表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光ある概念の終日  作者: 茶三朗
破天を突くは闇
206/217

闇の裁き 9

大幹部であるガネトパーツは、主により粛清を下され最愛の弟のあとを追った。

横たわり動かなくなった彼女の首から赤紫色の斑点が浮かび、全身を侵食していく。

仮にも大幹部でる者に慈悲はなく、声をかけることもなく、老婆は不気味なほどに優しい笑顔をノレムに向け、抱きしめたくて受け入れたくて、両腕をひろげ歩みだす。

その表情は偽りの作りものではない。


「君もまた・・・素晴らしく濁りのない・・・!」


歩み寄ってくる老婆へ、ノレムはすれ違いざまに斬り捨てようと駆け出した。


「消えろ・・・!」


しかし、彼の前に一閃の光が瞬時に割り込み、それは人の形と成って立ち塞がる。

その光を剛力に任せた闇の剣で斬り払おうとするが、鋼と鋼がぶつかり合ったような音を響かせ、その一撃を止められた。


「おっと!」


光が消えれば美しく輝く白い長髪を持つライトという名の男が姿を現し、得物である黒刃のパルチザンが老婆を斬り捨てようとしていた闇纏う錆びと爪痕が刻まれる剣刃を受け止める。

ノレムは押し切ろうとするも、男は余裕のある表情のまま微動だにせず。


「あの方には、指先触れるすら恐れ多く!」


槍を握る手に力を入れ、押し切り、体勢が少し崩れ弾かれた直後の僅かな隙に、槍による大薙ぎを行ってきた。

咄嗟に剣で防御をとるも、闇纏う剣身にパルチザンが叩きつけられるとその威力に大きく後退。

そこへ追撃に、ライトは光と化して槍による刺突の構えで強襲。

ノレムは両足に力を入れ踏み込み、剣を大きく振り下ろした一撃を放つも、槍の先端が剣刃に触れた瞬間に生じた凄まじい力の衝撃により、吹き飛ばされてしまう。

これで終いにしてやろうとライトは光と化し、猛スピードで吹き飛んでいくノレムへ一瞬にして追いつくと手に握る得物を相手の胴体に目掛けて突き放った。


「ライト・・・!」


間を刺すように老婆に呼びかけられ、男は槍の刃先がノレムの身体に到達し、貫く寸前でその手を止め、光となったまま相手の背後に回り込むとその背中に石突部を撃ち込み、地面に叩き落とした。

地面に叩きつけられ、すぐに立ち上がろうとするも背にライトが降り立ち、踏みつける。

パルチザンの石突部を背に押し付け、地面に押さえつけるようにして身動きを封じた。


「申し訳ありません・・・」


謝罪の一言を添えながら、ライトは押さえつけたノレムの髪を掴み顔を上げさせると、老婆は彼の両頬に震える手を当て、弱々しく撫で始めた。

あのまま自分がライトを呼び止めなかった場合、この青年は呆気なくパルチザンに貫かれていたか、はたまた逆襲へと移っていたか。

ただやられて終わるようには、思えなかった


「おかわいそうに・・・」


本心から憂いているのが伝わる。

こいつは一体、何なんだ?と、ノレムは不気味さすら覚えた。


「どうなされます?こやつも差し出しますか?反対するつもりは微塵もありませんが、反抗の意思がその眼に眩く宿っています。手足を切り落とすべきかと・・・」


それを聞き、ノレムは力強く目を見開く。


「やってみろ!」


たとえ手足を落とされようが、口で相手の喉笛を噛み千切ることも、剣の柄を口に咥え飛び掛かることもできる。


「バカな考えと実行はやめておきなぁ!」


硬い地面に押さえ込まれながらも闘志が失われないノレムの瞳にしてきそうな行為を警戒したのか、レーラーテンも近づき、銃口を彼の頭部にぐりぐりと押し付ける。

今、貴様の命はこちらが握っていると把握させておくのと、調子にものった行動。


「撃つのかい?」


「撃っておこうか?死んだら供物に使えなくなるから抵抗できなくなる程度に。でもこいつ、死ぬまで反抗の意思が失いそうにない目をしてるから、ライトさんが手足を切り落としといてくれた方がいいかもねー」


