五星
今宵の空に月は無く。眺めて刻を過ごす楽しみの1つが消えた夜の世界にて、真紅のカーテンに囲まれたある一室。
その部屋にある姿は5つ。5名だけでは少なすぎると感じてしまう銀でつくられた円状の巨大テーブルの中央に、紫水晶製の25本のロウソクを飾れるキャンドルスタンド。
テーブル上にはチェスやトランプ、資料と地図、ワイン、チーズの塊といった娯楽に仕事、食物が並ぶ。
5名はそれぞれ、全員の顔が見えるいつもの定位置に座る。
今の段階、外から見てわかるのは男性が1名と女性が2名、そして全身を甲冑に身を包んだ、屈強な体躯を持つ2名。
その中で、まずは男性が口を開いた。
「船が一隻、どこの了解もなく出航したと」
怒っているともとれる口調であり、誰かの問いも返しも待たずして、歯でワインのコルクを抜いて吐き捨てる。
「どこの了解もないわけじゃないぞ、ダイヤさんよー
。私が許可をしたさ」
シンプルな鉄銀色の騎士鎧に身を包む者が答えた。
それを聞き、ダイヤと呼ばれる男性は立ち上がるとその者の席の後ろに立ち、背後から頭を掴みテーブルへ顔を叩きつける。
「あぁーー・・・っ!いてぇーえーっ・・・あっはっはっはっはっ!」
顔をテーブルにつけたまま、甲冑をテーブルに擦り付けながら笑う。
「ごめんなさい。ダイヤと呼ぶより、ちゃんと本名で呼ばれたかったんだな」
「そこじゃない!ジョーカー!また貴様か!!」
ジョーカーと呼ばれる者を掴み上げ、床へ投げつける。受け身をとるつもりもなく、ジョーカーは叩きつけられ尻を突き上げたままうつ伏せに倒れ、笑い続けた。
その状況を砕くように、ドンッ!という重い音が突然にして響き渡る。
それはジョーカーと違い、黒を基調とした甲冑を身に包む者がテーブルを軽めに叩いたからだ。
音に気づき、ダイヤは席に戻るがジョーカーは戻らないでそのままに。
「ジョーカー・・・目的はあるのか?」
厳しく、威厳があるがどこか優しさもある口調で尋ねた。
ジョーカーは仰向けに寝転がっまま、言葉を返す。
「入学式だったみたいで・・・あの忌々しい学園の。視察でもできたらなーと」
仰向けに寝たまま、天井だけを眺めながら、また笑い始める。
「隊を編成したけどさ、やっぱり帰した。今回の任務の隊長を任せたやつは死んでしまったが・・・」
「そこが問題なんだジョーカー!送り込んだのは俺様の配下にいる者だったと!しかも貴様は俺様からの預かりと伝えたようじゃないか!貴様!死なせることをはじめから!」
責められる最中、ジョーカーは体を起こし、席へと戻る。
「いいや、死ぬなんて思っちゃいなかったさ。途中で飽きちゃって、帰そうとしたらもうあいつ学園に侵入してたから・・・誰だったかな?」
「ジェバだ・・・はぁ・・・ジェバ・ホーネスキン」
スペードは重く溜息を挟みあのスライム族の男の名を口にする。
ジョーカーもそうだが、自分の配下を消されて怒鳴っておきながら、ダイヤはどいつだったけ?となんとかジェバの顔を思い出そうとしていた。
「そうだったかな?私はともかく、ダイヤじゃなくてスペードが名前を知っているのだな。ま、下の下、配下の配下の部下の名前なんていちいち覚えちゃいないだろう。ね?ダイヤさん」
「あまり、からかいを混えるものではないですよジョーカー。あなたが独りに起こした事が問題になったわけですから」
ジョーカーの発言を宥めるように、女性が口を開いた。その直後、メイド達が入室し食事を運んできたタイミングと被ってしまう。
メイド達は、一度深く頭を下げてから準備にとりかかるが、他はおかまいなしに話を続行。
「あーぁあっ!他者の配下を騙し、差し向け、戯事に巻き込ませちゃってね!どーせやるなら、私も誘って欲しかったよ!困ったジョーカーちゃん!」
席を立った小さい女の子は、ジョーカーの頭を1発叩く。
「すみませんでしたクローバーさん。謝れば終われそうなので謝りまーす。」
自分に謝れと、ダイヤはジョーカーへ目がけフォークを飛ばしたが、スペードが顔を隠す鎧越しからでも貫く眼力により捻れ潰れてしまう。
「助かりましたスペード」
「つい、反射的にだ・・・礼を言うな、ジョーカー。そなたの一件は上に伝えておく、ちゃんと魔王帝様へ顔を出すように」
「はーい、承知しましたと・・・」
銀のグラスにワインが注がれ、スペードはそれを手に席を立った。
「ダイヤ、すまない。ジョーカーが起こしたとはいえ、私も目を届かせておかなかったのが原因だ」
「いえ、スペード様に非は・・・」
その通り、スペードに全く非はないはずだが、彼は静かに首を横に振る。
ダイヤはこれ以上は言うまいとしたが、とても申し訳なさそうにスペードと同じくワインの注がれた銀のグラスを手に持つ。
ほんの一口程しか淹れられてないワインの表面を揺ら、ゆっくりと上へ掲げた。
「身を滅ぼさせながらも、学園に入り戦ってくれたジェバ・ホーネスキンの御冥福を祈ろう・・・」
全員が席を立ち、ワインの注がれた銀のグラスを天に掲げ、しばらくの沈黙。全員、飲みはしない。
その途中、ジョーカーが余計なことを口に挟む。
「ワイン、飲めないのですけど」
「今はどうでもいいだろ!」
ジョーカーへ、ダイヤはツッコミをいれる。
ここに集まればよく目にする光景、時にくだらなく、時に冗談にならなそうで、だがいつものことだ。
五星達が集まるこの刻、この部屋にて。
恐れ生む凶星 ジョーカー
最強の騎士 クローバー
届かない輝き ダイヤ
深く歪んだ慈愛 ハート
闇すらも信念 スペード(くそまじめ)