荒前 4
鉢巻きを結んてすぐ、緑の物体の表面から一部が塊が零れ落ち、地面に落ちることなく弾け、細かい無数の粒となり、凄まじいスピードで豪雨の如く。
地など容易に貫き、細かく空いた穴が繋がって大きな穴となるが、2人に当たることはなく、ある一定の距離まで迫ると同時に突然と発火し、消えてしまう。
先程までのどかだった中庭は、無惨な光景へと変貌していた。
その原因である緑の物体の中で、黒が中部に集まり、形を作り始める。
人の形であり、最後に頭部が完成されていく。
「ふぅ・・・ようやく、戻れたぜ」
あの液体状に近い中で、どうしてあんなにもはっきりと喋ることができるのだろうか?
現れたことも、喋れる理由も疑問が残るが、それもすぐにどうでもよくなり、モトキの気持ちが急ぐ。
「戻れたところ悪いが・・・急がせてもらう。お前と共にその中にいる皆を窒息死させたくはないのでな」
「せっかちなのか、決めたことへ余計が増やされるのが嫌なのか・・・どっちも同じだね。どする?殺されたいならかまわないぜ!元々決行日は入学式の日に合わせてはいたけど、俺ちゃまが先回りしただけだから!ちょっぴりの混乱を投下してやっただけ!」
緑の液状の中にいる男は、誇る顔で鼻下を指で擦り、口から細かい粒状の泡を吐き出す。
煽っているつもりなのだろうか?
「合わせたとか、先回りとか、他にも誰かいるような説明だな。残念ながら新種の生物発見じゃなく、誰かさんからの刺客といったとこか?だとしたなら、何をしにきた?」
タイガの問いに、男はわざと間を置く。
ちょっぴりの間を繰り返し、モトキへの焦りを駆り立てるつもりなのだろうか?
「んっくふふふふふふ♪ 必要だからだね・・・この学園を叩く、必要が!お前達も、国もよく知っているはずだ・・・!」
動揺でも誘うつもりでもあったのだろうが、モトキには今は事情や理由など聞くつもりはない。
「国の事情とかどうでもいい!お前が現れた理由も後回し!まずは、お前のゼラチンに捕らえている生徒らを急ぎ救出する!」
もう少し、話を聞き出したかったタイガも本性が抑えきれず、モトキの勢いに同意する。
「ゼラチンではない!スライムだ!スライム族の第7部隊副隊長 ジェバ!本任務はダイヤ様より自由なる先鋒を任された身!」
「な、に!?」
それを聞き、驚愕が走った。
2人だけではない。このジェバという者は、ワザと響かせる大声で、ダイヤの名を強調させる。
「ダイヤ、ダイヤだと!五星の・・・!」
「タイガ、俺も驚いたがまずは優先したいことがある!」
「わかってる!よし、俺がサポートにでもまわろうか?」
「いや、俺がまわる。なるべく火力を前面に出す!任せた!そして、任せろ!」
「しょうがねぇな。1つ上だからという、くっだらない理由にして言うこときいてやるよ」
モトキは後退し、タイガは彼の前へと一歩出た。
その一歩は2メートルの跳ね飛びである。
位置につき、モトキの右手に優しく白に光る粒子が集まり始めた。
その間の一瞬に、ジェバを包むスライムから数本の触手のようなものがつくりだされ、前方へ束ね、捻りを加えながら突き出す。
「避けるか?」
「必要ない!」
闘争心が暖まってきたタイガの右拳に炎が生じ、正拳突きを放った。
「逆鱗パンチ!」
放たれた拳から凄まじい火炎が生じ、迫る触手のようなものを粉砕する。
「おおおっ!?おっ!!」
貫かんと、突き伸ばされたスライムの一部を束状にしてつくられた触手の燃えカスが落ちていく。
柔らかい肉の塊を落としたような音は、暗闇で耳にしたら身の毛がよだち、怯えを誘う音。
「調子悪いのか?タイガ!」
「いつもの調子でやれば学園なんぞ容易に吹き飛ぶぞ」
「それもそうだな」と返したモトキの手には、盾が出現。剣が収められている盾だが、すぐに剣の柄を握った。
タイガは察したのか、ちょっと左へ横歩きで移動。その直後にモトキは剣を抜くのではなく、そのまま盾を振り投げる。
剣が鞘から抜けると同時に、放たれた盾は回転しながらスライムの右部へ直撃。
最初は回転による切断は狙っておらず、盾は内へ入ると勢いが弱まり停止したのかと思えば、再び回転を始めた。
まずは下へ回転をしながら一気に落ち、次に戻り上へと突き抜け切断してしまう。
「なぁにっ!?」
捕らわれていた生徒数名が、切断されたスライムごと落ちた。
急ぎジェバは、切断されたスライムの一部を再生させようと、互いの切断部から繊維のように細かいものを伸ばす。
だが、そこへ光が到達する。光は圧倒的なスピードで落ちた生徒1人1人に近づき、連れ去っていく。
再生完了の頃には、切断された部に捕らわれていた生徒達がいない。
その光は、回収した生徒達を離れた場所へ寝かさせると屋根へ移動した。
光が消えた。そこには左手に剣と右手に盾を持つモトキの姿が。
「いけ、タイガ・・・」
ジェバの意識が、モトキに向けられていた。切断されたことと、あのスピードへの驚きを隠せない。
そこへ、タイガが迫っていた。右拳を握り締め、ただのパンチを叩き込むつもりである。
意識をタイガに移し、ジェバは即座に床にぶちまけられたスライムで巨壁をつくりあげるが、その直後に光の一閃が走り、斬られバラバラにされてしまう。
モトキが斬ったのだ、あの位置から。
「くたばれ!」
本体のいるスライムへ飛び込んだタイガは、拳をジェバの顔面へ叩きこむ。
「ぶへぅっ!!」
一撃をくらったジェバは殴り飛ばされ、己を包むスライムから飛び出してしまった。
彼はレンガが敷き詰められた床地に叩きつけられ、抉り削っていく。
「ぐぃ・・・!が!あ!」
起き上がろうとするジェバの元に、前からはタイガが、後からはモトキが、挟むように立つ。
万事休すな状況となったジェバは、身体に残るわずかなスライムを手にへばりつかせると、その手を天へ突き上げた。
「この経過よりも、末だな!!」
残るスライムが上空へ。全てが一塊になり、規模を増幅させていく。
空に緑が敷かれ、透き通る緑は陽を通しその色を照らす。
「・・・タイガ」
「ん・・・?」
「もう一撃!」
「だよな!」
攻撃はタイガに任せてあるので、トドメも彼が始末をつける。
再び、右拳に炎が生じた。
「もう一発の!逆鱗パァァァァンチ!」
タイガの周りより火焔が、炎は絵に描いたようような噴火の如く放たれる。
力の差を見せつけるかのように、緑のスライムは呆気なくジェバごと浄化され、上空に凄まじい炎が敷き拡がった。