試しに、急所以外の箇所を手あたり次第に撃ってみようとしたその時であった。


「その男前を開放してやんなぁっ!!」


突如として、己の身長に近いサイズの大筒を掲げたカスタードおばさんが強襲し、その砲身で撲りかかってきた。

レーラーテンは思わず「ゲェェッ!!」と声を発し、面倒くさそうな表情で銃身を使いその攻撃を受け止めると、彼女の顔面を狙って蹴り飛ばす。


「グヘェッッ!!!やってくれる!!!」


鼻血を垂らし、蹴り飛ばされた直後のカスタードおばさんであったがその体勢のまま、砲弾を発射。


「ったく!!」


すぐさまに銃口を向け、発砲。弾丸は解かれたリボンとなり、砲弾を正面から捕らえるように巻き包むと、力なくその場に地面に落ちた。


「やれやれ。また、闇討ちに失敗しちゃったかぁ・・・この男を救いたいが為の仲間意識で先走った?」


押さえつけられているノレムの頭に銃口を向けて問うが、この男と知り合ったのは、つい先ほどのことである。

答えはせず、カスタードおばさんは大筒を片膝をついた姿勢で構えた。


「ファイアーッッッッ!!!」


大筒の砲口から、前方の視界を覆いつくす規模の火炎弾が発射される。


「これ好機と、こいつごと我々を滅すつもりか?先に解放を訴えてたはずであったが・・・捨て駒へ昇華させての、素晴らしき合理主義だ」


強張った顔つきとなったライトが、火炎の対処に移ろうとするも、アルテダがそれを止め、彼女自らがふらつく足取りで数歩前に出た。

自身の前方の空間に、簡易的な円を描き、術式陣を展開。そこより召喚された発光する1メートルを少し越えるサイズの何かが出現し、人数十名など容易に呑み込もうとする火炎を吸い込んでいく。

火炎だけで、他への影響は起きていない。


「あーあーぁアルテダ様・・・あなた自らが手を煩わさなくてもいいのに」


「この子が・・・欲しい。余計な怪我をさせなくてよいなら、怪我をさせたくはない。あの火は、この子にまで及ぶものであった・・・」


「お優しいですね」


火炎を吸い込み切り、役目を終えた発光するそれは、音も出さずに消えた。


「さて・・・」


なるべく傷つけたくないと、連れて行くための手段は別である。老婆が静かに呟いた声を合図に、ライトはノレムの手足を切断しようと、レーラーテンは急所以外に弾丸を撃ち込もうとする。

その時であった。先ほどの火炎弾に意識を向けさせ、そして紛れるように乗じてきたネアが、老婆へ華美な装飾が施されるサーベルを手に強襲。

当のアルテダは物動じせず、近くにいて防ぐこともできるはずのライトもレーラーテンも動かない。

その時である。動いたのは数いる信者の1人であり、間に入って身を挺し、老婆の代わりに刺されてしまう。

信者は苦しんでいるとも、笑ってるともとれる声を捻りあげ、血塊を吐き、ネアへもたれかかった。


「っっつ!!」


血に濡れ、信者を受け止めたネアの顔は、なんとも言えない下唇を噛み締めた複雑な顔。

相手は憎き教団の信者であるのだが、善性という水が溜まった瓶に、罪悪という一滴の絵の具が垂れ落ち、その色が広がっていくようである。


「弟君様・・・」


アルテダは、神妙な面持ちでネアへと歩み始めた。

その老婆とネアは、目が合う。

ゆったりと溢れだす殺意に、呆れが含まれる。


「アルテダ・・・!アルテダ!!」


怒りを込めて、老婆の名を口にした。

絶命し、自分にもたれかかるひとりの信者を邪魔だと突き飛ばす真似はせず、優しく寝かせてサーベルを手に、駆け出す。

それに続きカスタードおばさんが、老婆へ狙いを定め、大筒から3発の砲弾を発射。

アルテダは歩みをいったん止め、広げた手の袖からは金の鎖に繋がれた円状の刃が飛び出した。

意思を持つかのように動く円状の刃は、先に到達するであろう迫る3発の砲弾を斬り裂き、弾道は全て老婆を逸れて建物等、障害物へ命中し、凄まじい起爆音をあげる。

そのまま振り払い、斬りかかってきたネアの得物であるサーベルの刃にぶつけ、彼ごと弾き飛ばした。


「愚か者め・・・・」


少し震える人さし指と中指で横一線を描けば、弾き飛ばされた直後のネアを唐突に地面に叩き伏せる。


「教団をまとめあげるだけの長・・・ただの老いた女とお思いだったか?」


地面に這い蹲されたネアの首根っこを掴み、持ち上げると、一度睨みを挟み、老婆とは思えぬ力で放り投げた。


「弟君様!」


カスタードおばさんが救出に向かおうとするが、先にベヨーセが身を挺して彼を受け止めた。

しかし、その衝撃は受け切ることができず、彼女は背中から地面に打ち付けられ、ネアを抱きしめたまま勢いよく転がっていく。意識するのは、弟君様に当たることがないよう、全身で包むように抱え込む。

