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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 最初の片方
81/217

二つの影 歪みかけの光 9

街は奏でる。局地的に発生した、壁に反射を繰り返し弱くなっていく風の音で

太陽が昇り陽が射し込もうとも曇り空に支配されたかのような外は常日頃当たり前であり、負の感情ばかりが漂い、表のありふれた風景から一歩進むだけで信じられないほどに変色するこの別世界はどんな場所であろうとも境目はあるのだと教えられる

この場所にて革命軍に所属する2人にモトキとチセチノは遭遇し、今まさに次に戦闘開始されてもおかしくはない状況に立たされている。棚からぼた餅の扱いをされて


「セニー、お前はそこで石蹴りでもして遊んでろ。俺の邪魔をするんじゃねぇ」


「あんたが勝手に決めるな。それに石蹴りって、ノプタスが粉々にした壁の破片ぐらいしか・・・」


散らばるノプタスにより崩壊された壁の残骸。彼女は近くに転がる適当なそれらの破片をなんとなく、軽めに蹴ってみた

蹴った壁破片は別の壁に当たると埋まったりそのまま落ちて終わる事もなく、跳ね返り運悪くモトキの股間にヒット

モトキから痛みの叫びは絞り出されはしなかった。しようとも出ず、ようやく出たのが次の一言


「Damn it!」


「あ、ごめん」


蹲り震えながら微かな悶絶声、チセチノが両膝を地に付け優しく彼の背中を擦り撫でてあげる

セニーはつい反動で謝ってしまった


「でも、ノプタスの勝手に一理あるかも。あんただけで片付けてくれれば、本来の目的で戦闘が発生した場合の温存枠に私がなれる。ニハ隊長が持ち帰った情報相手で少々もったいなく感じるのは気のせいにしておこう」


「ボスと同じ力を持つ野郎を討ち取った手柄は独り占めになっちまうが?」


「いいよ、個人の活躍とか手柄よりもちゃんと遂行したらニハ隊長が褒めてくれるから。ボスよりニハ隊長に褒めてもらう方が嬉しい」


セニーは壁の破片を蹴り転がし、ノプタスと前後位置を入れ替わる

指の不規則な動き、関節の鳴る音、右手を手刀の形にして一瞬だけ挙動大きく縦振りすれば手品のように縁形のメイスが握られていた

メイスの柄頭からはうっすらと白煙が漂う


「知能があって喋るやつの肉って臭いよなぁ。こいつで殴って、こいつに肉片が着いたら臭いがしばらく染み付く・・・」


メイスを硬い足元に叩きつけ、無数の破片を舞い上がらせる。破片は落ちることなく、大小1つ1つの破片が滞空しながら痙攣を起こしたかのように細かく震えていた

とてつもなく、見てわかりやすい嫌な予感。モトキは右手で防御の体勢をとりながら左手に剣を出現させる


「戦争は好きだ。戦闘、食事、睡眠も大好きだぜ、俺はよぉ・・・」


何か言っているが、聞こえづらい。この隙にこちらから仕掛ける隙もない程、同時に振動する無数の破片が彼から前方へと一斉に攻撃を開始

モトキが即座に浮かんだ選択肢は盾から光のエネルギーを放出、剣で薙ぎ払う、そのままこの姿勢、気合いと頑張りで躱す

最後2つは即刻排除、剣で薙ぎ払うは全て捌き切るのは無理として自分の身は守れるが残りがチセチノと気を失っている男に行きそうだ


(即座に浮かんだ中で得策っぽいのは盾かなやっぱり、他に思いつかせようとする時間もなさそうだし。まずは見える、後ろにいる2人を優先にして周りへの被害は後回しに考えよう)


