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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
違う輝き
63/217

前兆前 17

「目的は達した。ノレムと、剣盾を持つ者の決着を待つとしよう。茶でも点てるか、茶釜に水、茶菓子の用意を・・・」


ロセミアがシンプルにこしあん大福、カステラのどちらにするかを尋ねるがすぐに我に返った。頬を赤らめ、顔を合わせないよう背ける

3名は付いてきただけ、ジョーカーは内心ノレムとモトキのどちらをも応援しながら、そこら辺に落ちている木材を拾い、火を焚く

顔を逸らすロセミアにこしあん大福を所望、彼女は更に頬を赤くしジョーカーの背中を何度も叩く


「くっ・・・」


ベルガヨルを唇を噛み締め、和やかなジョーカー達とは真逆、緊迫な雰囲気。目の前でお茶を始めたジョーカーに、不思議な怖ろしさと混乱が誘う

彼はは付き人である女性を抱き上げ、タイガ達のところへ。自分から来ておいて舌打ち、態度の悪い彼にミナールが睨みつける

悲しげな顔へ、彼に抱き上げられる彼女は時折小刻みに震えていた。左手がレザーパンツのポケットを探り、血に染まる1枚の紙切れをキハネへ差し出す


「あんなことをしておいてなんだが・・・頼む、お前の転送でこいつを。お札1枚と、小切手を交換してほしい」


プライドを捨てた。自分のプライドより、付き人の2人はベルガヨルにとって変え難いすら考えられない者である

血で赤くなった小切手は記入が難しそうだ

キハネは口を開かず、目を細めベルガヨルの顔を見る。次に尻目でミナールの方を、彼女は不機嫌そうにそっぽを向いた。「好きにすれば」と最小限、聞こえる声量で程度に呟く

やりとりとは別に、タイガはある事に気づく。影の刃に貫かれた女性は、これ以上出血していなかったのだ。危険な状況に変わりなく、息の酷い乱れはあるが、間に合うか間に合わないかギリギリの瀬戸際ではなく、まだ急げば普通に助かる

タイガはジョーカーの方を向く、視線を感じ茶釜の水が沸くのを待つ彼は右手指を動かし、手を振り始めた


「あの女に、何をした?ジョーカー!」


「さぁな・・・」


こしあん大福を食す。高い物ではないが、購入場所である行きつけの和菓子屋が安くて沢山つくれるからと手を抜かず、1つ1つ丹精込めて作られた大福は深みがあり、甘過ぎないとヘタなコメントをすればその店のファンから袋叩きに遭うしっかり甘い菓子である

1つをゆっくり味わうジョーカーの横でハオンが腰を下ろし、次々に大福を口に放り込んでいた。お茶用に1つは取っておき、右手に数個を持つと上へ投げ、大福は口を開き待つハオンへ入っていく

光景にタイガは悩んでいた。この状況をただ待つか、仕掛けてベルガヨルの二の舞を覚悟するか。モトキの手助けをする選択肢は最初から排除している。お茶が終わるまでとりあえず待つ


「おっと、手が」


小切手を破り捨てるキハネ、ベルガヨルの付き人である男が彼女に詰め寄ろうとするが主人が手で抑止。彼に抱き上げられている女性を男に預け、目の前で普段の彼から信じられない行動をする

両手を地に付け、額を地に付けるまで伏したのだ。「お願いします・・・」と丁寧な口調で、キハネに頭を下げる。ミナールは信じられず、驚愕な顔をしていた。キハネは一息、間を置く


「断ったわけじゃありませんよ。必要ない意味です。始めから素直に彼女を助けたいからよこせと一言を言ってくださればよろしいのに」


1枚のお札を指で2回叩き術式を、野良猫の親子に使った術と同じである。行き先は街の病院より、先祖代々から世話になっている医者達の所の方がいいだろうと判断

お札が渡された。付き人の男性がベルガヨルに彼女を頼むみたいなことを口にしていたが返答せず、彼はお札を女性の手に握らせる

ベルガヨルは次にミナールに視線を送った。やるなら今のうちだと、ミナールは口でちゃんと言ってほしいと呆れながらもベルガヨルの付き人である男に気を失っている取り巻きの娘を押し付けた

