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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
炎を宿す光
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焔を握る 8

夜明けはまだ訪れない。馬を使わず自分の足で陣営へと帰還したのでかなりの時間を喰ってしまった

道中、馬は手綱を引くタイガの背を鼻先で何度も突いた。この短い間で彼に懐いたのか臆したのか動物が従う理由などいくつもある。もし疲れているなら乗ってくれと伝えたかったのかもしれない

しかし、馬は定員オーバーだ。ゾックの遺体を乗せ、白に赤が滲み染まった丸い何かを包む布が2個吊るされていた


「戻りましたと・・・」


ひっそりと、勝手な行動をしたお叱りは後で受けるとしてまずは馬と遺体をと考えながら陣営へ入った瞬間であった。兵達が一斉に動きだし、タイガから見て両サイドに次から次へと並んでいく。道案内であり、この道だけしか進むなといったところか

しかたなく、左右より並ぶ兵達の視線を送られながら進む。ここで急に逃げたらどうなるだろうと余計な思考が頭によぎったがやめた

道行く先にはエモンと他のMaster the Orderの面々、物言いたそうな顔だがその奥でレネージュが待ち構えていた。手の杯には飲み物ではなく、これでもかとカットされたリンゴが彼女の頭より高くまで詰み積まれている

一切れのリンゴを口へ、歯ごたえの良さが伝わる音に彼女はタイガよりもリンゴの方へ視線を変えた。鼻唄を一曲、幸せそうに一切れ食べては次へと止まらない


「このリンゴの産地は?」


「北にあるウェルシュより・・・」


付き人に問い、産地を聞くがエモンが「あとでいいだろ、そんなくだらないこと」と呆れ混じりな口調で、くだらないことじゃないのにとぶつぶつ呟きながらも威圧を感じさせながらタイガへと視線を戻した

馬が怯えてしまう。頭を撫でてやりながら彼女への視線は逸らさず、汗は一滴も流れない


「独断行動、つまり勝手な行動・・・の、前にご苦労様と労いの言葉を与える。敵大将を討ったのだから」


タイガはレネージュへ深く一礼、エモンも頭を下げていた。エモンの頭を下げる姿に彼女はちょっとご満悦な様子

次に彼女は馬へと指をさす、下ろせと命令し兵達が背に乗せられているゾックの遺体を運び彼女の前へ。タイガは吊るしていた赤が滲む何かを包んだ布を投げ渡した


「これは?」


「敵国の一級犯罪者とされるデモーガンとアベスの首です」


兵達が騒めきだす、その犯罪者2名を知っているのか、もしかしたら首を投げ渡す無礼なタイガへの動揺か。レネージュは布の中を覗き確認、彼女にしか見えない頭だけとなった犯罪者2名の顔


「確かに、過去にあった手配書と同じ。でもどうして?五星のクローバーに捕らえられ、牢獄住みをしていたはず」


「それは、俺にもよくわかりません。手柄を立てれば自由を与えられると唆されたようですが・・・あくまで自分の考えですけど戦力としてよりこいつらは別に死なせてもいい、戦力だとしても消耗品として」


ゾックの遺体に目を向けた。わざと嫌われるような行いとこの2名を連れてきた意図、犯罪者に頼ることで味方へ更に不信感を与えだろう

味方にわざと嫌われながら討たれる。こうまでする意味はあったのだろうか?あの兵達に嫌れてまで生かす価値はあったのか、タイガにはわからない


「戦力、の用意。もしも、の用意。報告もせず独自に起こした戦だとすれば、そういった形にしたとすれば援軍要請もできず。けど縋る思いじゃなさそう・・・」


そう呟きながらレネージュは首を包んだ布をエモンに渡す。彼は押し付けられても困るといった表情

付き人の女性から血のついた手を綺麗に拭いてもらい、もう1人にはリンゴを食べさせてもらう

リンゴを頬張りながらゾックの遺体へと近づき、頬に手を触れた。せっかく綺麗にしていただいたのに、彼の口から吐き出され付着した血が手を汚す


「私ね・・・あなた自身が撤退をすれば一気に攻め滅ぼすつもりでいたの、あなたを狙って。好機を逃さない為に私や部下を交代させ見張り続けていた。あなたを狙ったとしても、他が供にしていればそいつらごと・・・当然よね。私は撤退などさせるつもりなんて初めからなかったのだから、でも撤退はせず」


「見抜かれていたのですね」


図星でも言うなとエモンから頭へ拳骨を貰った。タイガも肘で腹部を突きやり返す。そのやりとりにくすりと笑うレネージュは普段とは違い可愛らしい

自分が言えば蹴られたり倍以上の罵声の嵐で返してくるくせに、エモンは内心納得できず


「兵から不満と、不評、とうとう見捨てられた形で置いてかれていました。わかっていたのでしょう、伏兵の存在と自分が指揮をとり先導しながら決意の撤退すれば、一緒にいれば、自分ついでに他も討ち払われると。だから、もうあいつなんて知らないと思われるように振舞った」


