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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
継がれることのない聖剣
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懸崖から眺める村にて 2

陽の半分は山に沈みかける風景となった刻、老婆は居眠りしてしまいモトキはキコの山菜採りに付き合わされていた

陽が落ちきる前に近場での山菜採り、モトキも籠を背に茶といつのまにか一泊することにさせられた礼に手伝い。キコに食べれる種類を教えてもらいながら


「山菜か、俺の友人にこういった山菜や野菜の天ぷらが大好きなやつがいてな。キコもこういった山菜料理は好きなのか?」


「全然!!あんまり!!それほど!!ひいおばあちゃんとかの年寄りが好きな人多いから。俺は肉が食べたい!!猪の肉をカチカチにしたやつじゃなくて焼いて柔らかくて油がじんわりするのがいい!」


「俺はレアがいいな」


無言で山菜採りは気まずくなるだけ、なんとか話を探す。山菜もたくさん採れるというわけではない、籠の底で散らばっている程度

暗くなってきたのでそろそろ切り上げかなと考えている時に


「そだ!モトキ!せっかくだから帰りに遺跡に案内してあげるよ!村にずっっっと昔からあるみたいなんだけど」


「遺跡?あ・・・なるほど」


だから考古学者が訪ねてきたのかと、遺跡調査の為に。もし違ったならば何故村にいるのか問うことになるかもしれない

数種の山菜の束を投げ籠へ、入らなかった。かっこ悪と呟きながらいそいそ拾い、今度は投げずちゃんと入れていく


「こんなものでいいかなっ!?ありがとうモトキ!ひいおばあちゃんだけでなくて山菜採りまで手伝ってもらって!」


「茶を出してくれて一泊世話になるのだからこれぐらいはするさ」


モトキの頭の中は山菜料理のことで埋め尽くされかけている

単純に楽しみであるのだが、不安も僅かながらある理由はタイガの兄の墓前で飲まされた茶と名を借りた異様液体と黒く薄くカチカチにされた猪肉の存在

普通にちゃんと揚げてくれるだけで逸品となるはずだが、祈る気持ちが湧くばかり

籠いっぱいではないが数人程度なら十分な量の山菜を背負い森の奥へと。鳥の鳴き声も変わり、急激に音が死んでしまったと思わせる沈黙と化す

キコは予め腰に備えていた小型のランプをまだ使用せず、一歩一歩が時間の経過を感じる

ついに夜へとなる前に灯りが見えた

行く手を遮るかの如く、見上げ首を痛めそうな高さの石壁が立ちはだかり、たぶん唯一の出入口の左右に設置されている松明の炎は弱々しい

遺跡というより、一見だけでは雨宿りに最適そうな洞窟である


「どうどう!?何か感じたりする!?」


「いや、まったく。古代遺跡やパワースポットに訪れて感じとれるとあるがあれは大半気のせい」


キコは首を傾げる。モトキも自分は何を言っているのだと誰にも向けることのできない困り顔

しばらくその場で会話もなく立ちつくしてから、このままではいかないとキコが遺跡へと入っていく

一間置いてからモトキも後を追う


「かなり奥まで続いているんだな」


「うん!あんな奥まで掘る必要はなかったのに。昔の人はご苦労様!」


真っ暗である闇の道、しかし奥で僅かな一点の灯り。あれもキコが持つランプ類いの物であろう

一直線に長い道を進むこと2分程、広い場所へと出たが何もない。人はいるがカメラとテンガロンハットを側に置き、スケッチをしているがこちらには気づかず


「こんにちはー!朝からずっとここにいたのですか!?」


ビクリと一瞬震えた。たぶんだが集中しすぎて2人に気づかないまま急に声をかけられ驚いたのだろう

長いウェーブのかかった黒髪を搔きあげ、右腕にはめていたヘアゴムで髪を後ろで束ねる

彼女が例の考古学者であろう。2つのランプ灯りでうっすらだが褐色の肌が映り、薄着でシャツをヘソ上で縛っていた。だが、季節的に夜になると気温は下がり、集中力が途切れたせいなのかクシャミを一回


「もう外は真っ暗なの?ただでさえ遺跡内に陽の光なんて遠いから。時間を忘れられるのはいいことだけど」


テンガロンハットを拾い、頭に一度深く被った。身体を伸ばしストレッチを行った際に奏でる関節からの音は気持ちよさすら感じる

最後に首を左右にゆっくりと振り、首の運動をしてからキコの髪を頭上から鷲掴みにし雑に撫でる


「呼びに来てくれたの?ありがとね」


「違うよ!案内してあげた!」


モトキへ指をさす。指の方向に彼女が目線を向けると目が合った

とりあえず「どうも」と一言かけ頭を下げるが彼女は黙ったまま


「は、はじめまして」


「ふーん・・・」


ランプでモトキの顔を照らす。灯火を挟んで彼女から映るのは灯りによりツヤが塗られたような茶髪、少年から映るのは少し厚めの柔らかそうな潤んだ唇

自分以外に村へ訪れる者がいたのかと、彼女は珍しく思いながらモトキを珍しいものを見るのと同じ視線を


「あんた、名前は?」


「モトキ・・・姓は無いです」


姓が無い、生まれてすぐ孤児だったのか絶縁されて姓を取り上げられたか等いくつかの憶測が脳内を巡らすがすぐにどうでもいいことだと自分に呆れ、モトキへの興味を捨てるとスケッチを再開した

彼女がスケッチする先の景色はただの絶壁、遺跡内だとしてもあまりにスケッチする意味がないと考古学者ではないモトキの一般な考え。しかもカメラがあるのだからそれを写すだけでいいはずなのに