女性2人を抱え、主人のベルガヨルに問い質す暇もなく、キハネは術を発動。お札は蛍のような淡い緑色の光粉となり消え、男は「ベルガヨル様!!」を言い切れず、3人はお札と同じように光粉となり一瞬にして消えた


「礼を言う。胸が糞悪いがな!」


「お礼ぐらい、ちゃんと申してほしいですね。ですが、珍しい姿が目にできましたので」


「あんたがあそこまで頭を下げれるなんてね」


始終をジョーカーは目にしており、ハオンがキハネの術の発動を阻止しようとしていたので止めた

水は未だに沸かず、何故なら火力が弱いからだ。じっくり、待ち過ごすのも好きであるが気分の変化が内で現れていた。ガスマスクの右眼レンズを軽く突き、突然とジョーカーは立ち上がり一歩だけ前へ

その一歩がタイガ達の身の毛をよだたせた。幻覚かもしれないが、ガスマスクよりドス黒い煙が漏れている


「我々はノレムの付き添いであり、彼の闘いを邪魔をするような奴らがいるなら蹴散らすつもりでいた。が、だ。赤い鉢巻きの貴様は物分かりが良い、おかげで、こうして茶でも飲み過ごそうとしている」


一歩、また一歩、その度に4人の全身から汗が噴き出す。唇を噛み締め耐えようものならば、無意識にじんわり血筋が唇から顎へ一線伝う

首を少し傾けわずかな沈黙、しかし突然ガスマスクに手をやり、外そうとする

動悸が激しさを増す。ジョーカーの素顔をこの目にしてしまうのか、どのような顔か憶測を巡らせてしまう。想像、耳にした噂、今の思いつき、全てが期待と興味を掻き立てた


「いやいや、ここで外してどうする。顔を知られたとて、周りや世界への大きな変化などありはしない。なら外すのはよそう、なにしろ甲冑や鎧で頭を包み、肌と被った物との間にちょっぴりできる隙間の感触が大好きだから。今考えた嘘だけど」


愕然とした。悪い方へ。変化が無いと己が思うのなら、こちらは外して顔を見せて欲しい

今考えたという言い訳の嘘もくだらなく、揶揄うように笑う彼は非常に腹がたつ

笑い終わり、重たい息を吐くジョーカー。雰囲気の変化、物静かであり、ネクタイを緩め、手袋を外す


「刻をただ過ごす、それも結構。けどやはり、僕がいるのは自覚できないが貴様らにとっては大事なのだな」


自分ではそう思っていなくとも、周りからの目は様々である

何もされないのが1番良いはずなのに、何もしてこないのが怖くてたまらなくなり、ミナールがそれを振り払うつもりで口を開く


「当たり前の事を!現状、何もしていないのが不思議なぐらいだわ!帝等の国のトップが跳び上がる事態よ!全戦力を投下して、この街どころでは済まされない規模が地図から消してまであんたを倒そうが冗談無しに実行されるわよ!」


だが、それ程が目の前に確かにいる。偽者であって欲しい、その願いすら一筋の光になりかねない

ジョーカーがこの国に侵入している。それだけで全土が警戒体制に成りかねない


「僕のせいでつらくなるお前達の為に、僕なりに色々考えてみたさ。ノレムの結果を待つだけだったが、攻撃された。貴様らの国からすれば唾を吐きかけたくなる存在、嫌だが最大の敵とされる五星の一枠。長引けば長引く程、オーバーとなる。街の憲兵を全員殺しておいても時間稼ぎにしからならない。だから、他が駆けつける前に・・・お前達皆、ここで死んでくれ」


なんでー!?とつっこみたくなる

ジョーカーからすれば、完全に気まぐれであった。ノレムと同じく戦闘狂でないにしろ、ただ理由をつけて戦いたいだけ。モトキとノレムとの戦いに感化された。または別の思いつきか。敵味方の誰もが探れない心底

