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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 別場
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二つの影 揺るがぬ闇 7

高揚する気持ちをグッと抑え、王は玉座へと戻る。落ち着こうとするも、握り震える右拳は解かれず

セムは剣を鞘に納め、腰か背中、どちらに装備すべきか悩んでいると、ハーネから黒革のホルダーをプレゼントされた

革の紐で鞘を固定し、背へ。金具を留め、2回軽く跳ね微調整


「そういった用品をこちらで用意するはずだったが、まぁよかろう。そちらの方がセンスある」


彼女にお礼を言ってから、再度剣を抜いた。調整したおかげで鞘から抜きやすく、手の長さが足りなかったり、引っかかるといった問題も無く、素早く剣を手にできそうだ

剣を振ってみる。やはりずっと使っていたかのような馴染む感覚


「扱えるか否かに問題は無し、あとは剣の腕。団長よ、貴殿は10年彼の成長を目の当たりにしてきたが判定は?」


「太鼓判といった合格点をあげましょう」


甘い判定だとしても、そう思わせるまでの確かな成長と素質があったのだろう

これからの経験が、彼を更に成長させてくれるはず

王は心より願う。先の未来、彼に幸福があらんことを。闇に屈せず、邪に蝕まれず

経過する時、自分が邪魔な存在となってはならない。これからは、セムやハーネといった者達の時代へと移り変わってくのだから


「皆よ、今日この日に、この時代に生まれ立ち会えたことをワシは嬉しく思う。この者の誕生日を含め、勇者再来を祝おう」


今日は城を開放して街を、民をも巻き込み祝うのも悪くなかろう

料理のメニューは?酒の量は?街に出向き、祝いを行うので参加は自由と報告する者を遣わそう。もし街全体も祭り騒ぎとなるならば、その費用を全てだそう。王の頭に次々と浮かぶ

準備の為、数名呼ぼうと右手で合図を送ろうとした直前であった。謁見室の扉が前触れもなく、勢いよく開き、一瞬にして全てが静まり返る


「ハッピーバースデー」


頭を鉄仮面で隠したスーツ姿の者は片手でケーキを支えながら誕生日を祝う歌をうたい始め、後ろをついてくる者はクラリネットを演奏


「えぇと、どなた様が誕生日だ?」


「知りませんよ」


「では、誰がロウソクの火を吹き消してくれるんだ?」


紅茶のシフォンケーキを生クリームでコーティング、果物類は飾りつけず蝋燭を16本そのままぶっ刺していた

蝋が溶けケーキに付着したらいけないので火は消し、ノレムに持たせると紅茶の準備

しかし、突然の訪問者を快く出迎えてくれるはずも無く、兵士達は迅速にノレムとジョーカーを取り囲み槍先を向ける。前方には王への道を塞ぐように数名の兵士達が並び、銃を構えていた

セムは剣を抜き、10人の神官達も杖の珠を発光させる。あとは王が命令すれば、槍は貫かれるだろう


「物騒な物を下ろしてくれませんか?せっかくケーキも用意してあげましたのに。ほら、紅茶のクッキーもありますよ。こいつの妹が作ってくれたのですよ」


「え?そうだったのですか」


ジョーカーはクッキーを1枚、鉄仮面を親指で少し上へズラした際にできた隙間に入れ食す

音を立て、しっかりと味わう。やはりお茶が欲しくなってきた

紅茶を淹れたいが余裕がなさそうだ

ただの怪しい来客で済ませている兵士も中にはいるだろう、だが少なくとも王とセムはそいつからの異常な雰囲気を感じ取ってしまい、いつ何をしでかすのか予測できないでいる状況

それでも取り乱さず、口を開く


「今、貴殿らの立場、理解できておるのか?」


「食べないのですか?こんなにおいしいのに」


「理解できておるのか!?」


怒鳴ってしまい、空気が張り詰める

ジョーカーはやれやれと、クッキーをケーキをコーティングする生クリームのクッションに置き、次に手にしたのは歯ブラシ

鉄仮面の上から磨き始めた。無意味、鉄仮面の口部あたりがちょっとばかり綺麗になるだけである


「立場を理解して震えながら命乞いでもしたらこの物騒な先端を下ろしてくれるのかい?するはずなかろう。我々が害のある者ではないと確信するまでは。理解した上で、変わらずにいる」


