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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
違う輝き
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前兆前 15

階段より見下す眼は、モトキからすれば僅かな屈辱や怒りすら芽生えず

階段を下り始めたモトキの背が腹ただしい。彼の背に、湧くムカつきが抑えられず階段上より跳び蹴りを放つ。ちょうど階段を下り切ったモトキは、振り向きざまに右足で回し蹴りを

ベルガヨルの蹴りを左掌で受け止め、胴へ足を打ち込み、鈍い音と共にフロントへ蹴り飛ばす

受付カウンターに叩きつけられ、宿帳が散乱した。舞降る宿帳、その中の1枚を掴んだ。それは付き人が最初に名前を記入したもの


「ベルガヨル様!」


助太刀ができない、それで勝利をしても意味を成さず。ベルガヨルに言い聞かされ、自らもよく理解している。だからこそ、体が動いてしまいそうになる男を女性の方が羽交い締め

ベルガヨルは名前が記入された宿帳を眺めていた。何度も繰り返しながら、キハネ、ミナール、タイガ、モトキを順に心で呟く。体を起こし、モトキの名前と本人を照らし合わせるが、やはりこんなやつがMaster The Orderに入るなど納得いかず、宿帳を破き、丸めた紙屑を投げる


「安心しなお2人さんよ。これぐらいで助太刀されるピンチに含まれるなら、小さい頃からどれほどお前らに迷惑と心配をかけている」


肉弾戦はなかなか。どのような戦闘を行うか全容がまだ掴めていない、まだ始まったばかりだ。モトキのこちらを見つめる瞳が、別の苛立ちを掻き立てる

なるほど、Master The Orderの新人に入るならば試し程度の攻撃じゃダメだと、次に蹴る時は全身の骨が飛び出すほどに蹴らなければ

躊躇いなど必要なし、生き地獄を味あわせる必要もなし、キハネを超えたFourthの位置に立つならば確実なる倒した決着を


「さっきの一撃でわかった。新人となるだけあって、甘く行かないな。だが、俺よりは遠くだ・・・これでキハネより上になるなら、やっぱり俺がFourthに上るべきだ!」


右手を、指先を全て床に食い込ませる。建物全体が揺れ、一気に崩壊せず屋根から捻り開いていく。そこから、ようやく崩れ始めたのだが鉄骨等、鉄製のものだけが残されていた

「随分と、空を眺めやすくなった」と、呑気にしているモトキだが周りの現状に気づき血相を変える。このホテルだけでなく、通ってくるのに目に入った建物が全て崩壊していた。他も、鉄製のものだけが残る


「空だけでいいのに・・・」


「その空も、すぐ行き着く先にならないことを願うか、命乞いするんだな。新人候補よ!」


レザー製ロングパンツのポケットを漁るベルガヨル、しかし静止してしまう。身体中を叩くがまた静止、何かを探しているのだろうか?

一息吐き、付き人に指で合図

男が宿帳へ名前を記入する際に使用したペンを主人に渡す。右手に持たれたペンは中指先で回し、手の平まで転がし掴んだ。その直後、廃墟ホテルに放置され、眠っていたスプーンやナイフ、鉄製調理器具等が彼の元へ飛んできた。全てが溶け、ペンを握る右腕に絡みつき、捻らせ先端を鋭利状に尖らせたものへ


「それで斬られたり、突かれたら痛そうだな」


「なに当たり前なこと言ってんだ?痛いのが嫌なら動くな、一撃で頭を貫いて脳みそぶち落としてやる」


モトキは次元を開き、そこへ手を突っ込む。次元が閉じるに合わせ、突っ込んだ腕を抜くとその手には使い馴れた剣

「あれが、あの者の武器なのか?」とキハネはモトキの剣にすら興味津々であった。そして、タイガがモトキへの「盾を使わないのか?」の問いに彼女は、「盾も使うの?」と更に興味が湧く

剣を持つ手は左手、彼の利き手は先程のサンデーを持つ右手であったはず、つまり利き手に盾を持つタイプであるようだ。剣と盾を武器に、利き手に剣を持つ者が多い気がするのでキハネは珍しく思う