何度も聞こえる衝突や、擦れたりする音の中で、鈍い音が静かに鳴った。


「う・・・・・っ!」


受け止めた位置から数十メートル先で、ようやく止まった。

ネアを抱きしめ、下になっているベヨーセは、彼に怪我はないかどうかを訊ねようとしたが、右腕に痛みが走り、思わず声が詰まってしまう。

間違いなく、右腕を骨折したのが感覚でわかる。

そんなことを知る由もないネアは、密着しているので彼女の柔らかさと匂いで今の状態に気づき、はっと我に返り、慌て、飛び起きた。


「すまない!」


「だ、大丈夫です!弟君様は己が身を最優先に!それよりも!」


右腕を隠し、アルテダに意識を向けさせる。

老婆はいつでも距離を詰め、その命を刈り取りにかかることができるのに、嘲笑っているのかシタリシタリと歩み、迫ってきていた。


「ホホホオホォ・・・!なんとも、鮮血で白を染めたことのなき・・・・!!!」


アルテダは、ノレムだけでなく、ベヨーセに対しても喜々して、疑いようのない優しき眼を向ける。

それが、とても不気味で身の毛をよだたせた。


「弟君さまーーーっ!!ただ今そちらに!!!」


すぐに2人の救援に向かうカスタードおばさんであったが、レーラーテンは彼女の足首の間を狙い、1発の弾丸を発砲。

弾丸は解きほどかれたリボンとなり、その長い1本が足を拘束し、転倒させる。


「逃げてく背を撃つよりもさ、転んだり、拘束されとこを頭にぶち込んでやるのが最高に生から死への段階を見れるってわけ!」


転倒した直後の女性の頭を右足で踏みつけ、肩の力を抜き、ブラーンと腕を垂れさせるというちょっとのふざけを加えながら、銃口を踏みつける頭部へ向ける。


「来世も得難しぃ♪」


あの引き金がひかれれば、弾丸がカスタードおばさんの頭をぶち抜くか、またリボンとなって別の何かを仕掛けてくるのか。

どちらであっても、命が散らされてしまうだろう。

一食の恩義を返せずじまいになるのだけは、ごめんである。

そう意気込み、噛みしめたノレムは、勇者の剣の拒みと技の反動で予想以上だった大きなダメージが自身にのしかかり、意識も気を抜けば吐息がかかった蝋燭が如く、動くことすらならなかった中、背に押し付けられている槍の柄を掴み、ふり絞っている感覚すらわからぬままに力に任せて、得物の持ち主であるライトごと持ち上げた。


「おや?」


視界が高くなったライトは、手を槍の柄から離す前に、上空へと放り投げられてしまう。

ノレムは踏み込もうとするも、右足に感覚がなく、それにより少しバランスを崩して前に伏せ倒れてしまいそうになるが、気合で持ちこたえ、すぐさま剣での水平斬りから、闇の斬撃を放つ。


