二つの影 歪みかけの光 10
チセチノの黒羽根達は、モトキの凶暴化する前の風に身を任せ、やがて本性を現した竜巻は広がり、激しさと規模を増していく
最初のおかげで周りへの被害を考慮するのはやめている。黒き竜巻は空を貫き、天変地異の前触れと勘違いしそうだ
ノプタスは上半身を捻り、メイスを振りかぶるが抜け駆けにセニーが動き出す
「黒い竜巻なんて、災害の休憩所だと頻繁だから見飽きてる」
右腕から装着されていた鎧が伸び、変形。筒状に、花弁を開いたかのような形となり、そこから青いエネルギーを圧縮させ発射
発射直後、無数の粒となり夜空の星屑の如く竜巻に一瞬にして呑まれ、着弾の瞬間に繰り返される青い閃光と炸裂音
青い光は繋がり、黒い竜巻を上書きしてしまう
「避けてみな!」
竜巻となった青い光に近づき、鎧の纏う右拳を突くと光は縦長の壁となり膨張。そこから地を裂き消し、破片を巻き上げ進む津波として迫ってきた
チセチノは銃口を向けず、銃の刃で斬りかかろうと軽く踏み込んでから走り始め、モトキも両手剣の剣先を地に触れさせ、引きずりながら彼女の後を追う
「続いてくれる?」
「もちろんですよ・・・」
銃身に装着された細長い針みたいな刃に光の属性エネルギーを走らせ、両手剣の刃にも光が纏う
チセチノの光は白だが少し黄色っぽく、透明感があり
、モトキの光は混ざりの無い白単色
両者交差するよう走り、チセチノは足を止める
モトキは水平に剣を振り、一閃の光が青き光の進行を防いだところをチセチノが縦に銃剣を振り下ろす
縦線が横線より太めの十字斬が青き光を押し返す寸前にて、モトキの左手甲とチセチノの右手甲が合わさり互いの持つ武器の剣先で一気に、一瞬にして十字の中央を突き抜けた
光のエネルギーを受け切れず、風船のように膨らんだ青き光は拡散し散ってしまう
青き光を断つのは二つの光であった
「ふぅん・・・まぁまぁといったとこ?」
「この役立たずが!仕留めるつもりならさっきので仕留め切りやがれ!」
メイスに振動を帯びさせ、突き抜けた直後の2人に飛びかかる。真正面より現れ、振り下ろされるであろうメイスに視線を一度もやることはなく
「初試みにしては、かなり良かったわ」
「素直に褒めてもらえると、嬉しいものですね」
メイスはモトキに振り下ろされた。直撃する一歩先に、一度体で回転を行い、勢いもプラスした右拳がノプタスの頭部に落とされる
自身の気づかぬ内に、轟音と砂塵を巻き上げながら叩きつけられていた
「うごばぁっ・・・!」
硬い地盤にめり込んだ体はいつも朝、ベッドからの起床みたいにはいかず、少し体に力を入れ、ひっついた全身を剥がすかのように体を起こした
自身により陥没した地盤の顔部分には、目と鼻、頭部からの流血が顔と地を繋ぐよ粘っこく糸を引く
額に血管が浮き、今にもはち切れそうだ。その顔をセニーは冗談に「血管が破裂しても隠せるね」と揶揄う
「あの茶髪がっ!絶対に!絶対に!頭から股間までドロドロのミンチ肉にしてやる!」
殴られ、その後の醜態は屈辱的であった
自分の思い通りの戦いや物事が進まないとすぐに機嫌と態度が悪くなる。傲慢で暴力的な彼の狙いを定めた男は、どうしてこうなったのかチセチノに肩車をしてもらっていた
つい先程の攻撃終わり、着地地点にちょうど先に着いた彼女と重なってしまい、己でも理解できないが避けようともせず、こうなってしまったのだ
チセチノは怒らず、やれやれといった顔。これがミナールだったらと考えるとハニカム程度の苦笑い。罵声罵倒の雨霰にボコボコにされていたは自分でも考えすぎだろう、怒りはするだろうけど
唐突に彼女が浮かんだ
「チセチノさん、失礼ですがあしつぎにさせていただきます」
「許可する!」
彼女は自らの手をバレーボールプレイにて、レシーブ時につくる形であるベーシックスタイルにすると、肩車されていたモトキはそこに右足をあまり負担をかけさせないようなるべく意識しながら踏む
