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掟、シテマス

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

「お疲れ様」

「貴女たち、道草するんじゃないわよ」


 シナンとサティに礼を言った同級生達は、旅団、魔導研究所へと帰っていった。

 一階に戻り、シナンの奢りでジュースをもらうアデル。


「頂きます! ……以前フランさんの【デラ爆炎】を見ましたが、サティさんの強化魔術の詠唱も素早くて、びっくりしました」


「へへん! ま、それほどでもないけどね。太古の昔の魔術師なんて、強化系一つ掛けるのに、長々と詠唱していたみたいよ。それが太古の昔に、魔術師が滅んだ理由の一つとも言われているけどね」

 サティはのけぞりながら鼻を高くする。


「でもアデル君もすごいわね。レベル二のゴーレムを倒しちゃうなんて。今のアデル君の頃のシナンなんて、ボロボロになりながらレベル一のゴーレムと戦っていたんだからね」


「そうなんですか!」

 今のシナンから想像も付かない話しにアデルの目は丸くなるが、ふと、肩を回しているシナンに気がつく。


「シナンさん、どうかしたんですか?」

「うん、ちょっと左肩を痛めたみたいだ。ひさしぶりに”技”を使ったからね」

「あ、ひょっとしてその技って、ゴーレムの顎にぶつけた《猪玉(いのししだま)》のことですか?」


「そう、でも僕のはナインさん程じゃ……ええっ!」

「ちょっと待ってアデル君! 君、《猪玉》を知っているの?」

 アデルの言葉に、思わず身を乗り出すシナンとサティ。


「え? よくは知りませんが、以前、僕が変な鍛錬をしていたとき、怒ったナインさんが僕に向かって”ぶつけて”きたんです。その時、僕は受け身もとれずに転がっていきましたけど、ハハ……」

 照れ笑いをするアデルの前で、思わず顔を見合わせる二人。


「アデル君、それ以外に《猪玉》について知っていることとか、気がついたことは?」

 シナンの問いに、天井を見上げ記憶をたどるアデル。


「ん~、あ! そう言えば……”技”が出る前ですか? ナインさんの左腕が一瞬消えたというか……揺れたというか……」

 アデルの口からたどたどしく言葉が出るにつれて、シナンの顔が徐々に険しくなる。


「アデル君、その《猪玉》について、僕ら以外の人に話したことは?」

「いえ、今、初めてお二人に話しましたけど……」

””フゥ~””と安堵の息を漏らす二人。


「あの? どうかしたんですか?」

「アデル君、今から話すことは冒険者学園では教えない、冒険者の間での一種の”おきて”みたいなモノだ。心して聞いて欲しい」


「は、はい!」

 険しい顔のシナンに、思わずアデルも姿勢を正す。


「旅団の団長さんやベテラン冒険者の方々は皆、必殺技を持っているんだ。逆を言えば、必殺技を持っていない冒険者は、より高みへ上れないと言ってもいい」

「は、はい!」


「そう言った方々は、血のにじむ努力や、数多くの戦場で生き残ってその技を編み出したんだ。そうして生まれた必殺技は、その人の命、魂と言ってもいい」

「はい!」


「その命とも言える必殺技を、僕ら格下の人間が本人の前はもとより、陰であれこれ言うことは、最大の禁忌(タブー)とされているんだ」

「……禁忌」


「そう、もし、その言葉、陰口が本人の耳に入ろうものなら……」

「……」


「”決闘”を申し込んだと、同じ意味になるんだ!」

「えぇっ!」

 叫び声を上げ、アデルの顔から血の気がひいてゆく。


「冒険者は騎士様ではない。護るのは仲間の命、そして自分の命だ。その命とも言える必殺技を侮辱されたとあっては、ただではすまない。そういうことさ」 


 熱弁を振るうシナンに向かって、サティが肘鉄砲を放つ。

 青ざめたアデルに気がつき、慌ててフォローするシナン。


「あ、僕については気にしなくていいよ。ナインさんの物真似みたいなモノだし、現に、一度使っただけで肩を痛めるほど、到底、必殺技とは言えない代物だからね」


 落ち着くためジュースを飲むアデル。

 飲んだのを見計らって、シナンは念を押した。


「でも気をつけてね。今言ったことは、くれぐれも肝に銘じるように」

「は、はい! わかりました!」


     ※

 ――次の水曜日、《滝の山脈亭》


「本当に今日来るんでしょうね?」

 あるテーブルでは冒険者組合の地下でシナンに声をかけた、鉄の鎧を着込んだ女性冒険者が、盗賊のような軽装の女性冒険者に尋ねた。

「あたしの情報に間違いはないって!」


「《番犬(ヘルハウンド)》は? 《親衛隊(うざい魔術娘)の三人》は?」

 別のテーブルでは、ある女性魔術師が、別の女性魔術師に尋ねた。

「あいつらの班が今度の研究発表会だからね、四人とも寮の自室でうめき声をあげているよ」


 そこへ現れる青狸の団の中堅男性冒険者と新米男性冒険者二人。

 彼らは教育係の先輩冒険者と冒険者組合の地下で会ったアデルの同級生達だった。


 同級生の一人が滝の山脈亭の中をのぞき込んで先輩に声をかける。

「おぉ! 滝の山脈亭が女ばっかりなんて珍しいですね。テーブルも一つ空いてますし、先輩、今日の昼飯ここにしましょうよ!」


「ん? ちょっと待て、今日は……。馬鹿! すぐ離れるぞ! 今日だけは滝の山脈亭(あそこ)に近づいちゃいけねぇ! お前らはまだ知らねぇかもしれねぇが、これはヤゴの街の”掟”だ!」


「ええ? なぜですか? 確かに先輩と俺たちはハヤブサさんみたいにイケメンじゃないですけど、少しぐらいは目の保養をしたって……」


「俺をお前らと一緒にするな! 目の保養なら……今度歓楽街のひやかしに連れて行ってやる! だから今すぐ離れるんだ!」

「本当ですか!」 

「約束ですよ!」


 彼らと入れ替わるように一人の男性冒険者が現れ、滝の山脈亭へ入る。

 それはレベル八の冒険者、シナンだった。

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