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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
炎を宿す光
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五星 5

右手に嵌める縦に2本、目の部分を通るプラチナ製の白線が施された黒と紫を基調とする甲冑の頭部。顔は映らない、歩む姿は身体の甲冑のみ

後ろに3歩程の距離を置き、ついてくる者が1名

長く広い先は闇が誘う廊下を進む。着いた目線先には扉、その右の壁には穴が空いたので隙間なくびっしりと花が詰め込まれていた

甲冑を頭に被り、ついてきていた者がドアノブを握る。音も出さずゆっくりと扉は押し開いた


「失礼いたします。スペード様の御到着です」


いつもの五星達が集まる部屋である。到着したスペードにわざわざ席を立ち頭を下げるのはダイヤだけ

ハートはラズベリータルトのビスケットを切り分け、クローバーは大皿に山盛のフライドチキンを食し、ジョーカーはテーブルに頭を付け爆睡

スペードはともかく、付き人の彼も慣れた光景でありいちいちリアクションせず席に着いた。椅子は付きの方が引き、スペードが座ると一度頭を下げ1歩退がる


「ジョーカー、起きろ」


スペードは寝ているジョーカーに初めから起きると期待はしていないのでいつもの声量で呼びかける。やはり起きず、イビキをたてない静かな眠り

ダイヤが席を立ち、ハートのティーポットを手に取ると眠るジョーカーの頭を掴み上げ紅茶を注ぐ。覗き穴や首の隙間より侵入する熱い紅茶でジョーカーは跳び起きた


「あっちちちちっ!誰か僕の穴という穴にアイスキャンディーぶっ刺してください」


「ケツにぶっ刺すと特に効果覿面だ、ぶっ刺す役目はお断りするがな」


くだらない冗談を言っている場合ではない。ダイヤは空気の変わりように気づいた

ハートが激しく燃えている。怒りを体現した炎

紅茶を勝手に飲むならまだしも、このような使い方をされたからだ。ダイヤは「すまん」と一言謝ったが、容赦なく体現された怒りの炎で炭にされてしまった

積もる燃えカスの山に、クローバーとジョーカーがアイスキャンディーを刺していく


「ジョーカー、疲れているのか?」


「あー・・・おはようございますスペードさん。ここへ来る前に交尾をしていたもので」


嘘でも違うこと言え、もっと別の表現があるだろと元に戻ったダイヤの蹴りでジョーカーは扉横の壁へと突っ込んだ。以前に部下の切腹を止めに向かう際に空けたのを直したが諸事情により再び空いた場所とは逆である

壁が直るまで見栄えはよくしようとスペードが摘んだ花を埋めたのだが、ハートが気に入ってしまいしばらくこのままにしておくことにした


「もう片方にも花という自然の宝石を詰めましょう」


「好きにしろ・・・」


ジョーカーが戻ってきた。頭以外の甲冑が前後ろ逆の状態で。後ろ向きになっているわけではなく、本当に前後ろ逆に着直したのだ

こいつは一体何をしたかったのだろうか


「わーっ!ダイヤのせいで首が真後ろにー!」


「なんだって!それは大変ですー!」


だったら元に戻してやるよと頭を回そうとするダイヤに、本当にやめてと腕を掴んで阻止するジョーカー。クローバーは炭になったダイヤに刺したアイスキャンディーをペロペロ舐める

アイスキャンデーの1本をスペードに差し出した。受け取りはしたが口はつけず、付き人の者を呼ぶ


「届いた文を・・・」


「かしこまりました」


下手くそにシーリングスタンプで押され不恰好なシーリングワックスで留められた便箋。中には土汚れが付着した手紙が一枚

紙に目を通している間、他の五星達はテーブル上を片付け大人しく自分の席に座る。先程までの騒ぎが嘘のようにしっかりとした圧を感じる空間へ

クローバーから頂いたアイスキャンディーを口に当てるが鎧上からと忘れていたのか折れてしまう。床に落ちる前に付き人が手で受け止めそれを布に包み懐へと仕舞った。後で溶けてベタベタになりそうだが

便箋の差出人を、ハートはスペードに訊ねた


「差し出し主はどなた?」


「ダークエルフ種族のゼルブル家、スティー・ゼルブルより独断でポーシバールの湾岸都市へ兵を向けた事への謝罪と、敗戦による撤退、ゾックと、連れ出した犯罪者二名が討たれた報せだ。新鮮味のない報せだな」


新鮮味がないとは始めから知っていたかのような口ぶり。それもそのはず、ジョーカーからとっくに聞かされていたからだ。ジョーカーへと目線を送るとやつは人さし指でテーブルを連続して叩いていた

敗ける予測などあったが、ゾックが討たれたという報に驚いているのだろう


「突っつく程度でいいと言ったのに、あいつを失ったとなると世界征服への夢が一歩、二歩、遠ざかっちゃったな」


「あれー?目的って世界征服だったかなー?」


ジョーカーの冗談に、スペードは信じてしまいながらも疑問。そんな彼女に違うと、スペードが首を横に振る

「違うんだって」とクローバーがジョーカーに伝えると違うのか?と首を傾げた

この結果を受け止めてみる。かつてクローバーが捕らえた2名の犯罪者など、どうでもいいとしているがゾックを失った事実はスペードにとっても痛く胸に刺さる


「ゾックさんが兵を整えてる間に、僕とクローバーちゃんにバレて連れ行くはずだった犯罪者の内1人を殺しちゃってさ。魔王帝様よりの内密での命令だったらしくて、悪いことしたから殺した1名の代わりにゾムジを行かせたんだ」