右の靴底が触れてすぐ、チセチノは下から持ち上げる動作を行いモトキは跳び上がった
高所まで跳び上がり、急にセニーへ急降下。何も無い空間、風でも蹴って方向転換したのかと質問してみたくなりそうだ
手にしていた剣は真上に投げ、持ち主より更に高い位置へ
セニーはほくそ笑む、どう見たって己に急速で迫る右足を突き出した彼の姿に。この一瞬、列車の連結音に似たものが確かに聴こえた
「肉串になるがいいっ!」
右手で、空気を掴んだとしか言いようがない、何も無いを掴み投げる行為
手からは何も投げられず、それは動きだけであり右腕を覆う鎧の手甲部に瓶口程の細い棘が浮き現れ、モトキの右足底へ瞬発的な速度で伸びる
棘の先端には青い光が淡く帯びていた
到達まで時間は要さなかった。靴底より少し押された感触はあったがそれは一瞬、同時に靴底から激しい風が発生
頭頂部まで貫かれ肉串にされることはなく、モトキの蹴りは伸び迫った棘を砕き折っていった
棘は折られた瞬間や砕かれ、その欠片1つ1つが小さな小さな青い爆発を連続して起こす
「くたばれぇ!」
彼女は、咄嗟に自ら伸ばした棘を途中で折り、手甲に残ったそれに青い光を発光させ飛び蹴りが直撃する寸前にモトキの体へと振り落とした
足か、棘か、同時か、しかしどれも訪れはしなかった。この直前に、2人は大きな殺気が乱入してきたことに気づく
次の瞬間に、モトキの体は激しく、細かく振動。何が起こった?とも考えられず、左からノプタスがその身で体当たりをしてきたのだ
重く、ただでさえの威力にスピードと振動加わり生まれた爆発的な力は遅れて来る轟音と共にセニーの目前
からモトキを消す
「どうだっ!くたばるのはテメーだボケがっ!ざまぁみろっ!」
ノプタスの体右半分、顔と肩付近を中心に少量だが付着する血飛沫の痕。己の血液ではなく、モトキのものである
そのモトキは、離れた位置に出来上がった瓦礫のちょっとした山の下敷きになっていた
砕かれ巻き上がった硬い地の瓦礫、最初から今にかけて崩壊させられた建物の瓦礫等、大小様々な姿は敵となり味方となり、時には利用し利用され、こうして自然と牙を立てることすらあるものだ
彼の腹部から上だけが出ている、残りの下を隠す瓦礫の山から赤い液体が漏れ流れていく
君をつけた名を叫ぶ声をよそに、「死んだ?あれぐらいで・・・」と問いかけようとしたセニーだったが、モトキは顔を上げ、両眼の瞳孔が縮小している彼は自らの力で瓦礫を吹き飛ばすといったかっこつける真似はせずにのっそりと這い出てきた
足の数ヶ所と腰部に刺さり、貫通すらしているたまたま尖ったり細長くなってしまった瓦礫を痛みを感じていないのかと疑うほどあっさりと抜き、口から覗く噛み締めた歯の隙間より微量の血が噴き出す
「ほんのちょっと、ほんのちょっとの瞬間、俺はお前にばかりにだけ集中してしまっていた。間抜けだな・・・」
貫かれた箇所、髪奥の頭部からも何度か少量の血が噴き出す
それでも、やはり治癒はされなかった
しかし、ちょっとずつ、ちょっとずつ、何か変化が起こっている。セニーだけでなく、チセチノもその変化にモトキに対しての恐ろしさ、そう感じてしまっている自分に胸奥底が締め付けられる
「今ので死ぬか戦闘不能になりやがれっ!」
「お前の望みに俺の体が応えるわけないだろ・・・!」
前方上より、高所からの突撃。間も置かず、モトキとの距離を詰め左拳を放ってきた
振動を生む拳より、右肩へ振り下ろされたモトキの剣が一歩先に届きそうだ。ノプタスは地を蹴り後退しながら、真下から剣のフェラー部にメイスを振り上げ叩きつける
右肩の皮を越えて肉を少し斬り、弱めの振動をプラスした強烈なメイスの一撃を受けた剣の軌道は右胸に軽度の切創を負わせる
右肩から刃を入れられ、斜めに真っ二つにされるよりずっとマシな軽傷
さっきのお返しとばかりに、後退の地蹴りから即座に右足を踏み込み、それを軸に一回転すると勢いづけた左拳をモトキに目掛け再度放つ
