懸崖から眺める村にて 4
眠りについてから、刻はあまり経ってはいない。だが、一瞬にして目が覚めてしまう事態が起こってしまう
凄まじい轟音と地鳴りに襲われる。モトキは慌て焦ることもなく、開けられない目を必死で開こうとしながらゆっくり起き上がる
「な!なに!?」
彼女はまだ起きていた。わずかな間、硬直してしまっていたが状況の整理をすぐに終え外へと向かう
モトキは中途半端な睡眠により寝ぼけが治らない中、彼女の後を追いかけるが外に出てすぐ、バランスを崩した
寝ぼけにより頭が回らないのと、痛みにより半分しか開かない瞼のせいもあったのか普段は使用しない際にしている井戸の蓋に頭から突撃してしまい、壊して落ちた
「ぎゃああああああっっ!!」
他の村人達も外へ。手に灯りを持ち、ざわつきが始まる。視線は同じ方向へ、夜でも目立つ輝きの粒を降らせる青い煙が天まで星空に溶けていくようにあがっていた
場所だがティラにはわかっていた。あの遺跡の場所。すぐに村の若い男衆数名が集められ、煙のあがる場所へ発つ者と村に残る者と分けられたが、彼女は不安しかない
心中にあるのは革命軍のこと、やつらが関わっていないことを願うだけ
「目が覚めた・・・」
びしょ濡れになったモトキが井戸底から登ってきた。彼もまたあがる青い煙に気づき、同じ煙の方を向き立ちつくすティラに声をかける
「ティラさん・・・ティラさん?」
「え?あっ・・・ごめん」
「いえ・・・あの煙はただ事ではない。怯えても驚いても、茫然としても間違いではないでしょう」
村の男衆が出発した。慌てて家から出てついていこうとするキコがモトキの左より抜けていったが、呆気なく村に残る男衆の1人に掴まれてしまう
離せ離せと駄々をこねるが、もちろん聞き入れられずそのまま家に返された
「・・・向かわずこの村で待機しておくのが得策なのかもしれない」
「そうですかね・・・」
「私達は外部からの他人、今更こうしろと進言しても村に執着する在住者達には無意味に手遅れね・・・」
その場にしゃがみ溜息、もう向かってしまった男衆を引き止めるなどできないであろう
本当に何事もないことを願うしかない
革命軍ではないこと、もしそうだとしてもとっくに退散しているか目的以外に余計なことをしないか
少年は答えを与えることなどできない。無言を続け、一度深い呼吸を終えるとひっそり彼女のそばから騒動に紛れるかのように消える
モトキも遺跡に向かうことにした。彼女や村の為に動いたわけではない
いや、その心構えを微々ながらあってもいいだろう
自分にできることはまだわからない。とりあえず遺跡のあった場所へ男衆を追いながら向かうことはできる。着いてから次を考えよう、何も起こらないが一番よい結末なのだが
(偽善だな。まぁ、指咥えて村で待つのもありだったけど、この選択肢もあり。どちらも正解でも間違いでもないからこれを選んだわけで・・・男衆に追いつけないな)
どうも様子がおかしい。モトキの進行速度からそろそろ追いついていいはずだが
自分と男衆の進路に多少のズレがあったとしても手にしていた松明の灯り等は見渡せば確認できる距離まできているはず
もしや、何かあったか?森も恐ろしく静かだった
「悲鳴の一つ。気絶している、死体の一人。血痕・・・悪い流れだがどれか・・・」
遺跡へ向かいながらも捜すが気配すらない。とうとう煙があがる場所へ着いてしまった
しかし、そこにはもう遺跡の入口があった高い絶壁も、崖上の森も無くなり更地と化している
ここだったかと疑ってしまう変貌。岩や土塊、樹木の残骸が散らばり青い輝く粒子のようなものが付着していた
「ないなー、これも違うー、うっかり粉砕しちゃったかなー?だとしたら伝わりも大したことないー・・・けどボスに怒られちゃうかなー?」
遺跡があったそこで、残骸1つ1つを手に取っては捨て、探しものをしている。うーんと頭を抱え悩む、再開するもモトキに気づいた
首に巻きかかった長く編み込んだ茶混じりの橙色髪を邪魔くさそうに払いながら、手を振る彼女を前にして、自然と身構えてしまった
ここで探し物をしているのは明らかに普通じゃない
「青い煙の原因はお前でいいのか?」
「怪しまれてもしょうがないよねー。今ここにいるのあたしとあなただけ。さっき迫ってきていた数名の1人?お友達がいなくなってあたしに怒るつもり?やつあたりかなー?でも怒るのは正解、青い煙も正解」
正解とは轟音と地鳴り、遺跡を消して先に行った男衆の行方をわからなくした犯人がこいつだということ
男衆達がいなくなった。察しがつくが自分が追いかてから時間もそれほど要していない間にどうのようにして?
