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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
それぞれの影が過ぎた道 最初の片方
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二つの影 歪みかけの光

モトキの意識が戻ったのはジョーカーとの接触から約2時間後のことであった

長い夢を見ていた。幼い自分が泣きながら真っ暗な道をただ歩むだけの光景

石をぶつけられ、馬乗りにされ殴られ、踏みつけられ、頭からの流血と頬や目付近に青と赤紫の痛々しいアザ。口に砂を詰められ泣きえずくたびに、口からジャリっと音がする

嫌でもされたことはよく覚えている。あの後、施設に帰りひっそりと焼却炉の裏で泣いていたところをタイガの兄に見つかった

いつものお約束はタイガの兄が翌日、自分をいじめたやつらにやり返しをするのだがモトキよりちょっと弱かったので返り討ちにあい、これもお約束でタイガが駆けつけそいつらをボコボコにするか、彼を見た瞬間に逃走


「痛い・・・冷たい・・・」


薬品の匂い、残った病院食の匂い、トイレの匂い、独特な老人達の匂い、どれもあまり気分を良くするとは言い難い

白い壁は冷たく、冷たさは殴り飛ばされた際にいくつかの建物を突き抜け、背中に刺さり、貫き、顔や身体中を掠めたガラスや瓦礫等による傷をじんわり痛みをより敏感にさせる

何故かジョーカーに撃ち込まれた箇所だけは治癒していた

力なく、壁に背をつけながら床に座り込む


「ふぅ・・・」


夢に出てきた幼少の自分と同じ、頭からの流血。頬に貼られたガーゼや胸部、胴に巻かれた包帯に血が滲んでいた

羽織っただけでボタンをとめずに着ている白シャツと黒ジレは汚れが付着しており、破けたりボタンが1個ぐらい無くなっている

上の空で、夜により不気味となった病院の廊下で独り。目覚めてから誰1人に出会わず


「ジョーカー・・・あいつは、何故存在する?」


色濃く、最後に鼻先まで近づいた彼のガスマスクを被った顔が映った

恐怖より、ただ一つの疑問。あの場での彼は、ただ邪魔な石ころという自分を蹴飛ばすだけに過ぎないはずであったが、あの短い間に殺すつもりが無い意思が伝わっていた

道端に落ちている石ころに関わらず進むとは違っていた


「わからない、やつだったな・・・」


呟いてすぐであった。「俺もそう思う」と自分の考えていた内容を読み取り、呟いた言葉からジョーカーのことであると捉え、共感するタイガがけっこう離れた位置で佇んでいた

彼は最も重傷のはずだったが、今はガーゼも包帯もしていない

モトキの右側へ移動すると、同じように座り込む


「もう、傷は大丈夫なのか?」


「周りから見たら、お前の方が大丈夫かと言われてしまいそうだがな」


もたれる壁が少し暖かくなったような気がした。2人は会話を続けず、ただすぎる時間を過ごす

手持ち無沙汰だったのかモトキは左腕にあるノレムの妹によりつけられた傷痕を楽しい、虚しい、どちらでもなく、指で感触を感じてみる。いつか日常にある髪を触るや爪を噛む等のクセになってしまいそうだ

頭から垂れる一筋の血線など、とっくに忘れかけている

タイガがゆっくりと、鼻から長めに息を出す。その音にモトキの指は止まり、5秒ほどの時間を置いてから向こうは口を開く


「街に勤める憲兵、全員が生死不明・・・」


生死不明ではなく、全員殺されてしまっていることを居合わせたモトキとMaster The Orderの4人は知っている

積まれた憲兵の死体、中にはモトキが革命軍のニハと戦いの際に服の大半に付着した自分の血を怪しみ連行した者や、タイガが山で屈服させた熊に乗って移動している時に取り囲んだ者もいたであろう

邪魔になるといわんばかりに、黒い炎により燃やされ死体は焦げた骨のかけらすら残されていなかった


「憲兵がいなくないということは、住人の不安は治安だ。Master The Orderや学園の教員がいる街だからとか考える輩もいるだろうが、そんなもの住人の安全の為にいるわけじゃない。たまたま現場に遭遇しても助けるか助けないかは個人だ、仕事とは違うから」


「お前は助けそうだがな」


「よほど機嫌が悪い時はわからないぞ」


頭から垂れていた血が口に、舌で受け口に含むと口から鼻へ通り抜けるじんわりとした鉄臭い香り

さすがに拭こうとするがハンカチやタオル類は持ち合わせていないので、白シャツの袖で拭く。もう血汚れなど今更である


「普通なら、吹っ飛んできて生きているお前には関わりがあるだろうと怪しまれ、目を覚ましたらすぐに尋問されるはずだったのだがな」


「そういえば、病室には誰もいなかった」


そもそもしつこく長ったらしい尋問をモトキやMaster The Orderである4人にする必要はない。嫌でもすぐに自分達から報告せざるを得ない状況にある

ジョーカーが現れた。今現在もこちらに潜伏している恐れありだけでどれだけ危機的状況かを知らしめてしまう

たとえジョーカーを名乗る偽であろうと、もしかしたら本人であるのにその混乱を面白がる為に偽りをしてしまいそうだ


「エモンが手まわしをしてくれたようだ。しばらくはいなくなった憲兵代わりにあいつの率いる部隊が街の警備を受け持つらしい。ちょっとぐらい名を使った抑止効果があるのを期待せずに願っておこうじゃないか」


「無かったら、そっと肩を叩いてあげるぐらいはしよう」




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