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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
継がれることのない聖剣
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懸崖を越えて

モトキの下半身は土に埋まり、上半身だけを出して地に顔を着け伏していた。頭の真横で刺さる鞘に納められたままの探していた剣

ニハは、どうしてこの子に?と口には出さず剣に問いかけてみるが反応がない。当たり前かと自分の行いに口を緩ませ刺さる剣を引き抜き、手に持ってみる

しかし、すぐに剣は七色の光となり消えるとモトキの頭に落ちた


「そう・・・使われたくないけど、一緒にいれば持ち主にいつか巡り逢えるとねー。私よりもそいつに・・・なんてねー」


剣が落ち、頭の当たった部分を優しく撫でる。このままトドメを刺すこともできるけど


「そんな剣よりも、あなたの存在を知った方が大きな獲得。ボスと同じ。いずれ、いずれまた逢えればねー・・・」


ここ一帯を消さず、剣も取らず、モトキにトドメを刺さず、連れていきもしない。何も得られずに帰るに等しい、すなわち失敗

ニハは鼻唄を歌い気分が良い、はやくこのことをボスに伝え話したくてたまらないのだ

ボスに親族かもしれないと言えばどのような反応をするだろう。興味を持つ、喜ぶ、戸惑う、自分に血の繋がりのある者はいないと否定的に返す

どれでもおもしろそうだが、戸惑ってくれたら一番おもしろい


「それまでに、今日みたいに他に出くわして邪魔をしてやられてしまわないようにねー。ボス自ら、もしくはあたしが、また、勧誘に訪ねることとなれば面白すぎるのに」


半分土に埋まるモトキの身体を引きずり出してから、これ以上の関わりも必要なく立ち去る。去り際、鎧は衣服へ戻ると自身は橙の煙となり空気に溶けて消えていった

闇空の森、このままモトキを放置しておけば野犬や獣等の餌になりかねない。だが先の戦いのせいで動物等は逃げてしまったであろう

空気は嘘のように澄んでいた

彼の意識は真っ暗な闇の世界に、動かず声もあげず。どれだけ突っ立っていたのだろうか?突然自分の名を呼ぶ声が聞こえる。頭の奥まで通る声に自然と一歩、足を踏み出していた。次に、また次と進み吸い込まれていく


「モトキっ!モトキっっ!!」


「!!」


開いた瞳に映るのはティアの顔、長い黒髪が顔にかかってくすぐったい。ランプで二人を照らすキコは目に涙を浮かべていた


「・・・あぁ・・・」


目覚めはしたが右腕を失った後の記憶が曖昧、だけど右腕はある。ボヤけてだが覚えているのは顔に何かがぶつかり、数回言葉を口にしたことだけ


「酷い血・・・はやく治療しないと!寒くない!?痛みはちゃんとある!?」


ティアはモトキのシャツのボタンを外し上着を脱がせるが身体には傷一つない。それどころかすこぶる調子が良く、胸奥からくるムズムズが何度も全身へと走る。しかし白シャツの半分以上を染める赤はどうしようもなかった


