闇の裁き 19
ブーメランと両刃剣という異質な鍔迫り合いの最中、バニクバグは全身より白き炎を放出させ、至近距離にいるカラスを業火で焼き尽くそうとするも、彼は咄嗟に大きく跳び、距離をとると同時に2つのブーメランを投擲する。
炎に全身を呑まれ、白き火柱内にいるであろうバニクバグを切り裂こうとするも、突如として火炎より飛び出した両刃剣がブーメランを弾き落とす。
「あまりにも軽く、脆く!」
両刃剣はカラスに届く手前で火柱へと戻り、それを手に振り払うことで白き炎が消え、バニクバグが姿を現す。
あえて到達させなかったのは余裕からくる煽りなのか、彼の顔には穏やかな微笑みを浮かべていた。
明確なる力の差を実感している。
「虫を踏み潰すより容易いですね・・・」
その態度は、とつてつもなく癪に触るものだ。
カラスは3つのブーメランを束にして手に持ち、バニクバグ目掛けて投擲を行う。
「芸も仕掛けもなく。打つ手無しなのが露見してきていますねぇ」
束ねられ、投擲されたブーメランは途中で分離し、多方面から攻撃を仕掛けてくるだろうと思われていた。
しかし、束のまま、瞬なる速度でバニクバグの目前にまで迫り、少し焦りを覚えながらも自らの得物で弾き返す。
剛力による攻撃であった。手に一瞬だが痺れが走る。
「続け様ぁっ!」
戻ってきた3つのブーメランに加え、更に3つを追加。計6つとなる2束が続けて投擲された。
あのまま束でくるのか、分岐して数でくるのかは予測できなくとも特に問題なく対処できるが、念には念をとバニクバグは生き残っている信者共へ呼びかける。
「同志達よ!」
スペードの手により駆逐されながらも残った数名の信者達は、先ほどマスケット銃へ与えられた白き炎を火球として一斉に放った。
火球はバニクバグの後方から追い越すように通過したのち、巨大な炎と化す。
2束のブーメランは幾つもの巨大な火球を斬り払って進むが、対象を目前として僅かに勢いが緩んだところをバニクバグは見逃さない。
白き火を纏い、高速で回転させた両刃剣が弾き落とした。
「白き炎は力を漲らせますよ・・・!さぁ同志達よ!共に!」
その号令に信者らは勢いづく。白き火は、与えられた者達の肉体を活性化さることもできるようだ。
身体能力が向上したのが実感でき、自信を上げ、精神が高揚してくる。
その実感に口角が緩み、そしてすぐに信者達は行動に移った。素早く動き、狙うのは当然王族なネアである。ついでにその関係者や近しき他の者らも始末しようと個人個人が獲物となるやつらを手当たり次第に襲いかかろうと迫る。
明確に向けられた殺気にネアも、戦える者も、戦えない者も関係なく身体に力が入り、各々が何もできずに硬直してしまうか身構えた。
「弟君様!御覚悟!」
しかし、内心見下してきた者らの命を狩ろうとする信者達に発生した災害に不運にも巻き込まれたともいうべき裁きが下る。
手こずる様子もなく、自分を狙い襲いかかってきていた信者らを殺さない程度にゆるく対処していたスペードであったが、急に攻めへ切り替え、空気を変質させながら、まずは己にたかるハエどもを無の空間から突如として出現させた幾つもの闇の刃で容易く片付けると、一瞬にしてネア達の前に降り立ち、斧槍を軽く振り払うことで生じた斬撃によって信者達は呆気なく斬り裂かれ、蹴散らされてしまう。
「なっ!?我が同志達!!」
勢いを起こし、続こうとしていたバニクバグがあいつは一体何者だ?と問うより先にカラスが答えを出す。
「俺の上司様だ!」
ブーメランを握ったまま、彼は再び突撃してきた。
「やれやれ、また投げもせずに・・・野暮ですか?」
「野暮じゃねぇっ!!」
バカの相手は疲れるなと鼻で静かに笑い、真正面から猪突猛進するカラスへ両刃剣で迎え打とうと振りかぶったと見せかけて、前へそっと出した左手より強大なる白き火炎が噴出。
「どうわああああああァァァーーーー!!!」
カラスの左眼に添えられた花がキラリと微々ながら輝きがあったものの、至近距離で直撃し、彼の全身は放たれた白き火炎に呑まれ、姿を消してしまう。
彼の後方に続いていた道や建物を大きく焼け抉った。放っている直前には燃えカスすら残らぬだろうと確信があったが、バニクバグは信じ難い光景を目にする。
あの規模の火炎真正面から受けたはずのカラスの姿がそこにはあった。
耐え切ったその姿は、今にも崩れそうだが。
「勝つのは・・・・俺だぜ・・・」
そう言い、隙間から煙が漏れる歯を覗かせたにやけ顔を晒した次の瞬間、風を切る音が聞こえたと同時に1つのブーメランがバニクバグの右腕を切り落とした。
「ぬおっおぉーーーーーっっっ!?」
何が起こったのか事態を呑み込まれる前に、カラスは手に戻ったその1つを加え、9つが1束となったブーメランを両手に握り力を乗せ、近距離からの投擲。
「まとめて・・・プレゼントしてやる!」
落とされた右腕に今は構っている場合ではないと、バニクバグは咄嗟に両刃剣で防御をとった。
鈍い音を奏で、直撃は免れたが強い力の衝撃で柄は砕かれ、弾き飛ばされてしまう。
空中でなんとか体勢を整え着地からすぐ、9つが1束として投擲されたブーメランの行方を目で追った。
1束は9つに分かれ、バニクバグの遥か後方へ。そして9つのブーメランは1つ1つが黒い翼の形となって一斉に襲いかかる。
「ブーメランの対処はあとからでも間に合います!」
そう言いバニクバグは、左手からの白い火で止血を行い、信者達の肉体と身体能力を格段に強化させた力を自身にも施せば痛みすら消え、右足の踏み込みから瞬時にしてカラスとの距離を詰めた。
「っっ!!」
反撃も防御の隙すら与えず、カラスの首を左手が捕らえ、持ち上げる。
締め折るつもりで力を込めながら、バニクバグの全身より白き火が漂い始めた。
今より最大火力を全身放出し、こいつも、迫るブーメランも、他のやつらも、この町も、国をも消してやろうと試みる。
「・・・ホワイト・・・エクスプロージョン・・・」
だが、今の状況でも口角から血を垂らすカラスの顔は笑っていた。
「近づきすぎなんだよ・・・」
もう隠す為の花は失われたが、明るみになった本来は左眼に当たる部位に嵌め込まれた宝石より、不意に発射されたビームがバニクバグの顔を貫いた。
そして、続けて蹴り飛ばしてやり、後方から襲いかかる9つの黒い翼となったブーメランによって、相手の身体を細切れにしてしまう。
「ざまぁみやがれ・・・ってんだ・・・・!」
肉片が落ちる音が耳に染み付く最中、勝ち誇る余裕はない。やはり、先の火炎を受けたダメージがのしかかる。
寸前のとこで、左眼から放つビームをシールドとして展開して直撃は免れはしたが。
「うっ・・・」
勝てたのは運が良かった。自分を単眼族だと知られていないのが幸となったのだ。
そう思い、勝てたことで気が緩んだのかそのまま地に伏せそうになったカラスを、信者共を片付けたスペードが支え、肩を貸す。
そして、「よくやった」とはっきり聞こえたところで、彼は意識を手放した。




