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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
炎を宿す光
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焔を握る 6

疑問を抱きながらも一曲奏でたくなるような、月が雲で隠された夜であった。立ち止まったので独り置いてかれたが進軍以上のスピードで走り追いかけ、馬に飛び乗ってきた。馬上にて、大男の背にもたれながらリズミカルに弓の弦を弾く

やかましいと怒られた。弦を弾くのをやめたが怒られたからでなく、流れてきた空気の変化を感じたからである

有刺鉄線を素肌で触れたかのような、チクリと何度も何度も刺す痛みを含んだ空気であった


「止まれ。目を凝らしてしっかり一点に集中しろ」


誰にも彼の声は届かず。進軍が止まったのは大男の大声によって、目に映ったのは遠くで小さくも地を掠る微量の火が出現しては消えるを繰り返していた

よほど目が良くないと確認しずらい小さな現象、それは向こうから迫ってきていた。やがてそれは目を細めていた兵士達にも普通に確認できる距離まで迫ったところで、突如弓から放たれた黄色い螺旋状の矢が天へと突き抜け雲を搔き消す

月明かりが照らす、一定の距離を挟んで紅い鉢巻を頭に巻いた少年がいた。右手には槍、長く幅が広めである穂身の中程に枝分かれした片方が若干短い穂身の刃がある左右非対称の十文字槍を手に、彼の足裏と地の隙間から火炎が漏れていた


「奇襲のつもりか!?まさか1人でとはな!!こんな一人に慌てふためくことになるとは!!無駄足させやがって!!」


大男は耳にキーンと響く怒鳴り声で、背後にいた男は耳を塞ぎ背を叩いた

兵士達は笑い、緊張していたのが馬鹿らしくなり腑抜けてしまった。しかし中には警戒を解かず緊張が抜けない者も、いくつもの灯りを発見し敵襲の報を受けたが、たとえそれが早まった報だろうとも今目の前にいるからだ。数は違うが


「仲間とはぐれたかーっ!?仲間割れして己だけにされたかーっ!?」


耳を傾けず、ゆっくりと歩み始めた。徐々に足のスピードを上げていく。一度槍を振り回し、下へ向いていた刃先を持ち方を変えることで真横に

指揮を待たずに兵達は進軍する、大男は笑いながらその光景を眺めていた

槍を振らず群へ突撃、一瞬の静止が訪れてすぐに兵が何十人と吹き飛ばされた。飛ばされ倒れたやつにかまっている余裕などあらず兵達は迅速にタイガを囲み槍を突くが跳び上がり兵一人の頭上を越えながら後頭部に踵で蹴りをいれる

着地より先に右拳で兵を殴り飛ばし数人ごと巻き込ませる、地に足が着いたと同時に背後から槍を突いてきた勇気ある若造の槍の柄を自身の槍で切断し、刃と離れ離れになった柄を蹴り上げ顔面へ撃ち付けた


「ぐえあっ!」


敵の槍の刃を自身の槍で絡め持ち上げると離すなよと告げてから振り回す。兵を薙ぎ倒していき、最後に投げつけると一番近くにいた兵士に槍の石突で腹部を突く

次に自分の脳天へ迫っていた透き通る白の矢を突き潰す。あれを放った犯人は突撃する前より目星がついていた

遠くに馬からおり、横で巨大弓を持つ男と目が合った。矢を持っていた右の掌より煙が、その手に次の矢を出現させながらもまだ撃たず待つ


(音を消して打ったが、夜に白は目立つか。いや、姿がなくとも落とされていたか・・・)


「獲物だーっ!!獲物みーつけたっ!!」


突如、またの大声。目も口と同じくひきつらせ不気味な笑顔の大男は馬からおり、手に錘が自分と変わらない大きさの狼牙棒を出現させるとそれで地を叩き盛り上がった大地と衝撃で兵達を無理矢理どかす。横たわる兵達をよそに進むが、進んだ先で思わず腰を抜かした一人の兵を棘がびっしりついた錘部分で叩き潰してしまった

付着した返り血を垂らし、恐怖に怯える兵など気に留めるどころか道端の石ころと同等としか見ておらず、進行の障害となるならば容赦なく蹴散らす勢いでタイガへ向け走り出した。兵達は急いで道を開ける

