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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 最初の片方
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二つの影 歪みかけの光 11

制御できなくなっていた興奮が徐々に、じっくりと冷め始め、己の意識で景色が見えるようになってきた

霞んだ景色、いなくなった革命軍の2人。記憶はないが、自覚と手に感触はまだある

モトキはその場に尻餅をつきながら座り、顔を伏せ、信じられない程の静けさの中、眠ってしまう

眠りに入ってすぐ、チセチノのが目を覚まし身構えながら起き上がった。が、革命軍2名の姿は疾うに無く、横たわっていた自分の隣で眠るモトキと周囲に目をやり、現状を把握する


「モトキ君・・・」


「ふぁい・・・!?」


起こすつもりはなかったが、彼の名前を呟いたのが聞こえたようで、意識が暗闇に浸かる寸前で瞼が開く

不思議と、セニーにやられ気を失っていた彼女への心配が芽生えずにいた。生きているか、息をしているかの確認も、すぐに治療できる場所へ連れて行こうともせず、座り眠ろうとしてしまっていた自分


「起こしてしまった?」


「いえ、まだうたた寝レベルでした」


スラックスの尻辺りに付着した汚れを手で払い落とし、左手に握っていた両手剣を鞘に戻すと、光の粒子となり彼の手から消えた

「どこか痛むところは?」と彼女に尋ね、チセチノは「平気・・・」と溜めてから返答


「その・・・モトキ君は?現状から、モトキ君が収束をしてくれたようだけど」


「俺は、大丈夫です。大丈夫な、はずです・・・」


彼女は親指で唇下にこびりつく固まりかけの血を掻き落とすとモトキの頭頂部に手を置き、髪ごと緩く掴み、雑に乱暴めに頭を撫でる

本当はもっと優しく撫でれるのだが、収束とこうして2人共生きていられたと感謝の気持ち込め、気を失ってしまっていた自分の不甲斐なさでつい強めに


「ありがとう、ありがとうモトキ君。頼りなくて、ごめん・・・」


頭を撫でながらしゃがみ、顔を膝に埋めてしまった

慰めの言葉をかけてやるべきなのだろうか?ただそんなことない、大丈夫と一言ぐらい

いや、違う

モトキは自分の頭に置かれ、撫でてくれたチセチノの手を取り、彼女の靴の上へとそっと置く

立ち上がり、それに気づいた彼女は見上げると、彼は右手を差し出していた

頭に乗せらた手を握り立ち上がることもできたが、あえて戻してから、再び手を掴ませようとする


「戻りましょう」


「・・・そうね」


差し出されたモトキの右手に、彼女の右手がしっかりと握られた

引っ張りはせず、彼女自らの足で立ち上がらせる。微かながらする風に乗った鉄臭い匂い

物語るのは撫でた際についた手の血と光によりうっすらと見える茶髪に滲んだ赤み

しかし、傷は1つも無くなっていた


「ん・・・?」


歩んで3歩目、誰かに見られている気配に襲われる。だが、その方へ瞬時に視界を向けるも刺さる視線の気配は消えてしまった

数歩先に進んでいたチセチノはモトキの立ち止まりに気づき、「どうしたの?」と訊く


「視線が刺さったような・・・」


「まさか、革命軍!?まだ他が潜んでる?もしかしたら、さっきのが・・・」


「いや、敵意のない気配でした」


「分かるの?」


「勘でもなく、何故だか分かります」


数秒、その方を見つめる。あるのは崩壊した建物の僅かに残る斜めに崩れ三角となった壁

怪しくはあったが、確認には行かず。2人はその場から去ってしまった


「あ、危ね。チセチノの方も見てたら、彼女にも気配を取られてたな」


見つめていた壁裏に誰かがいたのは正解である

エモンが体育座りで、なるべく身を屈めて隠れていた。息すら殺し、モトキとチセチノが去ったのを改めて確認

今ここで見つかったり、戦いを見ていたぞと現れたらおかしな空気が流れていただろう


(さすがにヤバくなったら助太刀するつもりでいたが、必要なかったようだな。しっかし・・・この戦闘後、ジョーカーで騒ぎがあったばかりだというのに)


これは上への報告が面倒になりそうだ

ジョーカーが現れたことで、革命軍が現れたという二次災害

新聞にはどう載るのだろう?戦闘の隠蔽か、革命軍は撃退されたと載るか

エモンはモトキが心配であった。自分がこの街にいるせいで、革命軍に狙われるなら姿を消すとか独りで考え込んでしまいそうだ


(あいつらより、先に戻っておかねぇと)


