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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
炎を宿す光
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焔を握る

入院しているモトキの見舞いから戻り、学園長室へ向かうタイガは学園噴水近くの中庭でとりまき達を引き連れたミナールと出会す

「昼食に出ていたのか?」と、さり気ない会話を切り出してみたが彼女は睨む


「俺はお前に、怒られるヘマをした覚えはないが?」


「今日の私はただ機嫌が悪いだけ、他のMaster The Orderの顔なんて目にしたら溜まりに溜まってしまうわ」


「おいおい。限定指名するのはMaster The Order内の誰かに、悪意のある揶揄いの戯言でも言われたのだろ?そうだろ?」


蹴られた、腿を。そういえば自分も彼女の怒りを掻き立てさせる1人だった

痛さアピールの為に蹴られた腿を手で押さえ転げまわるが彼女は反応せず去っていこうとする


「去る前に一つ報を告げておく、モトキが入院した。この前の任で共にした仲だから、気が向いたら見舞いにでも行ってやったらどうだ?」


「あいつが入院?大きな怪我でもしたの?」


一応聞いといて、本当はどうでもいいような素振りをしているが本心は気になっている

彼女は興味ないことならば、わざわざ足を止めて耳を立てるなどしないからだ


「怪我じゃない、生の川魚を食して見事に的中した。学園で姿を見ないから寮を訪ねてみたら惨事だったぞ」


「そ、そう・・・」


「ミナール様が!そのような一般生徒の為に時間を割いて赴くわけないでしょ!」


とりまきの一人が割って入り、続いて他のとりまき達も「そーよ!そーよ!」と同調してタイガに申す

その一般生徒にこいつは負けたのだぞを言いたいが、ただでさえ今日彼女は機嫌が悪いので胸に閉まっておく


「ま、個人のご自由に。俺は友人だから当然見舞いに行ったぞ。俺が勝手に友人としているだけかもしれないけど」


学園長室に用事があったのだが、どうでもよくなってしまった。モトキの森を走り村へ行った話を聞き、自分も森へ行き散歩やら森林浴でもしてこようかなと向かうべき方向を変更

ものの数分後には山の緑が出迎え始める

世には歳を重ねる毎に、昔とは違い虫や動物等に触れることができなくなる輩がいる。それはタイガにとって寂しい成長であると考える

最近は幼少のように森へ行く機会が減りつつある。緑があり川があり、時に遊び場となり、時に稽古場でもあった


「なんだかんだ、この日まで久しぶりになってしまったな」


最後にここまでの自然に囲まれ進んだのは、橋でくだらない決闘をしているモトキとミナールの様子を観に向かう際。あの時はただ進み向かうだけであったが、今は冬眠から覚め、または新しく誕生した虫や緑色に戻る植物達を眺め観察することができる


「卵から孵化、蜂や蟻の女王誕生と冬眠からの目覚め、生まれる季節だからこそ食の連鎖も活発となり。捕食対象の天敵、共食いもあれば鳥や小動物の餌となる。この広大な森でどれほどの小さな生きる為の食す戦いが行われているんだろうな」


自分ではとても満喫しているつもりである、こういう1日もあってよいものだと

進み続けた森の深くで、木々に囲まれた空間を発見する。大樹の巨大な切株だけがそこに

切株の上に座ると、もはや朽ちて長い年月が経つというのに生命を感じさせる。胸から頭へ衝撃に近いものが走り抜けた

切株の上で精神を統一、胡座をかいた状態で無心となり時間など忘れ、邪念を捨てる


「・・・?」


せっかく精神統一を開始してすぐ、鋭く痛い殺気が突き刺さる。森がざわめいているようで、様々な種の大群となった鳥が空へと逃げていく

全方向からの殺気のはずだが、何者かに囲まれた気配ではない。強大な1つの気配

様子見よりも、わざと動きをいれ相手側からの仕掛けを誘おうと立ち上がるとすぐに動きがあった

切株にいたタイガは黒い巨大な影と共に一瞬にして姿を消してしまった

何が起こったのか、タイガは無事なのだろうか?いや、無事である。開いた大口の上顎と下顎を、左拳と肘で支え閉じて喰らいつこうとする牙を防ぐ

犯人は熊であった、しかも身の丈は軽く10メートルを越える巨体


(でけっ!記憶にある熊の巨体をあっさり超えたぞ!)