「やばっ!!?」


その場から、カスタードおばさんを踏み台に後方宙返りで闇の斬撃を回避。

回避の直後、宙で片腕枕で寝る体勢を取りながら銃口は、ネアへと向けられた。


「あいつだけ異常な強さを持ってるっぽいねぇっ!!でも強さと勝ちは別ってこと!」


顔に見に覚えのないあの青年は、真正面からやりあっては勝ち目はないだろうと察したのか、一つの手段を挟んで実行してみる。

アルテダは彼女に任せてみることにしたのか、歩みを一度やめ、静観。

一瞬で十数発の弾丸を発砲。銃口の向きと弾道どうり、狙いはネアである。

ここにいるレジスタンスごっこをしているやつらを全員、始末する必要はない。芯を貫けばいいだけ。

そうすれば、他が動揺しようとも、逆に逆に奮起しようとも、一つの勝ちは得られる。

身を挺して守ろうと、ベヨーセが前に出るが、すぐに背後からネアが飛び出し、サーベルによる大振りの一閃で、銃弾を全て斬り弾いた。


「やるぅ♪」


わざとらしい称賛の言葉を贈り、視界をネアの方に向けたまま、銃口を正面ではなく右へ。

大筒の砲口に電撃を生じさせ、帯電をさせながら迫るカスタードおばさんの右太腿を撃ち抜く。

撃ち抜かれた方の足から崩れたが、苦悶な表情ながらも笑みを見せる。


「眉間を撃ち抜くべきだったなぁぁ!!!小娘ェ!!!!」


叫び、大筒から巨大な電撃砲を発射。

レーラテンは、さすがに視線をそちらに向け、対処に移ろうとしたが、彼女の前に突然として術式陣が展開される。

先程、火炎を吸い込んだ発光する何かが再度出現。


「先のを、返しておこう・・・」


火炎だと思われたが、発光するそれから放出されたのは、ノレムが放った闇の斬撃である。

電撃砲を斬り裂き、少し帯電しなが猛スピードで直進する闇の斬撃を、ノレムが上空から強襲し、落下の勢いを乗せ、斬り捨てた。

自分が放った技を、自分で始末をつけると、そのままアルテダへ駆け出す。

同時に、老婆の後方からもネアが迫ってきていた。


「あぁーあ!国王代理の弟様は意外に剣技の腕がおありで・・・祖母ちゃん!ダメでぇーしたぁー!」


老婆の背後に降り立ったレーラーテンは、弟君を仕留められなかった失敗を報告。

わざわざ報せなくとも見てわかることであったが、アルテダは優しく微笑んでいた。

徐々に湧き出てきた高揚感に、つい口から祖母孫の関係であるという突然のカミングアウトをしてしまったが、それに興味を持っていかれる余裕などネア達にはない。

老婆と背中合わせに立つレーラーテンは、少し甘えてるかのように祖母の背にもたれかかる。


「前後に多難だねェ!アルテダ様!」


「ふむ・・・では、奇跡を披露しようかねぇ・・・・!あなたは、離れていなさい・・・」


「えぇ?冗談?」


「おやまぁ・・・。では・・・!再度、弟君様の方を任せても・・・・?」


「今度は、ちゃんと刈り切るつもりでぇ・・・・!」


「ほほぉ・・・!心強い!」


アルテダがノレムを、レーラーテンがネアを、それぞれ迎撃に向かおうとした次の瞬間、背中を向け合う二人の周りをサークルを描くように、激しい青白い光の波が地面を走る。

ネアは反射的に急ブレーキをかけ停止したのに対し、ノレムは構わずに突撃。

剣の闇が光を斬り開いたその直後、褐色の肌にウェーブのかかるミディアムショートの色素が薄めの茶髪をもつ男が、両刃剣を振り下ろし強襲してきた。

その一撃を闇纏う剣身で受け止めたが、大きなクレーターをつくり、叩き伏せられそうになりながらも鍔迫り合いから、弾き飛ばす。


「おや・・・・・?留守をお願いしたはずですが?」


底が見えぬほどに裂けた円の内側にて、老婆が尋ねる。

男は短めの両刃を繋げる中心部の柄を両手で握り、地に突き立て、アルテダの方へ正面を向かせ、深く頭を下げた。


「ガネトパーツが怒りに囚われ、飛び出してからの、あの閃光!様子見に赴いたことを、お許しください!」


謝罪を申し、頭を上げた男は溜め息をついてから、剣幕な顔つきで辺りを見渡し始める。


「ライトのやつは何をしていらっしゃる!!?」


パルチザンごと投げ飛ばされた当の本人は、反撃に移ることもせず、適当な外灯の上に座り、勝手に寛いでいた。


「あやつめ!二言!三言!物申す!」


「まぁまぁ・・・・彼が動かないということは、大それたことではないという判断でしょう。もし判断ミスであり、境地となれば、いち早く動いてくれますから」


