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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
破天を突くは闇
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闇の裁き 16

二手に分かれ、階段を上っていったクアンツは10メートルほどの高さをほこる両開き扉の前に立っていた。

彼の背からは節足動物の脚のようなアームが2本備えられ、顔には返り血で少し頬が汚れていたがそれを拭い、扉を押し開く。


「お邪魔します・・・」


そこは飾りつけもなく、窓もなく、何も置かれていないただただ1つの広い部屋であった。

かえって不気味であり、遠くとも思える部屋の最奥には1人、誰かがいる?

正体はこちらに背を向け佇む老婆であり、彼女はある1枚の写真をじっくり眺めていたが、それを懐に仕舞うと振り返り、クアンツの方へと正面を向けた。


「ようこそ・・・」


歓迎しているのか、老婆は優しい笑顔である。

1つ話を挟む展開であるはずなのだろうが、クアンツからすればただの敵対者なので話を聞くつもりなんてなく、先制攻撃を仕掛けた。

背から生える2本のアームが離れ、空中で分解され6つの筒状に分かれると、その砲口より尖った槍刃のような形をした電撃弾が一斉に発射される。


「挨拶しようよ・・・」


老婆の右手は笑みを浮かべる口元を隠し、もう片方の手の人さし指で小さく空間にアーチを描いた。

それを握り砕いた次の瞬間、彼女の前方である床、左右の壁、天井より無数の白き剣山が次から次へと止めどなく出現していき、6つの電撃弾を数で呆気なく潰すとそのままクアンツへと迫る。


「魔法ですか・・・!」


それの答えが返ってくることもなく、迫ってきた無数の刃はクアンツを無残にも貫き、斬り裂いた。

もはや、原形すら失われたであろう。


「・・・血が出ぬな」


あれだけ剣山に攻められながらも、一滴も鮮血が散らなかったことに疑問が頭を駆け巡った。

仕留めたと片付けるにはまだ早いだろう。

そして、やはりというか動きがあった。斬られ、貫かれ、バラバラになった青年の身体は動き出す。

能力類か、何か種族の力か、技術か魔法か。どれであろうとも、自分の持つ属性エネルギーか魔力をぶつけて塵すら残さずにしてやれば一先ずは解決できるかもしれないと、魔法陣を前方に展開し、そっと手を触れた。


