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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 別場
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二つの影 揺るがぬ闇 11

血反吐を吐き、倒れかかるセムの首を掴み剣を引き抜いた

首から手を離し、後ろへと力なく倒れる彼への追い撃ち。ノレムの拳に闇が発生、躍動感のある引きから腹部めがけ放つ

玉座から身を乗り出し、剣が胸より引き抜かれる時には救うつもりだったのだろうか、ノレムとセムの元へ走り始めていたロベアートが叫んだ


「やめろっ!やめろーーーっ!!わしの!わしの息子だ!!」


遅い、遅すぎる。まだ生きているセムへ、トドメの闇の拳が炸裂した

闇はまるで岩に打ち寄せた波である。轟音の中に、微かな声すらない

王は発生した風圧に飛ばされそうになるが、身を屈めなんとか耐え忍び、這いずり、腕の力だけで着実に進む


(ヒバリ・・・!すまない!セムを!)


黒き雨が降り注ぐ。這いずり進む王の姿に哀れみを覚えたのか、そっと絶命しているセムから距離を置く

ロベアートはつい先程発覚した我が子をの遺体をその手で包んだ。口からの血痕をマントで拭き、嘆き、抱きしめる

この日の終わりに告げるつもりだった父である真実を告げれず、親子で終われなかった

その光景、ノレムは黙ったまま見ていると自身の肩にジョーカーが手を置く


「お疲れさん。あとの汚れ役は任せろ」


「ジョーカー様、今件の汚れ役は全て俺が・・・いえ、お任せします」


謁見室にて、生きている者はこの3名だけ

ジョーカーは右手の指で革手袋をギュッと強く引っ張り、左手首を動かしながらロベアートに歩み寄る

「セム・・・」と小さく呟いた。その王の次に勇者の顔、そして彼の手にまだ握られている勇者の剣へ目を移す

再度、ロベアートに視線を向けた


「私にも子がいるので同情でもしてやろうか?されたくないだろ、こんな私に。安心しろ、定番な台詞でいうとすぐに後を追わせてやる」


一度ネクタイを指で弄り、続けて口を開く


「ロベアート・シーダよ、貴様は立派な王だったさ。だが、どんなに名君で優れていても、滅ぶ時は滅ぶ」


あの闘王、ロベアートを討ち取ればこの国の敗北、民の知らぬうちに敗北。トドメは自分だが、手柄はノレムのものだな。では、どう殺めようか?と考えていると、王の顔はこちらを捉えていた

怒りに満ちた顔に、怒りの熱は大気中の水分すら蒸発させ、全身より湯気を放っているかのよう

セムを優しく、敷いたマントの上に寝かせてから彼の持つ勇者の剣を自らの手に


「ジョーカー・・・っ!ジョーカーめ!!貴殿の下劣な存在と行動!!決して許しはせん!!」


勇者の剣より、黄白の光が掴む手から全身へ流れ始めた。苦しむ声、痛々しく血管が浮き皮膚に刻まれていく

着ている衣服の上半身部分を破り捨て、筋肉が膨張し衣服下に身につけていた鎧を内より破壊。皮膚の変色、少し赤みがかる

両眼の下に白の横線と頬までの縦線模様


「な、なんですかあれは!?勇者の剣により影響を与えられているようですが」


「ロベアート・シーダは今日誕生した勇者の父、彼も歴代勇者の血を持つが殆どの先代と同じで素質のない者。無理矢理に剣と血の力を扱い、力の暴走を生んでいる」


ノレムはジョーカーの前に急ぎ立ち、剣に闇を纏わせ直す

ジョーカー自身、進むべきか退くべきか悩むがここはノレムに任せてみよう


「ジョーカー様、出過ぎる真似をしますがこいつも俺が・・・」


「終わりの紐は自らの手で切ろうとしたが、ノレムに預けてみよう。勇者と戦い、その傷も癒えの間もなくだから無理はするな。危険となれば逃げるのも結構と言いたいがノレム、私はお前が思っている以上にお前を信頼している。やるがいい」