いや、もしかすればノレムに付き添ったのも最初からこれが理由だったのかもしれない。だとすれば、何故此奴らなのか


「安心してくれ。貴様らを殺してもノレムの目的が終われば、これ以上なにもせず帰るさ」


「そういう問題だけじゃねぇだろ」


タイガの言い分に「ごもっとも」と返答

お任せくださいと言わんばかりに、ハオンが右肩をまわす運動を開始。全員の生き血を啜るつもりで意気込むがジョーカーは彼へ耳打ち、ロセミアへも一言何かを告げ、片膝をつき茶釜の蓋を開ける

まだ水は沸かないのは、火力が全然足りてないからだ。わざと小さな火力で沸かすのは、飲む気が沸かし始めた頃には失せたから。こうなるのを望んで

ジョーカーは腕を組み、この空気を感じてみる。あんなことを口にして本当に仕掛けるのか、仕掛けるならいつか、もしかしたら1秒後かもしれない。不安だらけの緊迫が漂う、中でタイガは右足を踏み込みいつでも対応できるようにするがハオンがニヤつく


「貴様ら、ちょびっと疑っているな。ジョーカー様の戯言かもしれないと何処かで、もし本気だとそれはそれで怖くて怖くてたまらねぇ・・・なら先手必勝、不意討ちでもしてみろ、俺が相手になりすぐに返り討ちにしてやる」


彼の全身に青い毛が生い茂り、顔は狼へと姿を変える。二足で立つ獣人タイプになるがジョーカーが彼を呼ぶ。「承知!」の返事に完全な狼の姿となり、敷かれた布団へ飛び乗ると狼に姿のハオンを枕代わりにジョーカーは横になる

狼に姿を変え、そいつを枕に使い突然横となったジョーカーにロセミアは申し訳なさそうな顔であった。「死んでくれ」と口にした現状は未だ沼に沈みそうな恐怖が抜けずにいるが殺気がない。あれも、また適当なことを口にしただけなのだろうか


「おっと、寝ずに来たせいか?寝ている場合とは違うな」


だるそうに、のっそり起き上がる。布団を畳み、空間を裂けそこへ放り込んだ

灰色で目に見える緩やかな風がジョーカーの周りで発生。ここで全てが変化する、今まで体験したことのない殺気が生まれた

Master The Orderの4人全員が降り注ぐ無数の刃物でめった切りにされる光景を目にした。痛みもなく、なのに色々擦り減らされてしまう。立ち、吐かずにいるのがやっとの状況

殺気を緩めたジョーカーは左足で茶釜を蹴り上げ、落ちてきたところをタイガへ向け蹴り放つ。中の水を撒き散らし、茶釜はタイガへ到達することなく燃え尽き消えた

燃やされた茶釜について、ロセミアがジョーカーへ問う


「よろしかったのですか?この国の国宝職人、タザシゲ シガオザキの作品でありましたのに。お亡くなりになられ、ファンの多い方でしたから入手は難しくなられますよ。大金を積めば話は別になられますけど」


「いいさ、前にハオンの相方の家で茶をもてなされた際に使われていた茶釜の方が安くて、丈夫で、使いやすいかった。あれに変えるつもりでいたからな・・・タザシゲ殺したの僕だし」


1年前、世間を賑わせた茶器の器や茶釜の製作国宝職人、タザシゲ シガオザキの死去。死因は日頃の人間トラブル等のストレスによる服毒自殺と鑑定され、作品のファンは悲しみに暮れた

死後にはそれら作品の値段が跳ね上がり、高額で他者に売る者、絶対に誰にも渡したくないと大掛かりな管理施設を建設したり警備を雇う者、所有者を殺害する者が世界中に現れた

ジョーカーは、彼が気に入らなかったのだ。大金を払ってでも入手が難しいとされるタザシゲ作の茶釜を所有していたのだが、使い勝手が悪かった。直接、彼の元を訪ね、普通の物とは違い火の温度はどれぐらいが良いか等を質問したら怒られてしまった

