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冥府建国記  作者: 桐谷瑞浪
プロローグ
3/46

2骨! オーバーロード

 ――永遠0年、ベレパタ国


 なんだかんだで一年が過ぎた。

 一年と言っても俺は相変わらず16歳。

 服装だけは大幅に変わった。

 まあ必要からというより気分からだ。

 いつしか俺は学生服ではなく軽鎧――異世界モノにありがちなベタな体装備――に身を包むようになった。


 まあ現世じゃないから気分もへったくれもないが。

 だって俺が転生したのは冥界。

 冥界っていうのは死者の世界だ。


(永遠に年は取らない。これ以上、死ぬこともない)


 赤々とした川。黒々したグロテスクな造形の建築物。緑色の空。

 そんな冥界にはキタラって言う名前があるらしい。

 らしい、って言うのはそんなに誰もキタラなんて名前で呼ばないんだ。

 冥界とか、「このあの世」とか死後の世界と分かればなんでも構わないって風潮。


 死後の世界。


 聞くにつけ話すにつけ俺はいわゆる、あの世にいるに違いなかった。


(子どもは生めないし、船は溶けて使い物にならない)


 俺はそこでシステムを呼び出した。


「レイブ、ステータスを頼む」

『了解です、カズキ』


 するとまずは俺の簡易ステータスが現れた。


「「「

 甲斐野カズキ

 存在値 3万2000

 スキル 【転生の呪い】

 」」」


 これだけが簡易ステータス。

 詳細ステータスもあるにはあるが、身長、体重、装備であり今はそれほど意味がない。

 そして唯一のスキル【転生の呪い】。

 ヒトが持つ生殖機能は転生の際の「1%」に含まれていたらしい。そして【転生の呪い】はヘルプを読む限り、その1%の欠落を指していた。

 他の呪いはよく知らない。ヘルプには詳しく書かれていなかったからだ。

 ただ、言えることはあった。

 奈落システムでここに転生してきた人間はやっぱり子どもを作れない。


 そして、キタラの住民は全てが転生者だった。


「ホウ、ホッホウ。今日もごうがんかね少年」


 ガイコツが来た。

 そして今のはそのガイコツの言葉だ。


「傲岸に見えるなら、あるいはそうです」

「利口だ少年。さァ、あの赤い川を見たまえ」


 いつものことだが、俺は町を流れる赤い川に目をやった。

 海に出たいと今日も誰かが作った船が、ブシュウウと煙を立てながら溶けていく。

 永遠に涸れないマグマだ。木製だったらもちろんそうなる。

 余談だが先日なんて、オリハルコン製のイカダが砂糖か塩みたいにすっと溶けていった。


「まだ傲岸かね」

「あるいはそうです」

「利口だ少年。さァ、剣を構えたまえ」


 言ったそばからガイコツは俺にフルーレを構えた。

 ガイコツ。

 このガイコツは外套はまとっていない。

 それに鎌も持っていない。


 あの日、俺を殺したガイコツとは別人なのだ。


 しかしその代わり、そのガイコツは翡翠色のバンダナを頭に巻いた。

 それに海賊みたいにボーダー、つまりシマシマの服を着ていた。

 かと思えば、ボロボロでぎのスラックスを身に付けていた。

 フルーレを普段は左腰に帯びながら。

 フルーレ。――普通ならとても実戦に向かない細い剣だ。

 せいぜい、この世――俺が生きてた世界。県立M高校があった、あの世界――ならフェンシングに使う程度。

 それがフルーレという極細剣だ。


「今日も気が乗りません」

「ホッホウ、それもまた傲岸。素晴らしい」

「はあ」


 ガイコツには名前があるらしいが、俺は知らない。

 俺が暮らしているこの町、――灰カビの町モーレに暮らす人々も知らないらしい。

 だから俺はとりあえず、師匠と呼ぶことにしていた。

 俺の命を刈り取ったガイコツとはなんとなく違っている気がした。

 なんとなく、人間に優しいガイコツのような気がしたから俺はこの人を師匠と慕った。