怒り心頭の男を、アルテダが宥める。


「バニクバブ・・・!!」


険しい表情で歯を噛み締めたネアは、現れた男の名を呟いた。

ガネトパーツと、ルビーパーツを除いた教団の教祖と大幹部が、この場に揃う。


「はぁ・・・・・まずはアルテダ様にお怪我がないことに安堵すべきですね」


「ご心配、ありがとう・・・」


老婆はバニクバブの両頬に手をあて、もにもにと礼を一言。

照れ隠しなのか、男は鼻下の整えてある髪色と同じチョビ髭を親指でなぞる。


「あとは僕が・・・!」


「では、お任せします。ですが・・・弟君様を除く新芽である者達は、生かせておくように」


すんなりと、彼にあとを全て任せることにした。


「はい・・・!ライト!そして愛すべき同士達よ!貴様らはアルテダ様を本殿まで怠りなく護衛せよ!」


外灯の上で寛いでいたライトが、耳煩かったのか不機嫌な様子で跳び降り立つ。


「数が十分すぎる。過多じゃないですか?数人は現地解散でいいでしょ」


「こういうのは、あの馬鹿どもみたく逆らう意欲を生ませぬよう、見栄と事実で民共に解らせておくべきだ」


そう宣い、教団に逆らう者どもの中心人物であるネアの方を睨む。

大幹部が揃う光景にネアはへたに動けず、足が竦んでいた一方でノレムは、良い機会だと捉える。


「あいつらを全員片付ければ、教団ってのは実質壊滅になるわけだ・・・!」


勇者の剣を再度出現させ、左の掌に柄が触れ、強く握った。

やはり拒絶され、口角から少し血が溢れ垂れるも、お構いなしである。

もう一度、ジョーカーの技である神偽をくり出そうとしたその時、起こっている現状にただ「どうしよう」と、何もできず慄き、ただの飾り物みたく動かないでいたトーキがノレムに全身を使って体当たりを行い、抱き着いて阻止してきた。


「兄ちゃん!!!やめろ!!!!」


「はなせクソガキ!!」


「ダメだ!!!またさっきの技をしたら!!おいらでもさすがに危険だってわかる!!!!!兄ちゃん死んじゃうかもしれないよぉ!!!!!」


「俺は・・・!死なん!」


噛みしめた歯の隙間からは、少量の血が噴き出した。

単に一食の恩という理由だけではなく、この者を動かしているのは、いったい何だろうか?トーキがそれを知ることは、永久にない。


「離れてくれ・・・」


「やめてくれ!」と喉が潰れるのではないか?と心配される勢いで訴え叫び、わがままな子供みたく泣きじゃくっても無駄だろう。

トーキは黙って、ノレムから離れた。


「アルテダ様、僕から距離を置いてくださいな」


「一言、申してくれたなら、それでよい・・・私に気遣いと警告は不要。お気になさらず・・・・」


「では!」と一声を残したバニクバブは、遥か上空へと跳びあがり、両刃剣を高らかに掲げれば、彼の後方に現れた白き火の玉が連なり、巨大な円と成る。


「白炎の太陽よ!!!空乃宝珠そらのほうじゅ!!!!」


火の粉というにはあまりにも火炎弾が降り注ぎ、それに続き、白き火炎の塊が落とされる。

町に落ちる前に、ガネトパーツの時みたく神偽で炎とあの男ごと消し去ってやると、ノレムは剣の柄を握る力を一層強めた。


「神・・・偽!」


だが、剣身に闇を帯びた2本の剣を振り切ったものの、技が不発に終わる。

こんな時に、自分の未熟さに怒りが込み上げてきたが、自分を責める暇すらない。

剣を振り切った直後の勢いのまま、きりもみ回転から両足を踏み込み、ノレムはもう一度、技を繰り出そうとしたその時である。


「ストップ・・・・!」


アルテダの一言に、白い炎は全て落下からの着弾前で急停止し、ふっ・・・!と風に溶けたかのように一瞬にして消えてしまう。

どうして止めたのか、バニクバブはアルテダに訊き問うことはしない。


「どしたのぉ?急に腰が痛くなったの?」


「いぃやぁ・・・!腰はプライベートなら海老反りは容易いなぐらいに調子は良い・・・!ふぅ・・・だんだんとぉ、一頭の馬が駆ける音がぁ、奏でて・・・」


彼女にしては珍しく、少しの冗談を入れ、耳を澄ませて孫に馬が一頭こちらに迫り駆けてきていることを教える。

耳が特別、優れているわけではない。ただ、感じるのだ。

ある影響で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