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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 別場
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二つの影 揺るがぬ闇 12

上からの削りと剣を引く過程が無ければ切断しきれなかったもしれない。鼻からこれを狙っていたつもりはなかったが

ロベアートは自身の腕が切断されたことに動じず、ノレムの方を見てから次にジョーカーの方を、そして再度ノレムへ視線を移す


「ヴヴヴゥ・・・っ!」


獣の如きうねり声はずっと続く怒りの表れであろう

天すら怒りに連動してか、快晴であった空に雨雲と落雷。雨はまだ降らず

ロベアートは、その天へと飛び立った


「・・・終わりにしよう」


飛び立ち、上空で彼は背より翼が出現し、展開。物語に出てくる天使や大空を我が物とできそうな大鳥の翼とはかけ離れている

枯れ枝のような骨組みを繋げつくられた翼、翼膜にあたる部分には左右に4つずつ、計8つの輪

そこに光の力が集まる

雨雲が消え去り、空の色は不吉な赤みがかったものへと変貌


「ロック・・・」


ノレムは両手の親指をそれぞれ対の人差し指第二関節に付け、四角をつくる

音が全て消えた。羽ばたくことのない広大なる翼を背に、破壊の力となる8つの光は軌跡道を空間に生みながらロベアートは急降下

この大地ごと消滅させるつもりだろう。ターゲットのノレムへの到達まで一瞬すら遅い


「闇に溶けろ!」


手と指でつくられた四角を覗いた先にはロベアートを捉え、そこより膨大なる闇が放出された

驚くように「はっ!」と漏らし、闇と真正面より激突。光は途中まで押すも、押し返しきれず、ロベアートは闇に沈んだ

だが、まだ闇に敗北はしていない。闇の深淵にて、夜の嵐襲う海の先にて照らす灯台のように光はある


「耐えるな!」


この一言の後、なんとも呆気なく、こ途切れたかのように光は完全に消えた

天を貫いた闇は、全域に黒紫に染めると青空へ姿を戻す

ここで急激に脇腹からの痛みが、傷口を手で覆いながら「ジョーカー様、終わりました」と見回すが、彼は完全に全身が埋まっていた


「ご苦労様。終わり早々に頼んで悪いが引っ張り出してくれ、このままだと即身仏になりそうだ」


ジョーカーがいた辺りの亀裂に手を入れ、手応えあり。少しの力加減で引っ張ると抜けた、頭に被っていた鉄仮面だけが

頭ごと取れてしまっていないか、冗談のつもりで鉄仮面の中を確認。やはりない、なにをやっているんだろうと自らを鼻で笑う

ジョーカーは別の場所から出てきた。ノレムはすぐさま鉄仮面を投げ被せる


「これで、この国の行く末の分岐に立った。城にいた兵士以外の者が逃げて身を隠している可能性もあるので無差別に火の海の類を実行してもよいが、その前にノレム、お前のその傷が痛々しいので止血ぐらいはしよう」


セムにより、光のスピアが刺さった左脇腹辺り。さて、止血だけでもだがあいにく持ち合わせなし

糸と針を探しに行こうか?


「よくやる僕の毒で腐敗させるなり、皮膚を溶かして溶接しておく方法とたまたま何故か持っていた釘数本を縫物の仮止めみたいに使うのどちらにする?」


「釘でお願いします」


5本の釘を渡された。ジョーカーが一望できる城下の町を眺めている間に3本ぐらい釘を刺し、皮膚を繋げて傷口を塞ぐ。先端を折って返しにしておいた

貫通した背の方も残りの2本で同様に


「これでよし。限りなく良しに遠いよしだがな。どこかでちゃんと包帯等を手に入れよう」


服越しに違和感がある。撫でるとより鮮明に怪我がある痛みがじんわりと広がっていく

痛みに苦しんだり、死ぬほどのものではないのであまり気にしないでおこう


「唐突になるが1回私とジャンケンをしてくれ」


本当に唐突である。意味を訊かず1回勝負のジャンケンは、あいこもなくノレムが勝った


「お前の勝ち、というわけでこの町を滅するのはやめておこう。元々は勇者だけ、最低限の目的はノレムが果たしてくれた。それに気分が乗らぬ、優柔不断になる前にジャンケンできっぱり決めれてよかった」


ノレムの背後に回り、彼の背から小さな黒い手を無数に出現させると勇者の剣と10の珠を掴ませ引き込ませる

体内にある感触はなく、封印されたというべきか


「お前が討ち取ったのだからな、預けておく。勇者の剣は持っても鞘から抜けば透け消えて持てぬようだから、持ち腐れになるなら捨てても結構。私も昔、ある聖剣を手に入れたが拒まれ使えなかったので翌日のゴミの日に捨てたことが・・・」


「5年前だった・・・」と語り始めた。興味がある、じっくりと聞いてみようとしたが、ジョーカーは長くなりそうだからの理由でやめた

ひと段落のティータイムを始める。ジョーカーは紅茶のクッキーをお茶請けに

ノレムの分を淹れてやり、彼の妹が作ったクッキーと一緒に提供。礼を言い受け取るが、口をつけようとはせず

ジョーカーが最初の一口をしてから彼も紅茶を飲み始めた


(スノーラヴィージコ産の茶葉か・・・)


飲み終えてから、どれほどの時間ここにいたかは体内時計でもわからない。騒動が大きく、明るみになる前に気まぐれな死を呼ぶ風についていき、今は木の手漕ぎ船にて海原を進む

大小ともかく、この短い期間に2回も船を盗むことになるとはとノレムはふと思いながらボーっと空を眺める。この船を持ってきたジョーカーは拝借だと言っていた

海岸線はもう見えず、広い水平線の先まで海。これで帰るつもりなのだろうか?周りから見れば、遭難である

自分で漕ぐとオールを持つジョーカーは、漕がずに書類に目を通す。ただ退屈な時間が過ぎるだけ


「こんなものだろ」


印を忘れたので手書きで最後の書類にサインを記し、その書類を畳み、懐に納めた

立ち上がり、船は揺れる。オールを肩に掲げ、周辺の海を見渡してから口を開いた


「すまんノレム、これで帰るつもりだったがもう少し用事を捜してくる」


「え?」


「お前の見合いは遅れ、先延ばしになってしまう。それに、問題は帰ったら妻達の中で3名にデートの約束を手紙に綴ってしまってな。代わりに言い訳を考え、伝えておいてくれ。では」


「では、じゃないですよ!」


ジョーカーはオールを手に、海へ飛び込む。「せめてオールを置いていってください!」の叫びは、水平線の遠くへと消えていった

やれやれと言いたげな顔で、しょうがないと呟く


「あぁ・・・約束した奥方は誰なのかを訊いておくのだった。1人1人訪ねて自分にはそう綴られていなかったと言われた時、重苦しくなれば俺はどう御言葉をかければいい?ヘタすれば俺が痛い目に遭いそうだ」


直後に船の違和感に気づく

船底より、海水が入り込んでいた。水が増え、このままでは沈む。使い古し感はあるなと思ってはいたが

ノレム、本当に遭難寸前

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