「盾を使う?持たないのは余裕でも自慢したいのか?ま、好きにするがいい。本気出してないから負けたなど、負けは負けだぞ」


「けっこう・・・」


仕掛けたのはベルガヨルからであった。右手に纏う鉄が形作った鋭刃が伸びる。スピードはあるが避けるが無理な速さとまではいかず、首を左へ動かすことで躱し、走り迫るつもりであったのだが伸びた鉄がスライムのような液状に溶けモトキの身体に纏わりつく

液状となった鉄が一瞬よりもはやくに硬まり、体右半分以上の殆どが硬まった鉄に覆われてしまった

ベルガヨルの右腕には元の鉄鋭刃。狙いを定め、また伸ばし突こうとするが、モトキが慌てずにいるのが引っかかる。仕留めるつもりで、だが警戒を怠らず、鉄骨等を上空に塊で集め浮かせ、右腕の鉄塊を増大化させてから伸ばす


(できれば、近づいてほしかったな)


身体に纏わりつく鉄に亀裂、光が漏れ全てが弾け落ちた。迫る鋭利の先端を真正面から剣先で突き刺し、受け止める

少しも足底が床を削らず、退かず動かず。ベルガヨルは力を加えるがモトキは微動だにせず、逆に押し返し始めているのを感じた。ここで、上空に集め浮かせていた鉄骨等の塊を落とす。ベルガヨルと付き人である2人には避けるように落ち当たらず、他はそれぞれ、ミナールは指先からビームを放ち消し、キハネは結界で防ぐ、タイガは何もせず直撃するがまったく効いていない。モトキは自分に落ちてきた物に、空いていた右手を握り、薙ぎ払い弾いた


「落ちた物は、お前に集まるぞ!」


落ちた物には消し炭になった物、砕かれた物、拉げた物、上空から落とされた鉄製の物がモトキを囲む。景色が鉄ばかり、鉄マニアなわけもなく飽き飽きしそうだ。他の景色に目を移そうにも密集し隙間すら見当たらず

刺さる、押し潰される、どちらも嫌である。左手の剣を、素早く振り構え右から左へ軽く振る要領で水平斬り。モトキの足下より旋風が発生、それは一瞬にして竜巻へと化ける。囲んでいた鉄等を巻き込み、規模を増大させていく


「ふむふむ、光に風と・・・まずいですね。下着を着けれないから服を飛ばされたら丸裸よ!」


「ここまで風の威力が行き渡らないように気遣ってくれてるわ。スカートをおさえる必要がないもの」


「鉄骨の一部が飛んできて顔に直撃したのですけど」


Master The Order3人の会話はどこか気楽である

タイガ達に行き渡らないようにするも、規模が大きくなればそうもいかず。被害が抑えきれなくなりそうなので、モトキの後方にいる3人は退く準備を

細かい物が顔や身体に当たる。ベルガヨルは舌打ちを一度鳴らし、右腕に纏う鉄を細く、突きに特化させた形に変え、走り跳び竜巻へと貫き入り込んだ

中で鈍く響く剣と金属のぶつかり合う音がした。わずか数秒の後、竜巻の威力が緩くなり始めたと同時にベルガヨルが飛び出す。右腕に纏う鉄は半分程を失い、地へ叩きつけられ転がっていく、何度も跳ね、ようやく停止したのはかなりの距離を離れた場所


「ぐぅ・・・っ!力任せに見せかけた攻撃をしやがって」


竜巻は小さく4つに分かれ、四方向へと進み消えてしまった。完全に消えてはおらず、爽やかな風の置き土産

ベルガヨルの右腕に纏う鉄が再生を開始する。街のどこかにあった昔住んでいた画家の忘れ物か、店に売れ残った物なのか、絵具の金属チューブに食事に使うスプーン、フォーク、ナイフの数本が右腕に貼り付き、液状に変わり鋭刃は修復される


「それだと、せっかく人質をとるまでの苦労が報われねーな。ルールなんて一度置き、ミナールと戦ってみるを想定してみると、無理無駄だな。勝てず終わるぞ」


「始まってすぐだ!決めつけるな!俺様はこんなものじゃ味わったとは言わせねーぞっ!!」


モトキの言葉に、怒鳴り返してしまった

浮かせ落とした鉄骨等の他にも、先程より遥かに数と量を再び、ずっと上空へ浮かせる。かつて幼少に目にした空を覆うコウモリの移動よりも壮大な光景であった

鉄は一点に集まり、巨大な客船を造る

23階建て、全長500メートル、全幅80メートル。鉄の集まりではあるが、格好はともかくこんな客船に乗って世界一周をしたいと1回ぐらいは夢みるも、途中で飽きて寝るしかできないだろうとモトキは思う。どうせ寝るばかりになるなら、数日を使うより1日まるごと森奥の綺麗な川で、適当な竹か木の棒に釣り糸をつけて垂らし、寝転がり過ごす方がずっと良い