ジョーカーは敵に背を向け、ゆっくりと距離を置く

ロベアートの瞳孔は失われてしまっていた。噛み締めた歯は砕けそうになり、破裂しそうな浮き出た血管、身長もだいぶ変化して大きくなっている

鼻から血を垂らし、噛み締めた歯と歯の隙間よりも体内からの吐血が漏れていた


「意識があるようには見えないな。勇者の剣に意識を支配されたか?」


剣の闇が増幅し、ノレムの周りを舞う。攻撃を仕掛けようと足を踏み込む直前のことであった

先にロベアートが動く。勇者の剣を捨て、見かけとは裏腹のスピードは床の一蹴りで間合いを詰めてきた。踏み砕かれた床の破片が天井に刺さり、引っ付けた左右の両拳でノレムの腹部へ一撃


「どわぁっっ!!」


炸裂時の衝撃で付近の床、壁、天井より破片を散らせる。吹き飛ばされたノレムであったが、それよりも速くロベアートは追いつくと手刀を真上から振り落とすように撃ち込んだ

轟音と鈍い音、床に沈んだがすぐに立ち上がり反撃しようとするも頭を掴まれ、更に深く押し込みそこから引き摺り回されてしまう

僅かな数秒だが引き摺りにより削られた道線をつくり、次に持ち上げてから床へ打ちつけるを2回繰り返すと壁へ投げつけた

壁は破壊され、穴を空け、ノレムは外へと放り出される


「っと・・・!」


城外に飛ばされ、芝生に落ちてから体勢を直し、立ち上がる。そしてすぐに自分が打ちつけられた際に空いた穴より更に巨大な穴を空け、ロベアートが姿を現わした

手には槍、ジョーカーが殺害した兵士の物が転がっていたので拝借したのだろう


「私を優先して攻撃してくると思ったが、どうやら息子を倒したノレムを本能的に標的としているようだな」


いつの間にかジョーカーが自分の背後に立っていた

手には鞘に納まる勇者の剣と空色の珠、残りの9色は彼の周りを浮遊している


「お互い面倒に憎まれ、目をつけられたな。第1ラウンドの相手と味は違うだろう」


「力が扱えず、暴走に染まりつつありますがパワーもスピードもセムより断然上です。これも勇者の剣と素質が無かろうとも勇者の血の影響ならば、セムとは早く決着をつけれたのは幸運だったのでしょう」


「やつはかつて闘王として名を轟かせた者、ロベアート・シーダが持つ素の戦闘力も合わさっているからだろう。ノレムに僕も、目の当たりにはしてない世代だがな」


「ふぅーっ!!」と怒りの息吐き、体内の血に彩られたように歯を噛み締めた口より漏れた息は赤かった

喉が潰れそうな叫び、浮き出る血管の動きをより活発化させながら周囲の空気を歪ませ、それを突き破り高速で迫る


「おっと、終わった後の見合いをどうするかの話をしている暇もなさそうだ。ノレム、勝てよ」


「承知しました」


動かず、相手から距離を詰めさせる。ロベアートが槍で技術を捨てた力任せの振り下ろしを行い、それが自分の頭上に炸裂する寸前に最小限の動きで避け、振り下された槍の柄に足を掛け跳び上がった

地に槍が叩きつけられ、振動と轟音より先に広範囲に刻まれる亀裂より光が溢れる

「あれ?」とジョーカーが亀裂の裂け目に挟まり、巻き込まれているが

今の一撃で槍は使い物とならなくなり、上空から宙で一度体に回転を加えた斬撃で、先程の槍による攻撃より更に上から仕掛けてくるノレムに投げつけた

全身からの黒紫のオーラがそれを搔き消し、このまま突っ切る


「ぐぬぅ・・・っ!!があぁーーーーーっっっ!!!」


しかし、ロベアートによる大気に影響を及ぼす咆哮がノレムを押し返す

咆哮の衝撃を左腕でガードをした次の瞬間、王は目前にまで移動していた。時間が止まったような感覚、自分の胴体左側に撃ち込まれた腕の叩きつけ

視界の時間が動いた時には、ノレムの体は地に半分以上が埋まっていた


「ふんっ!」


霞状の闇を全身より漏らし、身体に力を入れ立ち上がるもそのすぐ直後に頭を掴まれた

掴み上げられ、万力の如く頭部を掴む力が増していく。苦しむ声は出さない

剣が手に無く、蹴りを入れようとするが先にロベアートの突き手がセムの光のスピアが貫いた箇所へと撃ち込まれた。少量の返り血を浴びた後、城のある方角へとノレムを投げ捨てる