タザシゲ曰くこれは飾る物であると、茶の席で使用するなど言語道断。ジョーカーは芸術に理解がある方だが、使う物を使わない為、ただ飾る為の茶釜を作った彼に対して、怒りは全く無かったのだが気分で殺害した

作品の評価は高いが、彼の本質を知る者からの評判が悪いと耳したことのある者もいる。ジョーカーが彼を殺害した理由とは全然関係しないが、ちゃんと使用してくれる為にしっかりと作る他の職人達からすれば、タザシゲはどこかで唾を吐きたくなる存在だったのかもしれない


「とんでもなく、数年後に世紀の事件と取り上げられそうな内容を聞かされている気がする・・・」


「タザシゲ殿とお逢いしたことありますが、私はあの人が嫌いです。祖母が御仁の方々との集まりで茶をもてなすことになったのですが、それに使う茶器を作ってほしいと御頼みしたことがあります。ですが、彼は単に断るならまだしも、自分の作品が使用されるなどと、他にも祖母への罵倒、関係のない周りの方々への悪態ついた手紙を2通お送りになられてきました」


「へぇー・・・有名人や偉人も、裏ではどんな姿かわからないものね」


ベルガヨルは記憶にある事件だったのでその真相が突如として明るみになり驚き、キハネはタザシゲへの評価、ミナールは興味なさそうであった

国宝職人が死んだなどそれどころではなく、国全土を通してもジョーカーが目前にいる事態が重大ニュースである

蹴り放たれた茶釜を蹴り返したり拳で弾けば、仕掛けてきそうだと警戒、炎で溶かそうとしたがそれを行う前に発火し燃え消されてしまった。ジョーカーは1回手を叩き、開けば紙吹雪が舞う

こいつは何がしたいのか、殺気だけは出しておいて戦う気など本当は嘘か、寸前に気分が塗り替えられたのか


「ジョーカーさんよ、お前は俺達に死んでくれと言ったが自ら手をくだすのが面倒なのか?茶釜を蹴ったのは攻撃のつもりじゃなく、単に邪魔だからだ。長引けば長引びく程、面倒が増えてくだけ・・・」


次の瞬間であった。タイガが言葉を言い切る前に狼となったハオンが鎌鼬のよう旋風を切り散らせる勢いで蹴りを放ってきた。タイガは瞬時に左腕で防ぎ、衝突に生じた衝撃が街の残骸を吹き飛ばす

タイガの腕を踏み台に、狼は真上へと跳ぶ。四足の獣から、二足の獣人形態へと姿を変え、鋭い両爪をギラつかせ落ち迫る

バチンッ!!と小さいかと思えば瞬間に耳奥へ痛みを伴う大きな音がした。ハオンの爪を、腕と拳で殴り受けたのだ。

ハオンは跳び離れジョーカーの前へと戻る。だが、タイガの右腕に2本の爪が深々と刺さっていた。骨を突き抜けており、先端が皮膚を突き破りそうだ。普通ならばかなりの力を入れないと抜けないはずだが、痛みへの躊躇は微塵も持たず容易に抜いた。抜く際に、爪が肉と骨を削る。タイガは地味に嫌がらせみたいな攻撃をしやがってと内心愚痴る


「ジョーカー様が面倒臭がるならば、俺が代理で実行するぜ。さっきのは、ちょっと命令違反だが」


もう彼の爪が生え変わっていた。対してタイガも傷口が治癒を終えており、血跡だけ

命令違反とは?申し訳なさそうなハオンであるがジョーカーは全く気にしていない様子。先程の耳打ちのことだろうか?下すのは自分だと聞かせていたとすれば、彼のタイミングで実行が開始される

ジョーカーはガスマスクの顎に指をやり、考えていた。4人へ、1人1人視線を向け、見定めを行なっている。「なるほど・・・」と小さく呟いた直後、積まれた憲兵達の死体がドス黒い炎に包まれる。すぐに鎮火したが、その場には消し炭すら残さていなかった。更に深まる得体の知れない沼に沈められたかのような感覚