猛突に迫る大男に対し、紅い鉢巻をした少年はその場から動かず。振り放ってきた狼牙棒へ、タイガは右拳を放った


「ふんんっ!!」


衝突による音、砕ける轟音、どちらもタイガの拳が潰れた音とは違う。拳は棘を砕き、錘へとめり込んでいた。錘は拳のめり込む箇所から見る見る輝赤色、輝白色へと変色していく、大男は手を離し巨体から想像難しいスピードで地を削りながら滑るように後退。狼牙棒はドロドロに溶け、地に落ちると高温に熱した鉄を水へ漬けたような音を発しながら焼き焦がす

タイガの右拳はマグマの拳となっていた、拳からのマグマは彼の意思により一滴も落ちることはない。だが、次の攻撃を仕掛けず右拳のマグマは一瞬にして消えてしまった


「お前、デモーガン・ハーキルだな。それに弓を持つお前はアベス・ムーア。偶然なのか両者共、クローバーにひっ捕らえられた一級犯罪者のはず。何故ここにいると聞いてもいいか?もしかして、脱獄?釈放?いや、釈放の可能性はゼロだろお前らは。じゃあもう脱獄だな」


タイガの声を掻き消す大声で、デモーガンは叫ぶ


「聞いておきながら勝手に独自で辿り着かせるなガキが!!戦力として組み込む為に連れてこられたんだ俺様は!!そしてっ!!この戦で手柄を立てれば罪を全て取り消し、自由の身どころか財と犯罪を自由に犯すことすら約束されている!!」


マグマで溶けたはずの狼牙棒が出現。いや、最初から1本だけではなかったのだろう

片手に更に一本追加すると目にも留まらぬスピードで投げる、投げては再び手に出現していく

乱暴に投げるせいでタイガとは別の方へと飛ぶ狼牙棒もちらほら、巻き込まれまいと離れていた兵士達へと落ち潰されたり抉られたりと散々である

タイガへ飛んできたものは、握った拳で軽く弾いていくが兵士のところへ落ちはせず自身の付近か遠くへ


「手柄の一つと睨んだからにはこれぐらいできて当然だが、邪魔となる障害物と考えるとこうも苛つくとはな!!それと、ガキは俺様の名を知っていた。こちら側の輩が何故俺様の名を!?」


「お前達側の新聞を密輸しているので」


投げ続く狼牙棒の1本を、右足で下から蹴り上げ落ちてきたのをデモーガンへ向け蹴り返す。デモーガンは大笑いしながら、真正面より逃げもせず拳で迫る狼牙棒を殴り砕く

破片が降り落ちる中、人の顔ぐらいある右拳を解かず猛スピードでタイガへと殴りかかった。タイガもまた地を蹴り、握り締めた右拳で殴りかかる

距離は失われ互いの拳が、互いの顔面へ直撃する寸前へ


「ぬらあぁっっ!!」


声の主はデモーガンである

右拳と右拳が相手の、お互いの左頬と左頬を殴った。デモーガンの顔が拳でめり込み半分以上歪んでしまったのに対し、タイガの顔は殴られた衝撃による変形は起こらず

力を徐々に加え押していき、大男に拳がさらにめり込んでいく。タイガの頬に触れていた拳が離れた瞬間、徐々だったものを拳の握り面を上に変えながら一気に解放して上空へと殴り上げた


「べぼぉっ!!」


足が地から僅かに離れてすぐ、腹部へ追い討ちの左拳。口から透明と赤の混じった液体を吐き出し、背から地へ落ちる前にタイガの右足による顔面への蹴り上げ。瞬時に放った蹴り足を離し、その足で顔を踏みつけた

身体が宙へ上がると思えば落とされ、叩きつけられる前に今度は足で


「お前が武器持たずに挑んできたから、俺も肉弾戦で答えたのに。立て、立ってくれ、立ってみろ」


返事も痛みによる唸り声も出せず、デモーガンは顔面をぐりぐりと踏みつけられたまま。兵士達は攻撃をするのは今かと、槍を持ちながらも迷い、これといったタイミングすら見つけられず

しかし、タイガは視界を踏みつけられるデモーガンから変更。顔面から足を離し前方へと大きく飛んだ直後、百センチは超える矢が上空より先まで自分がいた場所を通り過ぎ地へ斜めに刺さった