「っう!」


城壁に激突する前に宙で身体を捻り、勢いを弱めながら体勢を整え着地。セムとの戦いで光のスピアが貫いた傷口から再度漏れ始めた血を隠すように手で覆う

だが、容赦する気持ちを感じられないロベアートが迫るのを見てすぐに手で傷口を覆うのをやめると振り返り城へ向けて走り、手前の地に両手を刺す

地鳴りの音が始まり、城が揺れ、地盤ごと城を持ち上げた

高所まで跳び、城を投げつける


「このままだと、晒し首状態の私にも当たりそうだ」


最初は下半身までだったのに、いつのまにか首より上以外の全てが地割れに挟まり、沈んでいた

ロベアートの目尻により血管が浮き、乾き始めた血のような色の稲妻が両腕に


「ゔがあああぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!」


爆心地となる叫びは空間に亀裂を生み、稲妻が走る両腕を突き出す。稲妻と同色の膨大なる光が城の全体をあっけなく呑み込み、その光の中で消し去ってしまった

ロベアートの目には涙が流れ落ちる


「わーっはっはっはっ!長く住み、先代からの城を消したな。その涙は城内に転がる兵に神官、そして勇者であり己の息子を消しさってしまい勇者の力にほとんど侵食され、意識が我が物ではなくなって逝く中で見えてしまった光景への無意識なる涙か?」


ジョーカーに視線をやり、続けて体を向け、喉から血を吐きながら怒りに満ちた叫び

猛スピードで向かってくるロベアートに、ジョーカーの鉄仮面の下は笑っているだろう

勢いに任せ突撃し、その威力で首だけ晒す自分の頭部を粉砕か抉る。引き抜いて怒り任せの息絶えるまで連撃、どれも面白そうだ

「さぁ、やってみろ」と呟くが、1つ付け加え


「貴様はまさか、城と共にノレムを消しされたと?ただ僕の言葉に反応してでの行動ならば、今の気分だとあまりにも愚かな・・・なんて」


構うものかとジョーカーへ攻め迫る速度を緩めず、それどころかスピードが増す。これで体当たりするだけでもかなりの威力を期待できそうだ

一定の距離に近づくと高く跳び、落下しながら頭だけのジョーカー目掛けて風を突破する拳を撃とうとする。しかし途中、背後よりの闇の気配

ノレムが剣の刀身に回転する5つの輪を、それをロベアートの左肩と首の間辺りに当て、削る

硬い。少量の肉を削り、ほんの少しばかりの血が飛び散るだけ

剣と輪を押し付けたまま、足が地に着いた


「だらぁっ!!」


地に着いたと同時にロベアートの拳がノレムの側頭部に炸裂

殴られた箇所の反対側からの衝撃の余波が遠くの山を粉砕する

鼻血と目尻から垂れる血。殴られた瞬間に吹っ飛ぶはずだったが、耐え踏みとどまった


「お前の喉笛を噛みちぎるまで、お前の目から消えるつもりはない」


その眼、迷いを覗かせない眼。違い、別だが、自分の息子もこうなるはずだった眼

何世代かぶりに勇者の素質を持った自分と同じ血が流れている者、我が息子。この国の王の血も持ち、これからを背負っていく時代となるはずだった

なのに、勇者が久しく誕生した時代にジョーカーもいたこと、ジョーカーが現れたこと

時の流れ、希望のある流れを堰き止められてしまった。これを不運と片付けるべきなのだろうか?

その不運も、その運命も、全てが憎い

右腕で薙ぎ払うも、ノレムは押さえつけていた剣を引き、数歩退がると左の手に剣に通し回転していた闇の輪を作り、アンダースローで放つ

地を切り、下から上へ昇る軌道で闇の輪はロベアートの左腕を切断

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