防御体勢の右腕を突き出しに盾を出現させようとした次の瞬間、割り込む形でチセチノが前へ

盾が手に握られた時、彼女の握られた左手が解かれ膨大な量の黒い羽根が風に流されるように舞い、前方空間を敷き詰める

黒い羽根は振動する破片1つ1つに何枚かがふわりと優しく受け止めたようにも見えるが軌道をズラし、なるべく上方へ流す

いくつかが壁や下に落ちる等、何かに激突して破壊音を響かせるがモトキ達には1つも当たらずに済んだ


「目に煩い対策法をしやがって。くだらねぇが、遠距離攻撃方法を小手調べ感覚でやった俺もくだらねぇ・・・やっぱり直接手に触れ、仕留めたり痛めつけた方が戦っている実感をより味見できて、ずっと小便を我慢しているかのような欲溜まりをちょっとずつ解放されていく。最後にお前らの肉や骨をぶち撒けるトドメでようやく解放されたスッキリ感が迎えに来てくれる。それが瞬間が堪らなくて、生物が時折抑えきれなくなる欲を満たすのに似てんだよ」


誰も聞く耳はあらず、ノプタス自身聞いてもらうつもりはない独り言

舞降る黒羽根の遮り壁が無意味となる先で、チセチノの手で向けられていたのは銃口

パーカッションロック式、銃身装着型のマスケット銃。装着されている剣は細長く銃口にまで先端が届く三角錐のスパイク型だが突き特化だけでなく、切断も難なく可能な形状


「Never good for you・・・!」


彼女は引き金を引く。撃鉄が作動して、ハンマーが雷管を叩いて発火させるがこの銃にある動作が起こっただけである

放つのは鉛玉ではなく光の属性エネルギーを弾丸として。装薬や弾丸を詰める必要もなく、精度や飛距離、視界の問題も起こらない。なので本来は彼女の銃では装填時間を考慮すれば不可能な連射も容易に可能であり、聞いたこともない連射音が聞けるのだ