矢周りの空気を震えさせる矢であった

タイガが睨む


「接点の無い犯罪者同士だが、この戦に連れてこられ仲間意識が芽生えたか?射抜くチャンスとして利用したもあり得るな」


次の瞬間、タイガに影が覆った。鼻と口より血を垂らしたデモーガンが巨大な狼牙棒を振り上げて、身体全体、特に顔が酷く血管が浮き出ていた。興奮と怒りを全身で表しているのだろう

振り返るタイガへ、アベスから無数の矢が射られた。タイガに焦りは覗かず、なぜなら両方を対処する手はある。ありすぎる


「一週間前にモトキとした稽古以来か、使うのは」


左手に刀が出現。一般にある打刀や太刀より少し短いが短刀や脇差ほどではない一振り。鞘は黒く枝と桜の模様が描き刻まれている。左手に持った刀は鞘から抜かず上からの狼牙棒を受け止め、右手に光の属性エネルギーを握り迫る矢の魚群へ突き放つ。光のエネルギーが衝層となり矢を跳ね返す、折られ落ちる、消滅する


「馬鹿なっ!!何故っ!?何故潰れねーっ!?」


狼牙棒を持ち握る手と腕、その重さと体重を支える腰と足、(りき)を込める起点の1つとなる腹部、それら全てから生み出されたパワーと全体重を合わせて頭上へと狼牙棒叩き落としたが、刀一本で受け止められてしまった。潰れるどころか動かず沈まず、眉一つ変わらない紅い鉢巻を巻いた少年

ドスッと自分にだけ聞こえる音より先に激痛、腹部には少年の右拳が撃ち込まれていた


「ずっとこのままってのも、嫌だろ?」


腹部へのパンチ。派手さは無いがデモーガンの体内には凄まじいダメージが走っている

狼牙棒を持つ手の力が弱まったと見て、受け止めてくれていた刀はそのままに右足で手首を蹴り武器を手から離させた。これを手から落としても、どうせまた現れると内心呟きながら力任せに刀を振り上げ狼牙棒の錘部を斬り、縦に真っ二つになると重そうな音を立て地に落ち半分以上が埋まってしまう

撃ち込まれた拳により、デモーガンは口から何か出そうで出ないので咳こんでしまった

タイガは彼を仕留める為、瞬時に刀を鞘から抜き右上段の構えをとる。左手を動く瞬間に柄から離すと右手に握られた数珠刃という互の目乱の刃紋が刻まれた刀で大男を斬りつける


「うっ!!」


アベスに映ったのは左肩から右腰にかけての一線、斬ると同時に桜の花弁が飛び散った。その花弁は土へ返ることもなく、燃え消えゆく

デモーガンから血飛沫が噴き出し、ガラガラの悲鳴を叫び倒れた。タイガは刀を一度振ってから鞘へと納め一言


「らしく構えをとってみた」


呆気ない、呆気なさすぎる。自由と好き勝手を掴みたくて、一度は捕まった一級犯罪者、デモーガンの最期。誰からの命令でもなく、独りで現れた少年の独断行動により潰えてしまったのだ

狼牙棒やその肉体、もしくは属性エネルギーや魔法等による技があったのかもしれない。それすらお披露目できず、殴られ蹴られ、斬られて終わった


「ここを片付けてからの方、敵陣を攻めて後にまとめての方、どちらにしよう?」


兵もまだ残ってるというのに、その場で考え始めた。深く考える必要ではない事、周りから見ればただの油断である

すぐにタイガや他の者達の耳に破裂音に似た音が通った、陣より上空に放たれた発光する白い煙。兵士達は予め教えられていたかのように煙が目に映った瞬間、移動を開始する。誰かが「撤退!撤退!」と叫んでいた

タイガは黙って見過ごす、兵士の誰もが自分へ攻撃をしてこなかったからだ。そう、兵士だけは


「むっ!?」


ドスっ・・・!という肉に刺さる音

黒い瞳が縮小する。左肩から腹部へと貫く太く十メートルはある銀製の矢であった。もはや矢というより槍だと言っても信じてくれるだろう

この一本だけではない、夜空を覆い尽くす同じ銀製の矢。輝きは魔力を込められているのだろう、容赦なくタイガへと降り注ぎ、輝きはやがて光の塊となり夜の暗闇を音もせず眩くする

馬で駆けるアベス背で、光を、明るさを感じた

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