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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 最初の片方
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二つの影 歪みかけの光 5

レンガを敷き詰め、白とうっすら黄土の濁りが入った土を流し込み、塗り固められた床。壁も似たような色である

木のテーブルが1つ、そこに並べられるモトキの所持品と衣服。布1枚だけを持たされ、それで身体を隠し隅っこに立たされる。床の冷たさが足裏からダイレクトに伝わり、一つ一つ検査される自分の衣服と荷物を目で追うばかり

エモンは豆大福とアップルパイが入った袋の中身だけを確認し、そっと己の足元に置く


「二袋の中身は菓子類だけ、薬も隠しておらずだ。ポケットだけにするな、シャツにジレ、スラックスにブーツ、下着の全てを入念に調べろ」


「はい!真剣に、目を光らせます!」


エモンは豆大福も、アップルパイも、目を通しただけでしっかり確認などしていない。適当である。何故ならモトキが持っていた物なのだから、こいつが薬に手を出す勇気は持ってないど分かり切っているからだ

真剣に、隅々まで検査する彼女を見習えとモトキはエモンに言いたい。財布の中、男が身につけていた物を躊躇いなく手で持つ

穿いていた下着を手にした時、ちょっと興奮しかけた自分を殴りたくなった


「怪しいもの、見当たりません。これ以上は私では見つけ切れないかと・・・人数を増やしてみては?」


「いや、終わりにしよう。こいつは本当に薬なり怪しいものを持っていなさそうだ」


衣服をまとめて、一塊にして投げ渡された。途中で全てが床に散らばり落ち、モトキはそれら衣服を拾おうとするが、彼女がせっせと拾い渡してくれた

礼を言うと、「見苦しいからはやく着て!」とそっぽを向く態度


「頑張って隠しながら迅速に着替えろー。お前の裸や陰部なんて、誰も見たくないからなー・・・」


今度お前が食べるこんにゃくに付ける味噌、あれに便器を拭いた雑巾の絞り汁でも入れ混ぜてやろうかと企む。企むだけで、実際はやらないが

モトキが着替えている最中、エモンは紙袋から豆大福の入った箱を取り出す。蓋を取り、1つ1つ紙で包装され並ぶ豆大福を1個手に

歯で包装する紙を噛み破り、食し始めた。モトキの衣服を持ってあげていた彼女は「え・・・っ!」と脳内整理がワンテンポ遅れる


「た、隊長!それ!た、食べちゃって!」


「いいんだよ、どうせ俺達への差し入れだから。お前も食べたかったら自由に、良い塩加減だ」


取り調べ相手が持っていた物をいきなり食べ始めたので困惑する彼女。モトキは最後に着るジレを離してもらえずにいた

「お茶が欲しい」と呟き、豆大福が入った箱全てを持ちながら足で扉を開け部屋を出て行く


「隊長さんを追わないのか?お前の分が無くなるぞ」


「くっ!そこまで食い意地に取り憑かれてない!私はまだ納得してないけど、隊長が取り調べ終わりと言ったからもうあなたは自由。乱暴に連れてきて、ごめんなさい・・・」


「いや、お前のやった行いは間違いじゃない。見て見ぬふりする馬鹿な憲兵よりずっと正しいさ。起こるより、未然に防ぐ方が良いに決まっている」


モトキなりのフォロー、謝る彼女が彼に向ける顔が少しだけ柔らかくなった気がした

これで終わり、で終わるはずがない。エモンのところへ行き、ちゃんと知り合いだと証明してからだ


「エモンの野郎・・・」


ひっそりと、独り言。モトキの独り言を聞こえはしたが聞き取れず、彼女は首を傾げる

モトキは彼女に、一緒に来てくれないかと頼んでみた。「理由は」と返され、最初から目的地はここであったこと、エモンとは知り合いで差し入れを持ってくる為に訪れるはずだったと

今からエモンを追うつもりだが、1人署内を探し回りウロウロしていれば怪しまれるので、また捕らえられる可能性がある。ならば自分を見張っていて欲しいと彼女にお願いする。見張りがいれば他から捕らえられることはないだろう