熊はただ走りながら、閉じることのできない口に驚くも目に映るは狙った獲物

しかし、木に叩きつけて仕留めようにも熊自身の勢いとタイガの丈夫な体のせいで砕き倒されていくだけ

タイガは両足を地に着け熊の進行を止めると、右拳を熊の右頬へめり込ませる。粘り気とわずかに異臭すらある唾液を吐き出す熊を、口から離した左手で首根っこを掴み持ち上げ地に叩きつけた

大熊はタイガに屈服してしまい、腹部を晒して服従の証を。お腹を撫でてやると気持ちよさそうに、だらしない声をあげる

邪魔が入った、来たばかりだがもう帰ろう。大熊の背に乗せてもらい森から抜けた

そのまま学園に戻ろうとする


「きゃーぁぁぁーっ!!!」


「熊だーっ!!」


下山し森を抜けまでだったはずなのに、そのまま乗り進んだおかげで街と学園は大混乱となってしまった

街を通過した後、誰かが憲兵を呼んだのか兵達は大熊とタイガを取り囲み銃をこちらに向け、いつでも発砲可能の体制に


「うわー、これはまずい。でも動物に乗って街とかを歩くって小さい頃に夢見ただろ?」


ただの鉛玉ごときでは死なないが、自分のせいで熊が危険である。どうしたものかと考え、2つの選択肢が浮かぶ

本気で謝る。または憲兵達を実力行使で追い払う

本気で謝って済むならば良し、責任を持って熊を山へ返す。しかし、街の住人等に被害を及ぼさない可能性がゼロではないと告げられ麻酔銃が効かなければ駆除で片付けられるかもしれない

効かないだろう、この巨体をした熊では。麻酔銃どころか、警備用の銃を一発頭に撃ち込んだところで死にはしない


「うーん、やっぱり話し合いで解決できないなら拳で黙らせるしかないか」


答えを出すのがはやすぎである。それは悪い方の解決方法だ。説得の時間を持ちかけてもよかったはず、けどくどいのが続くかもしれないなら実力行使の選択


「と、いうわけで。ごめんな」


謝ったのは騒ぎをたてたことではなく、今から憲兵達に痛いことをするから謝ったのだ。熊の背に立ち、戦闘を開始しようとした。その次の瞬間


「なにしてんだお前ーっ!」


エモンがドロップキックでタイガを蹴り飛ばす。外が騒がしいなと出てみれば大熊がおり、その背に乗って憲兵に囲まれている有様

憲兵達はエモンが入ってきたのですぐに銃を下ろした


「迷惑をかけた。こいつと熊は俺が責任を持つから各々退いてけっこう」


モトキに続き、タイガもお世話になってしまうところであった。憲兵達はエモンへ敬礼をすると退散する

退散するのを見送った後、エモンはタイガの頭へ拳骨を落とす


「いてーっ!」


「つい先日にモトキが世話になったばかりだぞ!また俺が謝りに行くはめになるとこだった!」


「面目ない」


熊を山に返す為、モトキの部屋を片付ける際に召集したエモンの部下達が再び

人が近づかないよう熊を数人で囲むと前方に誘導係として2名を配置し、後方にも2名。万が一、暴れた場合を想定して原因となったタイガを熊の背に乗せておく。熊はタイガがいれば暴れないだろうと


「どのようにして従えさせたか知らないが、お前がいれば大人しくしてくれるだろ。もし、ここでお前を槍とかで突いたら熊はどんな行動をすると思う?」


「暴れてくれるになればいいけど、恐怖支配がなくなって喜んで好き勝手を始めるかもな。どの道、俺がいなくなっても次に待ち構えるのはお前だろ」


「俺はそんなことしないさ、手厚く保護を続行してちゃんと山へ返すよ」


熊を麻酔銃で眠らせたり、檻に閉じ込め運ぶより自らの足で帰らせる

山の麓に着き、森を少しの距離を進んだ場所でタイガは熊へ街に降りてこないようにとしっかり言い聞かせると、熊は解放され喜んでいるのか巨大に似合わないスピードで森の奥へと消えていった


「ああいった動物達が居場所を失い街へ降りてきて被害をもたらし、駆除されてしまうようなことがないように自然や山は守っていかないと。今回は、タイガのせいだが」


「幼少の夢、今でも時折あるけど動物の背に乗って学園に登校したくなって」


「まぁ、わからなくもないが・・・さて、熊も返したことだし、次はお前がさっさと学園に戻って学園長室へ行く番だ。俺も学園長も待っていたというのに・・・」


忘れたことにしていた。タイガは軽い返事で返すと先に戻ると告げるが後をエモンが追いかける。猛スピードで走ってみたが、やはり合わせて追いかけてきたので素直に学園長室へ向かうことにした


「信用してくれてもいいのに」

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