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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
違う輝き
68/217

前兆前 22

獣と獣、己より弱き生物を捕食する為の狩り、偶然にも空腹の時に出くわしてしまった捕食者同士の場面。縄張り争い、時季による気の立ち具合、生き残るのに仕方なく、それらを食うか喰われるかの獣や虫の世界における自然の摂理など関係なくただの殺し合い

キハネが召喚した獣は、その大木のように太く、火が燃え盛る腕を、包丁を並べたかのようなどこか不気味な爪を振るい狼を切り裂く

体格からして狼は獣と比べ見積もって8分の1以下、普通ならば振るわれた腕と爪が直撃すれば一発で無惨にも原形は残せないだろう

だが、彼は普通の獣や闘者とは違うのだ。振ってきた獣の腕に噛みつくことで受け止め、着地してから軽々とその巨体を持ち上げた


「マツノギちゃん!」


その名は彼女と獣が契約してから後日、呼ぶ際に困るのでキハネ自身が勝手に付けた名前

ハオンは持ち上げた獣を何度も地面に叩きつけ、無慈悲に引きずってから上空へ投げ飛ばす。狼は吠えると瞬時に高く跳び上がり、突き出した後ろ右足より黄色のエネルギーを放出しながら跳び蹴りを行う

獣の胴体に蹴りを撃ち、バックに巨大な満月の如く黄色い円が浮かびあがった

2つの月が空を彩る


「キハネが呼び出した正体不明の動物には犠牲になってもらおう」


ハオンが蹴りを放った直後、ベルガヨルは地中にある岩石に含まれる磁鉄鉱や建築物の残骸である製鉄類等を細かく砕き混ぜ、地より5本の太い鉄の棘柱を宙にいる狼へ伸ばす

獣を2匹ごと串刺しにする狙いであった。しかし突如として現れたペガサスに乗ったロセミアが、ハオンの背後を通り過ぎながら薙刀で一閃。5本の棘柱全ての先を切断されたので再度先端を尖らせ伸ばせるはずだったが、あの薙刀の一振りにより先端を切断されてから根元まで切り落とされていく

狙いは外れたがベルガヨルはどうでもよかった。本気で2匹ごと貫くつもりだったので、キハネに叱られなくて済むからだ。すぐにバラバラにされた鉄を一塊に集め、鉄球を造るとペガサスへと放つ


「芸の無い・・・」


ロセミガが静かに呟くいた。そのすぐ後、ペガサスの背より跳び、宙を高速に回転をしながら近づくと踵落としで鉄球に右足を叩きつけた

木っ端微塵に砕けた鉄球のその先で蹴りを撃ち込んでから狼が獣の首に噛みつき、体を捻り自分より下の位置へ移動させると上から体重を乗せ踏み落とす

落下する獣を追いかけながらハオンは人の姿をに戻り、背の槍を手に持つと突き立てる


「解!」


地に激突と同時に槍を突き刺すつもりであったが、召喚された時と同じ術式が出現し、獣はそこへ落ち沈む。術式はすぐに消え、落下地点より三角の術式方陣を展開し、凄まじい薄い青の光を放出

「あれ?」の言葉の後、ハオンは光に呑まれてしまった。鉄球を砕き、ペガサスの背に戻ったロセミアは何をしているのだと言いたげな呆れ顔


「あれぐらい大丈夫でしょう・・・」


その通り、大丈夫だった。薄い青の光から普通に現れた彼は何事もなかったかのように背へ槍を戻す

獣人形態へ姿を変えると爪を立てた右手を地面へ撃ち、轟音を生み、広範囲に地を砕くことで術式を崩す。青き光は弱々しく薄れていった

ベルガヨルは液体状の鉄でハオンを囲み、包み固め潰そうとするが、右爪の一振りによる風圧で水滴が弾くように掻き消される

ハオンは時間を気にしていた。あと、どれ程ここにいられるのだろうか。その間にこいつらが抵抗に抵抗して死ぬか、終わって誰も死なずに終わるか。ほら、仕掛けてこいよと挑発してみた