「あなたが隊長と知り合いねぇ・・・信じていいのかしら?嘘で、隊長のいる部屋に着いた瞬間に刺す真似なんてしたら塵にするわよ!」


「少しでも怪しいと思ったら追い出すなり、牢屋に逆戻りさせたり、最悪塵にするなり好きにしろ」


冗談のつもり、ではなさそうだ

彼女は「しょうがないね・・・」と、渋々承諾。そうと決まればエモンが仕事をする部屋へ

場所は知らないので、彼女に案内をしてもらう


「私が前なら、振り向きざまに首刎ねになるわね!」


「おとなしくしてるさ。また手錠をしてくれてもかまわないぞ」


彼女はモトキに手錠を掛けず、部屋の扉を開け、指でついて来なさいとサインを送る

あの長髪を追えばいいだけ、鳶にお使いの品を取られた同じぐらいの少女の為に3人で追いかけた時に比べれば簡単なことだ

机に置かれた財布を手に取り、できればこの部屋には二度と訪れたくないものだと思わず口から溢す


「隊長はどうせ、まとめるつもりのない書類に目を通しているわ。消えた憲兵の方達の親族への対応はジョーカーが関わったせいで、さすがにここだけだと無理があるからもっと上の人々がやってくれているけど、それでも全員の憲兵がいなくなったからしばらくの代理として穴を埋めるのに追われている」


「ジョーカー・・・」


昨日、間近で見てしまった1人である。憲兵達が積まれた死体の山、風に溶ける微かな鉄臭いにおい、助けを求めてるような生を失った濁り眼をたまたまこちらに向けている者、口から血が、目から雫が垂れていた者

どのような死に方をしていたか、思い出してもキリがない。その光景は、発火したドス黒い炎により骨も残されず終わる。一瞬であった

あれは許さないという怒りの感情が芽生える次元ではなかった


「本当に、ジョーカーが現れたのかしら?信じたくなくて、疑う自分がずっといる」


「急すぎたよな・・・」


先にモトキから部屋を出ると、扉の開く音と足音でジョーカー現れた現実を危惧し、上の空になりかけていた彼女は我に戻る。頬を少し赤らめ、落ち着かない若干慌てたような足取りでモトキを追い抜く

追い抜く時、ふわりと髪の匂いが鼻を掠めた

モトキの前に出ると、彼の腕を強めに握りはやく行こうと促す

顔を振り向き、合わせようとせず自分の腕を握り引っ張る姿に口元が緩み笑う


「この署で、街で、いつまで代理を勤めるつもりなんだ?」


「へ?あ!えと・・・上から新しく配属する警察等の準備、事態の落ち着きを待つまで約一月ぐらいを見積もっているわ。ジョーカーがまだ近くに潜んでいる可能性のある場所へ、警察や憲兵なんてほとんどが飛び込みたくないだろうから。今回の件もあって、たとえそれでも行きたいと望む人がいても、身内とかに泣きながら止められそう」


「それまで勤めるお前達も、大変だな」


「断ることもできたのに、隊長がよく出向く街だからって承ったから。私達も隊長についてきたの」


この人達もジョーカーが現れたこの街に、少しの間だが勤めるのに家族の反対はなかったのだろうか?

信頼、尊敬、自分とタイガが普段見てきたエモンからは想像できない顔が見れるような気がしてきた


「人気があまり感じれないわ、誰か訪ねてきたり助けを求めてきたらどうしよ。これも憲兵が全員が消えた支障かしら?隊全員でも、数に差があるから対応に限界を迎える日も遠くなさそう。そうなってほしくないわ・・・」


この街の治安は、他の都市、王都等と比べても余程悪いところでなければ違いはほとんど見当たらない。スラム化した地区も、マフィアやギャングがいると聞いた覚えもなく、それらが我が物顔で歩くといった日常に陥る心配も皆無である

だが、どの街にも、王都にも、裏で潜み、動くやつらはいるものだ。裏での商売世界、個人での働き、1つの組織化、巨大勢力となって町を裏で実質支配しているところもあると耳にしたことがある

タイガのにも敵側の新聞を仕入れたり、ジョーカーの書いた手紙といったもの等をコレクションにしたい貴族や王族に売る経路があるみたいだ


「大事はジョーカーだけにしてほしいものだわ」


「帝やお偉いさん達も、尻に火が点くような報せになっているだろうな」


彼女はつい、前回も船でこの街に侵入されたことを思い出し言ってしまいそうになってしまった。あれは表になる前に、隠蔽されたらしい

知っているのは上の偉いさんに、エモンの隊、モトキの通う学園の生徒。生徒なら言いふらす輩がいそうだが、外に漏れないのは、授業前や集会での徹底的な警告だけではなさそうだ。今はここで言うべきではなかろう

しかし、さすがに今回は規模が違いすぎるので隠蔽は不可能、するべきではない。自でも、敵でも、かなり重要な事態である


「おっとっと、通り過ぎてしまいそうだったわ。たぶん隊長はこの部屋に・・・」


ブレーキ、ちょっと躓きバランスを崩しかけ、綺麗なターンから通り過ぎた数歩、歩み戻る。扉を2回ノック、「隊長、いますか?」と彼女に続きすぐに、「いるよー」の返事が返ってきた