跳び、風のように消え、彼がいたその場には黒羽根だけが舞い散る

モトキとチセチノの戦闘で負った怪我をも心配しながら、署に着き急いで部屋へと戻ると書類に目を通すフリ

しかし急ぎすぎたのだろう、全然扉をノックして革命軍が現れた報告をしに来た2人が現れない

退屈してきたので豆大福の残りと、コーヒーでも淹れてサボり目的で頻繁に行うブレークタイムでもしようかと準備に取り掛かった最中、ようやくノック音がしたので席に座り、いかにもらしい風格を慌てて出してみる


「入るがいい」


「失礼しますボス・・・」


やはり、モトキとチセチノであった。彼女の方は頭に包帯が巻かれていた

ここに戻るまでに、最低限の応急手当をしたのだろう

入室して、エモンのただならぬ威圧と風格に押され彼女は一筋の汗を流すが、モトキからの「何らしくやってるの?」という指摘をされ、いつもの雰囲気へと戻す


「え?は?え?隊長?」


「すまない」


顔を逸らし合わせようとしてくれず、少し頬を赤らめていた

恥ずかしくなってきたのだろう

そんな彼にモトキは、「それはいいとして」切り出す


「エモン、革命軍が現れた。目的はジョーカーが現れた件での調査と偵察。戦闘にはなったけど、撃退は成功したと信じてる」


「そうか・・・やはり、数分前のは聞き慣れてしまった破壊や攻撃による戦闘音だったか。位置の特定と、見回りに出たお前達が現場に居合わせて戦闘になっているとみて、早急に別の場所にも異常が起きてないか調査するように他のやつらを向かわせておいたが正解だったようだ。もう少しでまさかお前達じゃなくて別の誰かと誰かが戦闘を行っているのでは?って不安になり、自分が出向くところだったけどな」


モトキは気楽に笑うエモンの前から、ソファーへと移動し横になる

チセチノは失礼なので起こそうと彼へ近づくが、エモンが寝かしておいてやれと苦笑い気味に


「隊長、よく戦闘を行っているのが私達と読めましたね」


「今の状況、相手はわからなくとも片方は絞られてくるからな。最悪、まだ街に潜んでいたジョーカーと革命軍が戦闘を起こしたって可能性もあったわけだ。そうなれば、とうとうこの街は終わっていたのかもな・・・よく頑張り、よくやった、チセチノ」


「いえ、私は・・・私1人だと、殺されていたでしょう。モトキ君が・・・本当に、さすが隊長の教え子だと」


「教え子ではない、ましてや師弟といった素晴らしい関係とは程遠い。今では組手の相手をしてやったりしているが、最初は訓練校の入学のしたてが習うような剣の初めて、基本を言葉で教えただけ」


いつ頃からだっただろうか、戦い方を教えてほしいとモトキとタイガの2人が頭を下げてきたのは

理由は知っている。親友と兄を失ってから


「徹底的どころか、実践をも通じて教えていない。そいつともう1人の2人で剣と体術の組手を始めたんだ。しばらくしてから無理矢理参加させらる形だったけどな・・・」


さすがに手加減をしようと注意したが、予想外だったのはタイガの異常な成長と強さであった

下手をすれば自分が死んでしまう危険があったので、攻撃せずただ受け流すだけにはいかなかったのだ


「見たり、試したりもあったが、遠くから見れば変わりないかもしれないが、ちゃんと見れば戦闘スタイルもだいぶ違う。あいつらなりの我流の部分もある」


チセチノは部屋隅の棚より、毛布を取り出すとソファーで寝ているモトキへとかける

「やーさしぃっ!」と褒めるが、その言い方は揶揄いと受け取れると彼女からの冷静なツッコミ


「チセチノだけに教えると、あの馬鹿2人が勘違いしたままになりそうだ。毎度、もし顔を合わせる度に面倒だから食事にでも行った際に詳しく教えてやるよ」


「楽しみにしておきますよ。それまでに、モトキ君には突っかからないよう釘を刺しておきますから」


モトキはソファーでの仮眠程度だろうと思われたが、全然起きはしなかった

数時間経過しても起きず、その途中で他のメンバーが戻ってきた

ペディンズとホバは眠っている彼を見つけ叩き起こそうとするも、チセチノの怒鳴り一声で止められ、これでもかってぐらいに並び正座をさせられながら怒られてしまう

ようやく彼が目覚めたのは、深夜に差し掛かろうとする刻であった

署内この部屋にだけ灯りがついており、いるのは自分とエモンだけ

「寝てたな・・・」と、「あぁ、寝てた」の会話だけをし、それ以上の言葉はなく、モトキは部屋を出ていった。彼が退室した部屋で、エモンは体を伸ばし、ポキポキと音を鳴らす


