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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
一般とFifthと
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寒気嘆く白き橋にて 2

モトキと別れてしばらくのタイガは、この時間帯は人通りのない外廊下をただ歩む。

目的はなく、とりあえず散歩がてらのつもり。

天井には灯りが並び吊るされ、右側は壁で、左側の並ぶ半長円の窓からは、夜空の星々により嫌気を感じさせない景色となっていた。

行き着く目的地はモトキがいる寮。暇なのである。

他の生徒とは違い、自分のような立場の生徒は分けられてしまうので、わざわざ無駄に歩数を経て赴かなければならない。


「コーヒー豆でも土産に持ってくべきだったか?」


ふと呟いた時、人の気配を察した。

向かいより来るのは数人。1人の女性が先頭に、その後ろを何人かがついてくる形で。

後につく方々も皆女性である。タイガは内心、話かけてくるなよと願いながら普段と変わらない顔で、何食わぬ顔で過ぎ去ろうとした時。


「・・・待ちなさいタイガ」


すれ違いざま、やはりであったが、止められた。

勘弁してくれよと訴える顔をしながら、先頭にいた女性の方を振り向く。


「穏便に済むよう頼む」


その言葉ですら、彼女は少しイラっとした。

タイガはもう面倒くさいが滲みに滲み出た顔をしており、彼女は思わず「なによその顔は!?」と頬を千切るつもりで抓りたい気持ちもあったが、同じ土俵同士、事を頻繁に荒立てるべきではない。


「あんた、この前の騒動を鎮圧したそうじゃない?聖帝様からの呼び出しには行かずに・・・」


あぁ、そういえば、そんな適当な理由をつけたなと思い出す。

行っても挨拶と、他の帝らの長話と、長居させられてしまうだけなので、この前の一件を後から参じなかった理由として使わせてもらったのだ。

あの襲撃は、タイガにとっては棚からぼた餅だったのである。


「あまり調子づかないことね。露骨なアピールは、下々からは敬われるけど・・・」


嫌味なのか、注意なのか、どちらもだろう。

「放っておけないだろ」と正義ぶった一言でも返したいものだが、長引く危険性があるのでダルそうな息を吐くことも抑えながら「すまない」と、一言だけ。

それだけを発し、去ろうとするが、彼女はそうもいかない。


「あんた1人で収束させたんじゃあ、ないでしょ?」


足が止まった。それに答えるより先に、威圧を出しながら振り帰る。

大きな隠し事は得意な方だが、そこまでな隠し事をするのは得意ではない自覚がタイガにはあるので、悟られないよう振る舞うことはせず、彼女のことはあまり好ましく思ってはいないので、威嚇のつもりで威圧を空気に混じり放つ。


「ならば、どうする?」


彼女のつれている取り巻き達は息を呑んだが、虎の威を借る狐なのか、この方がいるから安心していいとすぐに後ろの方で冷静さを取り戻した。


「意外ね・・・あんた、誰かと供にするような人じゃなかったわけだし」


「俺にも関わりぐらいはある」


露骨に嫌な顔をしながらの返答にイラっとしながらも、彼女は続ける。


「手が足りなかったのかしら?それもそうね、あんたも一応はあたしと同じ位にいたとしても、最下だから猫の手も借りるしかないほどに手こずったわけ?」


彼女のとりまきの誰かがクスクスと笑い始め、それに連鎖するように他の者らも馬鹿にするように笑い出す。


「それだけか?単に嫌味を言いたいだけなら、それでけっこう。もういいか?」


ただでさえ仲が悪い同士であり、タイガの本心は、なにはともあれ戦闘開始といきたいところだが、ここで争うつもりはないので一言ぐらい言い返すこともなく去ろうとした。


「いいのかしら?こうしてる間にも、あんたがつるんだ相手を探りに向かわせているのよ。この娘達の中には、現場を目撃していた娘がもちろんいる・・・」


それをして何になる?あいつはまだ、一般の生徒でしかない。

タイガは、呆れた溜め息を吐く。


「そいつ調べ、探ったとてどうする?Master The Order様ともあろう方が、生徒1人に気をかけるのか?怖気を覚えているんじゃないのか?仮に俺が最下だとしても、足並み揃えて戦えたそいつに」