モトキの方に顔を向け、「いるみたい」と少し口元を緩ませた笑みで告げる


「失礼します」


扉を押し開けると、コーヒーの良い香りが広がっていた。木製の長テーブルに数個のマグカップを用意しており、エモンは床に両膝をつきながらペーパーを張り付けたドリッパーにお湯を注ぐ

その姿に目が行ってしまったが、部屋にはエモン1人だけではなかった。外で立っていた男性と、過去に見覚えのある者が2人、お初目が1人


「ふっふっふっふ、ファーストドリップからの一杯は俺のものにしてやる」


「隊長、私もファーストドリップが飲みたいです」


最後の一滴まで抽出するのは、たとえ貧乏性だろうと絶対にしてはいけないのである。最初の一滴が1番おいしい

2人でじゃんけんを始めた。どうでもいい空気の他の皆は最初の一杯を賭けた競いを待つ

じゃんけんに勝ったのは女性の方、崩れ落ちるエモンにごめんなさいねと一言。モトキは、この人を知っている。昔からよくエモンに伝令、報せをしに来ていた人だ


「あら、モトキ君じゃない。どうしたの?こんなところに」


名を耳にし、ここまで案内をしてくれた彼女は大きくモトキから離れた。距離を置かれた直後、外で立っていた者と、この部屋に来て初めましての者である2人がモトキに襲いかかる


「やめんかっ!」


男が1人怒鳴る。身構えたモトキに到達する前に、2人は止まった。怒鳴った男性は、襲いかかったその2人の頭部にげんこつ落とす

2人は蹲り、痛む頭部に手をやり震えている姿は少し滑稽である

げんこつを放ち落とした男性は、右掌底を額につけ呆れ顔になっていた


「すまないモトキ君」


「いえいえ、俺もビックリしてつい反撃してしまいそうになりました。唐突すぎましたが俺はこの人達に恨まれる真似でも?」


「くだらなくも、この歳なら、ましてや隊長を尊敬しているからこその理由だがな」


モトキはこの男性のことも知っている。彼もよくエモンに報告する際に顔を合わせていた

男性は胸ポケットから嗜好品のタバコを、赤と白の箱から1本を口に。火を点け、じっくり味を堪能し始める。その間に足は動き、部屋の隅まで移動してから煙を吐く

ファーストドリップの一杯争奪戦に敗れ、崩れていたエモンが急にシャキッと立ち上がり、満面の爽やかな笑みで手を振りながらモトキに近づく


「よく来たなモトキ!」


「さっきも会っただろ。お前とそこのお嬢さんに取調室で脱がされ、持ち物検査までされたぞ」


「いくら知人でも疑いを捨ててはならぬ!」


「俺とは他人みたいに扱ってただろ!牢屋で彼女に見えないように笑い堪えてたじゃねーか!」


怒るモトキに、なんのことやらと白々しいエモン。2人の関係を知っている者達からすれば、これも一つの光景

キョトンとしていた、モトキを拘束、連行、取り調べをした彼女はエモンの脹脛に蹴り

隊長でも容赦しない娘である


「脹脛にダイレクトー・・・っ!」


「隊長!どうして彼がモトキだと黙っていたのですか!?」


「牢屋に入れて、取り調べ中にまだかなー?まだかな?いつ名前尋ねるのか?とわくわくしながら待ってました、はい」


「人が悪いです。危険所持物確認による安全確保を優先して、名前を聞くのは最後にしようとした私も私ですけど・・・」


拘束、連行から不安は胸奥から湧き出していたのだろう。もしかしたら鋭利や爆弾物を持っているかもしれない、署へ連れてきても、連れてこられたタイミングを狙っていたと動きを始める可能性もある。ジョーカーにより警戒心が高まっていたこともあるが

最初に牢に入れ、見張っていたのは隠し持っていた物を使われた際に最悪1人被害でなんとか抑える為。取調室等で待たせるより、牢屋は人が近くにいそうな場所から離れているからである。あくまで、咄嗟の推測だが

