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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
破天を突くは闇
215/217

闇の裁き 18

国王代理にして、ネアとは腹違いの兄弟であるウェグは、幼少からの記憶が音もなく、夢の中でフラッシュバックしたが最後に妻から名前を、弟から兄上と呼ばれたところで紅茶の香りが漂い、目を覚ます。

目の前には、自分の腹部を殴って気絶させた当人であるペストマスクの者が紅茶の湯気からの香りを嗜んでいた。

自分の前にも、紅茶が淹れられたティーカップが床へ直に置かれている。


「おはようございます」


長い黒髪の男がそう挨拶し、手で淹れた紅茶でもと催促をしてきたが、段々と思い出してきて怒りが込み上げてきた。


「貴さまーーーっっ!!!!」


思わず掴みかかりそうになるが、アルテダがいることに気がづく。

彼女の手には見たことのないラッパ銃を携えており、状況が状況であることを呑み込みむと、背筋が伸び、固まってしまう。


「こういった有り様だが、フィナンシェでもどうぞ」


気持ちはそれどころではないはずなのに、差し出されたフィナンシェを受け取り、口に運んでしまう。

焦がしバターの味と香りが口いっぱいに広がって、とても甘い。


「国王代理・・・・・貴殿は明朝、表には出さず暗い暗い地下で信者共に首を刎ねさせる予定だったがのぉ・・・処刑は、わしの手を汚さなければならんようだぁ・・・・!」


少し恍惚な表情をジョーカーへ向けるアルテダであったが、思うところはあるものの、それとこれとは別であり、殲滅を開始しようとラッパ銃を構え、拡散弾を連続で発砲。

出現した魔法陣を通過すれば、銃弾は燃える妖精の姿となってこの場にいる全員をターゲットとし、数で襲いかかる。


「お前より先に手を汚すのは俺だ・・・」


クアンツは、女性の姿をしたドレスを着る人形の両眼から拡散し、屈折する細い緑のレーザーを発射させ、燃える妖精達を瞬時に撃ち抜いていく。


「うわっ!?」


「おっと、国王代理様・・・お座りになってください」


あの老婆の相手はクアンツに任せているので、ジョーカーは呑気に寛いでいた。


「くたばりなさい・・・!老い先の短さをより短縮させてあげましょう。パペットギミック・レール4!」


自身へ引き寄せた人形の上より両眼から緑、口から黄、両手から青、開いた腹部から赤のレーザービームを一斉砲火。

アルテダは魔法陣を盾として展開させ、その場から一切動く様子もなく、レーザーを防いだ。

だが、僅かにであるが徐々に力に押されて後退している。


「おや?ではお次に、もう少し威力を増幅させてみましょう」


「危うさは感じておる・・・」


最近の若者の成長速度には感心するものだと、右手首にじんわりと血流が強く流れる熱さを感じたので、その箇所を握った。


「ならばわしは、大それた品ではない年季にものを言わせてみせよう・・・・!ふふふ・・・わしが若者であった時、年季なんて微塵も成させず踏み躙ってしまう化け物もいたが・・・」