一度出した拳を、引くのはあまり好きではないからだ
「俺は1人で戦ってないぞ」
力が抜け右へ倒れるように体をズラし拳を躱した直後、地から離れ、上がったモトキの左足下を、チセチノが背を着け滑り込んできた
向けらた銃口は、発砲される。驚き、彼女が滑り込んできたと考える暇もなく、腹部に光の弾丸を撃ち込まれ、身体は大きく光に押され、飛ばされていく
「追い討ちでもどうぞ」
右手に出現した盾面から光の波動をノプタスが飛ばされて行った方向へ、狙いは定めず広範囲に放出
透明感のある白き波動に、流星の如く無数の光の粒が彼の肉体を吞み込もうとする
しかし、突如としてノプタスの腹部に撃ち込まれた光は黒ずんだ色をした先端が粗く削り尖らせたような数本の棘により刺し消された
次にノプタスの前にセニーが割って入り、鎧を纏わない左手の小指で四角を描き、盾から放出された波動に対して正方形の青い光で防御を行う
「どきやがれ!」
荒めの口調、勢いのある後ろ蹴りでノプタスを突き落とす。凄まじ轟音が響いた
光の波動を青い光で受けながら右手を覆う鎧を展開。花弁のように開かれた鎧の枝1本ずつに青いスパーク状の光を帯びさせ、中央に一塊りとして凝縮してから真上へ発射
光は見えなかった、途中青く短い一つの線が光っただけ
「あんたに絞った集中砲火の雨」
ボソリと、誰の耳にも届かない独り言
上空より彼女の両サイドを通り過ぎる青い稲妻を皮切りに、連続して落ちる雷の軌道はどこからであろうともモトキへと範囲を集中する落雷
避ける隙もなく、モトキは最初の稲妻を剣で斬り、次の雷撃を盾で受け弾く
(いいだろう、いくらでも付き合ってやる)
意気込み、続く稲妻への対処、反撃の為に盾を持つ右手を引き、剣に光を集めながら振ろうとするが、右から背を当て、ターンをしながら自身の前に出たチセチノが銃剣の光を帯びた細い刃でモトキと同じように稲妻の1つを斬り伏せる
続き迫る青き稲妻へ、刃の光を解除させながら引き金に指をかけるが、変更
背後にいるモトキの右肩を掴み、抱き寄せると彼女は稲妻とセニーに背を向ける
庇うとかそういった優しさではない。無数の黒羽根が現れ、彼女の背に象すら優に包めそうな翼を生やす
それは黒羽根の集合体が、翼を形つくっているだけ
「任せます」
「よし、素直でよろしい」
黒き翼は優しく包み込むようだが、閉じる拍子に暴風が吹き荒れる。翼は二週してモトキとチセチノの2人を包んだ
砂煙、瓦礫や細かな破片が舞う中で翼は青い稲妻達から身を守ってくれるが、モトキから見えるチセチノの顔は少し歪み、それに比例を超えた汗量が顔より滲み流れていく
モトキは、今すぐに心配の声をかけたり、飛び出してセニーを攻撃したり、稲妻を自分もどうにかすべきと考えたが、甘えなのか彼女を信じる
黒羽根が散る、青い稲妻による攻撃を防ぐ度に
黒い翼には青く光る焦げ跡に、そこから同じ色の煙が昇っていた
脱ぎ捨てるように、背から落ちる黒き翼が薄れ消え始める
モトキは礼を述べ、ここからどう次に移るか取り敢えず一瞬だけ頭に描こうとした時だった。見視できないスピードで飛んできた全体を振動させているメイスがチセチノの背部に直撃
「ぐぅっ!!」
目と鼻から垂れ飛び散り、口から吐き出された血はモトキを汚し、瞳は白を向きながら彼へ倒れかかるはずだったが、踏み込み堪えた
背から落ちたメイスは、地を揺らし、響かせる
「大丈夫、心配ご無用だから」とモトキに言い聞かせ、睨みをきかせながらメイスが飛んできた方向を振り向く
蹴り落とされたノプタスが、猪突猛進に足を地に一歩も着けず、一蹴りで距離を詰めてきた
続き上空からゆっくりと降下してきていたセニーもまた、こちらへ急降下を開始
モトキは自然に、判断を先越してチセチノを跳び越え前へと出る
左手に両手剣、右手に盾を
(どちらから先に着く、どちらを優先すべきか、今は考察するにも無駄だな)
ほぼ、同時であった