図星であろうとなかろうと、それでカチンときたわけではない。ただ、タイガの態度に腹が立ち、彼女の口角が僅かに引き攣った。

彼女の全身から白いオーラが漂い始め、ついムキになる。


「あんたがそいつをどう思っているかなんて、心底どうでもいいけど!その男の身に何か遭った場合に、あんたの動き次第では使いようね・・・!」


「使いよう?お前のそいつらみたいな取り巻きに加えて、俺を孤立させるつもりか?それとも・・・」


「どうかしらねー?」


こいつ、モトキをどうするつもりだ?

あいつは兄の親友であり、兄が確かに存在した数少ない証拠となる存在だ。

それに、過去にモトキの夢を聞いた際、その志は、自分の目的とほぼ同じものであった。

それの邪魔となるならば容赦はしないと、タイガから赤いオーラが発せられ、彼女の白とぶつかり合い、学園全体を揺らし、一触即発の雰囲気となる。


「ミナール様!」


彼女の取り巻きの1人が、焦り慌てた声で名前を呼んだ。

それにより全身から漏れていた彼女のオーラは鎮まり、タイガもまた抑える。


「ふん・・・!今ここで決しても、学園を壊して立っていたあたしが裁かれるだけね。それに、あんたみたいに戦闘意欲に溺れかけているわけでもないし・・・!」


睨みつけ、「行くわよ」と呟くと取り巻き達と共に彼女は背を向けて去って行った。

取り巻き達は、彼女の後について行きながらタイガへ舌を出したり、親指を下へ向けてバカにする。


「やれやれ・・・」


残されたタイガは、あのミナールといった女性とまたガキみたいに喧嘩してしまったと反省。

仲が悪いのは今に始まったことではなく、彼女だけではなく、他ともだいたいはこんなものだ。

それよりも、何故に彼女はモトキに興味を示したのかが引っかかる。

本当に危惧してこれ以上、自分らと同じ枠を増やされたくないのか。ただ単純にタイガが嫌いで、その友人や関係者も嫌いといういイチャモンだろうか。


「向かわせていると言っていたな、そういや」


モトキはモトキで、対応できるはずだと信じよう。

そして、その当人であるモトキはというと、学園寮の一室にて、そんな事があったと知るよしもなく、鼻歌交じりに歯をみがきながら、浴槽に湯が溜まるのを待って過ごしていた。

ベージュのソファーに仰向けに寝転がり、何もない天井をただ眺めながら丁寧に歯を磨き、そろそろ口を濯ぎ流そうと起き上がるタイミングで、ドアからのノック音とポスト口より何かが投入された音がした。

夕刊の時間でもないし、とってすらいない。

洗面所で歯磨きを終えてから確認に向かうと、そこには白の封筒がちょうど自分が普段履いている茶色の革靴に添えられるように乗っかっていた。

拾い上げ、優しく破くと中に入っていたのは1枚の便箋。


「俺に手紙を送るようなやつなんていたか?」


その場で目を通し、思わずその場で「え?」と漏らした。

可愛らしい便箋とは裏腹に、内容が少し脅迫な文である。

行くべき場所が指定されており、そこは偶然にも入学式の日に学園へ向かう際に迷い入った森となっている場所であった。

その森林内に建てられている橋を指定している。

正直、行きたくない。行きたくないけど、オーベールとタイガのことが書かれていた。

2人の名を知っており、ここへ手紙を届けたのは自分のことを監視でもしていたのだろうか。

何か恨みでも買ったのかと、最近や過去のことを思い出してみる。


「思い当たりも覚えもないぞ、ほんとなんだこれ?」


行くしかない。2人がまるで人質みたいだ。

タイガは大丈夫だとしても、オーベールを巻き込むわけにはいかない。


「これから普通にゆったりするつもりだったのになぁ・・・」


今夜は外の気温が低い。肌寒いだろうから、温かいコーヒーが飲みたくなってきたが、帰ってからにしよう。

黒いジレを白いシャツの上に着込み、部屋から出て、指定場所へ向かった。

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