ノレムはケーキを手に、ジョーカーを庇うような形になる為前に出るつもりだったが、幾つもある槍先の距離がより詰められてしまう

いや、迷いと戸惑いを捨て、串刺しになろうが構わないと再度ジョーカーの前に出ようとするが、彼の左腕が行く手を阻む

「やめろ」の一言は、冷静ながらもどこか感謝を含んでおり、嬉しそうであった


「誕生日の祝いぐらいさせろ。なんてな、貴様らの行いは正しいさ。突然ケーキを持った顔を鎧で隠す得体の知れぬやつが祝いの歌を口ずさみながら現れたら危険かどうかの前に怪しさだけが一人歩きだ。うーむ、どうすれば気軽に接しやすい者だと捉えてくれるだろう?そうだ、この前古着屋に行った話でもしよう」


「あれは起きたら昨夜用意していたその日着る服を猫が散らかし寝床に使っていた朝だった」と語り始めるが、「黙れ!」と少年に遮られてしまう

セムの全身より光のオーラが漂い、剣を手に敵意が剥き出しである。彼には見えていたのだ、こいつは気軽に接するには程遠い存在を証明するドス黒く禍々しい気配が

王にもそれは見えていた。少年に落ち着くよう言い聞かせ、セムは構えと警戒は解かないが荒々しく漂っていたオーラは消える


「貴殿はどこの者だ?帝や聖帝の使いが訪ねてくるとは聞いておらんが・・・」


「これはこれは、自己紹介が遅れ申し訳ありません。私、五星の一枠であり、ジョーカーと呼ばれる者です」


動揺、ざわめき、槍を向ける兵達が僅かに後退した。たまたま目の合った1人の兵、その顔は怯えが滲み、噛み締めた歯に脂汗が酷い

どこからもジョーカーの名を口にし、腰を抜かしてしまう者、さっさと殺せと叫ぶ者、偽物だろうと疑う者、その様子は様々

セムは何度も耳にしたことのあるその名に険しい顔をしており、ハーネは恐怖からか杖をより強く握る

落ち着きを振舞っていた王も、さすがに眉間にシワと一筋の汗


「ジョーカー・・・首摘みの死神め!」


「またの名をみたいに言いやがって。沼地の王や凶星流星といった通り名や二つ名は悪口みたいな所もあるが周囲の目を期待膨らみをさせてしまい、過大評価されるせいで重圧により心の疲労の原因となるぞ。紅茶愛飲協会副会長と呼べ、可愛げがあり特に重圧となる部分も無いからな」


「五星内にあるメンバー2名だけの会ですよね、それ」


「スペードも誘えば嫌な顔せず付き合ってくれるし、菓子目当てでクローバーも参加するから実質4名だ。ダイヤだけだな、会に入ってないのは」


さて、どういった手段でダイヤを参加させるか考えていると誰かが王に叫んだ。「王を今すぐに安全な場所へ!そしてやれと御命令を!」と

右頰に傷のある男が、玉座に座る王の前へ。叫んだのはこの男ではないが、その叫びは同感である


「もし本物のジョーカーならば、いるだけで厄災を持ち込んでくる者です!王は退いてください!ヤツの目的が掴めずにいる今、王の身の安全を1番に率先します!」


ジョーカーは鉄仮面を少し上げ、葉巻を露出した口へ。だが火は点けずジッとしていた

動きはあったが、兵士達はジョーカーという名と、疑いが残るも実際にある威圧感に動けず、ただ彼の行動を現状見過ごす事しかできない

実はこれ、葉巻ではなく棒状のコーンパフにチョコがコーティングされた物である。余分にお菓子を持ち込みすぎたので消費がけっこう大変

サクッと音を立て、噛みながら変化が起きるのを待つ


「ジョーカー、本物か偽物かはさておき貴殿に問いたい。この場に、この国に、何の目的があって現れた!?」


「なんだ、退かないのか?一国を引っ張る者ならば時に逃げるのも正解だ。古参の家臣達が殿で王を逃がす為の時間稼ぎをし、少ない若い兵達と泣く泣く逃げ延び、国を奪われたが数年で取り返し盛り返した者を知っている。まぁ、国や民を残して逃げるのが嫌なら止めはしない。それも正解だからな。これから先、貴様が居ようがいまいが、知るか知らないかだけなので目的ぐらい教えても、大した変化はないだろう」


