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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
違う輝き
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前兆前 24

ノレムの口より少量の吐血。もはや意識など失い、視界が霞みと歪みから暗闇に染まってしまっているが、手は動き、足首を掴んでいた

光は薄く、汚く濁ってしまった瞳ながら、闘志は得体の知れない鋭い牙の並んだ化物の顔が轟く姿を彼の背後より幻として映す

モトキの睨みつける眼は冷たかった。彼にどのような感情を抱いたのであろうか?剣を手に、縦に振り落とす


「!!」


剣を振る手を止め、右腕を叩く動作で突き出す。その次の瞬間であった、その腕に狼が喰らいつく。言葉で表すならば「ペギィッゴッッ!」という耳にしたことない音が耳を刺す

牙はシャツに血を滲ませ、肉と骨を裂き砕き、千切れる寸前であった

ノレムへの攻撃を中断して、腕で防がなければ首に喰いつかれ頭は胴体よりさよならしていたかもしれない

モトキは左手に握る剣で突き刺すも、身軽に躱し刃の上に立つ


「こいつを死なせるわけにはいかねぇな。かわいい後輩なんだ、勘弁してやってくれ」


剣刃からノレムの近くへ飛び移り、後ろ両足で彼を蹴り上げる。上空目掛け飛び、勢いよく下へ落ちる彼はペガサスの背に受け止められた

ペガサスの背に物干し竿にかけた布団のようにうつ伏せでぐったりしているノレムに、ロセミアは優しく手を置く

モトキはハオンへ鋭い視線を送っていた。人の姿に戻った彼は牙を覗かせながら指で挑発


「やる気あるなら相手してやるぜ、小僧。こちらは残り3人、お前は1人だが・・・」


彼の言葉に視線は地へ配らせる。佇むジョーカーはこちらに顔を向けていた。ベルガヨルはうつ伏せに埋まっており、キハネとミナールはずぶ濡れになりながら瓦礫にもたれかかったり、倒れて動かず。タイガは貫かれた腹部からの出血により血溜まりに寝ている


「ほとんどジョーカー様が頑張ってくれまーしたけどな」


モトキは曇った顔になり、シャツ下で皮一枚繋がる千切れかけた右腕のまま着地。腕は力無くプランと垂れており、ちょっとでもヘタに激しく動かせば千切れ、落ちてしまいそうだ

戻れと念じるも、腕が再生しようと働かない。焦り、かきたくない汗が溢れてくる。口に出していた、「戻れ、治れ!治ってくれ!」と


「そう苛立つな、貴様の体であろう。痛みは我慢して、一度呼吸を整えてみろ。その力は己の闘争本能、興奮により応えてくれる。タイガという者との戦いを得て、教えてもらった。ような気がする」


適当に言ったつもり、にしては的を得ている。革命軍、ニハとの戦闘で発芽したがその場面の記憶はほとんど覚えていない

ハオンがジョーカーに自分がやると申し出るが、両頬を引っ張られ横に縦に引っ張る。その間にモトキは目を閉じ、痛みを忘れるよう意識しながら息を整え始めた

しかし、自身の本能が邪魔をする。目を閉じてもジョーカーの底知れない、強さもだが別の恐怖が心臓の鼓動を速め破裂しそうに苦しい。左胸を掴み、意味もなくおさまれと願う。呼吸はゆっくり、大きく、だが落ち着きなど皆無な息苦しさ


「・・・なら、一緒にしてやろうか?」


ジョーカーは千切れかけたモトキの腕と同じ右腕を

曲げ、へし折る。タイガにやられ、一度折れはした右腕だがせっかく形だけは無理矢理戻したのに再び折った

彼は笑う、面白さなど無いのに


「ほぉあっはははははははっ!ひゃははははははっ!みろ!折れちゃった折れちゃった!あはははははははっ!・・・はぁ・・・僕はなにをやっているんだろ?」


おぼつかない足取り、ガスマスクよりドス黒い煙を漏らしながらこちらに近づいてきた。ベキッ!ボキッ!と音を鳴らし、自ら折った右腕を左手を借りず動かし戻す

モトキは微動だにせず、「動け」と体に訴えるすら忘れていた。ジョーカーの顔が、目と鼻の先

嫌な匂いではなかった。金木犀のようでいて、ほのかな綿菓子の香りがする


「このガスマスクを外し、露となった口で貴様の耳から噛みちぎり、次に首筋を噛み皮と肉を引きちぎる。そこから手を侵入させ骨に鮮肉に臓器を取り除く。ちょっとずつ、ちょっとずつ・・・」