悪く言えば見た目だけの好き、ロマン性に欠ける。だが言っていられない


「女ぁ・・・銃で銃弾、属性エネルギーを放ったりされるのは革命軍に身を置くせいで何度も撃ち込まれてきたぜ」


光は弾丸の形となり、回転を加え直進する弾道には黒羽根が吹き荒れ散っていく

ノプタスは避けず、メイスを振ろうとしたが気が変わり手で握り捕らえてしまった

光の弾丸を掴んだ拳は小刻みに震え、隙間から灰色の煙。開かれた手には、濃い橙色の塗りたくられたかのような痕


「調子こいて、この身に撃ち込んでみろをしていたら無事じゃなかったかもな」


破片を防ぎ軌道をズラす為、光の弾道を示す、それらにより舞う黒羽根を男が払い除ける前に、相手側付近を含めた全てが一時の幻如く消えた

行き場を失った手、このまま収めるのも嫌なので俊速の押し突き

空間の激しい振動、視界の揺れ、周りの被害など御構い無しに崩壊させていく

後ろでセニーが「あの店を壊したらチョップだから、首チョップ」と怒っていた

チセチノはモトキと気絶する男のことを考え、どう対処すべきかを考え、とりあえず銃剣で防御をとるがあまり意味はなさそうだと正直な気持ち


「1人で無茶をしないでください」


彼女を跳び越え、着地の際に両手剣を地に突き刺す。着地の衝撃でモトキの周りに生じた亀裂の直後に前方に光が噴き出し、空間を伝い迫る振動による歪みを防ぐ

一瞬だけ、モトキの光が大きく振動した

光との衝突、振動でエネルギーが拡散され液体が飛び散ったかのような光弾が路地裏世界の道となる挟む建物や壁裏の崩壊する

打ち消されるまでの発生なので広範囲の被害までは起きず、上空から見ればそこ周りだけが建物が崩壊した場所


「チセチノさん、流れ弾は大丈夫でしたか?」


「随分と軽めな口調なのは、私を信じているからと取ってもいいのかしら?」


自分の上空を通過した時、彼女は察して距離を取っていた。着地の際の衝撃に巻き込まれないように

彼女の横にはもたれながら気絶する男がいるが、そいつにも奇跡的に当たらず。いや、奇跡とするには序の口すぎる

チセチノの足元に、わずかな黒羽根が風に身を任せ弱々しく舞っていた。流れ弾が来た際に、対処するつもりでいたのだろう


「信じてますよ。革命軍との話に横から口出しせず、最後まで俺に任せてくれたので」


「そう・・・」


わずかな黒羽根は再び消え、突然に銃剣を上空へ高く投げてから歩みだす

到着はモトキの横へ並ぶ位置。その場に着くタイミングで先程投げた銃剣が落ちてきたのでそれを右手で受け取り、構えず前へ銃口を向け、引き金に指を


「でも私に無茶をするなって出たけど、まだまだ無茶には到達してない。あそこ、私を信じてくれてもよかったのでは?」


「そうですか、面目ありません。ですけど助けるに確認はしませんよ」


セニーは2人を見て「やっぱり私達も2人がかりで遊んでみる?」と提案するが、案の定断られてしまう

物凄く、いつも以上に不機嫌そうな苛立ちの混じる口調で

ほんの瞬きすれば見逃しそうなほどの一瞬だけ、ノプタスの後ろで彼女が殺意に満ちた険しい顔をしたのをモトキは見逃さなかった

自身もまた険しい顔をする。自分達に投げられた殺意とは違う

「黙って観戦してろ!」と大きめの声で、だがノプタスは向けられた視線に気づいてはいなかった


「おい・・・お前ら、被害が深刻になったとて、俺に文句はごめんだ。お前がいたおかげだからな。なぁ・・・?」


ぶらんと力なく、だがしっかりと握られたメイス。それを手に、あえてゆっくりと近づき始めた

モトキのせいにしようといった揺さぶりをするが、正論っぽい核心をつかれ、そうかもしれないといった戸惑いを見せず、そもそも聞こえてすらいなさそうである


「このまま止まっていればあのメイスの餌食になるだけですね、調理前の下準備に叩いて柔らかくされる肉のようになっているわけにはいきませんから。相手は拒否されましたが、こちらは2人がかりでOKですか?」


「相手は1人で戦うつもりなのに、決闘を望んでないなら遠慮なく2人がかりでいきましょう」


引き金を引いた。向けていた銃口より弾丸が発射され、弾道は大きく右へ曲がり相手の右側頭部へと撃ち込む

今度は光によるものではなく風の属性エネルギーがはっきりと明るい緑の弾丸となり、回転によりドリルのような螺旋が側頭部を貫こうとするが振り上げられたメイスを叩きつけられ、激しく細かな振動を起こし砕け散る


「っんぅ!!」


振り上げたメイスをそのまま投げつけてきた。ほぼ同時にモトキは踏み出しており、ノプタスとの距離を詰めようとしながら、突如投げられたメイスに剣の突きを放つ


「そんなもの無視して、もっと近づいて来てもいいんだぜっ!」


相手も駆け出し、瞬時にして投げたメイスに追いつくとそれを掴み、剣の刀身を掌底で押すことで突きの軌道を変えながらモトキの胸部目掛け薙ぎ払う

咄嗟に盾を右手に出現させ右からくるメイスの一撃防ぎ、攻撃した直後の隙を狙い軌道を変えられた剣で斬りつけようと企んだ時には全身に凄まじ振動が襲い、体は吹き飛んでしまっていた

吹き飛んですぐ、遠くへ飛んでいく前に、ノプタスは手を伸ばしてモトキ顔を掴むことで頭を硬い地に打ち付ける

叩きつけられた場所から中心に広範囲に渡り陥没と波打つ亀裂が刻まれていき激しく揺れ、続いてモトキの腹部に振動する拳を落とす


「ボスと同じ力を使ってみろ!治るだろぉーがっ!」


治す必要はまだない。拳は到達しておらず、モトキの左右の手がそれぞれ拳を受け止め、片方は手首を掴んでいた

しかし振動のダメージは到達しており、腹部から全身への衝撃で胃から色々出てきてしまいそうである


(治るだろ・・・か)