その様子をペガサスの背に立ちながら眺めていたロセミアは、手に持つ薙刀を左側へ動かす

その次の瞬間、左手に持つ光を帯びた独鈷杵の刃で半月を描くようにミナールが斬りかかりながら突撃してきた。予め移動させていた薙刀の柄で防ぎ、1本の白い羽根を浮かせ独鈷杵を握る彼女の顔へ飛ばす

飛ばしてきた軸先を向けた羽根をミナールは顔を右へ逸らしギリギリの回避、右頬を掠め切った程度に終わった。躱してすぐに左手の独鈷杵を真上に投げ、空いたその手で薙刀を柄を握る


「眼球に刺さろうとも私は止まらない!」


もう1本の独鈷杵が2人の間下より回転しながら現れ、それを右手で掴むとロセミアへと突き刺す

彼女は焦りを見せない、右人さし指と中指で独鈷杵の刃を挟み捕らえてしまった。挟む指の強い力に、独鈷杵はびくともしない

そう分かってから無暗に抜こうとして隙や時間を無駄にするより離す選択、落ちてきた光を帯びる独鈷杵を掴み頭頂部目掛け縦に斬る


「甘いです・・・っ!」


指で挟み捕らえたもう1本の独鈷杵を挟んだ状態から上へ投げ、ミナールが振り下ろしてきた独鈷杵の刃にぶつける。ロセミアが投げた方は弾かれてしまったがそれで十分、薙刀の石突で腹部を突く