 ならばなぜ、今日も気が乗らないのか。


 それは話すと長くなるのだが……。


「ベーコン召喚!」


 師匠は現世にもあった薄い肉のきれ、ベーコンを召喚した。


 食物召喚。一見すると有意義だが、ここでは無意味だ。

 召喚魔法。一見すると有意義だが、ここでは基本的に無意味だ。

 魔法。一見すると有意義だが、ここでは一定の範疇においては常に無意味だ。


「はむっ。うむうむ。あっ、消化器がないからすり抜けちゃう」

「いつものことです」

「ぬううん、ベーコン還元」


 師匠の肋骨を通過してボーダーシャツからポロポロ落ちたベーコンのカスはふわり、と光になり師匠に戻っていく。


「傲岸ですね、師匠」

「なっはは、そりゃそうだとも。我が輩は剣にも魔法にも傲岸を極めた冥界一の剣士……その名も」

「そっ、その名も?」


 一応、期待する格好で聞いてはみる。

 お約束、というヤツだ。

 だけどお約束とはつまり、いつものパターンがあるわけで……。


「なんでしたっけ」


 ズコーッ。

 盛大にこける俺、そして近くにいた住人の皆さん。

 なぜだか満足そうにカタカタと爆笑する師匠。

 これが師匠のお約束。

 どんな事があっても名前だけは絶対に名乗らないのが師匠という人間、もといガイコツなのだ。


(だけど、それでも俺は)


 普通なら愉快な気持ちになって師匠との稽古に身を入れるタイミングなんだろう。

 だけど俺はどうしても、そんな気になれなかった。

 気が乗らない。

 俺がどうしても剣の修行をする気がないその理由をそろそろ説明していこうと思う。


 ――――

 ――


 転生したばかりの頃に話は遡る。


「どこなんだよ、ココは……」


 キタラという世界をさっきいちいち説明したから分かるだけで、説明されてない俺はそこがどこだか当然、知らなかった。

 赤々とした川。黒々したグロテスクな造形の建築物。緑色の空。

 その何もかもをもってしても、転生したのかとはまだしっくり来ない俺がいた。


『システム起動完了。システムID、0VV-T89Q。これよりユーザー登録ステージにユーザーを転送します』


 転生したばかりの俺、再びどこかへ。


「うわっ、と」


 ちょっとだけ空中に投げ出され、そのまま落下して俺は尻餅をついた。


 真っ白な空間。

 そこにタブレット端末みたいなのが無数に浮かび、俺を中心にゆったりとネジを締める向きに回転していた。


『ユーザー登録モード。ユーザー、あなた様の個人情報は全て収集し登録済みです。甲斐野カズキ、16歳独身、男性。青森県仙台市○○町△△在住。本籍は東京都目黒区☆☆。血液型A型、Rhプラス。身長168センチ、体重57キロ。そして、……』


 現世でも聞いた声のアナウンスは俺の意思とは無関係に次々にそうしたプロフィールを勝手に読み上げた。


『さて残る内、まず呼び名を教えてください』

「呼び名かあ。まあカズキでいいよ」

『マアカズキ。こちらを呼び名として登録して……』

「おっ、ちょっ、おっちょこちょいさん。カズキ。カズキにしてくれ」


 俺はそれから、空き物件のうち住みたい家を探す手続きをした。

 それ以上は任意での登録みたいだったから当然、面倒な俺はキャンセルした。当たり前である。


「メニュー画面の見た目とか、後からでも大丈夫だよな?」

『そうです、カズキ。あなた様が意識を集中することで、私ことシステムID0VV-T89Qはいつでもあなた様のためにあらゆるサービスを提供致します』


 親切だが、俺はふと「アンタの名前……」と口にした。


『私の名前』

「おう。それは設定変更が効かないのか?」

『そうです、カズキ。システム上は不可能です。しかし私に内臓されている予備データ領域を行使することにより、私が私の認識記号たるシステムIDに対して音声出力を置き換え、呼び名であるかのように挙動する見かけのマクロならば直ちに組むことは可能です』

