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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
破天を突くは闇
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闇の裁き 8

ようやく、大幹部ルービーパーツとの戦闘で負った傷にちゃんとした手当てを施そうと、ベヨーセはノレムの腕を掴み連行し、椅子に強引に座らせ、弟に薬品なり包帯を持ってこさせる。

もう断りをしても無駄だろうと、ご厚意を受けることにした。


「はーい、ノレムちゃんでいいのかな?このカスタードおばさんにお任せあーれ!」


大した怪我ではないものの、カスタードまんじゅうをくれた女性の処置は慣れたような手さばきであった。この状況では慣れるのも仕方なしであろうか?

ベヨーセが包帯を巻いてくれている最中、暇だったのでふと辺りに目を配らせる。

怪我人、病人の姿がある中、一つのベッドに目がいく。そこには抜け殻になった顔で痩せこけた女性がおり、その手をひとりの男がずっと握っていた。


「気になりますか?」


「触れないでやらないべきなら、それ以上はノーコメントだ・・・」


話しておくべきだろう。今の現状ならば尚更・・・

教団の行い、恐ろしさに少しでも理解を得てくれるならば。


「あのご夫婦は熱心な教団信者だったのですけど、自らのお子様2人を儀式に差し出してしまわれて・・・」


「母親の方は精神が瓦解したのか・・・自業自得だな」


「ごもっともですね・・・」


元教団の者であるこの夫婦をベヨーセ自身も正直なところ好ましく思えてはいない。

自分から我が子を差し出したのだから、自業自得なのはノレムの言う通りである。

精神が崩壊した妻を連れて逃げ出してきた男をネアが憐れんで、ご厚意で置かれているだけ。


「償って生きるか天罰がくだるかは俺の知ったことじゃねぇがな・・・あ、治療ありがとう・・・」


剣を持ち、すぐに去ろうとする彼に問う。「どこへ?」と。


「15分だけ寝させてもらう」


「じゃあ、奥のベッドを使ってください」


「いや、床で結構だ」


「そう言わずに・・・」


今日はなんだかご厚意を遠慮してばかりな気がしてきたので、さすがに思うところが出てきたのかお言葉に甘えることにした。

空いている患者用ベッドに案内され、横になり、仮眠をとろうにもすぐに寝落ちはできないのでまずはただ天井を眺める。

妹に土産でも買ってかえるかなと一呼吸の後に、わずか2秒ほどのことだが不思議に時間の長さを感じた。

その直後である。天井を突き破り、巨大な剣の刃が降ってきた。

動じず冷静なのか、唐突すぎて驚く暇すらなかったのか、

ベッドで横になっていたノレムの脚と脚の間を通過し、ベッドを破壊して深々と床に刺さるも長さと大きさがあったので部屋に柱ができたとでも言うべきか。

もう少し上だったら、生殖器をやられているとこであった。


「兄ちゃん!無事か!?」


急な事態に、トーキはノレムの元に駆けつける。

その少年に自分のことはいいから逃げとけと怒鳴りたかったが、来てしまった者はしょうがない。


「心配ご無用・・・!」


そう言いながら、ベッドから急ぎトーキへ飛び掛かるように接近し、少年を半ば力ずくで床に伏せさせ、庇うようにその上に覆いかぶさる形になると手にしていた剣を鞘から抜き、背へ。