正直、このようなことをする必要など無かったのだが、独鈷杵を返すにもいいタイミングだったので使わせていただいた

腹部に突かれた薙刀の刃とは反対の石突に押され、突き落とされてしまった。独鈷杵の刃は空振り、もう片方は地に刺さる

口に鉄臭い味と中身を全てぶち撒けてしまいそうで意識が飛びそうな重く高威力な一撃、だがあれでも手を抜いていると実感してしまう

落ちるミナールの背へ、ロセミアのペガサスは片翼を一回だけ羽ばたかせ無数の羽根を飛ばし突き刺す。痛みによる悲鳴すら挙がらない

その光景をみたベルガヨルから口を開いた


「うわぁーあっ。やられちゃったな、ミナールさんよ。当初から有利に立てるなんて想定はできてないけど」


「ミナール殿!今行きます!」


自分の挑発を無視されたハオンは狼になり、だるそうに鼻と閉じた口から息を漏らしながら地に手足身体全てを委ね、寝てしまった

キハネは走り落ちてきたミナールを抱きしめ受け取ると彼女の背に刺さっている羽根を抜いていく


「いい、問題ないわ。ありがと・・・」


「そう・・・」と彼女に優しく投げかけ柔らかい部分の目立つ身体から少女を離し、一歩退がる

ミナールは全身に力を入れ、残る刺さった羽根が全て抜き落とす。ふわりと落ちていく数十本の白い羽根は彼女を映えさせ実に優雅な光景

見上げロセミアに目をやるが、彼女は別の方を向いていた。ペガサスが動揺しており、必要以上に翼を羽ばたかせる


「ジョーカー様、度の過ぎたお遊びも程々に・・・」


空気に静電気のようなピリつき、良からぬ前兆が全身を走る。ロセミアに悪寒が走った

指先すら微塵も動けず、体感する異変の正体はすぐに現実に現れてくれた。巨大な黒と白の隕石が、空を突き破るかのように落ち迫ってきたのだ

先にキハネが異変に気づき、空を見上げる


「あ、あれは!あれはジョーカーが!?あの大きさですと1つでも文明の終わりでだけに留まらず、全世界が粉々の瓦礫残骸と化しますよ!」


全世界敵味方関係なく、無差別に巻き込まれようとも行われたジョーカーの試し撃ち。さすがのロセミアも表情が曇るが、ハオンは気楽に寝ていた

長年の付き合い、今更感であり、たとえ巻き込まれようとも仕方のないことなのだが、あれで終わりになるはずがないと理解している

ベルガヨルは、もはや猶予すらないだろうと余裕のあるフリ


「明日世界が滅ぶならが直前になってしまったな、思いつく限りのやりたい事をやるには足りなすぎる」


気楽であったハオンが急に全身の毛を逆立たせ起き上がる。もう1つ、新しく現れた強大な力を感じ取ったのだ

タイガの右手に光、それは紅のエネルギーに包まれると落ち迫る隕石目掛け投げるように放つ。紅に包まれた光は、2つの黒と白の隕石と着弾し遥か空へと

眩い閃光と衝撃の層が空より地へと贈られ、とても熱くて痛く気を抜けば飛ばされてしまいそうだ

腕で顔を守ったり、強めに瞼を閉じたり等をしてしまう


「ほっほ〜い、やるじゃーねぇか!あの小僧B」


「あの小僧Bさんが頑張ってくれないと、こっちも危うかったですけどね」


助かったと片付けていいのだろうか?生きた心地が皆無である

本当に、先程のは死の覚悟を覗かせてしまうものであった。結果的にタイガへの信頼のおかげで救われたが、あれにより自分も死ぬだろうが平気で行うジョーカーの奥まで触れるなど不可能な「怖さ」


「狂ったガスマスクね・・・」


ミナールの一言に、ハオンが反応した。自分の主人を馬鹿にするなと怒らず、否定せず、過去に彼を近くで目にした映像場面が流れフラッシュバックする

彼は狂っているのだろうか?昔からある根本的な部分の変化はないだろうが彼を今のジョーカーにした原因は、徐々に、ある日を境に突然、元から?

彼の経緯を、誇らしく語ってやってもいい。まるで自分の事のように、自分だけが知っている彼の姿を自慢げに


「ふっふふふふ・・・っ!お嬢ちゃん、ジョーカー様がお前達側、国からすればどのように映っているか察しがつく。それは間違いではなく、否定するのはくどいぜ」


「なによ、唐突に・・・」


ベルガヨルが「待て」と、彼女を制止する


「耳を傾け続けておこう。もしかすればジョーカーの姿が少しはわかるかもしれないぞ」


「んー?ジョーカー様の今までを知りたいってか?どうしようかな?言っちゃってもいいかな?でもジョーカー様は本当はとてもお優しい方だとバレちゃうし、俺から語るのは失礼に・・・いやでも言いたい!」


さっきちょっと語りたい気持ちがあったくせに、焦らし始めた

ロセミアが時間が少ないのにと言いたげな顔で彼に視線をぶつけた瞬間であった。突如としてハオンの背後より飛んできたジョーカーが激突、2名は絡まりながら転がっていく


「ひぃっいぃぃえぇぇっ!?」


「ぐへあっ!」


ロセミアは急に起こった驚きとジョーカーが飛んできたことに表情が変化する

乱れた気配、タイガはラッシュから最後の一撃を撃ち込んだ直後の姿。気配が乱れているのは、彼が一瞬だけ全身が黒く染まるを繰り返すことによる容姿の変化と関係している。2つの隕石を押し返す際、振り絞る力を出す瞬間にも感じたものと同じ

殴り飛ばされたジョーカーと、巻き込まれたハオンは何故かトーテムポールと化していた。ジョーカーが上でハオンが一番下なのだが、三段のつもりだったのか真ん中だけが空いている


「しまった!ハオン!あいつがいないから完成しない!」


「そうでしたジョーカー様!ロセミアちゃん、あいつの代わりにどうだい?」


「遠慮させていただきます。素直に恥ずかしさと、馬鹿らしいです。私ではなく、あの方がいたとしても絶対に付き合ってくれないでしょう」


恥ずかしい、馬鹿らしいと言われ2名は落ち込む

元の姿に戻り、ジョーカーはタイガの突き手により貫かれた自身の胸に手をやりしばらくの静寂。ロセミアが「ハンカチを貸しましょうか?」を尋ねたが、ジョーカーは拒否

べっとりと血は出ず、貫かれた際の接触部にマグマは残っていたがその部分は肉を焦がし固まっていた

スズメバチが見えたのは、マグマによる持続ダメージを毒としたかったのだろう


「良いパンチの連打だった。まだ小さかった頃、のしかかられ何度も何度も殴られた時による惨めな気分とは違う。当たり前か、貴様の、ちゃんとした、戦ってやるという意思・・・」