「怒りに燃えてる様子じゃないね、お友達じゃなかった?」
「知らず者の為に怒るほどお人好しじゃないからな、俺は」
冷たいなーと思いながらも、こんなことをしている場合ではないと思い出したような顔をして再び探し始めた
探し物はたぶん、ティラが口にしていた虹を受け取れるという剣だろう
「数時間前に、上空を通過した革命軍の飛行船は今と関係しているのか?だとしたら、お前は革命軍の一員の可能性がある」
「可能性じゃなくともー、あたし革命軍よ。しかも12部隊隊長のニハとはあたしのこと。ケーキ食べて、歯を磨いて、シャワー浴びて、居眠りしてたらこんな時間になっちゃって怒られちゃった」
お互いの後方から風が吹き抜け、2人の間でぶつかり合う
言葉が一度間を置き止まり、冷たくて不安を生むような風だった
嘘のように風は止みモトキが口を開く
「自慢気に言われても革命軍に分けられた数個の部隊があるって初耳だな。その隊長さんに叱れるとは、革命軍の頭とか立場のあるお方なんだろうな」
「えー、そこに着目する?あたしのことはいいの?興味持てよー、あたしに。あとボスは時間ロスぐらいじゃ怒らなーい、生意気な3部隊の隊長。任されたのはあたしなのに口出しはいらないよ、あたしのペースでやりたいのに」
持ち上げた青い輝く粒がびっしり付く瓦礫を握り潰す。思い出してちょっぴりイラつきが滲んできたのだろう
握る拳の隙間から輝く粒が落ちていく
「任されたけど探し物は見つからず大変だな」
「そう、この有様だから一緒に粉砕しちゃったかも。見つからなかったら見つからなかったで報告すればいいけど・・・あとで万が一に他に発見されたら嫌だからここ一帯と遺跡近くの村を消しておこ」
悪巧みをするようなかわいらしい笑いの直後、ニハの目前には靴底が映る。咄嗟に右へバレエのターンであるピルエットを真似て流し躱した
モトキが突然跳び蹴りを放ったのだ。そのまま地に激突することなく、放った右足の膝から着地してブレーキをかける
「ちょっと!危ないじゃない!馬鹿!通り魔!暴君!」
「ごめんな、でもお前の発言が怖く感じてしまって・・・」
村全体のことはモトキ自身どうでもいい。だが自分によくしてくださったキコやその母、祖母等の為。そして、遺跡よりも人の心配だけをしたティラの為に
彼女をこの騒動に巻き込まれ村のついでに喪われてほしくないのだ。単純に「良い人」だからである
「その行い、邪魔をしますと捉えていいの?ねぇ、いいのー?探して物を見つけられないイライラもプラスしてぶつけることになるけど」
「一緒に探してやるよ・・・見つけたら消されそうだな。自分が埋まる墓を掘るのと一緒か。どうせ見つけてもここ一帯と村を消し去るつもりだったのだろ?」
「もちろん」
革命軍、エモンよりやつらの野望を話してくれたことがある
簡潔に説明するとモトキ達側は大聖帝をトップに人間という種族が主となる国、敵対するは魔王帝をトップに様々な種類が在する国。革命軍はこの敵対しあう二国を統一させ、古より続く争いをやめさせることが目的
そして自分達が支配をする
「虹を受け取れる・・・大袈裟に言って世界を全て手にするには必要と伝わる剣か。もしデタラメで、振るだけで崩れていくほど風化した変哲も無い剣が正体だったらどうする?」
「それでもかまわない、存在しなかったとしても。たとえあなたの言う大袈裟だとしても、本物の伝でも、それは大きくても小さくても一手となる。今は邪魔するあなたを排除したい」
「排除したいか・・・戦えるか俺?」
足枷となっていた前回の出来事、憑いた負は今だけでも捨てよう。あのままだと、刺し違うことすらできなさそうだ
光を生み、剣と盾を出現させようとする
だが、それより先にニハの全身の衣服が破れ弾け飛んだ。全裸となり、宙より少し浮き、弾け飛んだ服の破片は停止
モトキの胸や腹部、腕、膝に痛み。服の破片は割れたガラスのように刺さっていた
「なんだっ!?」
破片は肉より抜け、再びニハへと戻り全身を包むと鎧と背中に生える巨大な翼となる。翼は鎧の一部として、風切りは並ぶ筒状の噴射口
右翼より青の光を、左翼より橙の光を噴射している
「さぁ・・・夜空の星の1つとなる準備はいいかなー?」
「まさか、老婆を送った先でたまたま・・・ついてないな。普段からあまり運が良い方じゃないけど。不運だとしても不幸じゃない、友人には恵まれているのでね。星空はなるより、眺めているにかぎる」