右足に発生させた振動を帯びる蹴りと、鎧を纏う身体右半身を先端に突撃
足底より緩やかな風を生ませ、左手に握る剣に光を集めてから縦に振りると地を裂き、光の斬撃を飛ばす
暴風と化した風を生む蹴りは、振動を帯びる蹴りを迎え撃つ
「はぁっ!・・・なんちて」
勢い余った声を途切れさせ、鎧部に青い光を発光させながら突撃迫っていた彼女は突如体を地に叩きつけると地中へ潜ってしまった
現れたのは真後ろ、モトキの咄嗟による剣の突きと銃口の板挟みになるも余裕のある顔の現れは崩さず、右手で底掌を放ち青い光とその衝撃でチセチノを吹き飛ばす
纏う鎧から触手のように伸びた幾多もの棘がモトキの剣を握る左腕と身体を貫いた
その直後、ノプタスの蹴りが炸裂する。接触してから、押し付けるようにして、空間にも振動が伝わり始めた瞬間に蹴り押し切る
何かに攫われたかのように、モトキは姿を消したがそう遠くまではいかなかった
セニーがモトキを躱してすぐに足と指先を立て、貫かれたりした箇所等から赤い液体を噴き出させ、滲ませながらブレーキをかけ停止
(ってぇ!ついさっきより、前にやられた足部分が特に。膝をついて命乞い態勢になってしまいそうだ)
ノプタスの蹴りを受けることになってしまうのはわかっていた
これが正しかったなんてどうでもいい、死んでいない。どちらかの対処を怠るなら、断然に彼の方
ノプタスからの蹴りをくらうことによって、セニーからの追撃を止めれたと良い風に捉えよう
ノプタスは今の一撃で死ぬか、立てなくなる程になっておらず舌打ちを漏らす
セニーはなんとなく察した。一度ノプタスを尻目に、次に気を失っているモトキにより捕らえられた男へ青い光を送り、膨らみ始めたと思われたがすぐに爆散してしまった
「んなっ!」
「これでいいの、遅かれ早かれ・・・」
男がいた場所には青い煙だけ、まさしく跡形も無く
モトキの息は乱れ、苦しそうだ。体力的な疲労と違い、全身から容赦なく走る傷口からの激痛によるもの
セニーは、そんなモトキに近づきそっと触れようとする。しかし、大きな気配の異変を感じ取り、突然跳び上がった彼女の後方その先で、ノプタスが手に戻ったメイスを振り落とした
一回の地鳴り、落とされたメイスにより地は叩き割られ、大気に生じた激しい振動は前方へ規模が広がっていき、空間を伝い迫る
「ちぃ・・・っ!」
瓦礫や破片、セニーの鎧により貫通させられた傷口の箇所から血が少量だが噴き出す
一歩踏み出そうとした足は少しフラつき、バランスを崩してしまいそうになるが歯を噛み締め、大きめの音を立てる一歩を
その場に立ち尽くし、盾を持たず右手を突き出し剣を構えた
ふと、自分の肩に誰かが手を置く。その正体は口筋から血を垂らし、右脇腹を手で押さえつけているチセチノであった
右脇腹を押さえていたその手で、上に着るボロボロになったエモンと同じジャケットを破り脱ぎ捨てる
現れた銃剣の銃口を前方へ、引き金にかけられた指は2本。彼女の人さし指とモトキの人さし指
音は出ず、無数の黒羽根を撒き散らせながら、それぞれ2つの光が込められ作られた弾丸が発射され、尾を引く2色の光の軌道は捻れ螺旋となり、大気を伝わり迫りくる振動の壁に着弾
着弾した瞬間、2色の光は膨大化し球状の渦となると振動を閉じ籠め、絡みつくかのように巻き込む
「くそぉっ!」
リセット、それで表すのが正しい
降る黒羽根が出迎えてくれる再スタート
「やるじゃぁなぁい・・・こういうの好き」
「感心すんじゃねぇ!このアマ!」
ノプタスの頭上に立つセニーは、いつか真似てニハ隊長と今の姿をしてみたくなっていた
でも銃は持たないので、指で試してみようと考える
指をピストルとして構えるニハに、自分の手は添え握り、2本の指先は同じ方向へ
妄想してたら、足を掴まれ放り投げられてしまう
「あれぇ?」
投げられたが、足を屈み回転しながら着地。指には1本の黒羽根が挟まれていた
それを使い自らの顔を擽り、息を吹きかけ指から飛び立たせる。黒羽根はセニーの手に二度と戻ることはない