貫きと拳の連打により上に着ていたグレーのシャツはボロボロであった。見た目とは裏腹に鍛え抜かれた身体を霞ませる程に遺る左胸から腹部にかけての痛々しい傷跡が覗く。ナイフや刀ではなく、大きな刃で胸を刺されてから腹部にまで切られたのであろう

それを隠すつもりで脱ぎ捨てたロングコートを出現させ、袖を通すとボタンをちゃんと留める。次に背をこちらに向け、ロセミアから新しいガスマスクを受け取り殴られ大きくヘコんだ今着けている物と交換


「胴体を中心に狙ってくれて助かった。顔を見られては明日から外でスキップもできない」


ジョーカーの目、いやスペードが興味を持ったのは正しかった。やつの開花途中であるポテンシャルは悪くない。自分のことのように、嬉しくなってくる

親指を立てたサムズアップをタイガに向けたが腕が変な曲がり方をしており、骨が折れかけたり、折れて皮膚を突き破ろうとしていた。片方の腕も似たような状態であり、指は本来は曲げない方向を向いていたり、あれ?こんなに関節があったかと思わせてしまう

折れかけた骨を完全に折り、関節も形も痛々しい音と共に元へ戻す

タイガはこちらに来ていた。抑えられない闘志を湧きあがらせて。後ろにはミナールにキハネ、少し気怠るそうなベルガヨルが、前後より囲まれはしたがハオンとロセミアがすぐに間へ入ってきた

ハオンが前を、ロセミアが後ろを


「けっこうだ。話し合いでもしようではないか」


「暴力に訴え解決しようとしないなんて、悪役の屑ですね」


「え?僕って悪役なの?」


「なにを今更に・・・」


ジョーカーは必要ないと手で合図を。ハオンとロセミアはその場から去り、再び前後を挟まれたヘタな動きをすれば瞬時に攻撃されそうな状況へ

ヘタな動きをすれば攻撃されそうだからこそ、敢えて動く。全身からお菓子をばら撒く

初耳からすればこいつの行動に理解できないが、タイガはまたかよと呆れていた。理解できないが正解であり、意味を成さないジョーカーの行動

誰も拾ってくれず、お菓子を影に沈ませ回収


「近づくな!近づくなよ・・・近づいたらダイヤが奥さんにしたプロポーズのモノマネするぞ!」


ハオンとロセミアは少し見てみたいと思ってしまった。何故かジョーカーは片足上げてその上げた足の膝に手を置き硬直している

これをチャンスと捉えるにはあまりに愚行、しかし何かしなければもしかすると1秒後に向こうが始めてしまう恐れがある。タイガは左手に十文字槍を出現させ風と炎を槍周りより巻き起こし右手の刀の刃には炎のように燃え盛る光を、ミナールは独鈷杵にそれぞれ光と水の属性エネルギーによる刃を、キハネは祓串を一度振り同時にばら撒かれた数枚の白に黒字のお札を展開、ベルガヨルは鉄の製品や破片を浮かせ上空へ


「一斉に仕掛けてくるか?そうすれば互いに巻き込んでしまうかもしれないぞ。それでも、たとえ相手や自分を死なせようとも私を屠る為の覚悟だというならば・・・えぇっ!1対4!?助けてください!」


「お任せください!」を高らかに、ハオン声に応え参上。しかし、ジョーカーは彼を捕らえると前に崩し、真後ろに身を捨てながら左足の裏を腹部に当て押し上げるように投げた

飛んでいく彼はなんで?といった顔であった。「よしっ」と気合いの入ったジョーカーに、ロセミアは「よしじゃないですよ」とツッコミを入れる


「やっぱり1人で頑張りまーす」


誰から行く?タイガかミナールか、このまま時間だけを無駄にするのはジョーカー達からすれば都合が悪い。ならば自分から、彼の周囲を囲むように地面より黒い稲妻の衝撃を放つ

