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第三ラウンド、シテマス

”カ~ン!”

 第三ラウンドは一転して膠着状態となった。


「フランさん、二人ともどうしたのかしら?」

 リングの中央で軽いパンチやフェイントを繰り出している二人をみて、イネスが尋ねる。


「うむ……おそらく両者とも腹に一発喰らったからのぅ。なかなか足が動かんのじゃ」


 ナインのフットワークが鈍いと見るや、ウッゴ君は足を踏み込み、勢いよく腕を伸ばす。

 何とか横に逃げるナインに、ウッゴ君は四股を踏み、真横に腕を伸ばす。


(へっ! かかったな!)


 すぐさまナインはウッゴ君の後ろに回り込むと、


”ボコッ!”


 後頭部に素早い一撃を食らわせた。

 バランスを崩し、よろめくウッゴ君は、腕を伸ばしたまま


”ベチャ!”


 顔面から床にたたきつけられる羽目となった。


『ダウン!』

『ええ……』


 あっけなく倒れたウッゴ君に、観客はどよめく。

 しかし、ボーアがカウントを数える間もなく、頭を振りながら、すぐさま立ち上がった。


「だいじょうぶだ! いける! いける!」

「ナインの拳なんか屁でもねぇぜ!」


『はじめるぞい!』

 ウッゴ君コールを奏でる中、観客は再び同じ光景を見る。


 ナインは、横に拳を伸ばしたウッゴ君の後ろに回り込み、後頭部に当てては倒す攻撃を繰り返していた。


「こら! ナイン! きったねぇぞ!」

「真正面から戦いやがれ!」


(けっ! ただ倒しているだけじゃねぇ。確かに俺は軽い拳しか放ってねぇが、床にたたきつけることで倍のダメージを与えているんだぜ)


 ナインは白い杭にもたれながら、ウッゴ君、そして観客に向かって心の中で叫ぶ。


(軽いダメージがじわじわと体をむしばんでいく、これぞ”ろくでなし戦法”よ!)

と、このままこの戦法を続けていればナインは勝ったかもしれない……。


 しかし、彼は”ろくでなし”

 ついつい、余計なことをしてしまう……。

 何回目かのウッゴ君のダウンの時に、ナインはお尻を突き出して、ウッゴ君に向けてペチペチと、自分のお尻を叩いた。


「どうした? 水のかけ過ぎで酔っ払っているのか? ホラホラ、あんよは上手~。ギャハハハハハ!」


 ウッゴ君の顔が”ムッ!”とした表情になる。

 観客の怒りも頂点に達していた。


「シッシッシ! さぁ、来な! ウッゴさんよぉ~」

 ナインは挑発するかのように、両腕を垂らして、無精髭を生やした顎を突き出した。


 ウッゴ君は、まるで最後の力を振り絞るように、ナインに拳を放つ。

 観客から沸き起こるウッゴ君コールも最高潮に達していた。


(へっへ! 案の定、頭に血が……いや、ウッドゴーレムだから水ってか!)


 ウッゴ君は足を前に出し、腕を伸ばしながら渾身の拳をナインに向かって放つ。

 そしてそれを難なくかわすナイン。


(もう少し遊ぼうと思っていたんだが……今までの恨み辛み、この一撃で晴らさせてもらうぜ!)


 伸びきった腕に沿って、体を前へ跳ばすナイン。

 腕が縮まっていないのに、ナインから背を向けるウッゴ君。


(距離をとって逃げようと……いや、大型の魔物を相手にするときの戦法

”一撃、即、離脱”

ってやつか? いい手だが、もう遅いぜ!)


 ナインの拳がウッゴ君の後頭部を狙う。


”ボグォォォン!”


 鈍い音がリング上にこだまする。

『おおおぉぉぉ!』


(あれ? 俺? 空を飛んでいる?)


誰かが自分に向かって物をぶつけたかと思うほど、側頭部に予期せぬ衝撃を感じたナインは、自分に起こった出来事を把握出来なかった。


 ナインの目に写るのは、自分の涙、鼻水、唾液が、目の前に飛び散る様。

 そして、真横になったウッゴ君。

 その姿は、まるでヤジロベエみたいに、両腕が伸びていた。


(な……なにぃ……)


 肩からマットに沈むナイン。一瞬意識が飛ぶも


「ぐぁっはっは! 確かに、両腕を同時に伸ばせば、天秤みたいに釣り合うわな!」

ハイイログマの咆吼で目を覚ます。


(く、糞ったれ! 片腕だけ伸ばす攻撃こそ……”ふかし”かぁ~。……俺様の目を片腕だけに集中させて……背中で隠しながら伸ばした腕で……振り返り様に……)


 自分の目の前で、数を数えるボーア。

 もはやいくつ数えているのか、数え方が速いのか、遅いのかすらわからなかった。


ナインの魂は、己の血や肉、そして骨に至るまで、ただ立ち上がることだけを命令した。

「くっそおおぉぉぉ!」 

 カウント八で立ち上がり、空元気で両腕を天に掲げる。


「なにぃ!」

「あれで立ち上がるのか!」

 特等席の役人や大商人からは、ナインの健闘に思わず拍手がこぼれる。


”カン! カン! カン! カン!”


 ゴングに救われたナインは、もはや歩くことすらやっと。

 崩れるように椅子に座るナイン。


「ぐわぁっはっは! ますますウッゴ君を欲しくなったぞ! ほれ! どうしたナイン! しゃんとせんか! んん?」


 手桶でナインに水をかけるハイイログマの笑いが止まる。

 もはやナインの顔は”ろくでなし”ではなかった。


「はっ! いい気合いの入り具合だぜ! でもよ。あっちはもっとだぜ!」


 向こう正面に見えるウッゴ君。

 ナインにコケにされたのを怒っているのか、ウッゴちゃんが何杯もじょうろで水をかけても、かけた瞬間から蒸発して湯気となっていた。


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