ゾックの件での御礼を述べ、茶を楽しもうとしたり、布団を敷いたり、部下への態度から彼のお気楽で礼儀正しそうな部分を垣間見たが、これで完全に残酷性、残忍性、残虐性が隠しきれなくなってしまった

もはや、嘘や気分ではどうしようもなく。桁が違いすぎる。誰もが現在まで感じた邪の中で


「お前だ、お前、そこの赤鉢巻き。目に掛け、再度の見直しをしたがやはりお前ならまだ戦えるな。べつに僕自身は強いとか自負してはいないが、貴様らぐらいなら、なんとか勝てそうだ」


「よくそんな口できますね。オリジナルや怨念の集合体等をその身で倒して、不本意ながら世界を救うに繋がってしまった御仁が。感謝すべきですよ、こいつら側は。今ある世界を」



ハオンの言っていることがさっぱりであるが、ジョーカーは中々場面を潜り抜けてきたのだろう。ノレムもロセミアも知らないが、ハオンだけは知っている。ジョーカーの身体に刻まれ、完治に遅れた左胸からの痛々しい大きな傷跡の意味を

タイガは身構えた。両拳を握りしめ、利き腕の右は左よりも高い位置へ

いつか、今か、1秒後か、まだ先か、だがひしひしと伝わるジョーカーからの戦意。これまでの努力、才能、経験、潜在の全てを出し切ったとして、どこまで通用するのか


「ハオンに抜け駆け味見をされたが、最初伝えたどおり紅鉢巻きは私が測り、屠ろう。スペードがモトキというやつと共に興味を示した緒方だ・・・えと、誰だっけあのスライム族の。まぁいい、あいつを討ち払った。それだけでスペードに興味を持たせた不思議なやつ。あんなやつで到底測れやしない部分を、私が興味本位で貴様の相手になり直接触れてみよう」


ジョーカーは学園へ自分で送っておきながら、名前などとっくに忘れていた。帰ったらスペードかダイヤに聞いてみよう、たぶんどうでもいい事だからそれを聞くことすら忘れていそうだ

スペードが興味を持ったから、それが真か疑う。何かが引っかかっるのだ。戦う理由など適当で構わない

なにしろ相手は敵勢力の者、本来は理由すら必要とせずだが、もし、スペードが興味を示していなかったら?こうも話をせず無視するかとっくに消していたのだろうか?本当に、スペードが興味あると示したからだけなのかと尋ねてみたい

ジョーカーのことだ、本当にそれが本当の理由なだけでの行動もあり得る


「ハオン、ロセミア、すまないが他の邪魔が入らぬよう、念の為に他のMaste The Orderの方々を相手してやってくれ。無理、嫌、面倒なら1人で頑張っちゃいまーす」


「頑張らないでください、ジョーカー様の攻撃に巻き込まれないよう逃げる方がよっぽど面倒です」


「まったくもって同感である。流れ弾にも気を張っておかねぇとな・・・念の為に言っておきますが、お気をつけて。今まで、散々危険な目に遭われてきましたがあの紅鉢巻き、スペード様が直接逢われてすらおりませんのに興味惹かれるだけはあります」


真面目か、戯れか、どちらでも五星を相手にするとなると足が竦みそうだ。モトキが入学してすぐの事件、エトワリング家の御令嬢誘拐脅迫、ポーシバールでの防衛戦、全てがスペードやジョーカーの元に届いているだろう

エトワリング家の騒動以外も、全てジョーカーが関わっていることをタイガは知らず、モトキも同じであろう

モトキは、エトワリング家の一件でジョーカーを恨んではいるが私情に囚われ彼に襲いかかる真似はしなかった。ノレムの目的に応え、もしあそこでジョーカーへ喰らいつこうとしていれば酷い飛び火となると判断したからだ。タイガは気づいていた、モトキの抑え殺しに

なら己の心境は、それは己ですらわからない。エトワリング家での事を恨んでいるわけでもなく、ただ敵、それも五星の1人が目の前におり、自分を葬るつもりでいる。逃げるのもありだが、モトキがノレムに勝利しても、次に自分と同じでスペードから興味を持たれている彼を置いていけば点火場所はそことなる