その者の顔と勇ましき姿を思い出し、年甲斐もなくつい頬を赤らめてしまう。


「十代半ばみたいな恋愛をまだしていますね・・・!」


黄のキューブは再び巨大な腕となり、拳を握りしめて発射される。

かつての恋の病に浸っていたアルテダは、少し気分が高揚したまま、ラッパ銃の引き金を引いた。

魔力を伴せた弾丸は高威力の1発となり、拳を粉砕する。

しかし、視界に映る砕けた黄色い破片の向こうより、もう1つの拳が姿を現わす。

今度は緑の色をしていた。


「ゴーレム・・・インパクト!」


一瞬にして、緑の巨大な拳が老婆に直撃する。

真正面から自分より何倍はある拳を受けたアルテダであったが、彼女は微動だにしない。

潰れることも、殴り飛ばされることもなく、耐えた。


「物理的に耐えるとは・・・」


緑の巨大な拳を引き、老婆の様子を確かめてみることにした。

彼女は、鼻と噛み締めた歯の隙間から血をこぼすが、笑顔を見せる。


「こふっ・・・!年季にものを言わせてみせると言ったはずよ・・・・!」


その笑顔の理由は、これからのことを考えると喜々しか溢れてこないからだ。

革命軍へ赴き、まずは遺体であっても彼と再会をしたい。

この痛みもアルテダにとっては、喜ばしき光景へ向かう為の経緯でしかないのだ。


「わしも出し惜しみはせん・・・!!!」


アルテダはすぐに素の表情へ戻し、突如として口から鶏のと同サイズだが、不思議な緑と青の模様が描かれた3つの卵を床へ吐き出した。

えずいたりといった苦しむ様子もなく、吐き出された卵はすぐに孵化へと移る。


「かつて、存た子らよ・・・!」


卵から孵った3体の生物は体毛もなく、眼球だけは確認できるドロドロした肉塊というべき姿であった。

生命への冒涜と侮辱を感じる。

あれは一体?と正体を考察する余地もなく、3つの生物であろう肉塊は、変化を開始した。


「わしの能力は・・・絶滅した生物をこの世に再び誕生させてやることができる」


世の理に小さくも弄りが入るのは避けるべきかもしれないとクアンツは判断し、人形の口から電撃の刃を発射して変化が起こる最中の肉塊を潰そうとするも、3つのそれは出現したサークルに囲まれ、姿を消し、離れた位置へ移動させられる。


「1日だけよ・・・保護のしようがない存在を許されよ・・・・」


そして、肉塊からの変化は完了する。

現れたのはサーベル状の上顎犬歯と自然に溶け込む体毛色が特徴的な全長8メートルほどのネコ科の動物、

蝶や蛾と似た口吻を持つ4つの翼を持つ目がかわいい猛禽類、大樽のような形状でブヨブヨした得体の知れない生物の3匹。


「なんとも、儚く見える」


アルテダの能力で誕生できたということは、その生物らは完全に全滅しているという証拠である。

もう存在しない3つの生命体に憐れみの目を向ける老婆へ、クアンツは問う。

知っている生物もいるが、生態や絶滅した説を思い返すのは後にしよう。


「まずは3匹だけで様子見ですか?」


「いえ、これ以上は出せない・・・1日に3体まで。それに3つとも同じ種はできぬ・・・・種は1体ずつがルール・・・・」


「鳥と変なのはともかく、ネコ科の猛獣が卵から生まれるとは・・・!」


「どんな種であったとしても、この力による誕生となれば皆は平等に同じ卵から生まれる。孵化からすぐに成体へと強制的に成長させられてしまい、1日の終わりを迎えれば溶けてまた種が全滅する・・・・かわいそう・・・!」


