第6話『廻り始める運命、その事始め』
馬車、飛竜、船を乗り継ぐこと1週間。
世界の最果て。地図の一番端。
エクスピアシオン・フォレ―――償いの森と呼ばれる大罪人の流刑地。
「降りろ」
ここまで運んできた国の使者に言われレイネシア、エマ、レオの3人は砂浜へと降り立った。
ここまでの礼を告げると使者たちはさっさと来た道を引き返していった。
「帰るのはや~」
「仕方ないよエマ。誰だって自分の命は惜しいでしょ」
「エマ、レオ。この森すっごく薄暗いわ探検しましょう。ゴーストとかいるかしら」
「シア、もしかしてメンタル金剛石とかでできてたりしない???」
え??うちのシアメンタル強すぎ…?
こんなおどろおどろしい森を前にして探検しようとか言っちゃうの?
「とりあえず何処か雨風しのげそうな場所探してみましょう」
「そうしよっか。シア、絶対私とレオの間にいてね!」
「ええ、わかったわ。よろしくね」
レオ、シア、私の並びで森の中に入る。
何があっても大丈夫なようにレオはサーベルを、私はショートソードとナイフを数本服に仕込んである。遠距離用として魔力を編んでおくのも忘れない。
ちなみに私の属性は水でレオは風。この世界で属性はそれぞれ本人の目の色と同じなので見れば相手の属性がわかるようになっている
整備されていない、草が生い茂っている獣道をかき分け進む。
ちらりとシアを見るが楽しそうにサクサク歩いている。
(まあ、生まれた時から王妃になるため蝶よ花よと大切に育てられてきたから、こんな荒れた道を歩くなんて生まれて初めてだもんね…)
そんなことを考えながら、休憩を挟みつつ2時間ほど歩いた。
今は適当な切り株に腰かけて持ってきた水を3人で分け合いながら飲んでいる。
「なんもないんですが…」
「どこもかしこも同じ道に見える…」
「歩きながら付けた印を見る限り、同じ場所を堂々巡りしているわけではないけども…」
「歩いても歩いても不気味な草木しかないとか…」
「廃屋どころか生き物の気配すらないね」
「なら今日はの野宿かしら?楽しみね」
むん!とはりきって力こぶを見せつけるポーズを見せてくるシアはとても可愛い。
可愛いが…
「シアなんか思った以上に元気だよね?」
「ええそうね」
「…寂しかったり、悲しかったりしないんですか?」
レオが恐る恐る、といったようにシアを見つめて聞く。
「思ったより平気ね。レオとエマがいるからかしら」
「「…ぅぐ…(キュン!!!!)」」
私とレオのハートにクリティカルヒット!!!!!!
こうかは ばつぐん だ!!!!!!!!
だって!!私とレオがいるからって!!!!最高!!私たちのお嬢様最高!!!
――なんて、心の中であらぶっているが顔にはおくびにも出さない。
従者ですから。表情を取り繕うなんて朝飯前ですよ。
「家族との別れはつらかったけど、決まってしまったことはしょうがないし今のところすぐ死ぬってわけでもなさそうだから生まれて初めての悪路を徒歩と野宿を楽しもうと思うわ」
「やっぱり女性ってたくましいね」
「シアのメンタルが特別強いんだと思う」
「王妃になるためには強靭なメンタル必要だったからかしらね」
そういって悪戯っぽくウィンクするシアはめっちゃ可愛い。
ノーベル可愛い賞あげちゃう。むしろ殿堂入り。
「さ、ただでさえ暗いのだからさっさと準備しちゃいましょう」
「おっけー!私は水沸かしながらご飯準備する~」
「じゃあ僕はテントっぽいものでも設営してきます」
「わたくしは…そうねエマの手伝いをするわ」
「うん!野菜は任せた!!」
屋敷を出る時に数日分の食料や着替えは持ってきている。
飲料水とかは魔法があるからあんまり心配していない。いざとなれば泥水も浄化もできるし。
いや~魔法ってホントに便利だね!!
なんてことを考えているうちにレオは風魔法を使ってサクサクとテント設営していく。
火を起こして、野菜を剥いて鍋にぶち込む。
どんなものも適当に鍋に入れてカレールウを入れればおいしくなるからすごいよね。
人類のおいしいものを食べるための執念とか努力ってすごいよね。異世界なのにルウがあるんだもん。
そろそろいい感じかな?
なんて思っていると
――――ガサッ
茂みのほうから音。
即座に戦闘態勢をとる。もちろんシアを背に守りながら。
レオのほうに目を向けると、レオは頷きをひとつ。
ショートソードを片手に構えながら、音のした方へと近づいていく。
そして勢いよく覗くと。
「キュウゥ…」
そこにいたのは小さなフェンリルだった。
白銀の毛並みを泥と血で汚し、今にも死んでしまいそうなほど弱っている。
「まあ大変」
「!シア、むやみに近づいちゃダメ…」
「大丈夫、平気よ」
そっとフェンリルに近寄るシア。
フェンリルを怖がらせないようにか微笑みながら、少し距離を置いたところでシアが話しかける。
「大丈夫、痛いことはしないわ。治すだけよ」
フェンリルはあっさりとシアの手へとすり寄った。
「いい子ね。手当てをした後にごはんもあるからね」
「グル…」
「エマ、レオ布と消毒液と、あとはこの子が食べれそうな物をお願い」
「「はい!」」
清潔な布を濡らしフェンリルの泥と血を拭っていく。
こびり付いてなかなか取れなかったけど何とか綺麗にしていくと足に噛みつかれたような傷跡があった。弱っている原因はこれだろう。純粋に血を流しすぎたのかな。
シアはテキパキと足に細く切った布を包帯のようにして巻いていく。
手当てが終わってから屋敷で取れたリンゴを与えると、気に入ったのかものすごい勢いで食べる。
「めっちゃいい食べっぷりですね」
「子供は食べるのが仕事みたいなもんだもんね~。てか子供ってことは、近くに親はいないのかな?」
「さっき見てきたけど近くに親らしきものどころか、生き物の気配すらなかったよ」
ううん、とレオと2人で悩む。
そんな私らの前でお腹一杯になったのかフェンリルがお腹を見せて寝始めた。
野生失うの早くない?大丈夫??
この時の私たちは知らなかった。
この野性を早々に失ったフェンリルが、私たちの――レイネシアの運命を大きく変えてしまう人と出会わせてくれるなんて。
まだ、私たちは知らなかった。