威力は最小限に、十分に、重い衝撃がのしかかり肉と骨に響き黒い稲妻がついでか追い撃ちに体へ絡む

タイガは黒い稲妻を全身からの気と力みにより打ち消し、ミナールは体勢を直し稲妻を消さずダメージを継続させたまま、両者は武器を手にジョーカーへ走り戻る


「勝てたら夕飯は鍋物にしようかな?もつにしゃぶしゃぶ、すき焼きもいいな」


始めにミナールからの方からと見せかけ、振り向きざまに左拳による裏拳を。握られ、纏わりつくドス黒いエネルギーの衝撃波がタイガを襲う

ならば刀に帯びた光で打ち消そうとするが空気の僅かな乱れを感じ取り一瞬手が止まる。刀の柄を必要以上に強く握ってしまった時には夜に溶け込む影が取り囲んでおり、息を呑む間も無く捕らえられてしまった。すぐに振り払うなり力や属性エネルギーで消滅させようとしたが影と同じタイミング、知らぬ間に出現した棺へ強く打ちつけるように入れると蓋が閉まり、直後に棺桶へ何重もの金の鎖が巻かれる。迫っていたドス黒い衝撃波が棺桶の形を大きく変え吹き飛んでいく

ジョーカーの動きは裏拳を撃つだけだったのでタイガから瞬時にミナールへ。その佇まいに思わず彼女は攻撃を止めてしまいそうになるが、ここは残忍さを芽生えさせ2本の独鈷杵を手に地から跳び、回転を加えながら斬りかかる


「珍しい武器だな」


彼女の武器に、ジョーカーは興味が出てきた。最初に迫る左手に持った水を纏う独鈷杵の刃が自身の右肩にチクリと触れた瞬間、刃が肉を斬り始める前に強烈な裏拳による一撃を叩き込む

タイガへの振り向きざま、続けてミナールへのカウンターとして放った2回目の裏拳。彼女の攻撃を阻止するには力任せに頼って十分であった

意識が数秒失ったかのような感覚に襲われたが、なんとか独鈷杵を振る。しかし裏拳の一撃と意識が飛んだことで軌道と少し間合いが変わり、最初に刃が触れた肩からはとっくに位置がずれてしまい濃いグレーのシャツを掠めただけに終わる