「こいつらとの話し合い時間を要求します!」


「許可しよう」


タイガは短い距離を「集合っ!」と叫び、手を2回叩きながら駆け足で

ミナールは、余裕を覗かせられるタイガに呆れを越えて羨ましさすら芽生えてきた

キハネは一度、ジョーカーの方へ視線をやるが許可に偽りなく、ちゃんと待っている

ベルガヨルは輪に入ろうとせず、こちらに背を向け空を眺めていた。お前達だけで勝手にやっていろと、自分はその輪に入る資格を持たない、気まづい等の理由とは違い、単純にこいつらが嫌いだからである


「お前達と一致団結して、仲良く円陣でも組むぐらいなら、俺はあの茶髪ミディアムヘアーの手助けをする」


「そんなことしたら、一発でジョーカーがここ全てを焼き野原にしてしまうぞ。あいつはあいつで信じていろ、誰の手を貸さなくとも大丈夫だ。もっと大きな問題が前に立っているだろ、関係なく無くなってしまったのだぞ」


舌打ち、こいつのは嫌ってほど聴いてきた。そこから様々な意味が混ざり合った溜息を吐き、仕方なさそうに輪に入る

問題はジョーカーの側にいる2名も戦闘する状況、彼の御指名はタイガだが他が邪魔になる可能性を考慮しての片付けておけの令。仮に、キハネかミナールを指名しても同じ令をしていたであろう

もしそのような令を出さなければ、タイガだけであるなら、見守るだけ。助太刀などすれば、もっと酷い惨事を街だけでは済まず巻き込まれてしまう危険性が高すぎる


「残念だけど、今だとジョーカーとなんとか戦えるかもしれないのは、タイガだけかもね。あのジョーカーが、どういった考えで、あんたとの1対1を望んだのか。敵国だろうと、お偉いさんの考えと気紛れは掴めないものね」


「僕のせいでみんなが辛くなるなら死んでくれって、絶対に適当な思いつきですよね。ずっと、何かが引っかかりぱなしで・・・」


ミナールとキハネには続かずベルガヨルは無言、ただ耳で流し聞く。来るなら来るでさっさと出来る限りの対抗をすればいいだけ、ジョーカーはともかく、まだあの2名ならば可能性はありそうだ。まだ知らぬ故の可能性

Maste The Order同士で協力、息を合わせるなど不可能に近い。なら、個人の自由で、こうしたいと好きに戦う方がまだ効果的である

ジョーカーの付き添いで来た者達だ、学園の生徒や一般兵みたいにはいかず生半可は絶対に禁物だろう

ベルガヨルは輪から最初に抜けた。それを見たタイガは、「そうだよな」と一言漏らし、彼も輪から外れる。全員が初めからわかっていたことだ、協力する話し合いは無意味なものだと


「無駄な時間を取らせたな、ジョーカー」


「いいさ。ふむ、協調とは勝つ手段ならば意識せずとも実行されてしまっている場合がある。余計なアドバイスだ、気にするな」


世界は再び、夜へ戻る。空には見事に、手を伸ばせば届くと夢を見せてくれそうな満月があった。瞳をギラつかせ、四足の底全てに力を入れ踏み込み亀裂を生む。狼の遠吠えが空へ溶けていく

ハオンの背を撫でるジョーカーは隙だらけである。何度も披露する隙、だがそこをずっと攻撃できずにいる。威嚇する狼とは違い、構えもとらず、やる気すら匂わせない。挑発のつもりでワザとなのだろうか?ここで自分から仕掛ければ、やつはどう開始するのだろう?

