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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 最初の片方
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二つの影 歪みかけの光 3

ノック音がした。「ミナール様、お具合の方は?」の声は女性のもの。ミナールは「また・・・」と静かに呟く

今日で5度目、彼女の取り巻き達が見舞いに訪れたようだ。彼女達はミナールが男と話ていると、その者を徹底的に問い詰めたり敵視するのでモトキがいるこの場を見られるわけにはいかない


「もう寝るつもりよ。夜が更けてきたのに大勢で、他者にも私にも迷惑だわ。今すぐまわれ右して帰路につきなさい!」


少し苛立ちを込め、人さし指で静かにとモトキに合図を送りながら取り巻き達に帰るよう指示。「申し訳ありません!」「すぐに!」と慌てた様子と、いくつもの足音が小さくなっていく

日頃感謝はしているが、やれやれと言いたげな溜め息。ちょっと自分に執着しすぎる必要はないと教えたいが、悲しみながら縋ってきそうである


「私もタイガ殿も、側に置いて欲しいや取り巻きとなられようとしている輩は基本断ったり追い払いますがミナール殿は何故に?まさか、断れなくて今に至るとかですか?」


彼女は無言となり、図星とわかりやすく頬を赤く染め視線を合わせなくなってしまった。キハネはからかうように笑う

ミナールが睨みを利かせてきたので、話を変えようとモトキに質問してみる

唐突にモトキの過去を訊いてきた。どのようしてあの剣術と体術を身につけたか、タイガと知り合った経緯。ポーシバールでのタイガの言葉に、もっと詳しく知りたいと興味が湧く

他人の過去にずけずけと、とは微塵も感じず。別に話しても大した影響は無い。話そうとしたが、しかしもう夜も遅いと訊いてきた本人が切り上げを提案


「いいのか?俺にはお前達と違って今は馬鹿みたいに時間があるぞ」


「後日、タイガ殿を交えてじっくりと。お茶をたてながら、お互いにこうだっただ、そうだっけ?を眺めていたいのです」


「素敵なご趣味ですこと・・・」とミナールのツッコミ。褒めたわけでないのに、ちょっと嬉しそうな足取りで病室から出たキハネは一度開いた扉に姿を隠し、再び顔だけを出しさよならと手を振り、顔を引っ込めた

扉近くだったモトキも小さく手を振り去ろうとする。おやすみや、またねの一言が出ない、変に緊張してしまい、詰まる声。病室から出ようとする彼をつい「待ちなさい!」と怒鳴るように呼び止めてしまった


「どうした?気に触る真似でもしたか?俺の触れた場所をちゃんと拭いて綺麗にしていけと?」


「ち、違うわよ!その・・・」


一言だけ、それが出難い。だが、呼び止めておいてそれは恥ずかしい

深く息を吸ってから、気持ちに僅かな余裕を持たせて


「あの娘のこと、ありがとう・・・」


「あぁ・・・Master The Order同士の戦いにならなくてよかった。あれでジョーカー乱入も加わってたらこの結果とは真逆だっかもしれない。俺が戦って役に立ったなら、それで嬉しいさ」


一瞬、穏やかな笑顔が見えた。彼が後ろ姿で右手を振りながら出て行く光景は、その顔により映らず。去ったことに気づいたのは10秒にも満たない数秒経ってからであった


「はぁ・・・」


ようやく、自分の病室に帰ってきたモトキ。ミナールの部屋とは違い、改めて狭さに驚く

だが、不便や悪いとは思っていない。むしろこっちの方が好きである

ベッドには行かず、病室に入ってすぐその場にしゃがみこんでしまった

モトキは焦っていた。心臓が速く動き、冷や汗が溢れる。今まで女性にかまけている暇、というよりは機会など無かったので慣れてきていたミナールならまだしも、今日知り合ったキハネと、あの病室で、女性2人といて本当は緊張でたまらなかった

しかし、顔や挙動で出すと失礼だと考え必死で抑えていたのだ


「寝よう、もう寝よう・・・」


だが、モトキは全然眠れなかった。といったようなことも無く、数分後には白い掛け布団を頭部まで被り寝息を立て熟睡

今夜は夢を見なかった。ほぼ毎日、あまり気分良く起きるには少し無理がある夢ばかり見るのでこれがベストなのかもしれない

目が覚めたのはまだ空が夜に任せきりの刻。あと2時間もすれば太陽は顔を出し、看護婦が見回りにくるだろう

モトキは、窓から病棟を脱出


「昨日あんな目にあったのに、体が清々しく軽い」


朝近い夜風による癒し、精神面への影響が多少なりあるだろう。この先の不安は気づき難いぐらい小さくともあるだろう、しかし恐怖の残飯は完全に処分された気分だった

一番大きな点は、自分の近くにいたタイガやミナール達が誰一人死なずに済んだからであろう。本当は良かった、良かった・・・と声に出してうずくまりたいのだ

街の憲兵全員の他、巻き添えで亡くなった者がいるかもしれない。その考えはとても残酷だと指摘されても、否定はできない


「エモンへの差し入れは豆大福にしよう、ピンっときた。これは豆大福だ、豆嫌いの意見は考慮せずに豆大福だ」


誰がなんと言おうとエモンへの差し入れは豆大福である。箱にいくつか入っているのを買おう、たとえそれより安くて数が多い物があっても豆大福だ。もし、エモンの部下に豆類やあんこ類が無理だというやつがいても、今回は我慢してくれ

そんなことを考えながら、着地。外に出て体操をしていたこの病棟に同じく入院している爺さんが腰を抜かす。これにより体内活動が驚きにより活性化を始め、悪かった腰が音を鳴らしながら真っ直ぐに、病も治る兆しとなり始めたとはモトキも爺さんも知らない

爺さんに一言謝りながら、頭では差し入れを買う店を都市に数ある中からしぼっていた


「タイガが前、部屋に持ってきた粒餡大福の店にしよう。あんこもだが、あれを包む餅がうまかったな」


まだ夜明け前なので店はどこも閉まっているだろう。時間まで、コーヒーでも飲みながら

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