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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
炎を宿す光
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焔を握る 3

ポーシバール湾は遥か昔、漁業が主な生活となる海に面した現在の湾岸都市とはかけ離れた小さな村であった

しかし、ポーシバール湾の歴史を記した書物によると地理的に物流や旅客を担う交通、舟運に適した海崖となっており、流通拠点としようと企んだ先代の帝達により発展化が計画された

突然の計画に住む村人達は反対を続け、ある日とうとう説得に訪ねてきた帝からの使者を殺害する

説得は不可能とみた帝はついに強行手段を開始。わずかな兵で半日も必要とせず村を壊滅させてしまう

捕縛されたのは村長と村に住む幼き子達。村長はその場で手足を切断されてから馬で引きずられ、最後は首を刎ねられてしまった

村の大人達を殺されてしまい、幼い子達だけが残った。埋めるや焼却の意見も出たが後にポーシバール湾の湾岸都市を治めることとなる、帝の親族である王が子達を保護と危害を加える行いを罪とした

子達が住む施設を建て、帝達を説得することで得た資金援助と自らの私財で衣食住を提供。成長すれば働き口を探し、与え、中には王の為に兵や側近として就く者もいたという

即位した王は商業知識があり、豊富に捕れる魚介類、特に貝類の漁業や貿易商、交通により今では世界五大貿易湾と呼ばれるまでに発展させ、1つの国として大規模な湾岸都市へと成長したのだった

本来ならば憎むべき相手となるはずであったが、ポーシバール湾の海を眺め親指で顎を触る王の像が物語っている

ここを失えば国全土をみても大打撃は必然である。過去の歴史にも2度攻め込まれたと記されており、ジョーカーの嘘で嫌がらせの手紙だとしてもここを狙うとだけで帝達のいる大国にまで緊急体制が敷かれてしまう。これは、ジョーカーの性格も1つの原因かもしれないが

戦地となっているのは湾岸都市附近にある陸地、ポーシバール平野にて

都市から出て東に僅か30と数キロ離れた位置に建つ城へ3頭の馬と馬車が1台到着した

全力で駆けてくれたのだろう、馬は疲労と酷い汗に苦しそうな息を吐き続ける。馬達を労わるエモンとタイガを尻目に、馬車から我先にと飛び出したベルガヨルは城門へと向かう


「何者だ!?止まれ!!」


城門前に配置された兵に止められ、槍を突きつけられてしまう。ベルガヨルは「退け」と一言、強めに発するが2人の兵は臆する様は微塵もなく


「Master The Orderだぞ!帝よりの伝書で来てやったんだ!客人へは無礼よりもてなしだろ!?」


エモンが背後から彼の手首を掴み背負い投げ、すぐに城門を守る兵達に謝罪をすると逆に兵達が膝を付き頭を下げる


「エモン殿、帝様と王より伝を賜っております。よくぞおいでくださいました」


「あぁ、予想より余裕を持って到着できた。案内よりまず、馬に水と食事を」


「はっ!」


すぐに他の兵を呼び、城門を開かせる。エモンは頭から地に刺さっているベルガヨルを引き抜きながら、3名に言葉をかける


「行くぞ。城に入ったからってチャンスだと考え、乗っ取ろうとか企むなよ。すぐに斬り捨ててやるから安心して企めよ」


「無茶苦茶だな、どっちだよ。どの道斬り捨てられて終わりじゃねーか」


タイガとエモンのやり取りに気を失っていなかったベルガヨルはくだらないと表す顔でエモンに担がれたままであった。兵の1人がこちらへと案内を、1名を担ぐ彼に3人は後を追う

その前にキハネは3頭の馬へ1頭ずつ顔に触れ、頬をつけて労いと感謝を


「ありがとうございますね・・・」


彼女はギリギリまで馬に触れ、後を追う

城門を通過し、城内へ。兵達は他にいないか、怪しい者はいないか等を確認してから門を閉める

同時に雨が降り始めた

長い廊下、行き着く先は薄暗い。タイガから見て右側は壁のようにガラス窓が張り巡らされていた。正方形のガラスが1枚1枚丁寧に、雨の水がガラスの隅と角を滴り、また別のガラスへと移り落ちていく

雷鳴に遅れ閃光が、落雷が発生。陽は沈んだ刻であるが、廊下に6名とガラスに張り付く水滴の影が現れる

落雷の後、エモンの足が止まる。先頭を歩き、案内をしていた兵士が尋ねた


「エモン殿、どうかされましたか?」


「きっと雷が怖いんだろ、飛び跳ねるにもタイミングを逃したから立ち止まるしかできなくなったんだ。災害の休憩所の英雄が雷怖いだなんて」


足が止まったエモンに尋ねる兵士にタイガが説明。間髪を入れずにエモンが否定に入った


「違うわ!降ってきたなーって。馬でずっと駆けたのと、雨は気温が変化するから体調に気をつけろとお節介ぶろうとしてただけだ!あと災害の休憩所じゃなくて災害の憩場!」


「休憩所でも憩場でも入浴場でも変わらないだろう」


雨が降り出す前に着いてよかったと改めて思う。陽も落ち、豪雨に打たれながらの長い移動は肉体的ダメージが無くとも精神的に磨り減らされるものがあり、不思議と疲労がはやく襲いかかってくる