ジョーカーは彼女の両肩を握り掴むと笑いながら胴体へ何度も膝打ちを撃ち込む。水滴のような血がちょっとずつ、地面に滲んでいった


「好転してみろ、個々の士気を落とすな」


ぐったりしてしまったミナールの襟を掴み後方へ、影から脱け出し火炎を発する十文字槍を手に高速で迫ってきていたタイガへ投げつける

躱すわけにもいかず、彼女を受け止めたが追撃が来ると警戒。しかしジョーカーは何もせず、敷き詰められた無数のお札に立ち空間に展開された結界術に閉じ込められていた

キハネが眼から血を流し、震える指で左右の人さし指をバツ状に結ぶ


「現状倒せぬなら、先の為に命を懸けての封印か」


「タイガ殿にミナール殿を投げてくれたのは・・・好都合っ!こふっ・・・!」


「貴様、あの少女ごと封印するつもりだったであろう。私を倒すのに10人にも満たない犠牲ならば安すぎると考えるか?見据える先に目をやったな」


右手でゆっくり自身を閉じ込める結界に触れると筆により書かれたような見たことのない文字が浮かび封印術が解除された

眼や鼻から血を垂らし、命の灯火を揺らしながら封印を施していたのに呆気なく終わらされてしまい、寸前までの必死から一気に力が抜けてしまう


「ふん、白夜の悪魔を封印していたものと同じだな。お前、あのババアの孫か?いや曾孫の可能性も・・・」


尋ね終える前に口が止まった。背後より凄まじい力を感じ取り、振り向くとタイガが光を纏った右足で跳び蹴りを放ち、迫ってきていた

ミナールは離れた場所に寝かされていた。懲りずに挑んできたタイガにちょっと嬉しくて笑ってしまう


「その勇猛果敢、嫌いではない」


動かず、避けず、直撃する寸前で左腕よりドス黒いエネルギーを発しながら薙ぎ払い光を纏った蹴りを迎え撃つ


「なんちゃって・・・」


構うものかという心意気であった。光を発する足底が影を纏う腕に触れ、力任せに押し腕ごとのはずであったがその腕は霧状に消える

ジョーカーは右手でタイガの顔を掴むと顔面を地面に叩きつけた。無慈悲に、残酷に、地に顔を押し付けた状態から引き摺りを開始


「苦痛の叫びぐらい聴きたいのに、気絶したり死なれては第一楽章の前奏すら演奏してもらえずに終わってしまう」


飽きたので引き摺りを中止。タイガはジョーカーの頭部へ足の甲による蹴りを放つも、それより速く彼は掴んでいる頭を地面から一定の空間を開き離し、次に勢いをつけ頭部を地へ打ちつける

1度目、2度目、何度もタイガは頭を地に打ちつけられ、硬い物同士がぶつかり合う音と肉が潰れたような柔らかい音が繰り返される

ついでにジョーカーは、手持ち無沙汰となった片方の手でタイガの腹部を貫いた。引き抜き、レザーの手袋には生暖かく、嗅げば頭からフラつきそうな鉄臭い香りがする赤い液体

飛び散り、赤が彩られたその中心でジョーカーは手袋についた血でガスマスクのレンズから下へなぞり涙を描く


「人を殺そうとするのは、めちゃくちゃ怖い。怖くて怖くて泣きたくなるのに、涙が流れないのはどうしてかな?」


歩いていたら落ちていたゴミを拾ったのはいいが、ゴミ箱が見つからずだんだん邪魔に思えてきて、やっと見つけてさっさと捨てると同じ要領でタイガを投げ捨てる

ジョーカーは一息つく、しかしその直後であった。光のビームと稲妻が迫る。慌てて回避する必要はなく、背後に噴き出した水の壁が遮り防ぐ

光のビームと稲妻は水の壁により上へ流されてしまった

放ったのはミナールとキハネである。そんな2人のお嬢さんに水壁から極太状に膨大な水を激しい勢いで発射。一瞬にして呑まれてしまい、ジョーカーの届く視界から消えた


「足掻きは悪いものではない・・・か」


散らばる建築物の残骸、1枚のガラスの破片を拾いそこへタイガの血がついた手袋の指で「please」と書く。そのガラスの破片を握り潰し、ゆっくりと空を見上げる


「月明かりの邪魔をするな、明かりを楽しみながらピアノでも弾きたい気分だったのだがな」


空を覆う集まった鉄類。鉄の絨毯を敷いたと比喩するのが最もだろう

ジョーカーの真上に、突き出た先に巨大な穴。砲口とでもいったところか。光を吸収し、白青いエネルギーが今にも溢れてしまいそうだ

ベルガヨルは右手人さし指をすっ・・・と小さく振りおろす動作を行い、ジョーカーの真上より光線を落とす


「ここで空気を読まずに避けたら、面白いことになるだろうな」


尻目にタイガの方を見る。スペードが興味を持つこいつを、あんなやつの攻撃によって巻き添えにさせたくない

助ける形になるのは不本意だがあれを光線ごと壊す。数ある手段からどれを選ぶか迷うより、瞬時に浮かんだものを選択

大気より黒混じりの濃い緑をした地の属性エネルギーを左手に凝縮させ、一気に天へ向け左掌より放出

似合わない大地からの力は、天より人の手が加わった罰を容易に押し返し覆い尽くす鉄の空を貫くと一瞬にしてエネルギーは全域へ伝わり崩壊させる


「お前は地に眠っていろ」


左拳を突き出す。空間にヒビを走らせ、重い何重もの衝撃がベルガヨルを襲う

最初は正面より、次に連続して上から加えられ地に巨大なクレーターをつくり、穴を広がらせていきながら沈んでいく

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