チョコ棒を半分に噛み折り、落ちた方は左手で受け、もう片方は舌を使い口内へ閉じ込める

口だけ覗く笑顔はとても不気味で、少し上げた鉄仮面が戻るまで背筋を長い針で刺されたかのような痛みのない感触に襲われた


「観光しにきたに見えるかい?見えるはずないよな、考えもしないだろう。それも今日、この日にだ。たまたま偶然だとすれば恐ろしきタイミングだぞ・・・誕生日の祝いをしながら現れたんだ、薄々目的は察していただろう」


「勇者の誕生か。どこで情報を得たかは知る由も無いが、祝いに訪れただけならば貴殿が貴殿だ。不気味すぎる」


ノレムはジョーカーが祝いに参じたのではなく、葬る為にここに来た事は知っている

それは目的であり、何故亡き者にするのか理由をこれから彼の口より教えてくれそうだ


「この日を迎えれたのは国からすれば久しいはずだろう王よ。いや、闘王ロベアート・シーダよ。歴史上、3人目の勇者の誕生に喜び浸りそうになる貴様の想いは外からでも伝わっていたぞ。だが、せっかく儀式も終わり、嬉しさに瞼が熱くなっていた最中に申し訳ないが・・・勇者には死んでもらう」


王は「やれ」と発した。向けられていた周囲を囲う槍が一斉に突き放たれる

ノレムは予め槍が一斉に動いた際の考えがあり、それを実行する為に思考を捨て体だけを動かす。方法は、自分がジョーカーを持ち上げ、自らが槍の餌食になる事

しかし、槍はジョーカーとノレムに到達することはなかった。王の命令と同時に、取り囲んでいた兵達は床から出現した巨大な蛍石のように緑色をした水晶の結晶により串刺しにされてしまっていた

結晶の木々に、赤い水滴を垂らす人の実


「芸術としては17点だな。タイトルは、人は果実」


取り囲んでいた数十名の内、生き残った者達は即座に散り離れ、次に前方で銃を構えていた兵達が一斉に発砲

普通の銃弾ぐらい、自らの手でどうにでもできるのだが、背を向けながらノレムの名を呼ぶ

ジョーカーと背を向かい合った彼の手に出現させた鞘に納まる剣は抜かず、蹴りで銃弾を薙ぎ払った。弾かれた銃弾は数人を撃ち抜く


「ロベアートよ、このままでは無駄に兵を消費していくだけだぞ。その無駄も、どうせ一緒だったとなるがな」


わざとらしく、ゆっくりと玉座へ向け歩み始めた。その背後をノレムが鞘に納まる剣を掴み、右手は剣の柄を握りながらジョーカーの背を守るようついていく

段差の最初の一段に左足が乗った時、王の座る玉座の前に勇者と右頬に傷のある男が立ちはだかる。片方はどうでもいい、勇者が今回お目当ての人物


「勇者よ、悪いが誰の命令でもなく私の独断行動に付き合ってもらう。ちょっと思い立ったからここへ参じた、それも浅い理由。いずれ、魔王帝やスペードの障害になるかもしれないので、消えてくれ」


笑っているだろう。ノレムにはわかる

セムは返す言葉もなく、険しい顔で剣を手に王の前で待ち構えるだけ

ジョーカーが次の段階に足を踏み出そうとした瞬間であった。後方より10の光の気配

神官達が樫杖の珠、それぞれ紅、青、黄、緑、白、紫、空、橙、桃、黒から光を放つ

ノレムは闇のエネルギーを全身より溢れさせようとした瞬間、彼の頭を踏み台にジョーカーが飛び出した


「ぐわああああぁっ!」


流星の如く、十の弾道を描く光はジョーカーに炸裂。光と光が繋ぎを生み、強大な邪悪を呑み込む

光に焼かれ、微量の燃えカスだけが床に降り落ちていった


「なんと!あのジョーカーを!やはり、いくら五星であろうとも生ある者であったか。神官の乙女達だけで彼奴を倒せたのは、我々、この国だけではなく、世界への吉報となろう」


「俺、ハーネ含めて神官の彼女達を金輪際怒らせないようにしよう」


王も勇者も、一気に安堵が押し寄せる。殺されてしまった兵達を弔ってやる前に、残されたこの者の処置を済まさなくては

彼の目は、ジョーカーの元にいる者とは考えられぬ程の純粋さと真っ直ぐで凛々しい。正義も悪も、どちらにもあると教えられる

主を失っても、動揺の一つ無し。敵にしては惜しい存在だ


「少年1人だとしても、油断は禁物。ジョーカーの近くにいた者ならば、摂理の四災衆か二本牙の誰かであるかもしれぬからな」


ノレムとセムは無意識の内に互いの顔を合わせ睨み合っていた

胸に手を当て、緊張していない己を確認。ジョーカーと共にいた自分と歳が同じくらいであろう少年に剣先を向けるが、彼は手にする鞘から剣を抜こうとはしない。ジョーカーを失い、銭湯と抵抗をする意思すら喪失したのだろうか?


