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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
違う輝き
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前兆前 13

場所は1階の華美に彩られた広く高いダンスホールであった。他にも2階は劇や踊りを観る舞台となっている。ある日は豪族や高い地位の者達が利用する社交場となり、ある日は招かれ劇を観る嗜みとして使われる国が造った会館である

天井にはいくつものシャンデリアに、描かれた青空に2人の女神が抱きあう絵、顔はまるでついさっきまでの惨事を見ていたかのような悲しい顔

ダンスホール中央で深い黒みのある青い軍服に似た服装の男が息絶えており、へし折られ関節が3つに増えた右腕に、横たわる背中にはガラス破片がびっしり痛々しく刺さっていた

その隣で眠るガスマスクの者は、同行しているボディースーツの女性に起こされる


「起きている、心地の悪い抱き枕だな」


「抱きついておりませんでしたよ、ジョーカー様」


ノレムとハオンがどこにいるのかを尋ね、ロセミアは舞台ホールにいますと伝えるとゆっくり起き上がる。横たわる男の死体を蹴り、積み重ねられた同じ服装で同じ死体の山へ

ダンスホールには男1人だけではなかったのだ。この会館を警備していた憲兵達は正体をジョーカーだと知らずに死体にされてしまったのだった

少し離れた位置にある死体の山を前に、ジョーカーは黙り込む。何を考えているのかさっぱりだが、ガスマスク下の顔は絶対に笑ってはいないだろう


「学園は目の届く範囲、歩きだろうが適当な建物を踏み台に2歩ぐらいで着けるから目前で間違いにならないだろう。だが、ここに寄り道をした。わかるかい?ロセミアちゃん」


「お手洗いでもお借りになるつもりでしたか?」


ちょっとだけずっこけた。トイレに用はない、訪れた街のバーでマフィアの始末と一緒に済ませたのだから。よほど腹の調子が悪いか飲み過ぎ、身体が冷えているわけでもない

バーでのトイレは快便だったことを彼女に言うが自分は何を言っいるのだ?と自分に問う

ジョーカーがここに寄り道をしたのには、たとえ興味がなかろうと嫌でも耳にしてしまう理由があった。とても、この国にしても重大な事


「排便はせぬ、なら手でも洗おうか?手は汚れてないけどさ、手袋に血が付いているだけ・・・じゃなくてだな・・・」


「それよりも、ハオンさんとノレムは遅いですね。私達みたいに憲兵と接触でもなされたのでしょうか?だとすれば、一般憲兵に手こずるような方々でしたか?と疑問が・・・」


「それよりもって・・・」をジョーカーは小声で呟く。話を変えられたが、己でも心踊るには程遠い内容なのでまぁいいかと片付ける

ハオンとノレムの待つだけでは退屈なのでロセミアに花札でもしようかと提案するが、「捜さないのですか?」と返され素直に従った

ダンスホールの出入り口、巨大で目に煩い金に紅い宝石が飾り付けられた豪華華美の扉を押し開こうとした時だった。扉がこちらへ勢いよく開き、ジョーカーは押され開き切った扉と壁に挟まれてしまった


「ジョーカー様!ここに憲兵の警備が多い訳をハオンさんが死にかけのやつに問い詰めたのですが・・・!あれ、ジョーカー様は?」


ロセミアが指をさす。そこへ目をやると開き切り、反動で戻る扉越しの先に壁へ埋まるジョーカーの姿が。腕を組み、ガスマスクは割れかけている

ノレムは青ざめた。これは自分が殺される事に恐怖をしているのでなく、主であり恩人でもある方に対して失礼を働いてしまった事による自分への情けなさと侮辱、申し訳なさの溢れ

ハオンが壁に埋まるジョーカーを見てギャグ漫画の如く涙を飛ばして大笑い。ノレムが何度も大理石の床に額を打ちつけ謝り始めたのでそれを優しく、頭を雑に撫でながら止めた


「ジョーカー様、この無礼を償うには自分の命を差し出すしかありません。ですがどうか、妹は・・・連帯の責任はお見逃しください。俺からやっておいて、非常に勝手ですが・・・」