それでも、なかなか見捨て撤退しようとしないダークエルフの女性や他の兵達へ現れたゾムジが唆せたのだ。ゾムジはゾックの意図に着いてすぐに気づいたのだ

ゾムジの言葉で撤退を決意させたことをタイガは知らない


「もはや負け戦。でも、こちらはあのまま続けても勝ち。なら、いっそ陣を直接叩けばいいものを何故行わなかったのですか?」


さらにリンゴの一切れを口にしていたレネージュはすぐに飲み込む


「ジリ貧させて自然消滅でもありだったのだけど、帝から終盤はなるべく敵大将以外は血を流す量を最小限にしてほしいって、敵味方問わず。直接陣を叩けば嫌でも大将を守ろうとするでしょ?そしたらしょうがなく倒してまた倒してのマラソン。討った!帰ろう!でもそう簡単に道を開けてくれる?そいつらも結局は討つはめになるじゃない」


だから撤退時を奇襲する方が最小限に抑えられると、なんとも大胆でありながら彼女から本気感が伝わらず。きっと本当は独りでさっさと本陣攻めて全滅させて帰りたかったのだろう

けど彼女に交代する前に指揮していた者がここまで持ってきてしまったので

撤退を狙えば最小限になるかもしれないが、それでも数名の兵を仕留めなければならないだろう。ゾックは1人でも多くと考え、ならば自分1人が残る決断をしたのだ


「あ、そうそう。タイガ君だっけ?あなたは何故無断で勝手に動いたのかしら?」


「理由を挙げるとすれば、帝がこの将と同じ考えを口にしていたからでしょうか。それでも死ぬ兵が必ず出るだろうって。だから、俺1人でもできることはしようとしたわけで・・・俺1人で、できるだけ。もしかしたら抑えれない衝動に我慢できず、暴れたかっただけかもしれません」


そのできるだけで敵の大将を討ち、戦を終わらせたのだ。レネージュは「帝よりあなたの方がこの将と同じね」と呟き、本来は独断行動として厳しめの処理をするはずだが、彼女はお咎めなしとする

エモンがホッと胸を撫で下ろすが、ベルガヨルは気に入らないのか申し出た


ル「失礼ですが、自分達含め見学として赴きました。見学だけの輩が、勝手に動いて将を討ったのはレネージュ様が本来得るはずの手柄を横取りした形に。数時間前に、あなた様が処断した兵と同じ措置をとるべきです!」


「手柄は私だけとは感に触るわね、手柄は働いてくれた兵や食事を作る者、馬の世話係達、全体のもの。処断したのは捕らえた敵兵を奴隷として売ろうとしていたから・・・誰だっていいのよ、勝つ兆しとなる光を与えてくれる者は。どうせ自分より下に見てるはずのタイガ君が活躍したのが気に入らないだけでしょ。タイガ君がもし自分だった場合、見学である俺が討ったぜと鼻下を擦って自慢するようなやつ、文句ある?」


口が籠ってしまった。たとえ間違いでも彼女への反発は不可能だろう

再び付き人の女性に手を拭いてもらいながら、終戦の報せを帝へと届けるついでにタイガという少年が終わらせたという内容をどう書き記すかと考えていると1人の兵が慌てながら走ってきた

数時間前とは違い今度は落ち着くまで待ち、息を整えてから口を開く


「帝が御到着されました!!」


驚愕した。すぐにお出迎えの準備をと命令をくだす前にレネージュの背後から「その必要は無用」と声が聞こえた。張り詰めた空気が漂い、声の方へ視線を向けるとそこにいたのは間違いなく城で面会した帝本人であった

一同はすぐ、片膝を着き頭を深く下げる。帝は苦笑いを浮かべる


「お迎えもできずに!申し訳ありません!」


「いや、勝手に様子見で訪れただけだ。邪魔となるならば追い出してくれても構わない」


陣営全体へ目を配る。どこも誰もが自分に頭を下げており、自分は何もしていないというのにと不満

頑張ってくれたのはこの者達である。1人1人にさらに深く頭を下げお礼の言葉を述べたい帝であるがとても今はできそうな雰囲気ではない


「此度の防衛からの勝利、見事であり感謝するレネージュ殿」


「いえ、私だけではなく兵達も・・・それに」


タイガを引っ張り帝の前に出す。襟を捕まれながらけっこう強引で急だったので思わずぐえっと声が出てしまった

城での時以来、何故か帝は少し嬉しそうだ


「この者が将だけでなく、一級重犯罪者であったデモーガンとアベスも討ち終戦へ・・・」


「ほう、デモーガンとアベス・・・クローバーに捕らえられたと聞いたが詳しいことは後に聞こう。うん・・・見学として招かれたこの少年がか」


黒い瞳に帝の姿、帝もタイガをただ見つめていた。この少年から大きなものを感じる、いずれ世代が次になろうともこの者みたいなのがいる安心感

少年の肩を叩き、包まれるような優しいオーラを放つ。タイガは、そんな優しいオーラよりも彼の奥に眠る強い何かを感じていた


「レネージュ殿、勝鬨はそなたがあげよ。終わらせたのはこの少年だろうとも、ずっと戦ってくれたのはお主なのだから・・・しかし、少年への褒美を考えぬとな。望むものはあるかい?俺にできる範囲あるならば、力になる」


急に言われても、なのだが案外すぐに思いついた。財や地位は今でなくてもいいので後日にすぐ手配できること


「望むものですか、では・・・」




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