寒気嘆く白き橋にて
濃く、肌に沁みる潮風が吹く荒地にて、金属のぶつかり合う音が響く。
モトキは左手に握られた両手剣の猛撃から、盾による突進に移行し叩き込むとすぐさまに距離をとる。
相手をする青年は全ての攻撃へ反撃することなく、太めの刃を持ち、鍔よりわずかな間だけ鋸状ともいえる凹みの並びがある大刀でモトキの攻撃を捌き、受け流すだけ。
その光景をタイガは適当なサイズの岩に腰をおろし、眺めていた。
「ここまで!」
距離をとってから一瞬にして詰め、一撃を加えてやろうとしたが、ここにきて初めて反撃を受ける。
両手剣の刃が目前へ迫ったところで、下からの一撃によりモトキの得物は弾かれ、続けて腹部に手刀を入れられると、そのまま地面へ押しつけられてしまう。
「くっ・・・!もっと優しい終わり方を所望してもいいか?」
「これでも優しくしてやってんだぞ」
手刀から伝わる力が解かれ、立ち上がったモトキは両手剣を一度振るってから盾の鞘に収めた。
剣と盾は光となり手から消える。
「まだ陽の色に変わりがないのに早めだな。このあと用事か?」
そうモトキが尋ねると、青年は面倒を訴える顔つきで溜め息をこぼした。
「また帝からのお呼びがあってな・・・」
「またか?最近、呼び出しが多くなっているような」
以前、学園で起きたら一件も影響しているだろう。
あまり事が大きくされなかったにしろ、国と学園への侵入を許した事実はあり、それ以前からもまだ紛争や大戦が起きる事態にはなってはいないが、警戒が増すようなことばかりが続いてるみたいだ。
「タイガもいつ、お呼びをくらうことがあるかわからんからな!」
青年はタイガを指さしたが、彼からの返事はない。
無視したのではなく、戦闘が起こるのであれば言われなくても自分から赴いてやるつもりので、いちいち煩いなと無言でほんのちょっぴり垂れ目の視線を返した。
タイガからの圧で、青年は少し臆す。
「そこまで兵力が不足しているのか?エモン」
問うモトキの口から出たが、この青年の名はエモン・ビゲンという。歳は19である。
若いながらも短い年で数々の戦に参戦し、特に天変地異の全てが発生し密集するとされる災害の休憩所と呼ばれる海域浮かぶ孤島での武功は有名であり、彼の名を聞いて知らぬ者はほとんどいない程に名声が渡っている。
何の縁か、昔からモトキとタイガが育った施設には頻繁に訪れていたので顔見知りの間柄。
「いや・・・俺が見る限り、まだ不足に陥っている状況ではなさそうだし、そのような報せも噂も耳に入ってはいない。しかし、越したことはないと俺もだが、そう考える上層のやつらも多い。最近はただでさえ、五星らの動きの目立ちもあって不穏だし不安なんだろうな」
自分はタイガと違い、まずは一般に学園を卒業してから深く関わることとなる話だろう。
だが、僅かに歯痒さもあるのが正直なところ。
「うーん・・・どうも俺じゃあ力になれそうにない話だな」
少し肩を落とすモトキの様子を察したのか、つい長話してしまいそうなのも断つつもりでエモンは彼の背を強めに一叩きをくれてやる。
「なーに!お前は今学生なんだからちゃんと学生であればいい!タイガみたいな例外が誕生することもあるが、お前もこれからだぞ!モトキ!」
励ましのつもりなのだろう。
少しむず痒いが、嬉しかった。
「っと、お前らといるとつい話の花が咲き続けるな!じゃ、次は俺を殺せるぐらいになってろよ・・・」
そんな冗談を残し、エモンは「急げや急げ!」と急ぎ足で先に去っていった。
彼が消えたところでタイガが立ち上がり、帰ろうとしたとこをモトキが呼び止める。
「俺はこれから夕飯なんだけどさ、タイガも一緒にどうだ?」
「いーや、せっかくのお誘いだけどよ、俺も別に用がある」
「そっか、ちょっと寂しいけどしょうがないよな」
タイガと別れ、食堂に足を運ぶ途中で偶然オーベールと出会す。
彼もこれから夕食のようで、向こうから一緒に食べないかと誘ってきた。
断る理由もないし、どうせ同じ場所で食べることになるので承諾する。
夕飯には少し早かったのか、幸いにも学園の食堂はまだ席の取り合いが行われている様子はない。
「隣に座るのと向かいあうの、どっちがいい?」
すぐに席を取ったオーベールはそう尋ねながら、隣の席に座りなと催促してるのか椅子を叩くが、モトキはそれを察しながらもイジワルで「向かいあいで」と返す。
「俺の向かいに座っていいのはかわい娘ちゃんちゃんだけだぞ!」
「知るかよ・・・」
膨れっ面のオーベールの文句を適当に流し、何を食べようかなと頭の中で迷っていると、「そういや・・・」と思い出したかのような様子で、文句からあっさりと切り替え、質問をしてきた。
「放課後にすぐ消えてたな。どこにいたんだ?」
まさかエモンと戦っていたなんて、信じてもらえるかは別として他の生徒もいる中で言えやしない。
「ちょいと、昔馴染みが眠る墓へな・・・時間が思いのほかあったから、草むしりと好きだった菓子を供えてきたんだ。うんまぁ、綺麗さっぱりにしてやったぜ」
当然だが嘘である。すまないと亡き親友へ心内で謝罪をし、後日ちゃんと草むしりと生前好きだった菓子を供えに行くと約束しておいた。
「おぉ!友達の墓参りならしょうがねぇな!」
そう納得したオーベールは疑いなき眼で、ぐっと親指を立てた。
話を広げる為に、その友人はどんなやつだったんだ?とは訊いてこず、段々と食堂に人が増えたので、そろそろ注文を取りに行ってくると席を立った。
彼を目で見送り、モトキは後から来た他の生徒に席を取られぬように待機。
食事後に帰ったらデザートにバナナを3房食べよう。