その次の瞬間、先ほどと同じく強襲してきたもう1本の巨大な剣刃を錆びた刃が受け止めた。


「兄ちゃん!」


「安心しろ」


錆びる刃に闇の衣が纏い、そのエネルギーを増幅させ、振り切るつもりで押し抜けば黒い亀裂が巨大な剣刃に走り、砕け散る。


「兄ちゃん!!外へ!!」


砕かれた巨大剣の破片が降り散る中、頷きを返したノレムはトーキを担ぎ上げると咄嗟に剣を振り抜いた。

闇の斬撃が崩れゆく天井を斬り裂き、その裂け目から外へと跳び出す。

しかしそこで見た光景は、町のいたるところにあの巨大剣が刺さり、さらにそれらは遥か上空にて一面を覆うほどの数が浮遊していた。


「外へ行くべきじゃなかったかも!」


「いや・・・」


少年を自らの背後に下ろし、揺らめく闇を纏う剣を手に上空へと目を向けた。

この事態を起こした者がいる。


「トーキ!」


「姉ちゃん!」


ノレムのとこへ我先に走り出した弟が無事であったとわかり、ベヨーセはホッと胸を撫で下ろす。

事態はあまり良い状況とは言えないが。


「おい、あの弟君ってやつは?」


「ご無事です!すぐに動ける方々に怪我人と病人を運び出すよう指示を出し、自らも!」


その時だった、遮られるように上空から怒号が轟く。


「どこのどいつだ!!!私のたった1人の家族をよくも!!!」


浮遊する幾つもの巨大剣のちょうど中央にあたる位置に、内の1本である剣の柄頭に立つ女性の姿が。

拳サイズのルビーが使われた髪留めが目立つ、赤みがかった茶髪の長髪は風には一切靡くことなく。


「あいつもさっき始末したルビーパーツとかいう野郎と同じく、教団の大幹部ってやつか?」


「えぇ、彼女はガネトパーツ・・・ルビーパーツの!」


ベヨーセの説明が終わる前に、この騒動の中でこちらに視線を向けるノレムに生意気さと怪しさを覚えたガネトパーツという者は、右手を軽く振り、その動作と連動するかのように1本の巨大剣を彼目掛けて放った。


「お前ごときのたかがデカいだけの剣で俺を討てるはずがないだろ」


油断はしていないが、気持ち的に余裕があった。

意気揚々と少しの助走から、迫る巨大剣へ飛び掛かり迎え撃つ。

闇を纏う剣による剛力に乗せた突きが、巨大剣の剣先から貫き砕く。

その光景に、巨大剣の柄頭に立つ女性は少し驚いた表情を浮かべ、降下してきた。


「そち!この国の者か!?」


「どうだろう・・・?だけど一つだけ教えてやれる。お前の言っていた、たった1人を始末したのは俺だ!」


それを聞き、一気に表情が恨み籠った剣幕へと変貌する。

上空にある全ての巨大剣が、彼女の心情を表わすかのように少し震えた。

だが怒り狂ってしまうことはなく、すぐに冷静になったのか単なる強がりか、不敵な笑みを浮かべ、ノレムを指さした。


「それが事実か嘘か・・・どちらかであってもその口から申し出たのは、ヘイトを己だけに向けさせるつもり?僕1人の命でどうか!という懇願の為?」


「お前を叩きのめす為・・・!」


「ふふ・・・状況が状況でついに狂気に呑まれたか・・・?この国内で教団に楯突くことへの愚かさを知らぬはずがないだろうに・・・」


再び、彼女を乗せた巨大剣は上空へ。


「そち1人がだけが罪を被ったとて!ハエを1匹を叩いたとてよ!我が弟を殺めた者がいる時点で全てへの粛清は決定されている!絶対に許せるものか!!報復よ!!この町にも!!!この国にも!!!私の手で天罰を下す!!!!」