こちらからの様子見はどうすべきか、五星は強いとは知れ渡るが未知数すぎる。ジョーカーに付く者達も同様、下手すれば一撃で全員葬られる可能性が大きい


「フィールドはこちらに利があると期待したいものだぜ・・・」


ベルガヨルの私有地、モトキとの戦い前に崩壊させた建築物の残骸。これらを利用しながら戦うのも視野に入れるべきだ。それぞれにある戦闘術、属性エネルギー、魔法、術、能力、どれでも良い。開く路に一筋でも、そこから開かせ突撃するしか選択できない

街どころか、地図から消える面積が大きくなる結末を気にしてはいられない。相手はあのジョーカーなのだから。勝負は、彼が言うことが正しければモトキとノレムの決着がつくまで


「キハネ、ミナール、タイガ、お前らに言っておく。こちらの攻撃や技の邪魔をするな、などの遠慮はするな。自身の最良だけを考え、これにこうすればとか、次々にやる。それが、俺的に最良」


カタカタと小刻みに揺れる残骸に混じる鉄類。鉄板、釘、ネジ、窓枠と建物等に使用されていた物、ナイフにスプーン、鍋に銃の部品等といった日用品から置き忘れられた物等が浮き、液状となり混じり合う。ベルガヨルは拾ったフォークを右手に持ち、鋭利状に作りあげた鉄塊を右腕に纏わせる

同時に捻りを加えた太い針のような物を己の前方、空間を埋める程の数を形成する。左手の人さし指、中指、薬指、小指を畳み、全ての針がジョーカー達に目掛け、放たれた

ミナールも始めていた。対象はベルガヨルが放った無数の針へ


「良いかしらっ!?」


「好きにやれ」


それを訊く隙すら捨てろと、ベルガヨルはミナールに怒鳴りたかった

発動は着弾してから、鉄針の温度を上げるつもりである。こんな小さな鉄針では倒すなど不可能かもしれない確率が高すぎるのだ、刺すにプラス溶かした鉄を付着させるか体内へ流し込む。刺すによるダメージ、高温によるダメージ、それに鉄を体内へ侵入できればベルガヨルが先程失敗に終わらてしまった攻撃を行える

。成功など考えておらず、確かなダメージがあるかを知りたい

ジョーカーはそっと右手を、前方へ向ける。しかしすぐに引っ込めてしまった。ロセミアが裂け開いた次元より覗く黒い柄を掴み、通常より刃幅の広い木枝のような模様が描かれた薙刀を力を入れ引き抜き、その勢いのまま薙ぎ払い、殺傷のある風圧で全ての鉄針を切り刻んでしまう

落ちた鉄針は地に着弾すると同時に、赤く熱され溶けていく


「礼を言う、刺さったら痛そうだからな」


「あの程度で怪我をなされては、奥方様に申し訳なくなられますので。余計な手の貸しかもしれませんでしたが、手を煩わせたくなかったと解釈ください」


「あぁ、そう・・・あいつとは5日前に廊下ですれ違い、尻を触ったのが最後か」


今度、たまには2人だけで過ごしてみるかなんて考えていると、ジョーカー達を地から浮き出た術式の方陣が囲む。発光する白い線は模様と四方向に小さな円を描き、その中に封の文字を刻む

キハネが封印術を発動していた。額から汗をかき、力み血管を浮かせる。他のMaste The Order達は彼女が今まで行ってきた術の中でもかなりの力を感じていた。それぐらいやっても大袈裟ではなかろう


「封印術か。まだ命を犠牲にするまでいかないとは私の力量問題を疑うな。ハオン、頼めるか?


牙をチラつかせた笑みの後、狼は吠える。すると展開されていた術式は黒く濁り、黒炭となりちょっした風で崩れてしまった

嘘と言いたげな顔のキハネだったが、切り替えは早く1枚のお札を投げた。地に着くと一瞬にして放たれた膨大な煙は辺り一面を覆い尽くし視界を遮る

匂いで探る。目で探る。気配で探る。どれも行わずジョーカーの左手の平に現れた優しい風が広がり煙を掻き消した

だが、そこへ上空より迫っていたのは右拳を親指で他の指を抑えながら握り、炎を纏わせたタイガであった。ハオンとロセミアは離れ、ジョーカーは親指から順番に閉じ、親指を握った状態の拳にドス黒い緩やかな炎のような闇を感じさせる影の力を纏い裏拳を放った

炎と影が、衝突する


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