もう片方の手に握るメイスが振り下ろされた

モトキは抵抗する動きを見せず、少し警戒はしたが気にしすぎはやめて顔をトマトを潰した後のまな板の光景にしてやろうと一撃を


「させるかっ!」


メイスを握る手の動きが止まり、モトキの視界からノプタスは消えチセチノだけに

モトキにその一部始終は映った。メイスを振り下ろし届く寸前でチセチノによる飛び蹴り、右の足底は右頰との接触時に黒羽根を散らす

「うぼっ!」の声が遅れて届いた。一度跳ねはしたが全ての指を地に立てブレーキ

拍手の音もした、セニーによる賞賛の拍手ではなく笑い転げたくてしょうがない拍手


「あんたグッドな蹴りをするね。首の骨が折ってくれてたら尚良しだったのに」


彼女に大きめの瓦礫が飛んできたが、中指のデコピンで粉々に粉砕されてしまう。睨みつけるノプタスに顔も向けず、瓦礫を投げつけると同時に発砲音がしたチセチノの方へ

ノプタスはセニーを睨みつけたまま、しつこそうに対処する。一瞬すら与えない光の弾丸を指で掴み、指先からの挟む圧で潰してしまった


「モトキ君、眠たくなったのかしら?」


「いいえ、別に・・・」


まだ仰向けに倒れていたが、身体を起こし髪に付いた破片を払い落とす

顔に貼ってあったガーゼや包帯はとっくに薄汚くなり、取れかけていたので全て引っ張り剥がして下の傷口に触れてみたが、やはり治癒は始まってはいなかった

メイスを振り落とされる寸前、諦めて黙り込んでいたわけでも、眠たくなりボーっとしてしまっていたり、恐怖や痛みで動けなくなっていたのでもなく、チセチノが割って入らなくとも大丈夫なつもりだったのだが、そう思うことすら失礼である

お礼はきちんと言わないと


「どういたしまして・・・」


肩や背中部位に着く砂塵汚れを彼女は払い落とす

背中を叩かれ、気合いを注入してくれたような気がした。淡く白いオーラが両手剣から、全身へ

ここから大きく戦局の流れが変わりそうだと、セニーはそう確信していた

自身の意思とは関係なく、自然と戦意が溢れてしまったのでノプタスが「おいっ」と一声かける


「お前邪魔すんなよ!あんなカス共、俺の遇らうレベルの手だけで事足りる」


「はたして、そうはいくかしら?」


こちらを向かれてノプタスにバレないよう、こっそりと笑う

変化した戦局の空気が嬉しいのではなく、さっきの蹴りによる一撃を受けてしまったらなら次はこいつにどんな攻撃を受けて焦り、余裕がなくなり、喉が潰れる程の叫び、こちらに手を貸せと言ってくれることを想像すると笑いがこみ上げてきたのだ

そうなることを期待しながら、彼に一言


「ここからは協力でもしてみる?」


「断る!」


左拳を握り締め、振動を帯びさせる。それを前方へ着き放ち、再び空間へと振動を走らせ攻撃しようとした次の瞬間、細め生意気に睨む目をしたモトキが離れた距離から一瞬にして間合いを詰めてきた

光の属性エネルギーを握った右拳をノプタスの右頰へめり込ませる


「っぶ!」


殴られた直後、光の衝撃が発生しノプタスがこちらにとんできたのでセニーは受け止めてあげるつもりはなく、ひょいと躱す

遠くで落ち、転がるも体勢を整え立ち上がった彼に「油断したなっ!」と声を掛けると「うるせぇっ!」が返ってきた


(流れを変えられそうだ。あのあまに言われなくとも、油断で招いたぐらいわかってんだよっ!)


メイスを手に、獣の突進の如く猛スピード走り迫ってきた。モトキは剣だけを左手にこちらからも距離を無くす

激突する寸前で振り落とされるメイスに、剣は下から斬り上げられた


(手首を叩いたら脆く手から落ちそうな気の抜ける剣など、メイスからで弾き飛ばしてやるぜ!剣が手から離れたところを胴なり胸なりに俺の手を突き刺さし、内部から振動を発生させ肉と繊維組織までズタズタにしてやる。治癒されようがされまいが死ぬまで繰り返して、ついでに苦痛に歪み喉が機能しなくなるぐらい叫ぶなら、泣こうが顔を殴ってやるからな!)


