焔を握る 2
「遅参しました、罵声でも追い出しでも好きにすればいい」
エモンに見張られながら学園長室へ。先に3名が到着しており、内1人であるミナールが睨む視線を送ってきたが相手にせず
彼女に続いて無言で眼鏡を拭く学園長の視線におもわず喉から「おぉ・・・」と声が漏れてしまう
「忘れるつもりだったから、見張っておいたぞ学園長さんよ」
「よい、遅れた件は流そう。世話をかけたなエモン。普段から呼ぶもまともに来てくれるのは彼だけなのだから、大目に」
眼鏡を掛け、一息つくと皆に自分の前に並ぶよう指で合図するがタイガ以外の3名は言うこと聞かない
1人の男性はソファーで寝転がり、一人の女性は持参した座布団の上で瞳を閉じて微動だにせず、ミナールはそっぽを向いてしまっている
エモンが「あちゃー」と漏らしながら頬を掻く
「ええと、聞かせましょうか?」
「耳にしてくれるだけでもけっこう。FirstとSecondは仕方ないとして、Master The Orderの半数も・・・珍しいものだ」
半ば諦めの表情、いつものことなので学園長も慣れてしまっている
Master The Order全員がちゃんと集まるのは、帝やその頂である聖帝が全員に召集をかけた際だけ
学園長も今さらであり、重々理解はしているつもりである
「けっ!半数つっても、簡単な護衛すらできずエトワリング家の主人を死なせた愚者2名を抜けば4分の1だけだぜ。プラスにしないことだ」
ソファーに寝転がる左が茶髪であり、右は逆立った金髪と中央から綺麗に半分ずつ分かれた髪色をしており、左耳だけに付けた4つのピアスを触りながら挑発的に馬鹿にする口調で
「ミナール・マニオン様のFifthを下げて、俺様をFifthに上げてもいいんじゃない?」
先程、ミナールが不機嫌だったのはこいつが原因である。学園のどこかで出くわして、こちらから手を出させるように攻撃的に言われに言われたのだろう
ミナールはタイガを睨みつけた時よりも、更に鋭く彼を睨みつけるが突っかかりはしない。一々、こいつの相手にするのは面倒なのだ
男は煽るように、独りヘラヘラと笑う
「一般生徒を推薦したジョーカーはさすがだぜ、こいつらの助っ人は同レベルで、同士で仲良くしろって。ぎゃははははっ!」
エモンが彼の頭に拳骨を。ソファーから落ちて転げ回る光景に、ミナールと座布団に座り微動だにしなかった女性は笑ってしまいそうになったが堪える
「いでーっっ!いででっ!骨に響く!頭蓋骨がブルブルンって!」
「ベルガヨル・・・他者の失敗を責め続けるのは余裕を持たないやつの典型的な愚面だぞ」
ベルガヨル・テナード。Master The OrderのSixthであるのだが、今の位置に不満だらけであり前回のミナールとタイガの失敗をチャンスだと考え必要以上に言いふらしたり本人を責めたりして蹴落そうとしてくる
特に自分より上であるミナールを
上位2名には勝らないと諦めてはいるが、せめてThirdになりないのだ
座布団に座る濃い黒紫の美しく艶に光沢のある長髪を持ち、汚れ1つない白の巫女服を着た女性もMaster The OrderでありFourthの位置にいる
名はキハネ・シロサナギ。先祖より退魔や除霊、陰陽類いに縁ある伝統名家の娘
Master The Orderの殆どは金持ちや貴族、名家より出ている。タイガはエモンの推薦であり、他はThirdぐらいである
「学園長、続けてけっこうだ。嫌でもこいつらには聞かせるので」
「う、うむ。少々手荒だが、帝の王よりの通達なので・・・」
「それを最初に言えよ!」
ベルガヨルの人が変わった。初めよりまじめに話を聞こうとしていたタイガを突き飛ばし我先にと
タイガは壁に半分埋まってしまうが、痛がりもせず怒らず、抜け出して突き飛ばしてきた彼の横へ
学園長が話す前に、ミナールが割り込む
「待って学園長、帝の王からの通達って・・・今は2日前より革命軍の飛行艦隊船群の通過と、突如ポーシバール湾への侵攻に対応しているはずよ。援軍要請ではないでしょうね?だとしたら間違いよ、Master The Orderは個人で軍隊じゃないのよ!エモンさんへの要請だったらわかるけど」
「怖気付きやがって、個人でも護衛すら成せず終わったやつの言い訳はさすがだぜ!」
ベルガヨルの言葉は無視。無視された彼はつれねぇといった不満顔
学園長は帝の王よりの文をまずタイガに渡す。内容を読む彼の顔は拍子抜けした顔へ。読み終えた文を次はキハネへと渡す
「たしかに、帝一族のサインですがこれは・・・援軍の要請ではありませんね。見学の誘いとは」
言葉を聞いて、ベルガヨルはすぐに彼女から文を取り上げると目を通す
怒りに震えながら、文をくしゃくしゃに丸め学園長へ投げつけた
「遠足でもしようってか!?俺様を馬鹿にしてるだろ!!見学ってなんだよ見学って!!」
「被害妄想だな。戦いが上手いこと進んでいるから、いずれ戦力となるだろう俺達に見学でもさせようの計らいか」
タイガの言葉にエモンは頷く
「過去に例がなかったわけじゃない、むしろ将来有望そうなやつは頻繁に戦場への見学に招待している。俺は招待されたことないけどな」
ポーシバール湾は古くより貿易や漁が盛んな港町であり、かつてジョーカーが爆破予告の手紙を送りつけ騒ぎになったが何も起きずに終わった件がある
だが、突如として侵攻があったとするならば、今回もジョーカーが絡んでいるかもしれない
学園長はくしゃくしゃにされた文をひろげ内容を読み直す。行かせるべきなのかそうでないのか
その間、タイガは前回の件があったのでミナールと話す
「以前にあったジョーカーからポーシバール湾爆破予告の手紙の件の続きだとしたら・・・兵を率いて指揮しているのはジョーカーなのか?」
「ジョーカーのことよ、また予告の手紙でも送りつけてあいつを推薦するよう記したのかも。あ、でも今回起こったのは突然だったから手紙は送っていないかもしれないわ。それにあいつのことを記してたらここへ呼ばれているはずだし」
ジョーカーは絡んでいるのだろうか?たとえ違っても抜いてはならないだろう。エトワリング家の護衛時は最初から仕組まれていたのだから
2人の会話にキハネが入ってきた
「ジョーカーが推薦した方が気になりますが後日に詳しくといたしまして。五星の誰かがいようとも、油断はできませんが戦況は有利と見てとれます・・・チャンスですよと伝えたいのでしょうか?」
「一見はそうよね・・・」
ミナールはあれ以来、ジョーカーが関係している疑いがあれば警戒するようになってしまった
やつの茶番劇の駒とされてたあの時は忘れられないのだ
「ジョーカーでもスペードでも指揮していろ!クローバーの先鋒でもいい!そいつを討ちとれば終わり!もちろん討つのは俺様!」
「あんたは五星を舐めすぎだわ!」
ベルガヨルの着地点のない自信にミナールはおもわず怒鳴ってしまった。静まり返り重い空気となった学園長室でベルガヨルの舌打ちがよくわかる
まずいなと思い、学園長は打開しようと一言
「さて、どうする?行くか?行かないか?」




