前兆前 20
ドーム状の光と闇が、ある程度の大きさを維持しながら互いを喰らい侵食しようとする
二人の額と剣と剣の根元での押し合いが続くが、それは突然として終わりを迎える。ノレムの方が押し始めたのだ
凄まじい気迫であった。負けたあの日以降、他のやつとも戦い死にかけたりする場面もあったが、眠れば何故かモトキとの戦いが夢で再現される日があった。悪夢とは違う、怨んでいるわけでもない、好きでもない。だがこいつと競い、己の可能性を確かめたい自分がいる。だから再戦する為にここまで来た。戦闘意欲、再戦できた嬉しさ、ジョーカーや先輩方が付き合いついて来てくれた事、全てを乗せての気迫
気迫、気合い、気持ちの奥よりノレムは声を出す
「はぁぁっ!あぁっっ!!」
「ゔっ!」
闇が攻め押す。黒い闇のドームが形を変え、光のドームへ無数の刃を突き立てる。闇が刺さり、光のドームから出血のように白い液体が噴き出ていく
押し返そうとは考えず、相手の刃を剣で受けながら右手に装備された盾へと換え、胴体へ剣を薙ぎ払う。それに対してノレムは剣を握る右手を離し、上からモトキの剣へ右肘を叩き込んだ
ガクンと剣先から地面に落ち、足で踏み押さえられてしまったが瞬時に剣を手離し、左拳で闇を纏う刃を殴る。光の力を握った拳は剣に纏う闇に触れ、暴発
眩い光が発せられ、互いにすぐ距離をとる。ノレムは再び刃に闇を纏い直し、モトキは手に剣を戻す
暴発した光は白と黒のドームを内部から爆散させ、弾き消すとその場に残った剣にまとわりついていた小さな闇にへばりつき、縮んでいくとやがて若干の痛みを伴う風となり消えた
「どうした?博物館でのお前はその程度ではなかったはずだ。まさか先にしていた戦いで、障害が出る程の怪我や疲れでもあるのか?」
「そう言い訳したいが違う」
こいつ、前回よりあまり日にちが経っていないというのに、大きくはないが、確かな変化が彼にはある。短い間に何があったのかと質問してみたい、それともジョーカーの前だから無様な姿を晒したくないので必死なだけだろうか?
剣を握る左腕を上段へ、モトキは剣の刀身を、面を上に向けた盾にそっと乗せる構えを取る。ノレムも脇構えをとり、攻撃を誘う
任務で戦った時の顔付とは違い、「さぁ、こい」と純粋に嬉しく楽しそうな顔に見えてきてしまう
(スピードを上げていく・・・)
剣を引き、盾と刃の接触部より火花を散らせながら距離を詰め、重い突きを放つ。ノレム右斜め下からの斬り上げで迎え撃つが掠める程度に触れた瞬間、モトキは素早く剣を引き、踏み込んだ左足で後方へ跳ぶとバックステップと同時に回し蹴りを頭部へ
迅速であり、無駄のない動きであった。剣を振り切り次に切り替えるよりもずっと速い。左腕でギリギリ蹴りを防ぐ、腕と足の間から煙が上がり少し手が震えていた
「はぁっ!!」
力に任せ、モトキの足を押し弾いた。腕から闇が漏れ、黒い煙が残る
弾き、瞬時にモトキの左斜め上から剣を振り下ろす。斬った。しかしそれは光速で移動し現れた光の影、一歩後ろで盾を投げ、両手で握った剣を突き立てると衝撃で豪風を巻き起こす
ノレムは剣で防御をとるが、身体前面に重い鈍痛が走り身体が吹き飛ばされる
「ぐ・・・っ!」
落ちてきた盾の鞘に剣を納めると、右拳を握り突き放ち光の属性エネルギーが太い光線状に。体勢を直し着地しようとするノレムに向け放出されたが、彼は着地と同時に左拳を地に叩きつけ、轟音の後、膨大なる闇が地を裂け噴き出す
闇は光を受け、そこへノレムが剣を一刀すると凄まじい衝撃が黒い何重もの層を生みながら光を凹まし押し返す。黒い層は砕け、無数の斬撃となりモトキへ襲いかかってきた
(抜け道を定め、速さに任せて抜けるも回避もありだが・・・避けてから斬撃は俺を追うか、そのまま進みここ一帯より被害を出してしまう危険もある。五星とその部下達と戦っているのだから街の1つで済むならと考えたいけど・・・できる限り、なるべく最小限で抑えれるならそうしたい)
瞬時に斬撃の隙間と隙間に目を配らせ、突破口を見極めてから走り、迫り来る無数の黒紫色をした刃へ飛び込んだ。群とも言える刃は全てモトキの方を向き、四方八方に周りを取り囲む
剣より光の属性エネルギーを放出しながら斬り回しを行い、最初にモトキの剣に触れた黒紫の刃が斬り砕かれた直後に拡散する光の波動が闇の刃を消滅させていく
「だろうな、それぐらいに挫けられては悲しくなる・・・心配するなとは言い切れないが、今の俺の標的はお前だけだから他に多大な被害、二次災害をなるべく及ばさぬよう注意するつもりだ。だから周囲に気を使わず、俺を倒しにこい」
「お前・・・」
「なんだ?」
「・・・けっこう優しいな」
「・・・俺は優しくない。例えば無害であり、怨みもなく、罪もないやつを、ジョーカー様が気に入らず殺せと御命令なさるならば、躊躇を微塵も持たずにそいつを殺すなど容易だ」
モトキは小さく笑った
ノレムは何がおかしいと問おうとしたが、彼は瞬きの間に目の前から姿を消していた。気配は上空から、口を笑わせ、獣を思わせる瞳を輝かせ、右拳を握りこちらへ殴りかかる
不意なことであり、両腕をクロスさせ受け止めた。上空から体重を乗せ、勢いのあるパンチにより地が沈み、ノレムの周りに亀裂を生む
「・・・!」
「ラウンド再開といこうか、ノレム」
楽しさも、嬉しさもないが、モトキからの一撃を防いだ最中、ノレムは一瞬だけ口から笑みを溢す