「なぁキコ、ただ掘った洞窟を遺跡だと名乗っているだけじゃないよな?」


「そんなことないよ!ほら!ほらっ!!ちゃーんと霧の中で人を捜す気持ちで!」


例えがよくわからないが目を細め、ただある壁を端から端まで灯りを照らし見回してみる。すると、ちょうど中央で発見があった

そこには簡易に彫り描かれた剣の形、一目で剣が描かれているとわかりやすすぎる


「まさか、あれとか言わないよな?あんなの小さな子供にちょっと上手に剣の絵を描いてくださいと頼めばすぐレベルだぞ」


「俺もそう思う!」


突然彼女からスケッチに使われていた黒のクレヨンがモトキの口に、変な味が口いっぱいに広がり四つん這いになり嘔吐く


「うげぇ・・・墓での茶と一緒だ」


口内に漂う臭いと同じ味はまだ抜けず。隅に座り、頭の中を空っぽにしていると耳に通っていくのはスケッチする鉛筆が描く音と鼻唄

キコはうたた寝をしており、退屈しかない


「よし、こんなものね」


その言葉を聞きモトキは立ち上がる。彼女はスケッチ道具にカメラをリュックに入れ片付けを

彼女がスケッチしていた壁に彫り刻まれる剣の絵をモトキも改めてちゃんと目にすることにした


「興味があるの?」


「伝えられていた歴史は現に目の当たりにすると大したことがない、期待外れもあるけどそれが面白いと友人が話していました。俺も今より幼く言っていることが理解できなくて、こうして前にしても魅力を感じることはありませんけど」


「あんたの友人とは気が合いそうね」


振り返らず笑みをこぼす。この言葉はタイガの兄の言葉。亡くなった友人の言葉だからこそ記憶に残りやすいのだろう

寝る前やふとしたことに思い出すなど多々ある


「あなたの名前をまだ聞いてませんでしたね」


「これもなにかの縁ね、あんたが名乗ってくれたから断るわけにいかないわ。私はティラ・ハービーヌ、現地訪問が好きなただの考古学者よ」


ここは馴々しく握手から始まるのもよいだろうと互いにまずは手を差し出した。少年はジレで、女性はダメージ加工の薄汚れた白デニムで拭いてから握り合う。お互い左手で


(縫い跡・・・)


左腕にある縫い跡、酷い傷でも負ったのだろうか?

抜糸は済んでいると彼女の一瞬移った意識の中で考えるが、傷を負ったことは正解だが縫う治療はしていない

あの帰りにもう傷口は塞がっていたのだ


「どうかしました?」


「あぁ・・・ごめん」


離された手にぬくもりがあり、自分の温度ではない温度。思春期のモトキにとってはついつい口が緩んでしまう

寝ていたはずのキコがニヤニヤしている


「さーてと、お腹も空いたし戻るとしますかねー」


「山菜ありますよ。処理せず食べたら喉がチクチクするやつもあるみたいですけど」


遺跡に滞在した時間はそれほど長くもなく、夜の星空は他の光の邪魔が無いおかげか満天である

だが見慣れと興味ないが偶然重なった3名は空に目もくれず、はやく食事がしたい欲に動かされていた

戻ると老婆と、老婆より若いのは明白だが別の老人女性、更に夫婦が増えていた

キコのただいまの言葉におかえりと返したので確信ではないが両親と祖母だろう

ティラも戻りましたと一言、モトキははじめましてと挨拶を

老婆に自分にはただいまだろと理不尽に杖を振りおろされたが白刃どり


「おみごとおみごと」


「でしょ・・・」


ティラの静か拍手

キコの母親らしき女性が謝りながら老婆の杖を取り上げると孫と曾孫に連れられ台所へ

手伝えることはあるかとキコの母親に申し出たが客人なのに悪いと断られた

気を使わなくていいよ、お客様なのだから。それとも余計なことをして邪魔されたくないのか。前述にしておこう

ティラは撮った写真と睨めっこ中、撮った写真を見ながらスケッチまで開始する

遺跡にしては規模もない、祭壇として使われていたわけでもなく王の発見されなかった墓でもない。洞窟壁画と言うには無理がある

だが、写真を眺める彼女の瞳は生に満ちた輝きをしていた


「あの彫られた剣の絵からわかる事と憶測はありますか?」


「ある!勝手な妄想を走らせてみたけどたまらない!本当は何も無い!呪文!生贄!ふさわしき主人を待つ!」


「待ってください、待ってください」


頬を赤らめ、興奮が止まらないでいた。スケッチに使う1枚の画用紙に鉛筆で壁に描かれたものと同じような剣を最初に、そこから数本の矢印を描くのは様々な説の唱えを表す

矢印先で簡単な糸人間達が生贄の儀をしたり呪文を発している様を描く


「世には名剣や名槍もあれば伝説となっていて存在するかどうか知らない、現まで伝えられてきた、守られている武器が太古よりあるわ。有名どころだと神平三剣(かみをへいするさんけん)古闇賢者(こあんけんじゃ)の魔道具、伝説の打撃武器・・・」


「じゃあ、あの遺跡にも」


「そう、この村に継ぎ伝えられてきた虹を受け取る剣。手にできた者は時代を駆けるも潰すも、世界を得るも見守るも自由!大げさかもしれないけど、世界を完全に手中におさめるにはその剣を扱えない限りと過ぎた記しもある」


この村で、あんな場所で。もし本当ならば世界征服を企むやつらが黙っていないはずだが、行っても雨宿りに使える洞窟の奥で壁に一本線で彫られた剣の絵だけ

である

世界を手にするなど、最早それは剣ではなく為すことができた本人がすごいのでは?とモトキは伝説の武器など起こした者の手にあったおかげもあれば、お零れやついでによることが大半な場合もあるという考えを持つ


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