよ』
「(知・ら・ん・が・な)」
金髪魔法少女のレイブ(の疑似人形)。
オレンジ色の髪をしてるアイミーが並ぶと姉妹みたいだ。
メルヘン度合いが増す的な意味でだけどな。
レイブの服は魔法少女にありがちな紫のローブ。三角帽子も紫。
これ、明らかにデザイナー雇ってないパターン。
ベルトを巻いて申し訳程度に主張したおしゃれは俺だけのもの。
全くなんとも、うすら寒いサービスだぜ!
「なあ、お前ら。これからどこに向かうか決めてんのか?」
「そうね……とりあえず帰宅していいかな? 分かってるかもしれないけど、この国に私たち住んでるんだ♪」
アイミーとトリゴはコナンチャム在住らしい。
ベレパタとコナンチャムの国境近辺にたむろしてたし、この辺の人間とは思っていたさ。
まあ、そうとなれば現地に詳しいアイミーたちを上手くヨイショ。
あとはコツコツ奴隷キャラから脱却していけば当面は十分だろう。
(まあコイツらにとってキャラバンとやらが、どこまで本気か知らんが)
アイミーたちの行動圏は狭い。
なにしろアイミーがパイナッポを召喚する以外に乗り物を持ち合わせない俺たちだ。
キャンピングカーは響きがオフロードっぽいだけで別にオフロードじゃあない。
国境付近まで三時間ほどだったけど、その七割近くは河原を無理やり走る無謀に似たガタつきがヤバかったのだ。
幸いコナンチャム国内はせいぜい砂利道。
道は広々していて、車道らしき舗装された道まであった。
『カズキ。召喚に長けた者は道路すら召喚可能となります。道路召喚までのトレーニング例を案内してよろしいですか?』
「いらね~~~~~」
というか、よくそんな例を案内出来るまで魔法を調べたよな。
奈落システムの生みの親、恐るべし。
あるいはレイブの情報ネットワークが成せるワザだ。
「あるじ、ちょっと頼みがあるニョニョ」
「なんだ、珍しいなヴリトラの癖に」
話し掛けてきたかと思ったらヴリトラのヤツ、急にひそひそ声にトーンを落としてきた。
「(あの白服のガキ、怪しいニョニョ)」
「(怪しい……ああ、存在値な。そんなの本人次第だ、しゃあないだろ)」
「(《蔓調》を使いやしょニョニョ)」
「(あれは変装とか擬態とかを見破る、無駄な術だ。あの子にやる意味がない)」
するとヴリトラが「クックッ」といつものニョニョ口調でない不穏な笑い方をしてきた。
「(どうニョニョね~。ヴリの目が確かなら、あの子は大精霊ニョニョ)」
「(は、なんだそのダイセイレイって)」
大精霊。
ヴリトラによると、すごい精霊らしい。
「まんまかよ!」
「あるじ、声が大きいニョニョ」
俺は仮にアイミーが大精霊だろうが激精霊だろうが、興味がなかった。
そりゃアイツは俺よりは強いんだろう。
でも、弟子入りするならやっぱり師匠と同じくらい強くなくちゃな。
(存在値8千億。伊達じゃないはず、だからこそ名が知られてるはずだ)
師匠だって俺が知らないだけで、そこそこな大国であるコナンチャムなら特徴を告げるだけでワアキャア言われるんだろう。
それはつまり、それくらい有名なら存在値も半端ない可能性は低くないってことだ。
「奴隷~。そろそろ出発しよ♪」
「はいはいはい、アイミー姫様」
とにもかくにも俺たちはアイミーが召喚したパイナッポに乗り込んだ。
そしてアイミーたちの住まいがある町へと出発したのだ。
――永遠0年、コナンチャム国ルエップ城下町
「到着、到着♪」
「うん、アイミー。そうだね♪」
トリゴのテンプレ相づち、未だにイラッとするのは俺だけだろうか?