彼女は姿を消し、そしてノプタスの頭を踏みつけてから細い一筋の青い光と化す
目で追えぬ速度でチセチノの目前にまで着き、一筋の青い光はセニーとなり現れた。青い光を空間の切れ目と例え、そこから飛び出したかのように
「目的者は1人!この場にあんたは必要ない!」
鎧の纏う指全てから音を鳴らし、5本の指先を立てると突く。チセチノはその突きへ咄嗟の膝蹴り
鈍く金属が砕けるに似た音が響く。膝は突き放たれた手に止められているが、彼女の手に持つ銃剣の刃が鎧を纏わない首の左側を捉えていた
セニーの背後から、モトキが剣を左斜め上から剣を振り落とす
しかし、右肩辺りから首を覆う黒ずんだ鎧から青い光が漏れ、次の瞬間弾けた
破片は前後2人の腹部や胸部等に撃ち込まれ、殴られたとは比べものにならない重撃。破片1つから青い光による強大なエネルギーが爆発する
青い爆煙の中、伸ばした左腕はチセチノの胸倉を掴み、鎧を纏う右拳を腹部へ一撃。胸倉を掴む手を離し、地に落ちる寸前に、頭部へ硬い地と挟むようにもう一撃
陥没した地に、チセチノが横たわる
「これで、じっくり・・・」
弾け飛んだ一部の鎧は戻り、右腕を薙ぎ払うと青い爆煙を掻き消した
片膝をつきながら咳き込むモトキに狙いを定め、走り出す
右腕の鎧が変形。腕周りを囲う5本の刃が現れ、同時に地を踏み跳びかかることで間合いを詰めてきた
モトキは冷静であった。横たわるチセチノを前に取り乱さず、短い間に深く息を吐き、刃を剣で防いだ
セニーは顔へ蹴りを入れようとするが、彼の剣より伝わる凄まじい力が腕を囲う刃を砕き、再び剣のフェラー部で蹴りによる攻撃を防御
この蹴りを放ち、防いだ隙間、モトキは右の親指、人さし指、中指の先端に光を
光を帯びた三指一点、腕と肩の繋ぎ目辺りを突き、鎧は砕け穴を空ける
「お肌までギリギリだけどちょっと痛い!」
鎧の一部を砕き、穴を空けれはしたがダメージは皆無
突かれたタイミングとほぼ同時に、彼女は右手の指先を尖らせ、右腕全体を纏う鎧から青い光を漏らし引っ掻くというよりは肉を深く削ぎ取る動き
その手に、モトキの光を握った右拳が迎え撃つ
白と青の光が激突時の衝撃で、それぞれの小さな稲妻が接触部から生じ始めた直後、モトキの頭部目掛けノプタスがメイスを振り殴ってきた
彼が仕掛けてきたのは知っていた。左手の甲を振られたメイスへ向け撃ち防ぐが、ノプタスはメイスを離し、振動を帯びた右足底でモトキの左脇腹へ勢い任せの蹴りを放った
蹴りと振動のエネルギーにより、体が吹き飛びそうになるもさせないとセニーは鎧の手甲から円柱状のものを形成し、淡い青い光を漂わらせてから棍棒で殴る要領で腹部に叩きつける
地に叩きつけることで、無理矢理飛ばされていくのを阻止したのだ
「逃がさなぁーい!」
「協力みたいな形になっているのが気にいらねぇがよくやった」
叩きつけられ、弾んだ拍子に体勢を直すも再びノプタスがメイスを手に襲ってきた
足を踏み込み、その場に固定すると振動するメイスと左拳による猛攻
一撃一撃、乱暴だが的確に的を捉えている。モトキは慌て出現させた剣で捌き、防ぎ、流すも先程のセニーによるダメージが顔に現れる
それをした彼女本人が、ノプタスの背後より突如として跳び現れ、右の手甲から形成し伸ばしたスピアがモトキの右肩を貫く
この作られた一瞬、ノプタスはモトキの首の肉を摘み、振動を発生させ引き千切った。これは土に刺さった棒を引き抜く際、なかなか抜けない時に左右に動かしてみるのと同じ行為
次にノプタスはメイスで彼の頭部を殴り、続けて振動する左拳を連続で胴体に撃ち込んだ後、とりあえず手当たり次第にメイスと左拳で滅多撃ち
頭部を重点に、ただ暴力の連続
「くたばれ!くたばれっ!自分の血の臭いすら嗅げなくしてやる!」
ノプタスの顔が笑みで引きつり始めたところで、セニーは邪魔だと彼を蹴り退かす