アルテダの能力を目の当たりにし、ジョーカーはペストマスクを外して頭を上げると、紅茶を一気に飲み干した。

ウェグのみが、再びその素顔を目にしてしまう。


「何故、ヒョウモンダコウイルスの感染症状が今の時代に現れたのかが解った」


そうでないとあり得ないからだ。ジョーカーは小さく呟き、ペストマスクの下から眼を向ける。

その視線を感じ取り、アルテダは胸がキュンと締め付けられるようで、高鳴る鼓動がむず痒くも心地良くあるのだが、何故こうなるのかは自身にも理解不能であった。

老いによる動悸と勘違いしてるわけではない。


「まぁ!なんとまた青春を取り戻した恋する乙女顔をしなさってババアめ!」


生まれた3匹の生物は後で再度の絶滅へ導くとして、アルテダを狙おうとしたが、殺気を汲み取ったであろうネコ科の動物が飛びかかってきた。

復活した絶滅種だからといってもただの獣に過ぎず、手を焼くまでもない。

人形を動かし、鋸状の刃が正面から縦半分に斬り裂いた。


「む?」


しかし、クアンツと見ていたジョーカーは異変に気づく。

斬り裂かれ、縦半分に真っ二つとなったその生物からは一滴も血液が出なかったのだ。

床に落ちてすぐ、切断面からは生まれた時と同じ肉が溢れるとくっつき、元の姿と立ち上がる。


「1日の命だが・・・・どのような駆除を執行されようとも死にはしない・・・」


老婆の肩に4つの翼を持つ猛禽類が止まり、その口吻を指で撫でてから、残酷にもその指先より魔力を放って顔を撃ち抜く。

顔に穴をあけられたものの、先に目撃した光景と同様に肉が繋がり、再生した。


「強弱関係なく、蘇る陽動や囮の弾とされるならば面倒ですね。持てる力はなんでも使い方次第とはよく言ったもの・・・」


アルテダの肩より飛び立たせた猛禽類であろう生物は、クアンツを猛スピードで強襲。

すぐさま人形を盾にするかのように構えれば、腹部から先端に小さな三又の刃を備えたワイヤーが射出される。

迫る猛禽類は先端から貫かれ、動きが止まるも、そのすぐ直後に口吻をクアンツの眼球を狙い伸ばしてきた。

生態を知っており、こうした行動をしてくるだろうと容易に予測できたで人形を動かし、口吻を鋸状の刃が即座に斬り落とす。

斬り落とされた口吻が床に落ちる音が耳にまとわりつく。


「過去の歴史に根絶させられたはずのウイルスによる感染の初期症状・・・あれは、お前の仕業ですね・・・」


否定できるならしてみろと、クアンツは老婆へ問う。

アルテダからすれば隠す理由も最初からなく、否定なんて訊かれればするつもりもなかった。

だが、今日まで誰もしつこく問い詰めたりはこなかった。運悪く疫病が運ばれてきたと片付けたり、中には自分の仕業であるという疑いを持つ者らも確実にいたはずなのに。

証拠が挙がるまでか、それとも怖れからできなかったのか。


「わしの力の一部分を目の当たりにし、疑いから確かとなった子らもいるであろうな・・・」


それを聞き、ウェグは憤りから目を見開き、拳を強く握りしめた。

それとは反対に、ジョーカーは静かに笑う。


「いい趣味してるじゃないか」


それを聞いた老婆は、彼に褒められたと自分の中で勝手に解釈し、「そう?」と少し声を高くし、瞳を輝かせて返した。


「その恍惚顔が私の腹を煮え立たせる!疑惑の目を向けていなかったわけじゃない!だが!よくも!!その口から!!災いの予兆に過ぎないと!!!子供らに救いをと!!!言えたものだっ!!!」


アルテダを指さし、怒りに取り憑かれたウェグは、10の歳を迎えた日に授けられた弟の持つ一振りと同じ者が打ったサーベルを抜こうとするが、当然ここへ連れてこられる際に愛剣は取り上げられてしまっている。

悔しさを噛み締め、行き場のなくなった右手をただ意味なく振り下ろす。

だったら殴りかかるしかないか?と、彼は拳を振り上げるが、その手首をジョーカーが掴んだ。


「まぁ、待て。己が手で殺めたくなる気持ちは解るが、あのお嬢さんの相手は因縁もないあの青年にひとまずは任せてしまったので、まだ傍観者でいようじゃないか」


「くっ・・・!」


殴りかかったとて、サーベルがあったとて、アルテダに挑んでも勝ち目はないのは自分が一番に理解している。

その情けなさと、疑いを持っておきながら教団の力を恐れてしまい、被害を拡がらせない為に今日まで放置していたのは事実であり、改めてその罪悪感を感じながら自分の手首を掴むジョーカーの手を振り払った。