「それ返り血ってやつ?」


「どうだろうな?もしかしたらちゃんと俺の血かもしれない。倒した撃退した、負けたかも覚えてないんだ。相手にならないから呆れて帰られたのかもな」


結果は悪くない。勝敗はどうでもいい、持った目的を果たせたのだから

静かな森の空気に耽っているとティアが抱きしめてきた。モトキの頭を撫でながら謝る。彼女の匂いと顔を挟む柔らかい乳棒は胸奥からくるものを促進させる


「ごめんなさい、私よりも歳が下なのに。向かってくれて、こんな目にあわせてしまって」


「そ、そんな・・・!俺が自分勝手なに・・・!!」


離れる為に立ち上がろうと手を地に着けると左手が何かに触れた、それは鞘に納められた剣。自分の剣ではない

モトキの曖昧でボヤけていた記憶の中で、この剣だけの記憶が鮮明へと変わった。目にはしていたのだ、消し去られた遺跡にある散らばった土塊から出現するところを

抱きしめてくれている彼女から抜け出すとすぐさま剣を拾った


「ティアさん!これ!この剣!あの遺跡にはちゃんと剣が存在したのですよ!虹を受け取れると伝わる剣が!」


キョトンとした顔をする彼女とは別に、キコの目は輝いていた。モトキに触らせてと頼むと快く渡されはしたのだが、剣はすぐ七色の光となり消えモトキの手元へ

もう一度、手にしてみるがやはりモトキの手へと戻ってしまう

モトキも、手に持つことは可能だが剣を鞘から抜くのは不可能

剣が存在していた事実に心躍る。ティアは今すぐにでも飛びついて写真を撮り、スケッチして、レポートを書きたい

だが彼女は剣より先にモトキを、当然である。必要ないだろうけど肩を貸そうかと尋ねてみた


「ありがとう」


静かにお礼の言葉を彼女へ、必要ないと言わなかったのはティアの気づかいを否定することになってしまうから

一度は取れた右腕が気になるのか、右肩をまわす


「戻ったら、モトキはその服を脱いでばあちゃんに渡したらいいよ。血生臭いのとはおさらば」


「汚れは綺麗さっぱり落ちそうにないけど、着替えを持ち合わせていないから嫌でもこれを着て帰らないと」


左手には遺跡に突如存在した鞘に納まる剣を、ここに放置したままにしておくわけにはいかない

そもそも、置いて行っても必ずモトキの前に現れるだろうから

村に戻るまで、行きよりも時間は短く感じた。長時間、戦っておらず気を失っていたわけではない。夜の刻で空は青みがかってすらいない、村ではなく親切にしてくれた方々を守る短い戦いは終わった

モトキの目的は果たせたが完璧な結果とはいかなかった。先に出た若い男衆達のことを伝えると、彼らの家族は悲しみに襲われ、行き場のない迷ってしまう怒りを露わに

泣き崩れ落ち、怒りで地や物にあたり、モトキへの罵声もなかったわけではない

家族を喪ったんだ、自分にあたり罵声を浴びせようとも仕方ないと片付けるつもりだった。モトキ自身、落ち度がないわけじゃなかったからだ

けど老婆が間にはいり叱り庇ってくれた、長老と呼ばれる彼女はモトキへあたるのはおかしいと告げる

それだけで、どれ程救われたことか


「達成には遠いな・・・」


綺麗に終わりはしなかった。だが刻は勝手に過ぎる。モトキはキコや老婆の家の屋根上で朝を迎えた

洗っていただいた後、屋根に広げ干していた完全に赤が落ちていない白いシャツを着るとこっそりと村を立ち去ろうとする

しかし、屋根から降りてすぐキコに捕まってしまう。幼い身体でモトキの身体に手と足で拘束


「帰るなら見送りぐらいさせろよ!お礼ぐらいしっかり受けてもいいだろ」


「そう・・・だな」


ティアはもう1日、村に滞在するようだ。無くなってしまったが遺跡の跡地を最後に訪れるつもりらしい

自分は先に村を出て行くが、せっかく存在した物を写真や絵の一枚ぐらいなくてはもったいないだろう。剣の写真を数枚撮らせてあげていると、一枚だけモトキの顔を撮る


「モトキ・・・いい顔ね」


「俺を研究しても、くだらないものしかでませんよ」


彼女とキコ、この村にくるきっかけとなった老婆やその家族に見送られモトキは村を去る

重なり合い起こった偶然、墓参りから始まり老婆、村へ送り、遺跡に剣、革命軍。たった一日でも偶然の重なりにより濃くもなり浅くもなってしまう

いや、偶然も奇跡も本来は存在しない。こうなる運命だったのだ


「帰って一眠り・・・明日から授業に出よ」


エモンにちゃんと謝り、タイガにも心配かけさせたと昼飯ぐらい奢ろう

気持ちを切り替え帰ってきたのはいいが、学園近くに帰ってきたタイミングでモトキは血のついたシャツのせいで憲兵に捕まり連行されてしまう

エモンとタイガが上のお偉いさん方を説得してくれたおかげで解放されたが、別の意味で最初2人に謝る事となってしまった

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