「浄化されよ!」


己が持つ魔力が魔法陣より球体の形として解き放つ。

しかし、その軌道を突如として出現したそれぞれ赤、青、黄、緑のカラフルな色合いをした4つの四角いボ立方体が繋がり、解き放たれた魔力を防いだ。

魔力の弾を受け、4つのキューブがボロボロと崩れ落ちたタイミングで、再び部屋の扉が開く。


「お邪魔します・・・」


また、同じ者が、同じ入室の挨拶をして現れた。


「おやおや・・・俺の人形を壊さないでくださいな」


床に転がる自分へ近づき、頭はまだ繋がる胴体部を拾い上げる。

それに合わせ、散らばる破片や電撃を発射した筒状の部品が拾い上げられた胴体部へ集まり始めた。

クアンツは先ほどまで自分の姿に偽装していた何かから離れれば、それは床に落ちることなく、時間すら要さずに修復されていく。

今度は自分と同じ姿ではなく、女性的な形をした人形となり、開かれた腹部からは血の如く赤いドレスが内部より飛び出し身につけられ、長めのブロンズヘアーが生え揃う。


「ほら、こちらに・・・」


手招きすれば、女性を模して修復された2メートルほどの人形は、彼の元へフヨフヨと浮きながら近づいた。


「では、ご挨拶しましょうね」


首を折られて死んだかのようにぐったりとした人形は、顔を上げて眼を回しながらカタカタと口の開閉を繰り返す。

不気味さもあるが、どこか儚さを感じさせられる美しさと可憐さを兼ね備えた趣味の悪い傀儡人形ある。


「これは・・・ご丁寧に・・・そのお人形さんで劇を演じてみる余裕はおあり?それともただのガラクタ・・・かねぇ・・・?」


「ガラクタのように朽ちるのはあなたですよ、ババア・・・」


人形の口が開口し、そこから深い黄の色味を持つ太いレーザーが発射された。

なかなかの仕掛けを持つ人形だと、少し感心したアルテダは、袖より金の鎖に繋がれた円状の刃を落とす。


「ロマンビームを斬り裂く技量ぐらいある・・・!」


鎖を掴み、振り上げれば円状の刃は真正面よりビームを受け止め、斬り裂いた。

そのまま押し勝った円状の刃は、ビームを裂いて進みながらクアンツへ迫る。


「パペット・・・」


人形の右腕が指先から裂け開き展開され、鋸状の刃を持つ片刃の剣へと変形すると円状の刃目掛けて薙ぎ払い、火花を散らせながら弾き飛ばす。

弾かれた円状の刃は、老婆の首を切断してしまうギリギリを通過していき、後方の壁へと深く刺さった。


「運命は、まだわしの首を欲してないようで・・・」


「運命に頼りませんよ。俺がいただきますから・・・その首も命も!」


人形を老婆へ向け、高速で接近させれば暴走したかのように剣を振り回してながら襲いかかる。

アルテダは若干引いているのか、苦悶な顔で即座に鎖を引き、壁に刺さる円状の刃を手元に戻すと荒々しい暴走気味な人形の剣技と何度もぶつかり合い捌いていく。


「壊れた玩具の如くよ!」


対処するだけならば問題ないが埒が開かなそうなので、次の一太刀を避け、後ろへ数メートル跳んで距離とる。

しかし、壁までとの距離は把握していたはずだが、背中に何かがぶつかった。

そこには、赤のキューブがいつの間にか置かれており、老婆の後退を阻む。


「後方ご注意を!」」


赤のキューブに気を取られた一瞬の隙に、前方と左右と計4つのキューブが老婆を包囲する。


「磨り潰れてなさい・・・」


左の親指を閉じれば、前後左右より4色のキューブが同時に動きだす。

包囲されたアルテダは、焦る様子もなく軽くその場から跳び上がった。


「浅い経験値だとこと・・・上は空席だよ・・・」


そう、上が空いている。

自分の持つ力と技にまだまだ綻びがある若さよと内心、初々しく思いながら笑う。

だが、上から出られはしたがクアンツの表情はしまった!といった顔ではなく、冷酷な視線を老婆に向ける。


「だが・・・もう1個!」


包囲から出た直後の老婆の頭上へ、黒のキューブが投下された。

猛スピードで落下してきたキューブにアルテダは頭を強くぶつけ、そのまま4つのキューブが囲うその間へと押し戻されてしまう。


「同じ大きさのものが、同じ速度で、2つで挟撃するならばともかく、四方向から迫れば包囲はできても必ず引っかかりますからね・・・最初から狙いは上から・・・墓石にしてあげるつもりで!」


重いものを引き摺るような音を立てながら、黒いキューブはパズルの最後のピースをはめ込むように収まり、沈む。


「・・・・おや?肉と骨の耳障りな音がしませんね・・・」


最後に見た老婆は確かに黒のキューブに押し戻され、下敷きになったはずである。

繋がる5つのキューブに隙間はないはずだが、潰れたり砕ける音が取れなかった。

なので、まだ勝ちを確信するにはまだ早い。

いつでも対処し、仕掛けられるように人形の両眼に緑の光を帯びさせておき、5つのキューブを宙に浮かせた。

やはりというべきか、そこには潰れた老婆の姿はない。


「サークルオープン・・・」


警戒に入ったタイミングで、床にサークルが出現し、そこへアルテダが姿を見せ降り立つ。

その手には孫娘が持つ拳銃型とは違う、大きめのライフル型ラッパ銃を携えていた。


「墓に入るには、ちと早い・・・」


「なら、強制リタイアさせてあげますよ・・・」


一呼吸を置いてから「この世より!」と叫び、意気揚々に人形の両眼から緑を帯びた細めのビームを発射させる。

対してアルテダは、自分の前方へ魔方陣を展開させると、もう片方の手で銃身を支えながら構えをとって発砲なんて真似はせず、右手のみで銃を持ち、引き金を引けば複数の弾丸が拡散状に放たれた。

前方に出現した魔方陣を通過し、魔力の力を得た弾丸は数でレーザーを撃ち消す。

そこへ追撃として、ただの弾丸を1発だけ発砲した。


「単の1発・・・!」


クアンツの顔にめがけて狙撃されたが、人形の鋸状の刃を持つ剣が斬り払う。

本当に何の仕掛けも力もない弾丸であった。


「改造銃ですか。ブランダーバスの銃は本来、射程が短く、正確性があまりよろしくないはずです・・・」


「わしが愛した男が・・・かっこいいと言ってくれたから・・・見た目ならこれだと言ってくれたから・・・」


そう言い、老婆は頬を赤らめながら暖かい笑みを浮かべて銃身を撫でる。


「好きな殿方の趣味に合わせてしまうタイプですか・・・」


老婆は「それをもっとアピールしておいてもよかったのかもしれん・・・」と、まるで恋する少女のように瞳を輝かせたが、急にピタリとやめ、鋭さのある表情へと切り替わった。