その様を見て、アルテダはウェグとウイルスに感染した者らを慈しむ。


「あのウイルスに侵された救われなき者らは・・・あと、どれほどの灯しびなのだろうかと思うと・・・・心が痛む・・・」


自分がやったのに、苦しむ姿を見たり想像すればどうしても胸が苦しくなってしまう。

本心からではあるのだが、歪んでいる。


「そうです・・・ですがもう心を痛める必要はありませんよ。感染者の治療は終えてますので」


それを聞いた老婆はピクリと反応し、強張った顔をクアンツに向けた。


「なお・・・した・・・・?」


「えぇ・・・あそこにいる我が主の父君様が治療を行いました」


クアンツの指先はジョーカーへと向けられ、彼は両手をピースにし、広げるように上にあげたポーズをとる。


「そんなバカな話があるわけなかろう!長く歴史は経過したが!あのウイルスの特効薬などつくれるはずがない!」


信じられるはずがなかった。しかし、クアンツの目は自分を惑わす為のハッタリを言っている目ではないので、まだ確証はないのに老婆からは焦りの色が出てしまう。

そこへ、ジョーカーが割り込むように告げる。


「そんな特効薬があるはずない・・・そう思っただろ。だからつけ込まれるんだ」


真実はまだ目の当たりにしてないのに、何故か不思議とウェグは安堵し、胸奥から息を吐き出した。


「お前を始末すれば、ウイルスは再び根絶となりますね・・・しなければ、しなければ!」


あの老婆を消すことに執着し始めたのか、微塵も笑みを浮かべない表情であるクアンツの代わりに、人形が全く可愛くもなくカタカタと音を立てながら口を繰り返し開閉させ、笑う。

両手首からも鋭い刃物が飛び出し、とりあえずは陽動のつもりで、望むならばこの刃で首を落とせればの気持ちで発射される。


「今となってその程度・・・!」


ラッパ銃より連続して2回の発砲が行われた。2発の魔力の弾丸は、人形の手首より放たれた2つの刃を撃ち砕く。

だが、砕かれた刃の中からは大粒のブドウのような黒い玉が幾つも空中へばら撒かれ、床に落ちることなく動きが止まり、突如として電流を発した。


「眠りなさい、ババア・・・」


電撃を帯びてすぐに幾つもの黒い玉が一斉に動きだし、老婆を強襲。

それにアルテダは相変わらず焦る様子はなく、再び魔法陣を盾として前方へ出現させる。

先程のビームよりも威力はないだろうと見積もった次の瞬間、巨大な緑と黄の拳が魔法陣の盾を粉砕した。


「おっと・・・!」


魔法陣による防御を破られはしたが、咄嗟に対応へ切り替える。

砕かれた魔方陣の効力が完全に切れる前に、その破片から魔法を発動。

破片から魔力が鎖となって飛び出し、緑と黄の拳を拘束する。


「あの玉は!?」


2つの拳の対処をしながらも、脳内では射出された刃に仕込まれていたあの電撃を纏った黒い玉が気がかりであった。

魔法陣の破壊を緑と黄の拳に任せ、電撃を帯びたあの黒い玉による攻撃かと思われたが来ることはなかった。

ならば、何か狙いがあったとしても来ないなら来ない今この時に自分から反撃してやろう。


「開き、直視せよ。己が終幕を!」


ラッパ銃を発砲。魔力により作られた弾丸から、計10の魔法陣が展開される。

たとえ、再びあの巨大な拳が迫ろうが、女性の姿をした不気味な人形が暴れ回ろうが無意味となる威力を贈るつもりだ。


「妖精は踊る・・・」


そんな攻撃をクアンタがただ黙って見過ごすはずもなく、次の仕掛けがくる前に老婆を始末しようと、人形の胸部から、生物でいう肋骨にあたる部分となる内部の骨組みを突き出させ、広げると猛スピードで老婆へと向かわせる。

しかし、そこへあのネコ科の猛獣がアルテダへ接近する人形へ飛び掛かり、首に喰らいつく。

己が身を使い、動きを封じにきた猛獣に続き、4つの翼を持つ猛禽類が口吻を素早く長く伸ばし、人形の右眼を貫いた。


「単純に邪魔をしにきましたか」


展開された胸部の骨組みはアルテダにではなく、この2種の古代生物を蹴散らすことへ切り替えよとしたその時、大樽のような形状をしたあの肉塊ともいうべき生物が上から現れ、底にある穴を広げて人形の頭部を包み込んでしまう。

そのまま人形の首に喰らい付き離さない猛獣ごと全身を呑み込んでしまおうと、徐々にその形状から変化が始まる。


「そのお嬢さんは・・・一点ものなので御勘弁願いたいですね」


頭頂部から胸部にまで呑まれた状態のまま、人形の腹部よりワイヤーを射出しアルテダを狙うも、あの4つの翼を持つ猛禽類が己が身を切断されながらも鋭利の刃がであるワイヤーの先端の軌道を逸らす。

