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第7話『邂逅まであと、』


皆様、ごきげんよう。レオです。

いま僕の目の前には腹を見せて寝こけているフェンリルの子供がおります。


警戒心とか野生はどこに行ってしまわれたのでしょうか。

エマがフェンリルのお腹をぷにぷにしていても起きる気配が一切ありません。


「えへへ~可愛いね、シア!」

「そうね」


エマと一緒になってシアまでフェンリルのお腹を撫で始めました。

ああ、グルグル…と気持ちよさそうに喉まで鳴って…。


「…フェンリルがいるってことは他の動物もいる?」

「んんーいるんじゃないかなー。少なくとも生き物が生息できる地ってことでしょ?」


フェンリルを自分の膝に乗せながらエマが相槌を打つ。

フェンリルはまだ起きない。


「ねえエマ。朝になったらこの子が出てきた茂みのほうへ進んでみる?」

「そーしよっか!他に指標もないし」


僕の提案にエマが頷いた。

話は纏まったみたいなのでエマとシアがフェンリルをかまっているのを横目に、テントの中に寝床を整えるために向かう。僕とエマは布1枚でも寝れるけどシアにそんな粗末な寝床は許されない。その辺にある柔らかく乾燥した草をかき集めふかふかになったところで布をかければ簡易的なベッドの出来上がりだ。


ベッドの出来に満足しながら、エマとシアにベッドができたことを告げる。


「そろそろ寝ますよ。ランプの油ももったいないですし」

「ええ~もう少し起きていようよ。油無くなったら魔法で火起こせばいいし」

「誰も適正持ってないから消費魔力が激しいでしょうが。こんな森の真ん中で魔力枯渇して倒れるのだけは勘弁してよ」

「ぶ~~~~~」

「ぶーたれてもダメなものはダメです」


頬を膨らませて不満を訴えてくるエマを無視する。

こうして不満を訴えてくるが本気で言ってるわけではないことを知っている。エマはそこまで考えなしのバカではない。…たぶん。


「…ごめんなさい。わたくしに魔法の適性があれば…」


シアがぽつりと呟く。


「…!シアが気にすること無いよ!!」

「そうですよ。それにシアは全部の魔法を同じくらい優秀に扱えるじゃないですか」

「…それでも属性持ちの方々には敵わないわ」


そう。シアには魔法の適性が存在しない。

この世界の住人は基本的に各々属性を1つは持っている。

もちろん適性を持っていなくても他の属性の魔法を使うことはできるが魔力の消費が激しい。

たとえば僕は風属性なので、風を使ってティーカップを運ぶ…なんて簡単な魔法は無詠唱で使える上に魔力の消費はほとんどない。しかし他の属性である火を起こすなんてのは、できるにはできるが魔力の消費が多いので軽々と連発はできない。


シアにはその属性がない。

シアの瞳が無色(シルバー)なのも属性が無いからだった。

そのためシアが魔法を使うときは常人以上の魔力を消費する。しかしシアはそれを努力でカバーしてきた。疲れにくくするための体力作りから、精密な魔力コントロール。並々ならぬ努力をして、属性を持たないながらすべての属性魔法を平均以上に扱えるようになったのだ。


「己の属性が無いことは受け入れているわ。過剰に卑屈になるわけじゃないけど、それでも時々思うの。自分に属性があったらもっといろんな人を助けられたのでは、認められたのでは…と」

「シア…」

「学生の頃だっていろんな人から言われたわ」


『適正無しでこれほどできるなら属性があったらさぞかし…』

『ああ、もったいない…』

『王妃ともなる方が無属性など』

『いざという時に殿下をお守りできるのかしら』



『光属性のアンナ様のほうがふさわしいのでは?』



貴族たちの間で飽きるほどに聞いた話。

多くの人に好かれるシアではあるが、全ての人に好かれるわけではない。

中にはシアが適正無しなのをいいことに王妃の座にふさわしくないと陰口を言う者もいた。


ロマノヴァ公爵家に連なるものとはいえ所詮僕らは従者。貴族のご子息、ご息女たちに反論などできるはずも無く。いつだって悔しさを胸に、愛想笑いだけを張り付けていた。


「…まあ、今は平民ですもの。もう過去の話ですね」


顔を上げたシアにはもう暗さはない。

本当にシアの中では過去のことに、もう心に影を差すものではなくなっているのだ。


「シアは公爵令嬢じゃなくなってから随分表情が明るくなったよね!」

「そうかしら?」

「そうだね。もともと身内には結構いたずらな表情を見せてたけど…なんでしょう、我慢をしていないというか…」

「それはあるかもしれないわね。公爵令嬢、王妃候補だった頃はどこでだれが見ているかわからないから、平民と同じひざ丈のスカートにブーツで走り回ったり、野宿なんてとてもじゃないけどできなかったわね」

「ずいぶんと楽しんでいるようで」

「ええ。今すっごく楽しいわ。…公爵令嬢が嫌だったわけじゃないのよ?」


ただ、とフェンリルを撫でながらシアは少し遠くを――在りし日を思い出すかのように呟く。


「誇りはあったし、自分の将来に不満はなかったわ。大人になってエリアス様と結婚して、王妃になって、エリアス様と共に臣下と民を守り、国をいまより良くするのだと信じて疑わなかったわ」

「…そうだね。私たちもそんなシアのお世話係として城に行くんだって思ってた」

「何故アンナ様をいじめたなんて噂が流れたのかは知らないけど…でもそうね。エリアス様がアンナ様を選んだというならそれでいいのよ。二心を抱いた王など民に示しが尽きませんから」

「シアはそれでよかったの?」

「ええ、よかったわ。だって夫が自分以外を愛しているのを目の前で見るなんてきっと耐えられない。…たとえそこに元から恋愛感情が無かったのだとしても、信頼関係までなくしまったらわたくしは耐えられないわ」


白銀の瞳が細められる。

少しだけ寂しげに見えたのは僕の気のせいなのだろうか。


「―――はい!しんみりお終い!!」


パァン!!と勢いよくエマが手を鳴らす。

予期していなかったのでシアも僕もビクリ!と大きく肩を跳ねさせてしまった。

ちなみにフェンリルはまだ寝ていた。大物だ。


「シア、レオ!今日は3人カワノジで寝よう!」

「あら、いいわね」

「よくないよ!?」

「え、なんで???」

「逆に何で????」

「レオは私とエマと寝るのは嫌?」

「嫌かどうか以前に僕男ですよ!?しかも18歳の!」


2人そろって可愛く首を傾けてもダメなものはダメです。

健全な(前世男子高校生の魂を持つ)男子として女子と共に寝るのは倫理的にNGです。

しかも方や姉。


「え~い!問答無用っ!!」

「えーい」

「え!?はあ!!??シアまで!!!」


ガシッ!!と右腕にエマが、左腕にシアが腕を絡ませてくる。


「振りほどけない!!!身体強化(こんなこと)に魔力を使うな!!!」

「よいではないか~よいではないか~」

「ないか~」


ふぇぇ、(腕力には)勝てなかったよ…。

そんなわけで僕、エマ、シアの順で並んで寝ることになりました…。

クソ…ご丁寧に手足縛りやがって…しかも解けないように&血が止まらないように魔法までかけやがって…。

なんて思いながらも眠気には勝てず。

いつのまにか眠りの世界へと落ちていった。




―――そして、次に目が覚めた時には寂れた雰囲気のお城にいました。


いやなんで?



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