身に体験した覚えがあった。懐かしくも恐怖だらけだった齢13の頃のこと

ミナールとキハネも聞き覚えはあるが、憩場ではなかった


「私は最初、災害の拠り所って聞いたわ」


「自然災害の楽園と婆様が・・・」


「なんでもいいよな、伝われば」


ベルガヨルが突然、壁を蹴った。余計で止まるなと伝えたいのだろう、それとも自分だけ会話に入れず苛ついたのかもしれない

どうあれ、お喋りで止まったのでタイガが代表して一言謝ると舌打ちの返事


「OKと勝手に捉えておくぞ、ベルガヨル」


こいつらで大丈夫だろうかと不安が残りながらも、エモンは兵士に進むよう合図を送る。兵士の返事は普段からの賜物かしっかりとしたうるさく感じる日もあるだろうが、芯のある返事。ベルガヨルも見習えと言いたい

兵士の後に続き、会話時に足を止めたを除けばそれほど歩いてはいない。巨大な光沢のある木製扉の前へ、扉には水に身を任せて沈んでいく女性が彫られていた。兵士は2回、ゆっくりと大きな音を出すようノックをするが返事は無し

だが、兵士は失礼しますの一言と同時に扉を押す


「謁見の間です。王の姿はございませんが、こちらでお待ちください」


謁見の間は殺風景であった。本城ではないので無駄な華美など施さなかったのだろうか?殺風景の空間に、玉座だけが目立つ

玉座の前で片膝を付き、身を低くするがベルガヨルだけ寝転んでしまった

その姿勢にミナールは怒る


「こら!失礼でしょ!」


「誘ったのは帝だ、ここの王じゃぁーねー。迎えもせずに姿も見せず、もうとっくに逃げ出してたりして?有利でも怖気づいて逃げるやつは必ずいるもんだ、たまたま王だったわけ」


小指を耳に突っ込みほじくり、居ないのをいいことに馬鹿にして揶揄う態度。エモンは説教するよりも、急に現れたや聞かれてた際に彼はどのような行動をとるのか見たくなった

貴様がいながらと、自分にも流れ弾が被弾しそうだが


「来させてといて待たせるのかよ。ったく、さすがな御身分なこった。身だしなみが決まらないとか?デート前かよ」


「身だしなみではない、手洗いだ」


玉座から突如として声がした。つい寸前まで確かに誰もいなかった玉座に居座る顔の右頬に絡まる火のような緑の刺青をした男性

羊の毛で縁取った黒紫を基調としたマント、白き羊毛に囲まれた黒紫は不思議な優雅さがある

すぐにベルガヨルは膝を付き、深く頭を下げた。他も出来る限り頭を下げる、エモンは驚愕しながらも口を開く


「まさか・・・!自ら赴いてくださっていたとは!」


ポーシバール湾・湾岸都市の王ではなかった。彼は正真正銘の「帝」である

神々しくも、無表情なその顔は五人を一人一人観察してみるが、全員同じ体勢


「頭を上げて、膝を付くな、楽にしてくれ。顔を見せて欲しい、皆同じだとつまらなすぎて話す気すら起きない」


全員、すぐ立ち上がる。帝の1人、彼と対面するのは2度目のことだが声を聞くのは初めて


「また、何故この場に?報が貴方様に届き、我々に文を送る時にはもうこの場に?しかし、文は確かに帝の宮廷より・・・」


「俺もさっき出発して、今着いたところだエモンよ。俺がいきなり、ここに現れた理由を知りたいか?なんとなんと・・・瞬間移石!俺は移転魔法や術が使えず、行える側近も存在しないので父の部屋から拝借してきた」


白く波紋模様であり、丸みを帯びたひし形の石を手で何度か跳ねさせるといきなり投げベルガヨルの左頬をかすりながら通過した


「ぎっ・・・っ!」


左頬は切れていない、皮膚も削れておらずただ皮膚と石が触れ合っただけ

彼自身、先までの行動を後悔し始める。見られ、聞かれていたならば返す言葉が見当たらない

帝はちょっと慌てふためく


「まずい、帰るのが面倒となり父に叱られてしまう」


急いで拾いに、傷を付けてしまっていないか念入りに石を確認する。なら、投げなきゃいいのにとタイガは言葉に出さず内心でつぶやく


「かまいやしないか、たとえ砕けてしまい帰りに時間を要しようとも、時にはゆったり空の変わり様を眺め帰るのもありだろう」


「父君にはお叱りを受けますけどね」


「お叱りが直撃するなら幼少時みたいに、教育係の家へ逃げるさ。ふっはっはっ!」


笑う帝とタイガの2人に、遮る形でベルガヨルが口を開いた


「な、何故!自分に向け投げたのですか!?」


「うん、不満と曇りのある顔だったのでシャキッとさせようと。直接手をくだしに行くには距離があるので、手元にちょうど良い物が」


「さっきまでを見直してくださいよ!傷付けたくないものなら投げないでください!けっきょく拾いに向かうはめになって、自分に直接手をくだしに向かうより動くことになられてましたよ!」