額をくっつけ、離し、またくっつける。ジョーカーは笑う、楽しそうな笑いには程遠い。ガスマスクから漏れるドス黒い煙がモトキの顔に触れ、まるで美女の手に誘われる様であった

2人は静かであった。ジョーカーはそれ以上何もせず、相手の出方を伺ってみたが変化の無さに飽きてきた。ここで変化を入れようと、モトキに自身の握り締めた右手を見るように促す


「爆発したり釘が飛んできたりしないから安心してくれ」


右の手の平を開き、ハンカチを被せる。すぐにハンカチを取るとそこにはクマちゃんの人形。左右別のボタンの目、折れかけた首から綿が溢れ、顔の右半分は針金が縫われており、赤い液体が染み、頭部からハサミが刺さり腹部を突き破っていた


「うわっ、悪趣味!」


「うそっ!?女房は可愛いと気に入ってたのになー・・・」


「お前の奥さんの趣味など知るかーっ!」


ハオンが「どの奥方様ですか?」と尋ねてきた。ジョーカーは無言、黙ってしまう

訊かれて答えにくい質問だったのだろうか?そのような反応をするとわかっていたのだろう、ハオンはニヤついている


「ジョーカー様、お楽しみの玩具を見つけて申し訳ありませんがお時間のリミットです」


「そうか・・・時間に縛られすぎた生き方はしたくない主義だが、街の憲兵を全滅させておいて居座り続けたら面倒が増えそうだ。時間お知らせありがと、ロセミアちゃん」


ゆっくりと、彼の右手がモトキに触れようとする。モトキは反応が遅れていた

はっきりとした意識に、突然の体が反応、「あ・・・」と口から漏らしながら、おもわずジョーカーの手を払ってしまった


「拒絶か、されるとけっこうヘコんじゃうな」


モトキはジョーカーへ右拳を放つ。今までにない、出せるだけの光の力を叩き込むつもりで

拳が触れた瞬間に纏った光の属性エネルギーを奥底から一気に爆発させるはずだったが、拳がガスマスクに触れてめり込みを開始するより速く、重く強烈なドス黒いエネルギーを撒き散らした裏拳によるカウンターが炸裂

戦地となった街のベルガヨルの私有場所など越え、幾多の建物を突き破りながら高速で飛んでいく


「おや、つい・・・でも、あれぐらいでは死なないだろう。貴様を倒すのは私ではない、ここにいるノレムか、はたまた興味を持つスペードか、もしかすれば・・・だから僕は現時点、少なくとも今日は殺さない」


終わった。この一戦。夜となっていた空が風で雲が流されていくように元に戻った

辺りを見回すジョーカーの目にはMaster The Orderの4人が映る。唐突に静かな拍手を

タイガとの戦いでボロボロにシャツをロセミアから渡された新しい物と交換し、ネクタイを締めてそこにネクタイピンを、最後に脱ぎ捨てたロングコートを羽織る


「スペード様が興味を持たれた2名以外はどうでもいいので息の根を止めておきますか?ジョーカー様」


「無用、こいつらがいたとしてもこの先変わり映えなど無い・・・」


ペガサスを撫で、背に乗せられた気絶するノレムをハオンへ投げ渡す

彼を背に抱え、小走りでジョーカーの近くへ


「さて、逃げるか」


ハオンとロセミアの2名は頷き、急ぎ走り出すがジョーカーだけ全く違う方向へ

ブレーキをかけ、ロセミアが「こっちです!」と叫ぶと、彼はそちらの方角を向いたままバック走で戻ってきた

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