ついに、湧き水の如く溢れていた憤怒の感情に限界を迎え、怒りに任せ始める。

ここの全てに粛清を。だが、まずは弟を殺めたのは自分だと申し出て、生意気な反逆意思を見せてきたあの者を消す。

その攻撃は、対象を1人にするにはあまりにも範囲が無差別の域であった。上空の巨大剣が一斉に降り注ぐ。


「ジョーカー様・・・技をお借りします」


小さく呟き、もう一振りの剣である勇者の剣を出現させ、その手に。

勇者の剣は凄まじき電流を発し拒絶するが、今は力を貸せと気合でそれに堪えながら両手に剣を握る。

ノレムは「雷と風の素質は微妙なとこだからな・・・」と苦笑いを挟み、2本の剣刃に闇の力を走らせ、強大な黒紫の稲妻となって迸らせる。


神偽かむい!」


2本の刃が水平になるよう構え、右足を一歩前へ踏み込み、剣を振りかぶる。

全身の筋肉と血管がはち切れそうな感覚の激痛が襲う中、歯を噛みしめ、2本の剣を同時に振り切れば二つの黒紫の斬撃が螺旋を描き、放たれた。


「なっ!!んっ!!?」


驚愕したガネトパーツの顔も、生じた黒き閃光に呑まれてしまう。

遅れて轟音が震撼し、それが消えた時、空を覆うほどの巨大剣は全て消え去っていた。

ベヨーセとトーキは、一瞬というべき出来事に何が起きたのか追いつけずにいたが、目に入ったノレムの状態はすぐに察し、急ぎ彼に駆け寄る。


「あ、兄ちゃん!!」


「ノレムさん!!」


酷くダメージを受けており、彼は片膝をつき、息を荒げ、苦悶に満ちた表情である。


「ぐ・・・っっ!!まだ真似事の域か・・・!威力も大したこと・・・!燃費が悪すぎる・・・!」


拒絶する勇者の剣を無理矢理に使ったことによる代償も決して軽いものではなく、それも加わっての負担がのしかかり、少しでも気を抜けば己の意識が飛びそうだ。

口の中が鉄臭い。だが、まだ倒れるつもりはない。

上空を覆うほどの巨大剣は全て消滅させたが、あのガネトパーツという者はまだ生きている。

100メートルも離れていない場所に、彼女が落ちてきた。

受け身をとることすらできず、地面に叩きつけられてしまう。


「ぐあ・・・っ!!がっ!!ごっ・・・っ!!」


少量であるが血反吐を吐きつつ、立ち上がる際に砕けかけたルビーの髪飾りを外し、地面へと投げ捨てた。

口角から垂れる血を手首で拭い、巨大剣を1本だけ出現させる。


「直撃を免れは・・・・できたが・・・」


二つの螺旋の斬撃が放たれた直後、瞬時の判断で巨大剣での一斉攻撃を中断させ、幾つものそれらを前方に重ね、並べ、展開することで我が身を守る盾としたのだが、威力をなんとか抑えることはできたものの、易々と突破されしまった。

即死はしなかったが、大きく体にダメージを刻まれてしまう。


「お、おのれ・・・!」


相手と同様に、意識が飛びそうだ。

一度、撤退をするべきだろう。だが、弟を殺された恨みの一込ぐらいはくれてやると弱々しく手を動かし、出現させた巨大剣での攻撃を仕掛けようとするも、突然に彼女の動きが止まる。


「ハァッアッ!!」


背後から、ラッパ銃の銃口がガネトパーツの後頭部に突きつけられていた。

しかし、その持ち主の姿はなく。銃のみが、そこにあるだけ。


「私に触るな!触れていいのはルビーパーツだけ!」


振り返ることはなく、ラッパ銃に突きつけられたまま怒鳴った。

そこへ、突然と一房の長いピンクのリボンが無風の中漂い現れ、ガネトパーツの背後で繭を作るように巻かれ、解かれれば後頭部へ銃口を突きつけるラッパ銃を握る女性が姿を現わす。

右目の下に青のギザギザのラインが描かれた彼女は、右サイドのみウェーブ状にした黄緑色の髪をかきあげる。


「っ!レーラーテン!その銃を下ろしなさい!」


「おーいおいよ・・・君のしでかしに自覚なく?」


反論しようとしたが、カツン!という地面を小突いた大きな音が耳を走り、異様な気配を察したガネトパーツは頬から顎へと一雫の汗を垂らし、そこから黙ってしまう。

ラッパ銃を突きつける女は、その体勢のまま後方へと顔を向けた。

そこには白いローブで身体全体のほとんどを覆い隠している者の姿が。

杖をつき、フラつきながらこちらへと歩み始める。


「あいつは・・・?」


足取りは今にもその場に倒れてしまいそうなほど弱々しく映るも、見るからに教団の者であろうあの2人の向ける視線の異常さから、ただ者ではないことが察せられる。

ならばとノレムは剣を手に、技と勇者の剣を使ったせいで激痛が伴い、重くなった身体を根性で無理矢理に動かし、闇の斬撃を放った。


「あ・・・うぅ・・・」


白いローブの者は回避しようとする動作もなく、躓いたのか杖を手から落として、その場に両手をついてしまう。

フードから顔が露わとなる。老いによる白髪の髪に、歯もほとんどない弱々しい老婆であった。

あれが教団の頭とするならば、このままでは呆気ない幕切れとなるかと思われたが、突如として老婆の前に上空から全身を細身な白い鎧に包まれた者が降り立ち、手にしていた黒刃のパルチザンを振るい、闇の斬撃を受け止め、斬り払う。


「ラ・・・ライト・・・」


「お怪我はありませんか?アルテダ様・・・」


白い鎧の者は老婆を優しく支えながら立たせてやり、握らせるように落とした杖を渡した。


「うん・・・」


息に混じって返事を呟くと、杖先で邪魔だから避けて欲しい言わんばかりに白い鎧の者の胸元を突き、ガネトパーツの元へと歩む。

レーラーテンは同じことをされる前に、銃口は向けたままに先に道を開けておいた。


「ア、アルテダ様!私は!」


「よい・・・」


戸惑う彼女の頭を、アルテダという老婆の弱々しく伸びた手が不意に撫でる。

それだけを行い、杖をつきながらおぼつかない足取りで次は自分に攻撃を仕掛けてきたノレムのところへ足を進めた。

だが、すれ違うタイミングでガネトパーツが突然に苦しみ始め、鼻と口に目から血が溢れ垂れる。


「ぐああぁぁぁっっ!!ブヘアッッッ!!!あうっぐっっ!!!!」


彼女の身に起きた異変に微塵も意に介さず、老婆はノレムへ向け歩む。

命令もせず、合図もいらない。悶絶する彼女の頭へ突きつけたラッパ銃の引き金をレーラーテンがひけば、銃声と共にリボンが弾け飛ぶ。

ガネトパーツは、二度と動くことはなくなってしまった。

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