「俺も帰るか」


使われた毛布を畳み、棚へ片付けてからエモンも退室。部屋の灯りは消されない、夜勤の者達の為に

寮へ帰ってきたモトキは、数分、けっこうな時間ベッドの上に座りボーっとしていた

ようやく腰を上げ、始めたのは荷造り

青に赤紫と白のチェック模様を施されたボストンバッグへ衣服、歯ブラシぐらいの日用品、虹を受け取れる剣を詰めていく

モトキはこの街を去るつもりである。今回の一件で、またこの街に革命軍が現れる危険性があるからだ

標的は自分ではなく、自分にある正体の分からない力


「これだけしか持てない以前に、これだけしかない。まだ部屋に思い出や品がなさすぎる」


テーブルの上には置き手紙と退学届け。本当にこれでいいのか?と己に疑問を残しながらも、ボストンバッグの紐を肩にかけ、やるせない目で扉前に辿り着くとドアノブを掴む

これで、よかったのだろうか?勝手すぎるのでは?いや、これでいいが脳内で何度も繰り返す。優柔不断となる前に、外に出て足を進めるだけ


「やっほほーい」


モトキは驚愕し、硬直してしまった。扉を開いた先に待ち構えていたのは珍客

以前、老婆を送り届けた村の遺跡近くで戦闘となったニハがそこに


「明るい内、可愛い部下がお世話になったみたいねー」


モトキは身構えず、戦闘体勢に入らず、戦う気力もなく。彼女もまた同じ

では、何をしに訪れたのか?


「そんな荷物を持って、旅行?な、わけないかー。大方察しつく」


「おかげさまでな。お前はどうだ?部下の仇か、俺のボスと同じ力か、それともあの剣か?」


「どれもちーがう。セニーからの話を耳にして、ボスからの伝言を持ってきただけー。どうせ、これからの危険性と被害を考えて、今いる街から去ろうとしてるってー」


「革命軍のボスが、俺に?」


革命軍のボスは街を去るつもりであることはお見通しであったようだ。なら、そんな自分に伝言とは?どうせ去るなら捕まってくれとでも?

それもいいだろう、今のモトキは少し自暴自棄さがあった


「一先ずは安心してほしいってー。君がいるこの街に、君と接触する為に刺客を送ったり現れるつもりは無いと」


「な、に・・・?」


予想にしない、革命軍のボスからの伝言であった

それを聞いて、ちょっとばかり安堵してしまっている自分がいる。しかし、これで終わりのはずがないと警戒が遮る


「良かったねー。なんで?って顔してるけど、ボスにとっては数少ない顔も知らない同胞だからじゃないの?情でも湧いたと捉えていいから」


「他には?」


「1つ2つあるけど言う必要なさそうだから後にする」


舐め回すように、彼女はモトキに触れる寸前まで顔を近づけ、顔に身体にじっくりと見つめる

匂いも嗅いでそうだ、ある程度身体中を見回してから数歩退がり、親指を唇に当て考え込んでいるような体勢


「ボスと同じ力かー。ボスと君以外にもう1人知ってるけど、その力を持つ者って素質があるのかな?カリスマっていうの?上に立ち、後をついてこさせ、利用する、導きにも支配にもなりうる素質」


この力を持つ者に宿る素質。その素質により革命軍のボスとなっているカリスマ性

口から出たもう1人の存在、その者とは一体何者なのだろうか?

一瞬、心臓の鼓動が激しく揺れた。名前も、誰かすらも知らないはずなのに

苦しい、意思と関係なく息ができなくなりそうだ。こうなるのを知ってか知らずか、ニハの顔は不気味に笑っていた


「支配や利用する為のカリスマ性と素質なら、俺はいらない」


「あっはははははっ!そうねー、君はボスとは違いすぎる」


スッと突然に、起こり始めていた体の異変が平常となる

両者は睨みつけ合うも彼女はニッコリ笑顔であり、モトキはどこか安心と落ち着きのある顔


「それだけ。君は街から去る必要はないってことで、よかったねー。じゃ、帰るけど最後に・・・」


表情が険しく変貌、空気が一変

一触即発の雰囲気、それに反応してモトキから発っせられたオーラも荒々しいものへとなってしまう


「あたしも含めてだけど、あんな雑魚1人倒せたからって革命軍と渡り合えると自信にするな、勘違いするな、調子にのるな。行く先々で、鉢合わせ、邪魔をする真似をすれば、そこを墓標にしてやる!」


「そういうわけだから」を最後に、ニハは扉を勢いつけ閉めた。閉まる音がうるさい、部屋のどこかで何かが倒れる音

モトキからは、紫混じりも漆黒の闇を感じさせるエネルギーが霧状に溢れていた


「やれるものなら、やってみな」


ボストンバッグをベッドに投げ捨て、テーブルの置き手紙と退学届けを破り千切る


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