石にはどうやら傷1つ見当たらなかったようだ。安堵の息を吐く帝だったが唐突に切り替え声をあげる


「軍議といこう!」


帝であろうお方が地べたに座ると湾岸都市周り、平野の地図を広げ瞬間移石をペーパーウェイト代わりにするが適さなかったのか投げ捨てる

さっきまで傷1つ無いかあわてふためいていたのに


「誰か押さえておいてくれ」


「傷1つ無く、吐いた安堵の息はなんだったのか」


タイガがそう呟きながらも地図が捲らないように押さえてあげた

地図を6名で囲い、帝は手の羽ペンでまず自分達がいる城に円の印をつける。次に戦地を大雑把に黒で塗りつぶした。ついでに地図の端にマグカップを描く

地図の全域を見て、エモンが問う


「湾岸都市、本城を攻めてはこなかったのですね」


「敵は小軍、湾岸都市の本城からなると自らは海上で船が本陣となるからな。陸から3つの城を落としていく方が良い、たとえ本城から落としてもポーシバール4つの城は全てが囮となる」


帝は床に地図では足りない部分を大雑把ながら描き加えていく。相手側が船を停泊させ上陸した位置は海と大河川の境界線

軍の初期配置と本陣も、点だけだが加えていく

ここで、ミナールが恐る恐る口を開いた


「あの、恐れ多くも申しますけど・・・」


「かまわん」


「はい、えっと・・・戦況が有利ですから、余裕を持つので見学として私達は呼ばれたのですよね?」


帝の羽ペンが止まり、エモンも忘れかけていたのか2人は汗が滝のように流れ落ちていく。ミナールは重く息を吐てしまった

帝は咄嗟の言い訳を述べる


「か、形にはなってカッコいい・・・とか?」


「向かう前に、状況を簡単ながらもある程度は知れたので良かったと思いますけどね」


タイガはフォローのつもりではない、ポーシバール湾と平野は初めての地である。最初から知らず、初めて目にするよりかはずっと益のある事だ

その言葉を聞き、再び羽ペンは動き出した


「今、形ながらも軍議として、最早意味が無くともかまわない。だが、胸に引っかかるものがずっと取れないのだ・・・勝利は時間の問題だとしても」


「引っかかるもの・・・?指揮は誰がお執りに?」


キハネが帝の引っかかる部分と、ついでに指揮を執るものを訊く


「途中から交代したが、現はレネージュ・バリソン」


不意に、自然に、「げっ」とエモンは声をあげてしまった。やつは、いや彼女は苦手なのである

帝が「問題でもあるのか?」と問うが、ただの個人的な問題なのでありませんと答えるしかない

彼女の名前を耳にしたベルガヨルは驚きながら文句口調で現状に納得


「Tri・Frameのレネージュだと!?こんな小規模な争いに彼女が参じてるとは!どうりで戦況有利になるはずだぜ!」


「お前達ぐらいならレネージュさん、または様をつけないと怒るぞ。この場にいなくて良かったなー」


Tri・Frameとは全ての帝達の頂に君臨する聖帝が誇る最高戦力の3名であり、五星が一方的に攻め込むことのできない理由である

ある者達は敬い。ある者達は彼、彼女の下に就きたいと胸に秘め。ある者達は嫉妬に近いものを持ってしまい、ある者達はいつか超えてみせると叶うには遠い夢か野望を持つ


「レネージュ・バリソンさんが!?どうりで開戦から戦況有利の報がはやいはずだわ!」


ミナールは興奮気味


「もっと、別な訳もありそうだが・・・彼女も一端で間違いはないでしょう。ですよね?」


タイガは帝に訊ねるが、彼は地図と睨めっこしたまましばらく動かず反応せず。その眼はついさっきまでのどこか飄々とした雰囲気を失い、真剣を過ぎて神々しさすら溢れていた


「夜戦ですか?」


「・・・うむ、夜戦は行わないとみている。念の為にレネージュ自身も対処の準備を怠らないよう指示していた。奇襲がこようとも心配の必要すら余計」


「では、何故に?やはり、仰せられていた胸に引っかかる事ですか?」


皆の中で、興味と話題がレネージュ・バリソンに染まっていくがタイガとキハネの2名はいち早く、帝の変わり様に気づいていた

帝は地図を畳むと、それでタイガの頭を軽く叩く


「対処が万全だろうと、死人は出る。いかに減らすか俺なりに考えていただけさ」


「ゼロは、実力才能努力ですら達せませんから。運を百にしなくては」


「だよな・・・」


タイガへわずかに笑みを覗かせ、玉座へと戻り腰をおろす。五名は再び片膝を付け、身を低くする前に帝は口を開いた。飄々とした雰囲気となって


「うん!よし!気が変わった。明朝のつもりだったが、今より戦地に向かうのだ!」


「へ?は、はい!承知しました」


エモンが勢いで返事をしてしまった。Master The Orderの4人は彼へ顔を向け、「え!?」と漏らしてしまいそうな顔をしている

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