闇の裁き 7
トーキが「ネア様!」と彼の名を呼ぶ。
男はそれに反応し、優しく声掛けを行い励ましていた額に包帯を巻かれている子供の頭を撫でてからこちらへと顔を向け、立ち上がった。
彼は少し外ハネする空色の長髪に、涼しげな目をしている。
(あの子供・・・)
頭を撫でられ、安心感を覚えたのか眠りに入った子供の様子にノレムは違和感を覚える。
額に巻かれた包帯から、僅かにはみ出す赤紫色をした痣のような斑点が見えた。
打ち身とかそういった類のものではない。
包帯の節約の為に巻き量を少なくしたとかではなく、身体全体への侵食を始めている。
「元気な顔を見れてなによりだ」
トーキの頭を撫でる身なりの良い男は、つい流れで、自分よりも1つお姉さんであるベヨーセの頭も子供相手みたく撫でてしまった。
彼女は顔を真っ赤にし、見られたくないのか手で覆い隠す。
「そして貴様、何者だ?」
見かけぬ顔と、姉弟に向けていた顔から一瞬にして表情を変える。警戒をしている顔だ。
腰に差した剣に手を添えるが、抜かれる前に男の首には爪痕刻まれる錆びた剣の刃が当てられていた。
この場にいた何人かが、ノレムに攻撃を仕掛ける体勢へと移行するが、ネアという男は手を挙げてやめるようにハンドサインを送る。
あれは脅しだったり、気に障ったものではない。自分をここで、躊躇いなく始末することもできるという眼をしていた。
だったら、この状況は手遅れなのである。
こいつに自分が斬られた後ならば話は別だが。
「あぁっと!!ネア様!!この人はノレムといって!!行き倒れていたところを拾ってきたんです!!教団の大幹部からおいら達を助けてくれて!!」
慌てて止めに入ろうとするトーキの口から大幹部の言葉を聞き、身の毛がよだつ。
彼だけではない、この場にいるほとんどの者らがそうだ。
「大幹部を!?・・・余計なことをしてくれた・・・!」
礼の言葉はなく、思い詰めた顔から鼻根を指で摘む。
剣を下ろしたノレムは、よそ者の自分への礼はいいとしてもあの2人の無事をせめて喜んでやれよと言いたげな顔から、やっぱり一言何かを言ってやることにした。
「その余計なことをしなくちゃ、この2人の結末は変わっていただろうがな」
何もしてないくせに、なにが余計だ。あそこであの2人を知ったことかと関わらないでおくのはさておき、あの野郎に背を向ける選択肢はなかった。
一触即発の雰囲気。
だが、カスタードおばさんが仲裁に入る。
「まぁまぁ、男前同士が向き合って喧嘩腰になるんじゃぁないよ」
こういう時はお菓子なり、何かを食べよう!と提案するべきだ。そう思い、ノレムとネアの2人に「好きなんだからぁ」と、カスタード饅頭を渡す。
喧嘩しそうな子供同士を止める近所のおばちゃんか母親みたいだ。
「お嬢さん、おかわり・・・」
すぐに食したノレムは自然な流れで、もう1個を求む。
気に入ってもらえたのが嬉しかったのか、カスタードおばさんは彼に更に2個を渡した。
いならないと断る理由がなかったネアは、一先ず素早く饅頭を食し、呑み込んでから続ける
「たとえ貴様が腕に覚えがあり、大幹部を1人倒せたとて次に数名で押し寄せられればどうしようもない。やつらは、報復を好む」
内心の恐れが、顔に滲み出ていた。
「安心しろ。報復されるならされるで俺だけが受けるつもりだ。返り討ちにしてやるがな」
「そんな自己犠牲、やつらにまかり通るものか!あらぬことに理由をつけてくるぞ!それは死に急ぐでない!貴様が討った大幹部の遺体が見つかり、捜索される前に早く出て行くべきだ!そしてすぐに忘れろ!二度と関わろうとするんじゃあない!」
「そういうわけには、いかないな・・・」
肩を鞘に収めた剣で叩く。
帰る手立てが欲しいのもあるのだが、立場上はこいつらとも敵同士の関係であったとしても、あんなやつらに関わっておいて、まるで見捨てるみたいに去るのは自身に納得がいかない。
だが一方、「そういうわけにはいかない」の理由を帰る手立てのことだと思ってしまったトーキが、頼まれていた事情を話した。
「ええと、ネア様・・・実はこの兄ちゃんの帰る手立てをお願いしたくて」
それを聞き、考えてはみるものの様々なリスクが伴う現状から力になれるのは、せめて別の町か国へ向かう助けとなる路銀を渡してやるぐらいである。
帰る手立てを約束しておいた身として、トーキは申し訳なくなりノレムに謝った。
「けっこうだ・・・礼を言う」
「夜間になら、この国を抜け出すぐらいはできるやもしれぬ。ベヨーセ、トーキ・・・貴様らが拾ってきたのだ、時が来たら責任をもってこのお方を案内してあげなさい」
同時に、二つ返事で承諾した。
しかし、確証もないことにこの姉弟を巻き込みたくはない。
抜け出す前に教団をぶっ潰すつもりでいるので、案内は正直いらず、その時が来る前にこっそりと去ろう。