「日本語でおk」


 その後、なんだかんだでアナウンスお姉さんの呼び名を「レイブ」とした俺。

 IDとやらが0VVなんとかだから、頭二つでレイブイ。ちとダサいから一文字消してレイブ。

 ひねくれたシステムだったらこう簡単にはいかなかっただろう。

 でもまあ、死が不可避だった以外は今のところ親切丁寧な奈落システムだと俺は思った。


『なおユーザー登録モードでしかこちらのステージには来られず、各項目の設定自体は後からでも変更可能ですが本ステージに来ることは出来ません。外界での手続きとなる以上、時間経過の発生並びに……』

「カットだレイブ。もう脱出させてくれ」

『了解です、カズキ。なお、何らかの理由で本ステージを利用する必要が発生した場合には管理者にお問い合わせください』


 そして俺は設定関連ほにゃららステージをようやく抜け出た。


「うわあ、オーバーロードが来たぞ」

「いやあああ」


 てっきり俺のことかと思ったが、叫んでる人たちの視線を追うと違っていた。


(なんだアレ。詰んだ……)


 甲殻武装とでも呼ぶべき、やたらゴツゴツしたフォルムの堅そうな巨人。

 人間でいうところの脳筋を数十倍パンプアップさせても、そうはならないと思えるいかつい肩、腕、胸、脚。

 オーバーロードと人が呼ぶにふさわしい威圧感、存在感、絶望感。


「ホッホウ。やれやれ、こんな辺境に魔神が来るなんて世も末だ」


 まだ誰か知らない俺は、脇にしれっといたそのガイコツ剣士を思い切り腕で突き飛ばした。


「トホッホホーン」


 情けない声でふわりと曲線を描き、ガイコツは宙を舞った。


「ふう。……ん?」


 曲線を描き、ガイコツは宙を舞った。


「……ん?」


 曲線を描き、


「な、なんで……」


 俺は真っ直ぐ、地面に対して水平にガイコツを突き飛ばした。


「傲岸だね、少年」


 ガイコツの声がして、俺は向きを変えた。


 オーバーロード。

 誰も勝てるわけのない巨大な筋肉怪物。

 その左肩にベンチなどあったか。

 ガイコツはまるで公園にいるかのようにそこに座し。

 休憩しに来たとのびのびしているかのよう。

 どんなに暴れ怪物でも、振動などないかのよう。


 自然に不自然。

 ガイコツは重力を完全に無視していた。


 そもそも、このガイコツは最終的には俺が突き出した腕とは真逆に飛んだということだ。

 ごく自然に、ごく不自然に吹っ飛んだ曲線の軌道を更にヤツはねじ曲げたのだ。


(いや、そもそも曲線である時点でだった)


 俺が突っかかることもオーバーロードが暴れまわることも、ガイコツはまるで余興のように楽しんでいたのだ。


「オーバーロードはどっちなんだ……」

「ホッホウ。お遊びはこれくらいにしましょうかねえ」


 ガイコツはフルーレを抜いた。

 そして戦いは終わった。


「……は?」


 戦いは終わった。

 居合いだったのかそれすら分からないほど、あるいは怪物の生死や時間の実在すら無視した結果なのか。


 オーバーロードは消滅した。


 ガイコツは今度は重力を無視しない様子を楽しむかのように、ふわふわと落下していった。

 だがその手には、さっきまでは確実に抜いていなかったフルーレが今も握られていた。


「強い」


 俺はそれだけ呟いた。

 そして、衝動に動かされて俺は師匠と呼ぶことになるフルーレ使いのガイコツに向かって走り出していた。


 ――

 ――――


 えっ。

 これの何が理由かって?