「・・・む?魔王帝様にゾムジだと、それは初耳だぞジョーカー」


「初めて言いましたから」


足に踏んでいた手紙をスペードへ投げ渡す。指に挟み捕らえた黒い紙には白いインクで文字が書かれていた。これはゾムジよりの報せである、ジョーカーへ届けた真意は不明

内容を読み、次にハートへと渡した。クローバーが席を立ち、後ろから手紙を覗き読む。ハートはわざわざ、彼女の読む動きに合わせて文字を指で追わせた


「レネージュに指揮を交代させ、帝の姿も確認したそうですね。レネージュ相手だとさすがにゾックさんでは逃げるのも・・・討ったのはタイガという少年みたいですけど」


テーブルを強く叩く音が突如として響いた。スペードは握った拳を打ちつけたのだ。誰も驚かず、ハートは読み終えた手紙を折り畳みスペードへと返す

咳を一回、自分の行なった行為に恥ずかしくなったのだろう。誤魔化すように、付き人に頼みメイドを呼ぶよう指示。熱いコーヒーが飲みたいと


「かしこまりました」


付き人が部屋を出てからしばらく、沈黙だけとなった部屋に手作りの菓子等を運ぶメイド達が入ってきた。五星にそれぞれ好みの飲み物を、スペードはいつものコーヒーに生クリーム

向かいの席にいるジョーカーがずっと、じっとこちらを見ていたので生クリームの絞り袋をテーブルへ滑り渡した。違うとジョーカーは手で否定


「皆様方、ご苦労様です。五星の方々に代わりお礼を申し上げます」


スペードの付き人が頭を下げると、メイド達は頬を赤らめ頭を下げ返すと部屋を退室。出てすぐ、キャーキャーと歓声に近い声が聞こえてきた

スペードは静かに笑い、付き人の彼は首を傾げる。にっこり笑顔だが目が笑ってないダイヤが彼の肩に手を回してきた


「アドロス。お前相変わらず、今日も腹立つぐらい美男子だな」


「な、なんですかいきなり・・・?」


アドロスは名家、レガー家の跡取りである。自分磨きの一環としてスペードの付き人となるよう父に言われて齢十と四から今に至る

気品を感じさせる美しい顔は、花々が振り返ると比喩される。名家でもあるので歳が十を越えてからちらほらあったが十六の頃より純粋、不純、様々な理由でお会いしたい、娘と見合わせたい、婚姻の話の手紙が毎日山のように届き最近の悩みである

スペードの付き人としての影響か、真面目に一通一通目を通し返事を書く毎日


「いずれお前に執着して暴挙に出たり、女同士の血みどろ劇を起こす前に身を固めれば?固めたら固めた後も怖そうだけどさ。あれ?どれが正解だ?」


「どっちに転んでも面白そうだけどな、ナイフを持たせて応援するね僕は」


ダイヤとジョーカーは2人して笑い合う。スペードがアドロスの気も知らないでと2人に拳を落とし、両者の頭に煙がたつ巨大たんこぶが現れ床にうつ伏せで倒れてしまった。全身甲冑のジョーカーに何故たんこぶができたのかは気にしたら負けである


「父や母からもそういった話が無いわけではありません。まずは届く物を片付け、落ち着くまで待っても・・・」


「思い切りも大事だぞ。一つに決め、来る他の誘いや見合い話の手紙は無視、無かったことにしてさ。一層の事、駆け落ちに走る恋愛でもすれば?貴様が身を固めるまで減らないだろうから。仮に身を固めても脅迫や妾にしてほしい手紙は送られてくるだろうけど」


ジョーカーのアドバイスは実行されることなく、役に立たないだろう。アドロスは「は、はぁ・・・?」とだけ困り顔で返事するしかなかった

ダイヤが下手なアドバイスだな、恋愛素人のお節介かよと嫌味を言ってきたので頭のたんこぶを取り外し彼のたんこぶの上に加え付ける。ダイヤも二段となったたんこぶを取り外し、ジョーカーの頭へ付け返した


「痛さ2倍、は冗談として・・・なぁアドロス、拒否権があるだけまだマシじゃないか。ん?あ・・・はぁ・・・」


何かを思い出したのか急に落ち込んだジョーカー。目に見えてどんよりした雰囲気が漂い始めたのでスペードが優しく、そっとジョーカーの肩を叩いてあげる

今は悪い現状かどうかはわからないが、あの頃はどこか少しでも快くなかったのだろう


「皆様、お気遣いはありがたいのですが・・・ゾック様が討たれた話から脱線してますよ」


スペードとジョーカーの動きが止まった。すぐに動き、自分の席へと戻る。コーヒー淹れ直しますか?と聞かれたが断った、クリームがコーヒーに溶け分離を始めていたがそれを飲む

ダイヤへ顔を向けながら、おそらく甲冑の下は睨みつけているだろう

飲み干し、カップをゆっくりと置いた


「さて、続きといこう」


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