血濡れたモトキに鎧を展開した右手を向けるが反応なし、沈黙と一間置いてから青く放射状に放たれた衝撃を炸裂させた
遅れて音が襲い、ドヤ顔の彼女の前に残るのはモトキが立っていた場所に落ちる両手剣と血痕
「おかしな虚無感・・・」
終わってみると物足りなさがある
セニーは残されたモトキの剣を拾うが、予想より重い。持っていても、せいぜい入ってきた戦闘経験が無く、武器すら持たない新人に渡すぐらいしか道が思いつかないので手から溢すように捨てた
ノプタスは横たわっていたチセチノの足首を掴み、引きずる
「その人どうする?晒し首にでも?趣味じゃないけど。着ていた上着からエモンが率いる聖帝都の部隊、参じる黒翼団の者ね」
「どこの誰だろうが知ったことじゃねぇ、手足を折って慰み物にしてやる」
「あっそ・・・」
王族貴族の遊覧船、商船、帝都等の鉄道を襲うことはあっても革命軍であることをいいことに、それを肩書きに下っ端みたいな奴らが頻繁に盗賊紛いに略奪を行ったり、人攫い、脅迫をするを目を瞑って許す真似はしたくない
好き勝手できると勘違いして名を利用したり、入ったのであればボスからの処断が待つ。そうなるなら、セニー自身がこの後、ノプタスを殺害しようと企む
「連れて帰るつもりだったのに、つい勢い余って仕留めてしまった。ボスへ報告して、ニハ隊長への謝罪の言葉を考えないと。生け捕りにしたらもっと褒めてくれるはずだったのに、せめて死体で・・・も?」
空が赤く濁った。しかしこれは異質な気配を感じ取ったせいで生じた精神への影響による幻
チセチノを引きずり、連れて行こうとするノプタスに気づいていないのか?と目で訴えるが彼は察することができずにいる
他にもう誰もいないはずだった、彼の背後に
息を呑む、視界も逸らさなかった。そのはずなのに、モトキの姿がそこに
別人と疑ってしまいそうな眼と気配、血の色をした煙が漂っている。最初からあったものと、自分達が負わせた傷が治癒の最中であった
「ノプタス!後ろ!」
遅すぎる、モトキにとっては
ジョルトブローの要領で、属性エネルギーも何も混じり気のない右拳のパワーだけでノプタスを殴り飛ばした
セニーは右の手甲に形成したスピアを伸ばし、突き刺そうとするも彼は右の掌へわざと貫かせ、掴むと黒ずんだ色のスピアを握り潰す
掌の鎧を展開し、青い光のビームを発射しようとするがこの隙に間合いを詰められ、拳が腹部にめり込んでいた
全身からの空気を吐く間もなく、跳ねて前宙から頭頂部への踵落とし。顔から叩きつけられ、彼女の体が跳ねたところを回し蹴りが胴体に
どこへ飛んでいったか、どこで停止したか、全く考えず、気に留めず。音だけが耳を突き抜ける
モトキの左手に剣が戻った
「ノヤローがっ!くたばってろ!」
振動を帯びたメイスを手に、モトキへ襲いかかるもこちらを睨む瞳に思わず臆してしまった
何を怖がっているんだとモトキに苛立ちをぶつけ、メイスを振り落とすも三日月状に振られた剣により切断されてしまう
次に下方からの右拳による殴り上げが胸部にヒットし、胸骨が砕ける音の直後、ノプタスの体は遥か上空へ
それに一瞬にして追いつき、空中で拘束されたノプタスへ光を纏った剣での斬りつけ、回転斬り、斬り上げ、突き刺し、右拳で殴り、蹴る等の連撃。ヒットした瞬間に空一面には何度も連続して閃光が走り、最後に真下へ向け剣を叩きつけ落とす
しかし、何も落ちてはこなかった
遅れて落ちてきたのはモトキだけ。地に指を立て、地鳴りと共に十の亀裂を生じさせる着地
「はぁ・・・っ!かぁ・・・っ!ゼェ・・・っ!」
荒く乱れた呼吸、吐く度に血のような色の煙を漏らす
気を失っているチセチノへ近づくが、途中でまだいる気配を掴み、獲物を見つけた獰猛な獣の眼でそちらへ司会を向けた
やはり、あまりにも明白な変化。威圧と殺気にセニーは「ひっ・・・!」と恐怖を目の当たりにした顔
彼女は恥も無く、自分の隊長の時と同じく、報告をする為に逃走
モトキは追いかけはしなかった