「主が消え、敗北とし、潔く終わりを受け入れるのか?」


「いや、たとえジョーカー様が討たれ敗北になろうとも、まだ俺が戦えるなら血肉だけが残ってでも戦うつもりだ。次の為に必要な他者を逃し、守る時間稼ぎや相手へ微々だろうとも削りの為に。俺がお前に戦意をまだ送らないのは、あくまでもジョーカー様の目的である人物だからだ。許可をくださるまで、勝手に剣を抜きお前と戦うつもりはさらさら・・・」


ノレムは剣を右の2本指と手首を使いながら回し、鞘に納まる刀身部を肩に置く

空いた左手は頸を軽く握ってから即座に玉座とその付近にいる者全てに向け指をさした


「お前らは安堵しすぎている。まさか、本気でジョーカー様を倒せたと勘違いして喜んでいたのならば、同情を覚えそうだ」


「なんだと?だが、やつから発されていた邪悪なる底なし沼の如く気配は完全に・・・」


ジョーカーが消えた場所、そこに突然床に漂い始めたドライアイスのような黒い霧

一点に密度が集中し、濃くなった霧より現れたのは1つの棺。蓋が独りでに動き、倒れた

息を呑む、その中にあったのはまさにジョーカー。ではなく、人の白骨


「あ、あれ?ジョーカー様?」


「なに?」


普通に、棺の物陰より現れた。もっとこう、不気味に妖しく、棺の中から現れるものだと

誰もがそう思った、ノレムもそうだろうと思っていた


「あの骨、誰の白骨死体なのですか?」


「まあ、そんな細かい事はいいじゃないか」


棺を蹴った。何者のものなのか正体は闇に葬られたままの白骨死体、それが床に落ちてバラバラに

転がった頭蓋骨が、こちらに助けてと訴えていそうだ


「ジョーカーめ、あの光を身に浴びたと見せかけ逃れていたか!」


「いえ、ちゃんと直撃しましたよ。効かなかっただけです」


ネクタイをイジる。結晶は幻の如くスッと消え、棺は風化していき突如として吹き抜けた穏やかな風に溶けていった

一変した。この一帯の風景と空間が一瞬だけ白黒の世界へと


「はははぁ・・・しかし、ハオンが勝手に付けた通り名である二本牙が通じるようになっていたとはな」


声のトーンも沈みのあるものへ。再び王と勇者の全身を駆け巡った彼の気配

明確なる、殺意


「ジョーカー様、実行に移りますか?」


「そうだな。終わったら次の予定でもじっくり考えたい。うむ、候補としては乗馬で癒されながらのんびりできる場所にでも・・・それともノレム、お見合いでもするかい?」


「な、なんですか唐突に!?」


「知人に当たってみよう。スペードとハートにも聞いて探してもらうか」


「進めようとしないでください!」


ジョーカーは自らの右手が左手首を掴み、指を動かし軽めの鈍い音を鳴らす

「冗談だ」と後付けしなかったので、機会があればちゃんとノレムをお見合いさせる可能性がある

ゆっくりと腕を組む。優しく吹き抜けたはずの風だったが、今度は顔色を変え強く荒く、ジョーカーの後方より吹き抜けた

セムはより剣を握る手の力が増し、ロベアートは両手を玉座の手摺に押し付け、中腰で立ち上がる寸前


「王よ、俺や勇者となったセムに任せてお退がりください!」


「ジョーカーが本物か偽物かは現状不明ですが、俺の勇者としてはとんでもないデビュー戦になりそうですよ団長。いや、俺の自覚のなかった本能が本物だと疑を否定するのに摘み捻ってくるのに、偽物であるのを望んでしまっている」


王もセムと同感である。だが、恐怖を携帯している場合ではない

国を譲る意志を見せながら地に頭をつけ、せめて勇者を含め兵達全てを助命の命乞いをしても見逃しと許しをしてくれなさそうだ


「私が偽物だろうが本物のどっちであろうとも、どの道は全員遺体遺棄されるのだから疑を持つ必要はない」

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