「猫ちゃん達を家に送っておいて良かったです。あんな高さから落とされましたら、所有する一帯だけでは片付かなくなります・・・御二方は、お互いにどうなさります?」


ベルガヨルの左手指先は振り払う動きを。初動は静かであったが、すぐに空気を空間を抉り潰すかのような音が小さく耳を通過する

船の落下が開始する。曇り空の雲達が逃げ始め、落ち迫る船の先端から風すら何重もの層を生み見えるほどの勢い

空気を通じて振動が伝わり口内がくすぐったくなる

落ちるまでの数秒、モトキは顔を変えず親指を軽く添えて右拳を握る。掌にあったのは光の属性エネルギー、それを握りしめ光の力を纏った拳で、瞬間に迫る船との距離を詰め真正面より拳を放った


(逆鱗パンチ・・・っ!)


拳を打ち込まれた先端から拉げヘコみ、船全体の隙間から白の色を漏らし最後部、船尾より光のエネルギーが貫き抜けた。エネルギーに耐えきれず、膨張し切り弾け散った船の鉄は光により消滅していく

攻撃手段を潰されたことにショックを覗かせるより、拳を放ったモトキへ攻撃を仕掛けていた。小さな鉄屑を親指を使い連続で弾き飛ばす。船を破壊したモトキの身体へ、1つでも当たり、体内に1つでも入り込めば良い。ベルガヨルはどこか必死であった


(憲兵が携帯する銃の弾丸を軽く凌ぐぞ。普通の人間なら当たる寸前で肉を削がれたり、穴が空き、当たればそこから木っ端微塵。できなくとも、そこから痛いだけで終わらない)


鉄は貫かず、体内へ留まりそこから様々な攻撃、仕掛けを行える。ハリネズミみたいに体内から無数のトゲで貫く、臓器を切ったり包んだりの直接攻撃、血管内へ溶けた鉄を流す、これらができるぞと脅しに使う等を。だが脅すつもりなど初めからない、天気を血の雨にするつもりである

しかし、ベルガヨルの目は次の瞬間に哀しむものへと変わってしまった。破壊した直後、モトキの瞳はこちらへと向けられていたのだが、その眼が胸を鎖で締めつけられたかのような現象に襲われてしまう。恐怖、脳裏に浮かぶのはそれだけ


「俺も、もしかしたら言える立場じゃないかもしれないが・・・その驕慢を改めろ!」


瞬時にベルガヨルの前に立ち、抵抗、防御など間に合わず左頬へ右拳を。次に左拳で右脇腹を殴り、ベルガヨルの身体が回転したところを右足で蹴り突きを放ち、腹部へ

ベルガヨルの口に鉄臭い味の息と透明な液体が吐き出され、最初に崩壊させた建物の瓦礫山へ突っ込み埋まってしまった

付き人の男がベルガヨルの名を呼ぶ、女の方は限界まで目を見開く。キハネは「おーっ」の一声、感心しているのだ


「ぐふっ・・・っ!生意気な、俺様がこんな一般生徒の攻撃に痛みと苦しみを味わうなど・・・」


「やるつもりなら、付き合ってやるさ。お前の納得できないに終わりを・・・っっ!!!」


「っ!!」


瓦礫から這い出てきたベルガヨルへ近づき、まだ納得いかず終わらせたくない彼にとことん付き合うつもりの時であった。身の毛に突然襲う禍々しい気配、遠くの方で一部の雲が黒紫へ染まる

モトキとベルガヨルだけでなく、2人の闘いを見守っていた3人も異様な事態に気づく。モトキとタイガ、ミナールにはどこか覚えのあるものであった

その気配に、あの黒紫に染められた雲のように目に見える変化は起きてはいないがずっと奥の奥、後ろでとてつもない邪悪な気が隠れ、いる。生きる本能が自然と警告、全身より冷たい汗が滲み垂れ落ち、足が動けずにいた

寸前な、前兆前の報せ

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