強気であった。手から剣を落とさせるなど容易く、こいつよりパワーは優っている自信

次の瞬間には己の手がモトキの肉を貫き、体内で振動を生ませ内部よりの破壊。ズタボロになるか、耐えれず木っ端微塵になるかは結果次第

心臓を直接握り、じっくり顔をひきつらせ命乞いをさせ、爪を立て食い込ませでもして、潰すのものもありだなとこの後の光景を思い描く


「ぬぅあぁっ!」


腹から捻り出す声はより力を増幅させる

先に述べた考慮の他に剣刃が砕け、剣を持つ腕が折れる結果もありえるがどの道、次の行動への影響に大差は無く済むはずである

振り下ろしたメイスは、下から斬りあげられる剣刃に接触した瞬間に小さな稲妻状の閃光を生む。この勢いのまま、押し切るだけ

しかし、これ以上メイスが進まずにいた。それどころか下からくる強大な重さは自身の手からメイスを弾き飛ばす

モトキの眼はこちらをしっかり捉えており、振り上げた剣を引き、突きの姿勢へ


(この一閃で・・・)


優しい風が突きの一閃開始と共に剣を包む。剣先から空間を放射状にこじ開けるかのように空気の流れが生まれ、優しく穏やかであった風は荒々しい顔へと変貌してしまいノプタスの胸部に到達

最早剣先は肉をほんの極小だが裂き始めており、あとはただ風の力で威力と突破力、殲滅力が増した刀身を押し込み胸を貫くだけ


「し・・・っ!」


「しまった!」とでも言うつもりだったのだろうか?まずい、死ぬ、嫌だとノプタスの脳内に散らかりながら駆け巡るがもう遅い。走馬灯すら現れず、何もできないで終わってしまう

だが、モトキとノプタスの視点は別だが同じ浮かぶものとは違った結果が訪れた

剣が貫くよりも一瞬先、モトキの身体前半分全身に自分の身の丈を優に超えるハンマーの面で殴られたかのようなとてつもなく重い衝撃が走る

胸部と腹部のちょうど間、そこから重点に何かを撃ち込まれた感触が残っており、体は反対方向へと吹き飛ばされてしまったがチセチノが無数の黒羽根を出現させクッションと同じ役割とさせながら自身の手で受け止めてくれた


「うわぁ・・・!助ける形になっちゃった!これから先はあんたの窮地を救った勲章が自分の中で貼り付くのか。反動でやってしまった、ニハ隊長を敬う同士による染み付いた補助や連携戦闘のせいで」


「だったら余計なことすんな!うぜぇっ!勲章にすんな!噛んだガムでも包んで捨てやがれ!」


だったら倒された方がマシ、それも嫌である

一応の礼も口にせず、微塵も救われたことに感謝はしていない

対してモトキは受け止めてくれた黒羽根とチセチノの手に包まれるのが心地よく、もう少しこのままでいたかったがそうもいかず、咄嗟に目で拾える情報を集める

セニーはほとんど全裸であった。右側と胸、腰回りにほんの僅かだけ残る着ていた服の生地だけは確認できるが、右腕の袖部分からは別物、硬化したとも言うべき黒ずんだ鎧へと変化していた

雑に鉄屑を繋げたかのような、右腕から伸びる先端が四角の断面となっており、あれをモトキに叩き込んだのだろう

モトキには似たようなものに見覚えがある。ニハがやっていたものと似ているのだ


「ニハ隊長があんた如きに負けるはずないにしろ、興味を移し持ち帰った情報の本人だけはあるかも・・・」


彼女の右腕から右胸部に届いているかいないかの曖昧な辺りまで覆う黒ずんだ鎧は弾け飛び、一時停滞をしてから全身の肌へ貼り付き、衣服へと戻る

その前で苛つくノプタスは物に当たろうにも戦艦内では腐るほどある椅子もテーブルといった普段近くにある物がないので、詰まる小さな唸り声を歯の隙間から漏らしながら頭を掻き毟るだけ

そんな同じ革命軍なのに状況など互いに興味も心配もなく、セニーは髪に数本の黒羽根が絡まっているモトキにだけ眼差しを。ノプタスなど透けて見えている


「あんた初めから、革命軍だとわかってからも恐怖や何をされるかの未知に怯えた瞳孔の揺れや縮小の変化も起きず・・・私達の前日にもっと怖いやつにでもこんにちはした?」


自覚はなかった、もしかしたらしたくなかったのかもしれない。相手へのと、戦闘する恐怖が微塵も湧かずにいる自分自身に

それは、己に眠っていた力のせいで本能に影響をきたしているのか、それともジョーカーと対面して日の経過が短すぎたせいなのだろうか


「したさ、ものすごいやつと。圧倒的すぎて怖さや、そいつからの底なし沼みたいな邪悪と自分への情けなさへの憤怒もそいつを前にしてありはしたけど、それ以上に惹かれる魅力を目の当たりにした。ほんのちょっと耳にした覚えのある噂と違って、連れていた部下達への接し方、他者を敬える確かな暖かさがそいつにはあった。恐ろしさを改めて実感したのは終わってからだったな」