射出されたワイヤーの勢いはすぐに弱まり、幾つかの黒い玉が転がっている場所に落ちた。


「受け入れなさい・・・」


銃へ魔力の供給は完了した。あとは1発の発砲を行うのみ。

愛するあのお方の助けになればと夢見て得た力を、今まさにというその時であった。

何かがアルテダのうなじから喉を貫く。


「がっ・・・っ!ホッ・・・!?」


喉を貫いたその正体は、すぐに判明する。

目線の先の床には、1つの黒い玉が電流を帯びてめり込んでいた。


「何をしでかすつもりだったかは存じぬが・・・魔女でもないババアが唱えもなく、ある一定からの威力となる魔法を何度も扱うのは危険ですよ。もう、我が身のご心配する必要はなくなりますが・・・」


クアンツが人さし指をすっ・・・と落とせば、人形を頭部から喰らいつき、そのまま全身を呑み込もうとしていた謎の生物は突如としてバラバラの肉片にされ、肉の柔らかさを伝える音を立てながら床に落ちていく。

解放された人形の両頬には、小さな丸鋸が備えられていた。普段は内部に仕舞われ、敵へ射出して使う仕込み物であるが、その丸鋸で内側から斬り裂いてやったようだ。

次に伸ばしたワイヤーを腹部に戻す。それについていくかのように床に転がっていた残りの黒い玉も浮いてから腹部へと到達し、収納される。


「老いるまで生き延びたとて、終わりは唐突に呆気なく・・・」


無意味であっても撃ち抜かれた箇所を手で塞ぎ、自分の勝ちを得た気でいるクアンツを睨みつけるが、声が出ず、せめて1発だけでも発砲できればと銃の引き金にかけた指すらも最後の足掻きに裏切られ、動かすことさえできない。

致命傷であろう。それは自身が一番よく察している。

視界に暗闇が徐々に差してきた。走馬灯なのか、1つ心残りである男の後ろ姿が記憶として浮かんだ。

もはや尽きる寸前、後ろ姿であった記憶の中の愛する男がこちらへ振り向く。


「ハル・・・カゼ・・・・さん・・・!」


声だってもう出ないと自身は思っていた。しかし、何故か彼の名前が口から微かに溢れた。

それに気づき、もはや消えるだけの灯火が小さな小さな火種のみになりながらも確かな光は、しつこくも消滅しない。

勇気が湧いてくる。気合いが湧いてくる。


「まだ!!まだまだ!!!」


見せられたアルテダの執念にウェグは若干引き気味だが、ジョーカーは「おぉ、すごい」と静かに拍手を贈った。

放っておいてもしばらくすれば勝手にくたばりそうな様子だが、クアンツはダメ押しに人形の顔から2枚の丸鋸を発射し、撃ち抜かれた首の切断を狙う。


「あと数秒だけ!お願い!わし!」


そう自身が自身に頼み、召喚魔法陣を発動させれば、発光する人の形をした何かがそこに現れる。

それを見届け、ちゃんと召喚できたことにひとまず安堵したアルテダへ、射出された2枚の丸鋸が迫っていたが、召喚された発光する人の形をしたそれが立ち塞がることで、何の動きもなかったはずなのに、まるで空間に溶けてくかのように掻き消されてしまった。


「穢れなき餌を与えきれておらぬが・・・」


口から血反吐を溢しながらそう呟き、ガラスで作られたかのような見た目のハートの形をした何かを取り出した。

それにウェグが汗を吹き出させ、反応する。


「神柱の心臓!!まさか!!!復活させれるのか!!?この場で!!!今この時に!!!!」


ウェグの問いに、アルテダが答えを返すことはない。

その心臓を、召喚された優しい光を発光する人の形をした得体の知れない何かの背から押し込んだ。


「現に蘇りなされ・・・」


心臓を押し込まれ、優しい光を発光するそれは輝きを失われた。燃やされ炭化した如くの姿となるも、すぐに心臓部から熱線ともいうべき赤みを帯びた線が全身へと走り、そして内から外殻を破るかのようにその姿を現出する。

素足の底が地に着けば、背には光の翼が幻として生えると同時に大きく羽ばたかせたが、すぐに消えてしまった。

少量の羽根が辺りに舞い散っていく。

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