 いやいや、これが九割ほど的確な説明なのだが。


 そうだな、強いて付け加えるなら存在値は同意すれば互いに知ることが出来る。

 師匠の存在値は8千億。

 存在値はレベルみたいなモノ。つまり高ければ強い。

 師匠の存在値は俺の約一千万倍。

 俺の剣が通じるわけもなく、1年という月日は俺から修行の気力を奪い去ったというわけだ。


「ベーコン召喚! はむっ」


 食物召喚が無意味なのは、ほとんど存在値が理由だ。

 ところで、存在値は修行によって高まる。

 そのおもな方法は剣術のように近接戦闘技能を高めるか、魔法を習熟することだ。

 近接戦闘でも弓など遠隔戦闘でも、そして魔法戦闘でも行動することで存在値は少し減る。

 言ってみればレベルでもある存在値は体力や魔力も兼ねているのだ。

 更に、存在値には最大値らしき値がある。

 これはあらゆる技能の修行や実践で高まり、休息や回復アイテムで限界近くまで回復する値だ。

 らしき、なのは体調などで完全には安定しないのである。


 しかし、である。


 食物召喚は習熟が簡単な代わりに存在値の上がり幅が極めて低い。どんなに食物召喚を頑張っても強くはなれないということだ。

 強くなりたいだけなら毎日筋トレをした方がマシとすら言われている。


「少年。ベーコン召喚、オヌシもどうかね?」

「いや、そういうの大丈夫です」


 強くなりたいなら、強くなれる自分なりの最高率な技能を習得し、習熟し、存在値の最大値らしき値を上げていかないとならないのだ。

 強くなりたいなら、食物召喚は例外なく簡単すぎるため、存在値がほぼ全ての価値である冥界では無意味ということなのだ。

作者による元ネタ解説

・オーバーロード

ライトノベルの中では有名になれた、丸山くがね先生の作品のタイトル☆

・ベレパタ国

手抜き甚だしいこのクソファンタジーの第二話において最も苦労したネーミング。

四文字、検索して被らない→ちょっとした苦行☆

・軽鎧

作者が初めてこの言い回しを見たのはロマンシング・サ・ガか何かだったような☆

・キタラ

「来たら?」でもあるが、作者の地元では「来たでしょ~」の意味合いで「ら~」部分を高音で発して低温に下げる方言が存在☆

・存在値

センエースってキャラが出てくる他作者様のネット小説からの無断パクり。

それでも戦闘力と区別せず定義だけは細かく再設定した、いぶし銀のパクりだよ☆

・傲岸かね

元ネタはないけど、色んな創作物のキャラが言ってそう。誤解の源だけど有名人じゃないから使ったった☆

・翡翠色のバンダナ

要は緑色のバンダナ。

別に元ネタではないけど某ワンピー○のロロノア・ゾ○をなぜだか思い出すよね☆

・海賊みたいなボーダー

もう海賊というだけで某ワンピー○を思い出すから元ネタだね☆

ボーダーという言葉で、センター試験より『ウォ○リーを探せ』を思い出してしまう生活をしているよ☆

・師匠

こちらはワンピー○の○ルックと少し被っちゃったかな。でも強さを最強クラスにしたから勘弁な☆

・ベーコン召喚!

元ネタはないよ。現実にスーパーとかコンビニとかにある、あのベーコンだよ☆

・どこなんだよ、ココは……

『PRECIOUS』というRPGツクール2000製のフリーゲームで主人公ショウが言った言葉だよ。

PRECIOUSだけではググれなかったら、「VIPRPG」も足してAND検索してみて☆

・マクロ

プログラミングにハマっていた時代に学んだ言葉だよ。でもマクロ文は一切書けない☆

・日本語でおk

匿名掲示板『2ちゃんねる』内であるあるの言い回しだよ。情報過多やコミュ障ユーザーに振り回される書き込み戦士たち。

『5ちゃんねる』になる前からこの言い方は使われていた気がするよ☆

・レイブ

RAVEってマンガが週間少年サンデーでかつて連載され、無事に完結した。

フェアリー・テイルの人のマンガだよ☆

・管理者にお問い合わせください

パソコンがいよいよポンコツになってくると割とよく見るよね☆

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