とりあえず俺が真っ先にパイナッポから降り、続いてアイミーたちが降りた。
すると、プシュ、と缶ジュースを開けたみたいな音がしてパイナッポは煙となりアイミーに還元した。
「へえ、城なんてあるんだな」
両脇には商店や銀行、高級住宅などが雑多に入り乱れている。
そして奥には立派な城。
強いて言うなら、おとぎの国にありそうなメルヘンチック。
案外、アイミーたちが王子と王女なのではというほどお似合いな城だ。
「ルエップは私たちがいた世界を思い出すから、二人ともずっと住んでるよ♪」
「ずっとって、何年だ?」
「『精霊の加護において命ず。光は光。光は光かつ光、以下省略』。ライトライト《光のどけき……」
「すみませんでしたァーっ」
思わず秒でジャンピング土下座。
聞いちゃダメな質問かなと思っての確信犯だったから、自分でも意外なくらいすぐジャンプしたぞ。
「ねえ奴隷、ところで安息地ワープのアイテム知ってるかな♪」
「知らん」
「えーん、トリゴぉ♪」
「大丈夫かい、アイミー♪」
くっ、実際に強いアイミーがいるだけに何もツッコメねえ自分に腹立つ。
(いや、意外とツッコミ頑張ってきてるよな俺)
って、そんなんどうでもええ。
なんで存在値を高める手間でツッコミ値を高めるんだよ。おかしいぞ俺。
「安息地と任意の一点とを結ぶ、究極のご都合主義《中つ扉》。知ってるかな♪」
中つ扉。
昔から冥界では実は何かと色々起きやすいらしい安息地。
そこで、とある変態発明家が変態の発想で素材を召喚し加工、召喚し加工を延々と繰り返して完成させたヤバいアイテム。
それがそれなのだそうな。
「じゃあ、それがありゃわざわざ大陸の真ん中に行かずとも……」
「甘いよ奴隷くん。アイミー、キミに説明してほしいな♪」
「うん。あのね、安息地で開催されてる最強決定ロワイヤルで優勝しないと《中つ扉》は使えないよ♪」
気になる言い回しだ。
もらえないじゃなく、使えない。
最強決定ロワイヤルとかいう厄介なイベントで優勝しないと権利が得られないというなら、多少は不便に違いない。
「ならよ、これから安息地に直行するか?」
「無理だよ♪」
「なんでだよ」
「存在値が今の私たちじゃ、まずボロ負けだ・か・ら♪」
存在値10万。――それが安息地イベントへの最低ラインと言われているらしい。
(まあ俺は何か方法を編み出すとして、安定しないアイミーと素で弱そうなトリゴか)
それか、うまく交渉して強い助っ人を雇う。
まあ、カネでという単純なパターンになりにくいのは冥界の面倒なところだ。
だけどたとえば存在値を爆発的に上げる方法など実利に直結することに大抵は誰もが弱い。
それもまた冥界なのだ。
「さて、ぼちぼちマイハウスにゴーするよ♪」
「奴隷くんも泊まれるから安心だね♪」
「俺は奴隷と認めたわけじゃねえっ」
アイミーとトリゴが先導し、彼らの住まいに向かう。
すると先ほどのヴリトラの言葉が頭をよぎった。
「(《蔓調》を使いやしょニョニョ)」
使うならそれなりに隙だらけの今がチャンスだった。
そして、迷わず俺は左腕――ヴリトラが封印された腕――をアイミーにこっそり向けた。
「(蛇印術《蔓調》)」
ぽうっ、とオーロラみたいな虹色の揺らぎがアイミーを通過した。
(こ、これは……)
俺は正直、ビビった。
揺らぎが正確に捉えたアイミーの本当の姿。
それは俺の奈落システムにデータとして取り込まれ、レイブの疑似人形に一時的に置き換わった。
だが怖すぎた。
(大精霊どころか、ラスボスじゃねえか)
魔神を思わせる、がっしりした胴体。
鋼を思わせる強靭な翼。
そもそも首が三つ。
あと爪が鋭くて痛そうとか、トゲ出そうな穴あるとか細かいところまで死角がない。
「(魔神なのかな、あのお嬢さんは)」
「(大精霊ニョニョ。これではっきりしたニョニョ)」
どこがだよ。
むしろ魔神とはっきりしかけてるがとは思った。
だが画面には「光の大精霊」って出てる。
信じがたいが本当に大精霊のようだ。
「きらりーん。ここがマイハウス♪」
「アイミー、正確にはアワーハウスだね♪」
着いた先は、城下町の路地裏に入った突き当たりというヘンテコな立地の屋敷だ。
でも屋敷だから、ちょっと得した気分。
「あららのら。お帰りなっさいましお坊っちゃま、お嬢ちゃま」
「ただいまセバスチン♪」
「帰ったよセバスチン♪」
セバスチンと呼ばれた中年くらいの男。
顔だけで全身守れる盾になりそうなくらい顔がデカい執事だ。
そしてセバスチンは挨拶されてか、そのデカい顔をポッと赤らめた。
名前を呼ばれると照れるのだろうか?