「い、いいから、いいから・・・」


抜けようとしても壁から抜けず、どうしようの顔。笑いながらハオンがガスマスクを掴み引っ張るがやはり抜けず、頭が取れそうで聞いたことの無い音が聞こえる

「絹ごし豆腐にスライス玉ねぎと醤油をかけるように優しく」とわけのわからない喩えをするジョーカーの言葉は間に合わず、力任せに引っ張り続けガスマスクだけ取れた

慌ててノレムが手で顔を固定し、ロセミアが別のガスマスクを被せた。こんなこともあろうかと、いくつか用意しておいて良かった。ロセミアは1人、満足気である

ガスマスクを着けてもらいすぐ、壁から抜け出す。普通に出れたじゃないかのツッコミなど無駄。壁から抜けたジョーカーは、新しく装着してもらったガスマスクの僅かな緩みを直しなが、見えない口を開いた


「さて、かなり寄り道をしたが本来の目的へと足を進めよう。まずはここの掃除からだ、来た時よりも綺麗にを心がけて」


ぱっくり開かれた空間からロセミアが掃除道具を取り出し、皆へ渡していく。モップにバケツ、新品の雑巾、デッキブラシ等を

バケツに水を汲みに行こうとするノレムを止めたジョーカーは、バケツの縁を指で2回叩くと底から水が溢れ、2秒ほどで溜まった。水に雑巾やモップを浸し、掃除を開始してする

ジョーカーはしっかり、手袋を外しているぞ


「しっかし、お前が忘れられない奴如きでジョーカー様がついてくるとはな」


「す、すみません。そいつに挑み、倒されるかもしれないのでジョーカー様へ予めの御伝えに・・・このような自分の事情に巻き込ませてしまい、申し訳なく存じます・・・」


そんなに気にするなと、ノレムを気遣う。ジョーカーというやつはたとえ小さな事でも興味が湧き、面白そうだと思えば自ら赴くやつだから、昔からの古参達はそれによく巻き込まれてきたと黄昏れながら話す

壁の瓦礫を掃除するロセミアを一度、なんとなく尻目で確認してからノレムに相手はどんなやつなのかを質問してみる。しかし、答えようとする彼の言葉を自らが遮り、「お前がそいつとの闘いは有利に進み、もし俺がトドメを横取りしたらどうする?」を悪戯に言ってみた

するとノレムの瞳は縮小し、ギラつかせ、はっきり怒りだと分かりやすく、会館全域を震度させるほどの気を全身より漏らす。普通のやつらなば、近くにいるだけで気を失いそうな圧であった


「知らぬ所であいつが誰にやられようが構いません。ですが、俺が最初より戦いをしているというのにトドメを奪われるのは・・・先輩だろうが、偉い御仁だろうが、容赦するつもりはありません・・・!」


「はっはっはっはっ・・・!冗談だ。俺は、お前とそいつとの闘いを邪魔をするつもりは鼻から無い。その闘いの邪魔になりそうなやつを蹴散すかもしれないが・・・」


放っていた気にロセミアの手が一瞬だけ止まったが、ハオンは変わらず手を動かす。ノレムが漏らしたあの程度では先輩からして頑張ってるなーとしか思えない。それはジョーカーの古参だからこそ、かつて彼が2度だけ、自分の前で怒りを露わにした際の姿を目の当たりにしてしまったからだ

味方に対してではなく、敵に対してのはずだった。普段から放つものとはまったく違うもので何故だか、自分が死の覚悟をしたのを覚えている

1つはとても、とてつもなく哀しさを感じるものであった


「おーい、ノレム。さっきのはまずいんじゃーないか?ある程度の者なら不穏を察し取り、気づかれるぞ」


「あ・・・っ」


あぁ、やってしまったと、ノレムはしゃがみ溜息。ハオンはその姿勢状態のノレムの指に煙草を挟ませたが投げ返されてしまった

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