「ものすごいやつか、街にいながら・・・最近だと約1名だけ頭に現れている。もしかして、ジョーカー?あんた、ジョーカーと戦ったの?」


モトキは無言のまま、ゆっくり頷くだけ

ゾクリと、セニーの背筋に寒気ではなく熱いものが走り通った。遅いリズムの拍手を始め、独りでにわざとらしく大きめの声量で笑う


「棚ぼたの中から金塊とはこのこと!」


「金塊?なにがだ?」


「あんたが!」


着ていた全身の服が弾け飛ぶ。それらを滞空させ、右腕と肩の繋ぎ目から鎧として再度戦闘形態の姿へ

やはり黒ずんだ鎧は殆どが身体の右側に集中しており、局部等は最低限のギリギリである


「ニハ隊長の話していた相手、ノプタスが敗ければ私がぶち殺すつもりでいたけど変更する!独断も含め、あんたの手足もぎ取ってでも、連れて帰るから!」


変貌した。気のせいで元から大して変わってないかもしれないが声のトーンは明らかに違う

鎧纏う右掌からは目にしたことある青い光が漏れており、モトキの本能が身構えさせた


「おいこら!邪魔するなと言っただろぉが!お前から先にその頭を潰し無くしてやろうか!」


「うるさい!もう、先にあんたを戦わせてからの見学はやめる!ここからはなんでもあり!協力も早い者勝ちも!」


ドスのきいた声で「んだとっ!?」と叫び、彼女の胸倉を掴むが返しに頭突きをされてしまった

一発だけかと思ったが、何度も

少し満足気な表情をする彼女の後ろで、鼻血を拭う


「確かな暖かさ・・・あのジョーカーに・・・」


「暖かさだと!?あり得ねぇ!あり得ねぇだろ!部下への優しさ!?他者への敬い!?あんなの表向きの嘘に決まっている!」


「嘘じゃない!」と、何故かモトキが否定した。自分でも、つい怒鳴り気味になってしまったのか理解できず、自然と出た自分の言葉に首を傾げそうで、口を閉じて黙ってしまう

ノプタスは先程までの経過での姿から、より増して苛立っている。もはや拒絶反応に近い


「こいつ、ただでさえ沸点低いのにジョーカーが話題に上がったり名前が出てくると更に沸騰点が低くなるから」


彼はジョーカーが現れ、戦闘を行ったはずなのに街の被害がこの程度で済んでいる事態に納得できずにいる。まだジョーカーが現れた事を信じ切れてはいないが、もしかすれば本当の可能性もあるので今回の任務に同行した

かつて目撃したジョーカーの残酷性、残虐性、狂気性の姿、あれが脳裏に焼印として押され記憶に傷として残っているのだ。ジョーカーの名を耳にしただけで、あの場面がしつこく浮かんでしまう


「ジョーカーは俺がいずれ討ち取ってやらぁっ!その前に!やつの気まぐれ、それとも痛み分けまで持ち込めたかどうか関係なく、ジョーカーを前に、戦って生き残れたお前を倒す!」


殆どジョーカーと戦っていたのはタイガなのだが、それに生き残れたのではなく見逃された感がある

一回だけの出会いであったが、本当に掴めない者だった


「倒すのはいいけど殺したらあんたの息の根も止めるから。動けなくなり、虫の息に抑えること。あの女はどうなってもOKかな。調査対象となるジョーカーと戦った相手にボスと同じ力を持つ者、プレゼントのワインを買ったら素敵なグラスも付いてきたみたいな・・・」


ノプタスは元より、連れて帰るつもりであるはずのセニーからの殺気が異常であり、彼女の周りから空間が一度だけ波打つ

モトキは左手に握る剣の刃を右手の盾面に当て引き、火花を散らしてから剣先を相手に向けた

両者の間に、現れチラつく黒羽根はやがて優しい風の渦に乗り、やがて黒き竜巻と化す

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