名前、歳、住む場所を聞くより先に持ち物や身体を隅々まで確認を優先した彼女の気持ちは理解できる


「はぁ・・・おもいっきり警戒して、彼に時間まで取らせて」


もう一度、モトキに深く頭を下げ謝る。悪いことはしておらず、別に逆恨みを抱くまでの仕打ちは受けてないので

誤解が晴れただけでも良し、なのにエモンが余計をするが為に割り込んできた


「いいや、もしかしたらのもしかすれば、モトキはジョーカー側へ裏切っているのだけど、まだそのことを知らない俺達を闇討したくて近づいて!」


「んなわけねぇだろ!差し入れ!差し入れに来ただけ!」


「まさか、これに毒でも・・・」


「さっき1つ食ってたじゃねーか!」


「ぐおっ!いきなり息が!」


もう勝手にしてくれと、モトキは諦めた。相手をしてくれなくなったので、エモンはそそくさとソファーに腰を下ろす


「モトキ君もコーヒー飲む?砂糖とミルクは?ミルクだけよねぇモトキ君は。いつから砂糖をいれなくなったのだっけ?」


「いつからでしょう・・・あー・・・ありがとうございます」


マグカップに淹れられたコーヒーへ、温められていない瓶の牛乳をそのまま注ぐ。なんとも、ぬるいコーヒーとなった

砂糖をいれなくなったのはタイガの兄が亡くなってから、いつのまにかである。それまではお風呂上がりやお菓子を食べる等の時折、甘く飲みやすい砂糖とミルクをふんだんにいれたコーヒーを飲んでいた

歳が13を越えたあたりから、コーヒーを昔よりは飲むようになった気がする

エモンとのじゃんけんに勝利したマグカップを渡され、混ざっていないミルクとコーヒーの表面をただ覗く


「タイガ君はこーんなに小さい頃から砂糖もミルクもいれず、ブラックだけを飲んでたっけ。大人ぶっているわけでもなさそうだったし・・・」


男はタバコを1本吸い終え、靴で踏み擦る。後でちゃんと掃除しましょう

モトキが差し入れに持ってきた豆大福を手に取り、タイガが幼少からブラックコーヒーを飲んでいる話を耳にして「本当は大人ぶっていて苦いのを我慢しながら、悟られないように隠していたのでは?」とかつて自分から見て思い返してみての捉え


「それならそれで可愛げがあるかしら」


くすりと笑う女性の隣で、エモンはテーブルに足を乗せ2個目の豆大福を口に咥えながら新聞を広げる。朝目を通したものと同じだが再度読み直す

やはり同じ内容なのですぐに読むのをやめ、新聞を丸めるとモトキの頭を軽く叩いた。口に咥えていた豆大福を食べ切ると自分のコーヒーを淹れている最中だったモトキを拘束してきた娘に豆大福を投げ渡し、次に離れて立っている2人に声をかける


「お前達は食べないのか?差し入れだぞ。せっかくの休憩に、胃に入れるぐらい」


「いらないです!」


「俺も!」


何故だか、モトキを威嚇する目で睨みつける。モトキ自身は背後からただならぬ視線を感じ、振り向いてしまった

振り向いた瞬間、2人揃って更に睨みを強くされたような。自分が知らぬうちに本当は何か悪いことをしたのか不安になってくる


「エモン、もしかして俺ってあまり歓迎されてなさそうっぽい・・・?」


「ほっとけほっとけ、あの2人だけだ。2人のが強すぎて匂いがそればかりになっているだけ。俺の話にたまたまお前とタイガが出ると不機嫌になるんだよ」


帰るべきなのだろうか?ちょっとずつ後退りを始めると、エモンが両脚でモトキを挟み捕えた

「もうちょっとゆっくりしていけ」と言いながら、万力の如く挟み締めてくる


「アニマさーん、おたくの隊長どうにかしてくださーい」


「困った隊長ね」と、エモンの胴を掴み引っ張るがビクともしなかったので腹部に一撃

さすがに効いたのか、モトキを挟んでいた脚が離され落ちた。うつ伏せに蹲る。この部屋に入ってきた際に見た2人の光景と同じである

モトキがアニマと呼んだ女性は、何事も無かったかのようにコーヒーのおかわり

エモンはすぐに立ち上がり、意味もなくモトキの右頰へ触れる程度のグーパンチ。モトキも「ぐふぅー」とノッてみて声を出す


「いや、こんなことをしている場合じゃないな。俺は休憩終わり!街の見回りでもしてくるか」


マグカップに残っているコーヒーを一気に飲み干し、上半身を左右に動かす運動を軽く行う

エモンに続いて各自同じく食べ終え、飲み干したりすると片付けの開始。お忙しくなりそうなのでモトキも帰ろうかなと考えていた時だった


「チセチノ、これからお前も見回りを続けるならモトキに手伝わせろ」


「えっ!?ですが隊長!彼は隊でなく、立場上一般人という扱いですが」


「そうだ隊長、彼女の言う通りだぞ。俺は一般人だぞ隊長」


「日頃剣や体術の相手になってあげている恩返しだと思ってさぁ・・・」


ダメだ、断りを聞いてはくれなさそうだ。またアニマという女性に助けを求めようとしたが「頑張ってね」と応援された。もう1人、顔馴染みの男性の方は諦めろと言いたげな、優しい顔だけをこちらに向けている

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