「その愛した人との・・・・再会が叶う!あなたに!貴殿らに!阻まれてなるものか!」


アルテダは、これまでのどこか静けさのある雰囲気を覆すほどの勢いと声量のある叫びを放つ。

その声には、決意が重く満ちている。


「彼との再会を邪魔するやつらは・・・みんな消えろぉ・・・!!魔力を!!斬の力に!!」


手に魔力を生み、腕とラッパ銃の全体へ行き渡らせると発砲を開始。

何発も何発も撃ち放ち、魔力による尽きることのない無数の弾丸は小さな刃の形となって迫り来る。


「まどろっこしいですね!」


即座に黄のキューブが削れ落ち、巨大な左腕の形に造られると大きく薙ぎ払い、生じた風圧も伴って刃の弾丸を一掃した。

風圧は老婆にまで届き、髪を靡かせる。

続けて巨大な手は拳を握りしめ、アルテダへ向け発射された。

しかし、放たれた拳は到達することなく、突如として動きを失ってしまう。

巨大な拳には、金の鎖が巻きついていた。


「優しく繋ぎ合い、とりあうこともできぬ手が・・・失せよ」


鎖の分銅代わりの役割となっていた円状の刃が真上から急降下し、巨大な拳を縦半分に切断してしまう。

そのまま床へ到達すると、刺さることなく跳ね上がってクアンツを襲撃する。


「おっと・・・!」


避けるのに問題のない強襲であった。

対象を外した円状の刃の軌道は、そのまま後方の扉へと向かったが、ここで突然、タイミング悪く誰かが訪れたのか扉が開く。

なんて不運なと思っていたクアンツだったが、現れたのは誰かを背負っているジョーカーであった。


「あれ?」


扉を開けば、刃がこんにちは。

男を背負ったまま、ジョーカーは中段回し蹴りの要領で左の足底を円状の刃へと撃ち込み、アルテダへ送り返す。


「増えたねぇ・・・・・!」


返ってきた円状の刃を掴み取り、袖に鎖ごと戻した。

あのペストマスクを顔に装着した者が背負っているのは、見間違いでなければ国王代理である。

おもわず驚きで声が出そうになったアルテダだが、逆によく連れ出せてこれたと、感心した。


「お、ゴーレムの腕。久しぶりに見たな・・・なんだか、ぶった斬られたあとみたいだが?」


「戦闘が久しぶりですからね、俺自身・・・」


「まだ片腕のみか。合体する予定は?」


「今のところ、する必要はありませんね・・・」


縦に切断され、床に力なく落ちていた巨大な腕は浮かび上がり、粘土をこねるようにして元のキューブへと戻った。


「で、クアンツ。あのお嬢さんはどちら様?」


「さぁ?」


「さぁ!?」


「名を尋ねずに先制攻撃をしてしまいましたからね・・・」


「まぁ、そんな時もあるか・・・」


そんなやりとりをしている隙に、アルテダは銃の引き金に指をかけたが発砲はしなかった。

その目は、監禁していたはずの国王代理がここにいることへは一切向けられず、ジョーカーへと定められる。

胸奥底で、自覚すらできぬほど小さく、心が震え始めているのも知らず。

それは恐怖とか、強者であるとか、そういったものを察したのではない。

その強烈さすらも覆す、小さな小さなじんわりと歩み寄ってくる高鳴り。

何故か、顔が勝手に綻びそうになってしまう。


「知りたくば、教えておく・・・わしは、アルテダ・・・忘れないで・・・・・」


「これはこれは、ご丁寧に・・・」


自ら名を名乗ったアルテダは、できればペストマスクで顔を隠す者の名を聞いておきたい。

他はどうでもいい。どうしてか、その者に目を向けると気のせい程度かもしれないが胸奥と腹奥、爪先がむず痒くなってくるようだ。

名を尋ねようと声が喉まで出かけたが、その者は背負っていた国王代理を床に座らせていた。


「おや、ラムネ様・・・横取りしたくなったのですか?あんなやつを?」


「いやいや・・・横取りするならば、やはり鶏の唐揚げやココアアーモンドクッキーとかの最後の1つだろう。この場はクアンツ、君に任せ、私はこの男とティータイムでもして寛いでいるさ。今、お茶を淹れますからね」


気を失っている男に、淹れた紅茶と茶菓子のフィナンシェを差し出す。

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