「はじめましてセバスチン」
「なっんだキチャマは、無礼と知れい」
サーベルを突き付けられました。
おしまい。
「むっ、キチャマの左腕……」
「えっ。ああ、こ、これは、その」
「よく鍛えてある筋肉だが、左右のバランスに気を配ることだよ」
「はあ、どうもっす」
紋章の話かと覚悟したが、内容からすると筋肉の鍛えっぷりだったようだ。
良かった、筋肉大好きマンで。
あと筋肉に免じてか、サーベルも下ろしてもらえた。
「で、これからどうするんだっけ」
俺、最近はこればっかり言ってる気がする。
気のせいならいいけど。
そうじゃなかったらワンパターンバカだ。
筋肉バカのセバスチンを俺は笑えないということに、なりかねない。
いや、それならそれで何にも困らないけどな!
「強くなる方法。考えなきゃだけど、まずはお部屋にご案内♪」
「アイミーは女の子だから、奴隷くん用の客室……、……豚小屋の中はボクが案内するよ♪」
そういえば、会った時にはちゃんとカズキ呼びしてたトリゴ。
バカップルだからって、本当なんでもアリなのが時々やっぱり腹が立つ。
「別にちゃっちゃと3万まで上げて4~5倍にすりゃ良いんだろ。俺は存在値3万2000。しばらくはお前らを鍛えてやれるぜ?」
部屋なんていらない。
さっさと強くなって《中つ扉》だか《たんぽぽハガキ》だかを好きにゲットしに行けば良いのだ。
「奴隷。生意気♪」
「安息地は逃げない♪」
のんきだなと思い、俺は言ってやった。
「あのな、ロワイヤルったって、ここは確かに冥界だけど無期限なわけない。ならサクサク強くなんねえと《中つ扉》もクソもないぜ?」
いつかのようにクスクス笑い出すバカップル。
でも今回ばかりは俺が正論のはず。
多分、おそらく、きっとそのはずだ。
「奴隷くん♪」
「なんだよ」
「最強決定ロワイヤルは最強を決定するロワイヤルなんかじゃない。最強と決定しきった死神とのロワイヤルなんだ♪」
最強と決定しきった死神。
やけにゾクゾクさせてくれる響きだが、要はソイツがいる限りはロワイヤルは無期限開催らしいのだ。
「じゃあズバリ優勝するには死神退治なわけだな。だったら最低ラインじゃなく必須ライン。死神ぶち殺すのにどれだけ存在値がいるんだ?」
「えっ♪」
「聞きたいのかい♪」
必須ライン、存在値100万。
本当、コイツらってあれやこれやの騙し討ちが多すぎる。
作者による元ネタ解説
・コナンチャム
名探偵コナ○☆
・ヒューズ
停電すると飛ぶ。飛ぶと停電する☆
・地方自治体
地方公共団体☆
・バカップル
アベックだとしても死語。
流行語を生み出すチャンスかも☆
・重装備
個人的にはアイアンメイルみたいなイメージだけど、本来は登山とかでしっかり装備を固めてる現実の話☆
・草食系
肉食系と同じく2000年代の造語。
草食系男子は2009年流行語大賞トップ10入り☆
・小悪魔的
トレンディドラマとかに毒されたのが最初だった記憶がある☆
・急にひそひそ声にトーンを落とす
これはこれでドラマあるある☆
・蔓調
弓道に弦調べという動作があり、読みを拝借いたした☆
・伊達じゃない
ニューガンダ○は伊達じゃない☆
・半端ない
大○マジはんぱないって☆
・光のどけき……
しづ心なく花の散るらむ☆
・秒で
ユーキャ○よりヤングな流行語大賞にはランクインしたっぽい。あげみざわ~☆
・ジャンピング土下座
ネットによると元ネタに諸説あり☆
・任意の一点
数学☆
・ご都合主義
なろうテンプレ☆
・中つ扉
中つ国。トールキ○。指輪物○。ロード・オブ・ザ・リン○☆
・ロワイヤル
映画ならバトル・ロワイア○。マンガなら王泥棒JIN○のキールロワイヤ○☆
・オーロラ
ディズニ○なら『眠れる森の美○』。
アラスカに出るのもオーロラ☆
・首が三つ
キングギド○かケルベロス☆
・セバスチン
セバスチャンは架空の執事の名前の定番☆